短期集中連載:「MQA」の魅力〜その(3) 対談: 南佳孝×Goh Hotoda「ハイレゾで制作することの意味とMQAの魅力」

MQA by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 2018年11月13日

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MQAは従来のPCMの弱点とされていた時間軸の正確性を大幅に改善した上で、16ビット/44.1kHzのファイルにまでハイレゾ・データを折りたためる画期的なオーディオ・テクノロジーである。発表当時はその仕組みが分かりづらく、エンジニアやミュージシャン、レーベルにそのメリットがなかなか伝わらなかった。しかし、今年に入ってユニバーサル ミュージックが“ハイレゾCD”と銘打ちMQAエンコードされたCDを130タイトル発売。各社からも対応機器が相次いで発売されたため、次世代ディストリビューション・メディアの本命として脚光を浴びている。また今回のInter BEE 2018ではMQAライブ・ストリーミングも披露され、昨今拡大しているライブやフェスの中継を高音質で楽しめる時代がすぐそこまで来ていることを実感させてくれる。この短期集中連載はMQA の仕組みや音質上のメリットを解説するとともに、実際に使い始めているエンジニア/アーティストへのインタビューを通じて、制作サイドがMQAを採用するメリットを明らかにしていくものである。最終回となる今回はシンガー・ソングライター南佳孝とエンジニアGoh Hotoda氏の対談をお届けしよう。南佳孝は、松本隆がプロデュースを務めた『摩天楼のヒロイン』で1973年にデビュー。坂本龍一の秀逸なアレンジが名高い『SOUTH OF THE BORDER』、さらに大ヒット曲「スローなブギにしてくれ」でその名を不動のものにした。彼が7年ぶりにリリースしたアルバム『Dear My Generation』は、アレンジャーに井上鑑、The Renaissance(小原礼&屋敷豪太)、森俊之、そして住友紀人といった手練れの4チームが参加。繰り広げられた珠玉の演奏をGoh Hotoda 氏がミックス&マスタリングして仕上げたものである。この作品は新作のポップスとしては恐らく初のMQA-CDとなる。Goh氏のスタジオであるStudio GO and NOKKOにて、お二人に制作の様子を振り返りつつ、MQAの魅力について語ってもらうことにしよう。

シンガー・ソングライターの南佳孝

シンガー・ソングライターの南佳孝

 

ハイレゾでのミックスを前提に制作を勧める

──南さんの新作『Dear My Generation』はMQA-CDとしてリリースされましたが、そもそもハイレゾ作品として仕上げようというアイディアはどなたが考えたのですか?

南 今回のアルバムでプロデューサーを務めた一人でもある三浦文夫ですね。そもそも、いろいろなアレンジャー・チームがいろいろな場所で録音するアルバムになるから、全体をまとめてもらう存在が必要で、そのためにGoh Hotodaというミキサーを使おうと、まずはそこからでした。

Goh そういう依頼をいただいたので、僕からレコーディングのときのフォーマットはハイレゾ……24ビット/96kHzでやっておいてほしいと頼んだんです。

南 Gohさんはボーカル・マイクも指定しましたよね。

Goh ええ、AUDIO-TECHNICAのAT5047を使ってほしいと言いました。

南 あのAUDIO-TECHNICAのマイクはNEUMANNのU67に近い音がしたね。僕はずっとU67を使っているので違和感なく歌えました。

Goh AT5047は出力レベルが高く、解像度も高いからハイレゾに合っているんですよ。ニュアンスを余すことなくとらえますね。

──指定のマイク、そしてハイレゾで録られていったサウンドを聴いて、南さんはどう思われましたか?

南 すごくクオリティの高い音だなと思いました。歌以外でも楽器のレンジ感がすごくあって、低域の太さがまったく違うというか、どっしりとした感じでした。

Goh ミュージシャンたちのプレイの良さがそのまま再現できてますよね。

──実際、Gohさんの手元に届いたマルチの質感は、アレンジャー・チームごとにバラバラでしたか?

