ニーヴ・デザインを継承したプロ用シグナル・プロセッサー

FOCUSRITE ISA430

REVIEW by 奥原秀明(ビクタースタジオ) 2000年1月1日

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「プロデューサー・パック」と命名されたFOCUSRITEのマルチプロセッサーISA430が新しく登場してきましたので、早々にチェックしたいと思います。さて本題に入る前に、このプロセッサーが先代のISAシリーズと同様、設計デザインを担当したのが、かのルパート・ニーヴ氏ですので、少し彼のことも紹介しておきましょう。

今もなおエンジニアに愛用されている
ルパート・ニーヴ氏のデザイン

業界においてルパート・ニーヴ氏は、彼を知らないものはモグリといわれるほどの超有名人で、いわゆるオールドNEVEと称される彼のデザインしたヘッド・アンプ/イコライザー/コンプなどは、30年ほど経た今でもレコーディングの第一線で活躍しています(特にバンド系のエンジニアには絶大なる人気で、代表的なものとしてはヘッド・アンプ&EQプロセッサーのNEVE1073が挙げられます)。これだけレコーディングのハード/ソフトの技術が発達し、音楽の流れが激動しても時代に取り残されず、今なお現役で彼のデザインされたものがエンジニアたちに愛用されているのは、まさにルパート・ニーヴ氏のデザインが音楽を表現するのにとても優れていたというほか言いようがありません。

彼のデザインの特徴として、トランスを用いていることが挙げられます。物理的に言えば、トランスレスの回路を組んだ方が歪みも少なく周波数レンジを広く取ることが可能で、一見こちらの方が有利に思えます。しかし、レコーディングにおいては必ずしもそうではなく、名機と言われるヘッド・アンプ/プロセッサーはほとんどが入出力にトランスを用いたデザインがなされています。彼のトランス・デザインから出てくるサウンドは、決してクリアで素直であるとは言えませんが、楽器の存在感や音圧・音色のバランス感が特にマルチマイキングの場合に発揮される感じを受けます。そんな彼は1980年後半からFOCUSRITE/AMEKなどのデザインを手掛け、今日に至っています。そもそもFOCUSRITE社は1985年ルパート・ニーヴ氏によって創始され、ISAシリーズ(Blue Range)の発表と共に業界に台頭してきました。そのデザインは後にREDシリーズ(Red Range)にも反映されてきましたが、彼のトランス・デザインに対する考え方は現在も生き続けているのです 。

さまざまな機能が1つになった
マルチプロセッサー

では、そろそろ本題に戻ってISA430について話を進めていきましょう。 ISA430はその名の通り、ISAシリーズの最新バージョンで、ルックス的にも見慣れた顔つきをしています。本機は「プロデューサー・パック」と命名されているように、マイク・アンプ/ダイナミクス・セクション(コンプ、エキスパンダー、ディエッサー)/リミッターなどさまざまな機能が一緒にパッケージされたマルチプロセッサーとなっています。しかも、AKM社製の24ビット/96kHzのADコンバーターも標準装備という、時代の対応にも抜かりないパッケージに組まれています。本機は2Uサイズの大きさですが、基本的には1chモノラルのシグナル・プロセッサーと認識してください(A/Dを利用したときのみ、ステレオとしての利用ができます。詳しくはあとで)。

各セクションの簡単な説明をしたいと思います。マイク・アンプ部は、ルパート・ニーヴ氏オリジナル・デザインによるトランスを採用したデュアル・ゲイン設計です。当然ながら、ファンタム電源、フェイズ・スイッチ搭載で、ラインのほかインストゥルメントの入力も用意されています。また、マイク・アンプ後の信号は、他のセクションを経由せず、ダイレクトにプリアウトできます。

イコライザー・セクションはルパート・ニーヴ氏デザインのオリジナル・コンソールEQセクションから登場したISA110を忠実に再現したものが組み込まれています。言うまでもないと思いますが、4バンド(ハイ&ロー・ミッド・フル・パラメトリック/ロー&ハイ・シェルビング)の構成となります。また、本シグナルへのEQだけでなく、セクション内のComp/Gateスイッチを押すことにより、Comp/Gateのサイド・チェイン信号として使うことが容易にできます。

