容易な多重録音を実現する8トラック・デジタル・レコーダー

BOSS BR-8

REVIEW by 板橋弘之 2000年1月1日

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いろいろなメーカーからオール・イン・ワン・タイプのデジタルMTRが出されているが、ついにBOSSからもZipを使ったデジタルMTRがデビューすることになった。BOSSといえばエフェクターやミキサーなどをリーズナブルな価格で、しかもミュージシャンが本当に欲しがっているツボを押さえた製品を送り続けていることで知られているメーカーなので、今回のオール・イン・ワン・タイプのデジタルMTR、BR-8に関しても、いやが上でも期待が高まってしまう。早速、その使用感をレポートしてみたいと思う。

多重録音に特化した必要機能を
コンパクトなボディに満載

まず、BR-8を見て最初に感じるのは、そのコンパクトさだ。また、オール・イン・ワン・タイプのデジタルMTRといえばパネル面は何となくごちゃごちゃしているようなイメージがあるが、ちょっと意外なくらいシンプルなのが特徴的だ。大型の液晶ディスプレイを使った上、よく練られたヒューマン・インターフェースによってこのようなすっきりとした外観のパネル・フェイスとなったものと思われる。

記憶メディアには100MBのZipディスクを使い、トータルで50分から最大75分の録音が可能となっている。これは1トラックの場合の時間なので、8トラックをフルに使った場合、その1/8が録音可能時間ということになる。最大録音時間は、録音するソースの性質によって3段階のクオリティの中から選ぶことができる。トラック数は8トラックだが、バーチャル・トラックがそれぞれ8つ用意されていて、保留テイクを消さずに保存しておくことができる。音質的にはミキサーなども含めてのデジタル処理部は多くに24ビット処理が採用され、十分なスペックを持っている。

入力は基本的に、ギター/ベース、マイクが2つ、およびステレオのラインしかない。これらの中から録音したいソースをスイッチで選択するようになっている。つまり、BR-8は一発録りが目的のMTRではなく、多重録音に特化して必要な機能のみを搭載しているのだ。その結果として、使いやすいものとなり、コストを抑えることもできたということなのだろう。マイク入力2の方はギター/ベースと兼用で、ギター/ベースの方の入力を使うと、パッシブ・タイプのギター/ベースでもハイ落ちすることなく、クリーンな音質でライン録りをすることができる。2つのマイク入力はバランス方式にもTRSで対応している。

2つのマイク入力はそれぞれのインプット・セレクト・ボタンを同時に押すことによってステレオ録りにも対応している。また、ラインを選択すると自動的にステレオ録りになるが、もちろん、1トラックだけのモノラル録音に切り替えることもできる。また、インサート・エフェクトを使って、エフェクトをステレオでかけ録りすることが可能だ。接続が終わったら、マイク入力ならピーク・インジケーターを見ながらゲインを調整して、ライン入力ならそのままインプット・レベル・ボリュームを上げるだけだ。

便利なのはリズム・ガイド機能で、単なるメトロノームというだけでなく、いろいろなタイプのリズム・パターンを聴きながら録音することができる。また、そのとき自動的にテンポ・マップを作成して、時間単位だけでなく小節単位での編集が可能になり、より音楽的なロケートの仕方が可能だ。つまり、生のドラムを使っていてもリズム・ガイドに合わせてたたいていれば、録音したデータを小節単位で簡単に編集することができ、後からシーケンサーと同期することも簡単になるのだ。

デジタルMTRならではの
自在な編集操作の数々

編集機能もデジタルMTRとして、コピー、ムーブ、エクスチェンジ、インサート、カット、イレースなどのひと通りの機能がそろえられている。コピーでは、回数も指定できるので簡単にループを作ることもできる。編集の方法はスタート・ポイント、エンド・ポイント、トゥ・ポイントを時間単位や小節単位、または事前に記録しておいたマーカーによって、設定して実行するという方式だ。また、そのほかにもフロム・ポイントというのが設定できて、たとえばコピー元のオーケストラ・ヒットのアタック部分にこのフロム・ポイントを設定して、これをコピー先のトゥ・ポイントのところで鳴らすというようなコピーの仕方も可能だ。編集操作はもちろんトラック間で行なうことができるし、バーチャル・トラックともやりとりが可能だ。

