第14回〜“歌を作る”=ボーカルのOKテイク制作④〜タイミングを作る

“D”と“P”の作法(音楽業界編) by 中脇雅裕 2017年7月24日

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暑いですね〜。とはいえ皆さんはエアコンの効いた部屋で音楽作りに勤しんでいることでしょう。
外にも出ずにスタジオにこもって制作をしていると夏にもかかわらず肌は日焼けせず真っ白のまま。
これを業界用語で“スタジオ焼け”と言います。www

歌を前後へ数msズラすだけで印象が変わる!

それではボーカルのOKテイク制作の続きです。前回までで、表情を大切にしながらテイクを選び、OKテイクがまとまってきました。今回はボーカル・トラックにさらに表情を付けるため、タイミングを整えていきましょう!

その前に、私は表情を大切にして作った仮OKトラックにとりあえずANTARES Auto-Tuneをかけておきます。
ピッチは後でしっかり直すとしても、モニターしていて微妙にピッチが違うとなんとなく気になるものです。
ここはざっくりとかけておきましょう。Auto-Tuneでなくても皆さんの好きなピッチ補正プラグインで結構です。

それから、ボリュームもまだ凸凹ですよね。最近はWAVES Maxx Volumeなど、ボリュームを一定にしてくれるプラグインもあります。この段階ではコンプをガッツリかけるより、このようなプラグインでボリュームを軽く整えておくと良いでしょう。

では、ボーカル・トラックのタイミングを直していきましょう。
まず、方針を確認します。あなたは既にボーカルの録音をするときに“完ぺきなボーカル・トラック”をイメージしているはず。その“完ぺきなボーカル・トラック”と同じタイミングにトラックを修正していけばいいのです。
そのボーカル・トラックはリズムにしっかり合ったタイトなボーカルなのか。ちょっとルーズな感じにするのか、スピード感があるボーカルにしたいのか。皆さんはそんな具体的なイメージを持って、レコーディングやボーカル・ディレクションをしていますよね。しかし、それを確実に表現できるテクニックを持ったシンガーばかりではありません。

そこで、“完ぺきなボーカル・トラック”のイメージと実際のトラックの差をエディットで埋めていきます。
特にこのタイミングのエディットはとても微妙なものです。例えば仮OKトラックをすべて選択して5ms前に動かして元のタイミングと聴き比べてみてください。ちょっとスピード感が出てきませんでしたか? それではトラックのタイミングを今度は5ms後ろにしてみてください。今度はルーズな少し重い感じになりませんか?

多くの歌モノはボーカル・トラックの存在が大きいので、オケに対してボーカルがどのようなタイミングにあるかで曲の表情が変わります。たった5msの変化でも楽曲の雰囲気が変わるモノなのです。

例えば1990年代に大ヒットした某女性ボーカル・ユニットは楽曲にスピード感を持たせるため、常にボーカル・トラックを数ms前に出していた、と聞いたことがあります。

とにかく“完ぺきなボーカル・トラック”のイメージに向かって細かいエディットしていきます。

このエディットをする際に注意するべきことがあります。オケ(バック・トラック)が正しいタイミング、つまり正しいリズムやノリ、グルーブで作られているかということです。このボーカル・エディットをする基準はオケです。クリックではありません(リスナーはクリックを聴きませんからね)。ボーカルのエディットをするときに基準となるべきオケがしっかりできていないと意味がありません。これはボーカル・レコーディング時も同じことです。歌を録ってからオケを詰めることも多いとは思いますが、曲全体のリズムやノリ、グルーブはしっかり作ってからボーカル・レコーディング/エディットに臨んでくださいね。

“声をエディットで伸ばしたい”ときはタイム・ストレッチ以外の方法も考えたい

もう一つ、考えないといけないのは声の長さです。音の長さはタイミングと密接な関係があり、とても大切な要素です。歌でリズムを感じさせるためには、声をどのタイミングで始め、どのタイミングで終えるのかをコントロールする必要があります。

例えば“あいしてる”というフレーズがあって、すべて譜割りは四分音符。ちなみにBPMは120としましょう。一つの音(声)は0.5秒ということになりますね。でも実際、0.5秒きっかりだと声がつながってしまうことになります。0.4秒強で歌えば“あいしてる”は流れるように聴こえるはずです。しかし一つの音を0.3秒で歌ったらどうでしょう。音と音の間に隙間があり“あ・い・し・て・る”という感じに聴こえるでしょう。

この声の長さについてはレコーディングのときにしっかりディレクションするものですが、“やっぱり、もうちょっとたっぷり長めに歌ってもらえば良かった”とか“もう少しスタッカートぽく、短めにリズミカルに歌ってもらえば良かったな”など、後でいろいろと思うものです。

私の場合、声が長くなっている状態から短くしたい場合は、波形で切ってしまうことも多いです。もちろんタイム・コンプレッションするときもあります。しかし長くしたい場合は要注意です。今や各DAWで波形の長さを長くすることもオチャノコサイサイですが、どうも私は波形をエディットで伸ばした音が好きになれません。ほんの少し長くするならまだ良いのですが、それなりに長くした場合、エディットした音に違和感を感じる場合が多いのです。そんな場合は波形を継ぎ接ぎして長くする場合もあります。またはミックスにもよりますが、ディレイやリバーブで聴感上長く聴こえさせる場合もあります。

今回はここまで。
次回はさらに細かいエディットについてお話ししたいと思います。

【中脇雅裕】
プロデューサー/音楽ディレクター。CAPSULE、中田ヤスタカ、Perfume、手嶌葵、きゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に深くかかわる。アーティスト/クリエイターの成功とメンタルの関連性に日本でいち早く着目し、研究を重ねている。http://nakawaki.com

 

 

※本連載は毎月15日・30日近辺に更新していく予定です。お楽しみに!

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