ダイナミクス・セクションは、これもISA130を忠実に再現したものが組み込まれています。コンプ、ゲート、ディエッサーともにサイド・チェイン用のKeyListenが用意されており、細かい調整ができるよう配慮されています。なお、ディエッサーはオプトカプラーを用いた設計で、ディエッシングする中心周波数は2.2kHz〜9.2kHzの範囲となります。さらに、イコライザー・セクションを利用したサイド・チェインではEQ各バンドに切り替えがありますから、コンプ、エキスパンダーそれぞれに異なるサイド・チェインのKey信号を送り出すことができます。外部からのKey信号入力がそれぞれにありますから、それを利用するのもよいでしょう。また、ダイナミクス・セクションはリンク・ケーブル(ステレオ・フォーン)によって、2台のISA430をダイナミック・リンクすることができます。言い忘れましたが、EQとダイナミクス・セクションの順序も自由に入れ変えることも可能です。

リミッター・セクションは、周波数固定のマルチバンド(3バンド)リミッターで、後述のADステレオ動作の場合にステレオ・リミッターとしても働きます。もちろんモノラル・モードでアナログの最終段に位置します。

高品位24ビット/96kHzの
ステレオADコンバーター

もう1つの大きな機能として、ステレオADコンバーターがあります。クロック周波数は44.1/48/88.2/96kHzの4種類を選ぶことができ、 ビット・レイトは16/20/24ビットの3種類を選択します。デジタル出力は、AES/EBU、S/P DIFに対応しています。外部ワード・クロック入力も装備されており、この場合ISA430本体は、スレーブとして働きます(DIGIDESIGNのスーパー・クロックにも対応とのこと)。

ここで1つの疑問が湧いてきます。基本的にモノラル使用なのになぜリミッター/ADコンバーターだけステレオなのか? ここに本機の面白さが隠されていて、各セクションが単なるマルチプロセッサーのつながりとしてでなく、それぞれが単独に使用できるように作られているのです。詳しい操作法は省くとして、通常コンソールでいうインプット・モジュールとして本機の類いは使用されますが(ex:マイクから音を拾い、EQし、コンプをかけ、マルチレコーダーにアナログ/デジタルで出力する)、ISA430はモード(INSERT/SPLIT)を変えることで、EQ&ダイナミクス・セクションが本機からバイパスされ、インサート入出力などを利用して単体のアウトボードとして使うことができるのです(図①②)。

同時に、専用の外部入力(Int/Ext IP AD Direct)を利用することで、リミッターとA/Dをステレオで使用できるのです(例えば、ミックス・ダウンの際、EQ&ダイナミクスは卓のインサート用アウトボードとして使用し、リミッターとA/DはトータルのPGM BUSS OUTにマスタリング用として使用するなど)。このように、録りからミックス・ダウンまで 、あらゆる作業工程の中でマルチプロセッサーの各機能を隅々まで使いこなしてもらおうとするFOCUSRITE社の姿勢が、ISA430にはよく現れています。

シビアなレベル監視も十分できる
フロントのVU/PEAKメーター

では、操作感について少しお話ししましょう。 かつてのISA110、ISA130などのISAシリーズを知っている方なら、かなりなじみやすい、現場を考えたフロント・レイアウトになっていると思います。メーターもVU/PEAKの両方を備え、デジタルに対するシビアなレベル監視も十分にできます。フロント・パネルのレイアウトに対してはかなり満足な仕上がりと言えるでしょう。

逆にリア・パネルはどうかと言いますと、これは使い勝手がイマイチよろしくないですね。多機能ゆえに致し方ないのかもしれませんが、一目ではかなり戸惑うかもしれません。特に、内部A/Dダイレクト入力と外部A/Dダイレクト入力がステレオで使われることが多い点を考えると、片やXLRで、片やステレオ・フォーンであるのは腑に落ちない部分であります。厳密に言えばコネクターの形状の違いでも音が変化するわけで、せっかく24ビット/96kHz対応のA/Dを使えるのですから、もう一工夫ほしいところです。

あと、ダイナミクスにおけるサイド・チェインのKeyListenは、EQのサイド・チェイン切り替えと共にかなり分かりやすく便利ですが、本線のシグナル・レベルと同レベルでモニターされるため、少々不便を感じます。なぜかと言うと、サイド・チェインのシグナルはかなりピーキーに作って必要な帯域でのスレッショルドを決めるので、大きな音でやっているとかなり耳に負担を与えることがあります。私個人としては3dB〜6dB低いモニタリングができたらうれしいですね。