編集に失敗してしまったときでも、アンドゥで簡単に直前の状態に戻すことができる。また、録音に失敗したときでもアンドゥは使えるので、パンチ・インのときなどにも安心だ。さらにリドゥでアンドゥを取り消すこともできる。

独自のCOSM技術による
多彩かつ強力なエフェクト群

エフェクターはCOSMという独自のサウンド・モデリング方式のものを搭載している。COSMはサウンドが人間の耳に到達するまでのいろいろな要素をDSPでシミュレートするもので、楽器のシミュレーションから仮想の楽器の構築までできるという。このテクノロジーを使ったエフェクトがBR-8のインサート・エフェクトに搭載されている。インサート・エフェクトは前述のようにかけ録りが可能だが、ミックス・ダウン時に特定のトラックにかけたり、マスター・エフェクトとしても使用することができる。

エフェクトはベース/ギター、マイク、ラインの入力に応じて、それぞれバンクが用意されていて、そこにはそれぞれプリセット、ユーザーなど50個、合計200個ものパッチが格納されている。インサート・エフェクトのアルゴリズムはコンプやEQなど幾つものエフェクトが接続されたものだが、例えばギター/ベースに対応したバンクだとCOSM GUITAR AMP、BASS SIMといったようにアンプ・シミュレーターやプリアンプ的な、ギターやベースで実用性の高いエフェクトが用意されている。もちろん、マイクにはボーカル録りに、ラインではステレオ・エフェクトやLO-FIものなどが用意されていて便利だ。

ループ・エフェクトはインサート・エフェクトとは別に2系統用意されている。1つはリバーブで、もう1つはコーラス/ディレイ/ダブリングを切り替えて使うようになっている。サウンド・クオリティ的にも申し分なく、インサート・エフェクトと組み合わせれば、ほとんどのエフェクト・ワークで十分なものと言えるだろう。エフェクトだけ見てもデジタル・レコーディング・スタジオの名に恥じないものがある。

一方、ミキサーに付属のイコライザーは非常にシンプルなもので、ロー、ハイの2バンドのシェルビング・タイプ。ただ、ポイントが高いのは両方とも基準周波数が変えられるという点だ。これなら、ミディアムがなくてもかなり柔軟なサウンド作りができそうだ。というよりむしろ、周波数固定の2ポイント・シェルビング+スイープ可能なミッド、という構成よりも案外使いやすいかもしれない。

シーンに関しては1つのソングにつき8つまでのバリエーションをメモリーすることができる。これはミキサーやエフェクトの設定を記憶するもので、あらかじめミックスしておいた状態を瞬時に呼び出すことが可能だ。ただ、曲の進行に沿って切り替わっていくようなオート・ミックスとはコンセプトが違い、ミックスの状態を静的にメモリーするという機能だ。しかし、ソングが変わるたびに設定を初めからやり直さなければならないことを考えると有用な機能だといえるだろう。なお、シーンを呼び出してもフェーダー情報だけは現在の位置の状態にしておくことも可能だ。

ギタリストやベーシスト
MTR初心者にも最適の1台

その他の注目すべき機能として挙げられるのは、まずソング・プロテクトだ。これは完成したソングに対して設定することで、そのソングのみを書き込み禁止、編集禁止にできるものだ。これを設定しておけば、誤って完成作品を消してしまう心配がなくなる。また、DATやMDなどで採用されているSCMSというコピー・プロテクトをかけることができる。これをかけると、1度DATやMDなどにミックス・ダウンしたマスター・テープからはコピーが不可能となる。これは、プロフェッショナルが使用するようなもっとハイ・グレードなHDRなんかにもぜひ付けてもらいたい機能だ。また、ある一定の条件を満たせばROLANDのVS-880/840で作成したデータをBR-8へ変換して読み込むことができる。利用人口の多いVSユーザーとのデータのやりとりができるメリットは大きいと言えるだろう。

