宮川麿が使う Studio One 第2回

ミュージシャンが使うStudio One by 宮川麿 2019年2月14日

maro

第2回 AIによるスピーチを素材とした
ボーカル曲の制作プロセス①

こんにちは、コンポーザーのMaroです。前回はPRESONUS Studio One 4の新機能を中心に紹介しましたが、今回はStudio One(以下S1)のツールや機能を駆使したクリエイティブな部分にフォーカスします。

 

パターン機能のリピート再生や
Impact XTの素材スライスを活用

今回題材にするのは、J-WAVEのラジオ番組『INNOVATION WORLD』のAIアシスタントである“AI Tommy”とのプロジェクトです。AI Tommy(以下Tommy)は、J-WAVEと日本IBMがIBM WatsonというAIを使い共同開発した、史上初のラジオAIアシスタント。このTommyに歌詞を作らせ、歌わせるというのがプロジェクトの概要です。曲の制作は、プロデューサーの浅田祐介氏と筆者がコライトで進め、S1で作編曲からミックス、マスタリングまで敢行。ミックスはS1でサラウンド素材を仕込むという試みで、現代的かつチャレンジング、そしてテクノロジーを駆使した音作りを目指しました。

さて、その楽曲「INNOVATION WORLD」は“AIが歌うこと”をテーマにしているので、それを象徴するかのようにフューチャリスティックなシンセ・ポップにしました。作編曲の面から紹介すると、ビート制作にはS1のバージョン4から実装されたステップ・シーケンサー“パターン機能”が活躍。近年のダンス・ミュージックのハイハット・ワークには32分や64分などの細かい音符が多用されますが、こうしたパターンは打ち込みに手間を要するのが難点です。ところがパターン機能では、指定したステップをリピート再生できるため、スタッターのような効果も容易に実現可能。例えば、ある音符のリピート回数を“10”に設定すれば、フックのあるリズムを構築できます。

▲S1のバージョン4より実装されたステップ・シーケンサー“パターン機能”のエディター画面。各ステップを任意の回数リピート再生することができ、グリッチーなドラム・パターンなども簡単に作れます。また、リピートの回数が各ステップのオブジェクトに表示されるため、視覚的に分かりやすいのも特徴(赤枠)

▲S1のバージョン4より実装されたステップ・シーケンサー“パターン機能”のエディター画面。各ステップを任意の回数リピート再生することができ、グリッチーなドラム・パターンなども簡単に作れます。また、リピートの回数が各ステップのオブジェクトに表示されるため、視覚的に分かりやすいのも特徴(赤枠)

ソフト・シンセを使うパートは、音色やフレーズによって異なる音源を使用。S1標準搭載のMojitoをはじめ、サード・パーティ製のものも多数使っています。いろいろなシンセを用いることで曲の倍音構成が複雑になり、ミックス時に飽和しづらくなるため、立体感のある音に。余計なイコライジングなども減りますし、新しい音色やこれまで使っていなかったシンセの良さを知ることにもつながるので、恩恵は大きいです。

間奏ではS1標準装備のドラム用ワークステーションImpact XTが活躍。浅田氏より“天からAIの神様の声が降ってくるようにしたい”と伝えられていたので、ボーカル・チョップを作成しました。Impact XTはビートのオート・スライス機能を備えており、shiftキーを押しつつサンプルをドラッグ&ドロップすると、アタックの位置でスライスし各パッドへ割り当ててくれます。MIDI鍵盤などでパッドをランダムにトリガーしてみると、簡単にボーカル・チョップが作れるわけですね。

▲バージョン3までのドラム・サンプラーImpactが進化を遂げ、Impaxt XTとなりました。機能強化が図られ、単なるサンプラーの枠を超えてドラム用ワークステーションと呼べる仕上がり。インポートしたサンプルをアタックの位置で自動スライスすることが可能で、分割されたサンプルの断片もまた自動的に各パッドへアサインされます。画面はボーカル・サンプルをインポート&スライスしたところ。パッドをランダムにトリガーしボーカル・チョップを奏でます

▲バージョン3までのドラム・サンプラーImpactが進化を遂げ、Impaxt XTとなりました。機能強化が図られ、単なるサンプラーの枠を超えてドラム用ワークステーションと呼べる仕上がり。インポートしたサンプルをアタックの位置で自動スライスすることが可能で、分割されたサンプルの断片もまた自動的に各パッドへアサインされます。画面はボーカル・サンプルをインポート&スライスしたところ。パッドをランダムにトリガーしボーカル・チョップを奏でます

 

アタック検知の精度は、リズム系サンプルならほぼ完ぺきですが、声ネタでは想定した個所で分割されないこともあるため、使いたい部分のみをトリガーできるよう手動でマーカー位置を調整。波形編集は“プチッ”というノイズにシビアな作業ですが、Impact XTではゼロ・クロス・ポイントにマーカーがスナップされるので、ノイズが出にくいのも大きな利点です。

