林ゆうきが使う Studio One 第4回

ミュージシャンが使うStudio One by 林ゆうき 2015年9月25日

S1_Hayashi

 第3回
Studio One 3で行う
ミックスについて

 こんにちは、作曲家の林ゆうきです。7月はプライベートと仕事がいろいろなことが重なり激動の1カ月でした。特に朝の連続テレビ小説『あさが来た』の第1回目のレコーディングもあり、それに向けての作業がピークを迎えていました。それと並行して10月から始まるTVアニメ『DIABOLIK LOVERS』のメイン・テーマを担当しました。制作スケジュールの兼ね合いもあり、テーマ曲を含む数曲だけの参加でしたが、先月号でお話ししたように、この曲をStudio One(以降S1)だけで完パケまで持っていけたらと思い、ミックスを試みたのです。

Studio Oneでミックスすると
制作の延長線上で作業ができる

エンジニアさんは先月号で掲載されたS1の特集でも登場している、加納洋一郎さんにお願いしました。

 

◀エンジニアの加納洋一郎さんと。仕事が速く、デモをしっかり聴いて自分の意図をくんだ作業をしてくださる、信頼のおけるエンジニアさんです

▲エンジニアの加納洋一郎さんと。仕事が速く、デモをしっかり聴いて自分の意図をくんだ作業をしてくださる、信頼のおけるエンジニアさんです

加納さんとは、数年間からお仕事をご一緒させてもらっているのですが、彼の素晴らしいところはとにかく作業スピードが早いのと、先月号でも書いていましたが、デモをしっかり聴いてくれるので、立ち会わなくても、仕上がりに対して“あれ?”となることがないところ。サントラのミックスは、曲数が膨大になることが多いので、スピードもすごく大事なのです。そういった点でも信頼できるエンジニアさんの1人ですね。

加納さんは普段の作業をAVID Pro Toolsで行っていますが、S1では慣れたキーボード・ショートカットを自分用にカスタマイズすることもできますので(主要DAWソフトのショートカットは事前に用意されている)、普段と変わらないやり方でした。

僕がミックスでエンジニアさんにリクエストすることはほとんどありませんが、よほど録り音のイメージがよほど違う場合は、ミックスの段階で加工してもらうことはあります。あとこれは持論ですが、コンプ、EQ、リバーブ、ディレイといった主要なプラグインでミックスがうまくいかないのは、もともとのアレンジが悪いんだと思っています。そこは普段から意識して、気をつけているところですね。

今回の作業は、松本晃彦さんのプライベート・スタジオ、Studio Lightsで行われました。数曲だったので、約1時間くらいかけてじっくりとやってもらったのですが、加納さんもまだ慣れていない部分があり、僕が分かればアドバイスしながら進めていきました。これは作曲/アレンジで使っているDAWでミックスするメリットだと思います。これまでは、Pro Toolsの話をされると、違う言語でやりとりしているようでお手上げでしたが(笑)、今回は自分の国の言葉が分かる感覚というか、そういう点で貢献できたのかもしれません。しかも、自分の制作の延長線上でミックスができるので、違和感がないんです。

作業も無事に終わり納品に至ったのですが、確かに出来上がりの音源に違いがあると感じました。

▲今回の楽曲で加納氏が実際にミックス作業をしたコンソール画面。さまざまなプラグインがインサートされているが、画面には、UNIVERSAL AUDIO UAD-2 Massenburg Design Works MDWEQ5 Parametric EQ、Manley Variable Mu Limiter Compressor、EMT 140、WAVES NLS Stereo Channelなどが立ち上がっている

▲今回の楽曲で加納氏が実際にミックス作業をしたコンソール画面。さまざまなプラグインがインサートされているが、画面には、UNIVERSAL AUDIO UAD-2 Massenburg Design Works MDWEQ5 Parametric EQ、Manley Variable Mu Limiter Compressor、EMT 140、WAVES NLS Stereo Channelなどが立ち上がっている