同期に関してはBR-8はMIDIクロックとMTCを利用したマスターとして動作できる。つまり、BR-8をマスターとしてシーケンサーなどを同期演奏させられる。MIDIクロックではテンポ・マップを利用した小節単位での時間管理が可能になる。また、MMCにもマスターで対応しているので、同期の際の操作もBR-8で集中的に行なえる。

面白い機能としてはフレーズ・トレーナーというのがある。これはコピーしたい曲をBR-8に録音した後、ピッチを変えずに、2倍にタイム・ストレッチして再生するもので、難しいフレーズのコピーなどに威力を発揮するというものだ。また、フレーズがコピーできたらボーカルやギターなどセンターに定位したパートをセンター・キャンセル機能で、ある程度消して、カラオケ状態で練習できるというおまけ付き。また、チューナー機能を内蔵しているというのもギタリストやベーシストにはポイントが高いだろう。

全体的な操作性は非常にシンプルに整理されていて、とても分かりやすい。MTR初心者も、さほど苦労することなく使いこなすことができるだろう。まして、カセットMTRを使ったことのある人なら楽勝だ。基本的にはカーソル・キーとダイアルでデータを入力していくタイプのインターフェースだ。絵だけのアイコンを選択していくやり方は、絵の意味が最初は難解な感じがしたが、慣れれば分かりやすいかもしれないし、最初から絵の方が分かりやすいという人もいるかもしれない。信号の流れが入力部と録音済みの部分をプレイする部分が完全に分かれているのも初心者には理解しやすそうだ。

とにかく、これだけの機能と性能を持ったオール・イン・ワン・タイプのデジタルMTRをこの価格で提供できるのは驚異的なことだ。また、MTRで録音するのは普通ギターやボーカルであるということがよく考えられて作られていると思う。同時録音数など制約もあるが、多重録音による作品作りというふうに目的を特化したことで、このようなパフォーマンスが実現できたという点には納得できる人が多いはずだ。

BOSS

BR-8

73,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■トラック数/8
■Vトラック数/64(各トラックに8つ)
■同時録音トラック数/最大2
■同時再生トラック数/最大8
■最大記憶容量/100MB(Zipディスク)
■録音モード/スタンダード(MT2)、ライブ(LV1)、ロング(LV2)
■AD変換/24ビットAF-AD(ギター/ベース)、24ビットAF-AD(マイク)、20ビットΔΣ方式(ライン)、20ビットΔΣ方式(サイマル)
■DA変換/20ビットΔΣ方式
■内部処理/24ビット(デジタル・ミキサー部)
■サンプリング周波数/44.1kHz
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+1/-3dB)
■規定入力レベル(可変)/GUITAR/BASSジャック:-10dB、MIC1,2ジャック:-40dBm、LINEジャック:-10dBm
■規定出力レベル/LINE OUTジャック:-10dBm
■出力インピーダンス/LINE OUTジャック:2kΩ、PHONESジャック:270Ω
■インターフェース/DIGITAL OUT:オプティカル・タイプ
■接続端子/MIDI OUTコネクター、DIGITAL OUTコネクター(オプティカル・タイプ)、FOOTSWジャック(フォーン)、EXP PEDALジャック(フォーン)、PHONEジャック(ステレオ・フォーン)、LINE OUTジャックL/R(RCAピン・タイプ)、LINEジャックL/R(RCAピン・タイプ)、MIC1,2ジャック(TRSバランス、フォーン)、GUITAR/BASSジャック(フォーン)
■電源/DC9V(付属ACアダプター)
■消費電流/2A
■外形寸法/400(W)×89.5(H)×253.5(D)mm
■重量/3.5kg(ACアダプター除く)

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