Goh 意外とそろっていましたね。小原(礼)さんと(屋敷)豪太さんのチームは、STUDIO FIRST CALLという、ビンテージ機材が特徴のスタジオで録られたものだったのでちょっと別でしたが。

── 24ビット/96kHzのマルチが届き、ミックスはどんなフォーマットで行いましたか?

Goh 32ビット/96kHzでやりました。そもそもなぜ96kHzをリクエストしたかというと、ミックスのときに96kHzでやりたかったからです。96kHzは音がいいのは当たり前ですけど、プラグインが過敏に反応してくれるからいいんです。48kHzだとプラグインのEQをいじってもちょっと違うなとか、リバーブが何か変だなとか思うんです。でも96kHzだとそれがない。細かくできるというか、大中小しか選べなかったのが10段階から選べるようになったくらいの差がある。だから僕はマスタリングでも、元のファイルが48kHzだったとしても96kHzにアップサンプリングして作業します。高域に音は入っていないんだけれど、プラグインのかかりが違うんです。

──ミックスのときは南さんもこのスタジオで確認を?

南 最初はある程度ミックスができたらファイルを送ってもらって……どんなフォーマットだったっけ?

Goh 確認用ファイルは24ビット/48kHzでしたね。

南 それをスタッフみんなで確認しつつ、やっぱり会って話をしながら仕上げたいので、都合3回くらいこのスタジオに来て仕上げていきました。でも、自宅で確認用のファイルをコンピューターで聴いていたのと、このスタジオで聴くのとでまったく違うというか、隠れたところにいろんなエフェクトが入っているのが分かって……ムムって(笑)。昔もジャズのレコードを大きいスピーカーで聴いていると、“あれ?こんな音が入っていたんだ……”って、よくあったじゃないですか。それと同じで解像度が高いといろいろなものが聴こえてくる。

ミックスとマスタリングを担当したエンジニアのGoh Hotoda氏

ミックスとマスタリングを担当したエンジニアのGoh Hotoda氏

 

デコードされた音はマスターを上回るほど

──今回、Gohさんはマスタリングも担当されたそうですが、そのときはMQAーCDとしてリリースされることが決まっていたのですか?

Goh ええ。だから作業は96kHzで行いました。僕はマスタリングはMAGIX Sequoiaで行うんですが、普段はオブジェクト・サンプリングという機能を使って、実際の処理は32ビット/96kHzで行われているんだけど、44.1kHzになった音でモニターするというやり方をしているんですよ。でも、今回はその機能は使わず96kHzで作業を進めました。

──厳密に言うと、MQA-CDにするためには44.1kHzの倍数である88.2kHzで作業をしなければならないのですよね?

Goh 本当はそうですね。今回は96kHzでイギリスに納品すれば、MQAにする前に96kHzから88.2kHzにコンバートしてくれるということになっていたので。

──本日、あらためてMYTEK DIGITALのBrooklyn DACを使ってMQA-CDをデコードして聴いていただきましたが、いかがでしたか?

Goh すごいですよね、これは……マスターよりもいい音に聴こえる(笑)。

南 ストリングスのクオリティが違うよね。デコード前はもやけていたのがすごくクリアになる。

Goh 44.1kHzの音も通常のCDとは違います。そういう意味で音の良いCDとしても存在できるわけだから、MQAーCDは使いでがあります。これからもっといろんな人が採用していくといいと思いますよ。

南 ダウンロードとかストリーミングが主流になってきているけど、ジャケットとかのこと考えると、僕らミュージシャンは盤があった方がやっぱりうれしい。もちろん、僕もストリーミングを使ったり、Kindleで本を読んだりするけど、やっぱりアナログ・レコードがいいなと思ったり、本も紙の手触りがいいなと思ってしまう。そういう意味で、CDより音が良くて、ジャケットやブックレットを一緒に届けることができるMQAーCDはいいですね。

 

試聴に使用したMYTEK DIGITAL Brooklyn DAC。現行品は後継機のBrooklyn DAC+

試聴に使用したMYTEK DIGITAL Brooklyn DAC。現行品は後継機のBrooklyn DAC+

 

 

*MQAに関する各種お問い合わせ・ご相談等は、bike@mqa.co.uk(鈴木弘明 ※日本語で結構です)へメールにてお願いします。

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