滑らかなサウンドが得られる
素晴らしいディエッサー

では、実際に得られるサウンドについて幾つか感想を述べていきましょう。まず、EQはISAシリーズで今まで使用してきた従来のもの(ISA110、ISA215)と実によく似た印象を受けます。繊細な音色の変化はブラインド・テストで比較してもほとんど変わらない感じです。独特な繊細さはFOCUSRITEをよく使っているエンジニアを裏切らないと思います。

ダイナミクスに関しては、私自身、従来のISA130を使用したことがほとんどないので比較のしようがないのですが、EQセクションのことから考えるとこれも期待を裏切らないものになっていると思います。決して過激なコンプという感じではなく、アタック/リリース・タイムも欲張っていないので、どちらかと言うとボーカルなどに適したコンプと言えるでしょう。

特に私が気に入ったのはディエッサーで、利き具合バツグンでそれでいて非常に滑らかなサウンドが得られます。前のISA130のディエッサーをリファインしているとのことですが、こんなに素晴らしいものを今まで知らなかったことに少しショックを感じています。また、使い方によってはフィルター的音色作りとしても面白いです。

マイク・アンプは従来のISAシリーズにあったものもそうですが、いわゆるオールドNEVEとは違うテイストで、図太さとは対照的なきめ細かいHiFi的匂いがします。また、従来のISAシリーズのサウンドが高域で少ししゃくれた印象があったのに比べ、かなり素直になったようです。

アナログ最終段にあるリミッターはON/OFFだけのオートなものですが、どちらかと言うとデジタル・アウトを気にしてのものでしょう。リミッター入力のレベルでかなり効き具合が変わりますから、あまり効果的なものとは感じられませんでした。音色的には、オリジナルに比べて少し中低域が前に出ます。

デジタル・アウトは、アナログ・アウトに比べると、高低が若干丸く取れたような落ち着いた音がします。どちらを選ぶかは好みやジャンルに左右される感じで、甲乙の評価はここでは止めておきます(D/Aとの組み合わせもあるので) 。

意外に良かったのはサイド・チェインで、EQとの組み合わせで簡単に音決めできたのはとても気に入りました。

ある意味でFOCUSRITE(ルパート・ニーヴ氏)のすべてを詰め込んだISA430ですが、コスト・パフォーマンスを考えてもサウンドのし好が合うなら十分魅力的なプロセッサーと言えます。

▲左上より、3フォーマット対応のデジタル出力(AES/EBU、S/P DIF、OPTO)、外部ワード・クロック(EXT SYNC、SUPER CLOCK)、リミッター&外部メーターを経由したステレオA/D入力(EXT I/P A/D DIRECT)、チャンネル&INT A/D入力のポイント出力されるトランス出力(OP1)、トリム、フェイズ・リバース回路直後の信号が流れる出力(POST MIC OP)、マイク/ライン入力(MIC、LINE)、インストゥルメント・ハイ・インピーダンス入力(INST.HI Z IP)、インサート入出力(INSERT RETURN・INSERT SEND)。左下より、内部信号(メーター&リミッターを経由した信号)とA/D入力間のインサート入力(INT A/D DIRECT)、ゲート/コンプ用のサイド・チェイン入力(GATE、COMP KEY IPS.)、2台のISA430のダイナミック・セクションのリンク用(DYNAMIC LINK)

FOCUSRITE

ISA430

600,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■入力レベル/マイク(−60dB〜+6dB)、ライン(±18dB)
■出力レベル/−60dB〜+6dB
■ADコンバーター/24ビット/96kHz、128倍オーバー・サンプリング
■フィルター/LPF(400Hz〜22kHz)、HPF(20Hz〜1.6kHz)
■EQ/パラメトリック(40Hz〜400Hz or 120Hz〜1.2kHz、600Hz〜6kHz or 1.8kHz〜18kHz)、シェルビング(Lo:33Hz〜460Hz、Hi:3.3dB〜18kHz)
■コンプレッサー/スレッショルド(−28dB〜+12dB)、レシオ(1.5:1〜10:1)、アタック(switched fast or slow)
■ゲート/スレッショルド(−40dB〜+10dB)、エクスパンダー・レシオ(0〜5:1)
■ディエッサー/スレッショルド(22dB)、周波数レンジ(2.2kHz〜9.2kHz)、センター周波数レシオ(2:1)
■外形寸法/483(W)×89(H)×255(D)mm
■重量/12kg

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