S1を使用して感じていた、クリアでより音が詰まったというか、粒子が細かくなった印象ですね。加納さんも音の違いについては評価していました。実は今回、納品してからちょっとした修正依頼が入ったんですね。これまでは、レコーディングして、Pro Toolsでミックスして以降は、S1のソング・ファイルに戻って修正することはかなり難しい作業だったのですが(フォーマットの違いで)、今回はミックスをS1でやっているので、修正もソング・ファイルから手間なく行うことができました。これはかなり魅力的な部分だと思いました。

今回はミックスだけをS1で行いましたが、今後はレコーディングもS1でできたらと考えています。そのためには、前号でも言いましたが、優秀なスタジオのアシスタントが必要です。劇伴のレコーディングは本当に時間が勝負な世界でもあるので、そこで時間をロスするのは避けたいですからね。あとはスタジオのアシスタントでS1の機能をマスターした人が現れれば、もっと普及していくのではないでしょうか。Pro Toolsを使う人に、なぜ使っているかを聞くと、スタジオとの親和性が高いからと答える人がほとんどです。もし、S1は音が良いけどスタジオにはないから使わないと言うならそれは本末転倒で、もっとスタジオに普及していく方法を考えれば良いのかなと。僕も微力ながら、S1で作業していくことで、広めていくことができたらと思います。

コミュニティがしっかりあることは
ソフトが発展していくことに重要

4カ月間の連載でS1の魅力を紹介させてもらいましたが、あらためてこのDAWの良さを再確認することができました。64ビット・オーディオ・エンジンによる音質の高さ、シンプルな操作と動作の軽さ、CELEMONY Melod yneの統合、制作アイディアに役立つ革新的な機能、マスタリングにまで対応する機能の搭載。

▲Studio One ProfessionalにはCELEMONY Melodyne Essentialが付属。CELEMONYと共同開発したARAテクノロジーにより、各トラックへの完全統合が実現可能となっている。画面は今回の楽曲で、生でレコーディングした楽器のピッチ・エディットを、Melodyneを使い行ったときのもの

▲Studio One ProfessionalにはCELEMONY Melodyne Essentialが付属。CELEMONYと共同開発したARAテクノロジーにより、各トラックへの完全統合が実現可能となっている。画面は今回の楽曲で、生でレコーディングした楽器のピッチ・エディットを、Melodyneを使い行ったときのもの

こんなS1を、僕は車で例えるとスポーツ・カーだと思うのです。デザインや性能は良いんだけど、乗りこなすのはそんなに簡単ではない。……でもそれはそれでかわいいなと思います。あと、S1のユーザーは、FacebookなどのSNSやリアルなコミュニティがしっかりとあり、育てていこうという人が多い気がするんですね。それは、輸入代理店であるエムアイセブンジャパンの方も同じで、ユーザーの意見をしっかりフィードバックしてくれていることは、ソフトが発展していくのにすごく重要なことだと思います。S1は根底にソフトとして大事な“音の良さ”があるので、これからも多くのユーザーの支持を得ていくのではないでしょうか。

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4回にわたりお付き合いいただきありがとうございました! 劇伴作家でS1を使っている人がなかなかいなかったのですが、これを機にユーザーが増えてくれたら良いですね。S1で作曲/アレンジしたドラマ『あさが来た』も放送開始されますので、ぜひチェックしてください。 

*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/

林ゆうき

1980年生まれ/京都府出身。元男子新体操選手、競技者としての音楽の選曲から伴奏音楽の世界へ傾倒していく。音楽経験は無かったが、大学在学中に独学で作曲活動を始める。卒業後、hideo kobayashiにトラック・メイキングの基礎を学び、競技系ダンス全般の伴奏音楽制作を本格的に開始。さまざまなジャンルの音楽を取り込み、元踊り手としての感覚から映像との一体感に重きを置く独自の音楽性を築く。 http://www.legendoor.com/artist/hayashi_yu-ki.html

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