使用個所が決まったら、曲に合わせて適当に鍵盤をたたき格好良いフレーズを考えます。良い感じになったら各パッドのパンを左右に振ったり、ピッチを変えるなどして加工。近年のボーカル・チョップには1オクターブ上の高い声を取り入れたフレーズが多いため、ピッチ・トランスポーズを+12に設定した声を混ぜてみます。また要所にグライドをかけたりして、今っぽさを出しましょう。そして最後にS1純正のひずみエフェクトRed Light Distortionでローファイな質感にし、Pro EQで調整。Pro EQは、確実に使うと言っていいほどお気に入りのEQです。ざっくりと使えて効きが良く、音のカラー作りから微調整にまで対応しています。

▲ボーカル・チョップに使ったPro EQ。342Hz以下をカットしつつ2.05kHzを持ち上げて、声の特徴的な成分を押し出している

▲ボーカル・チョップに使ったPro EQ。342Hz以下をカットしつつ2.05kHzを持ち上げて、声の特徴的な成分を押し出している

 

ガイド・メロディを基準にして
話し声のタイミングやピッチを調整

「INNOVATION WORLD」の制作では、Tommyによるスピーチをいかに歌へ変えるかが課題でした。日本IBMではTommyに世界の名作のテキストを学習させ、オリジナルのスピーチを生成したそうです。筆者はそのスピーチをWAVファイルでもらい、S1上で加工して歌にしました。要領としては、タイム・ストレッチの機能やCELEMONY Melodyne Studio(別売)を使い、話し声にリズムやメロディを付けていく形です。

手順は、まずMIDI打ち込みしたガイド・メロディに合わせて、話し声のオーディオをエディット。タイム・ストレッチでタイミングをザックリと合わせていきます。タイム・ストレッチのアルゴリズムは“Solo”に設定。歌の素材に対しては、最もナチュラルな効果が得られるからです。ざっくりとリズムを合わせられたら、イベントを結合してMelodyeでピッチを調整。ガイド・メロディのピッチに合わせて、エディットしていきました。例えば“ファ・ソ・ド〜”と歌い上げる部分については、最後の“ド”がスピーチのままでは短かったので、Melodyneで音の長さをぐいっと延長。それとともに、ピッチ・モジュレーション・ツール/ピッチ・ドリフト(Melodyne Studioのみの機能)を使って奇麗なロング・トーンにしています。

▲画面上段は打ち込んで作ったガイド・メロディのトラックで、下段はAI Tommyのスピーチを収めたトラック。ガイド・メロディに合わせてスピーチのタイミングをエディットし、単なる話し声を歌に近付けていきます

▲画面上段は打ち込んで作ったガイド・メロディのトラックで、下段はAI Tommyのスピーチを収めたトラック。ガイド・メロディに合わせてスピーチのタイミングをエディットし、単なる話し声を歌に近付けていきます

 

Melodyneで表情を作ったり
ハーモニー・パートを作成する

このままでも“シンセっぽい人声”という感じで悪くなかったのですが、よりヒューマンな表情を狙って“しゃくり”を付けてみます。しゃくらせたい部分をMelodyneのノート分割ツールで分け、先の方にあるノートを半音〜一音程度ピッチ・ダウン。その後、Melodyneのピッチツールでピッチ変化が滑らかになるよう調整します。これで、より歌い上げる感じが出ました。ほかに、リズミックなパートでは一つのノート内で分割を行い、母音と子音を切り離してそれぞれの位置を調整したりもしています。最終的にはこのようなワークフローで、ハーモニーのパートまで作りました。

「INNOVATION WORLD」は、9月29日と30日に六本木ヒルズで行われたフェス“J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2018”にて、Tommyのライブ・パフォーマンスとして披露されました。さて次回は、この曲のサラウンド・ミックスについて紹介できればと思います。それでは素敵なS1ライフをお過ごしください。

▲Tommyの声に使ったCELEMONY Melodyne Studio(別売)。ロング・トーンのアタマの部分をしゃくらせたかったので、ノートを分割し、先にある方を少しピッチ・ダウンさせています(赤枠)

▲Tommyの声に使ったCELEMONY Melodyne Studio(別売)。ロング・トーンのアタマの部分をしゃくらせたかったので、ノートを分割し、先にある方を少しピッチ・ダウンさせています(赤枠)

 

▲Melodyne Studioのピッチ編集機能で、メイン・ボーカルからハーモニーのパートを作成。画面上の声部がメインで、下の方がハーモニーです

▲Melodyne Studioのピッチ編集機能で、メイン・ボーカルからハーモニーのパートを作成。画面上の声部がメインで、下の方がハーモニーです

 

*Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/

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