【音響設備ファイル Vol.47】俺のGrill&Bakery 大手町

音響設備ファイル by Text:iori matsumoto Photo:Takashi Yashima(except*) 2019年6月3日

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昨年8月末にオープンした俺のGrill&Bakery 大手町。上質なステーキを高級店の3分の1で味わえることに加え、ジャズを中心に生演奏が行われ、食事と一緒にライブが楽しめるレストランとして人気を集めている。食材や内装とともに音響にもこだわり、ライブ・ハウスに匹敵する設備を備える同店に趣き、関係者に話を聞いた。

▲店舗外観。右が俺のGrill入口で、左はテイクアウト販売を行う俺のBakery。俺のGrillでも、俺のBakeryの高級食パンがメニューに取り入れられている

▲店舗外観。右が俺のGrill入口で、左はテイクアウト販売を行う俺のBakery。俺のGrillでも、俺のBakeryの高級食パンがメニューに取り入れられている


 

JBL VRX900 Seriesで客席全体をカバー

 地下鉄大手町駅直結の東京サンケイビルに、昨年8月にオープンした“俺のGrill&Bakery 大手町”は、ステーキを中心としたレストラン“俺のGrill”と、高級ベーカリー・ショップ“俺のBakery”とを兼ね備えた店舗だ。

▲俺のGrill&Bakeryの人気メニューはヒレとサーロインの両方が楽しめるTボーン・ステーキ。900gで3,980円という驚きの価格(*)

▲俺のGrill&Bakeryの人気メニューはヒレとサーロインの両方が楽しめるTボーン・ステーキ。900gで3,980円という驚きの価格(*)

 
 同店を運営する“俺の株式会社”は、ブックオフの創業者として知られた坂本孝氏が飲食業へ進出して誕生した。立食スタイルで回転数を上げ、一流レストラン出身のシェフが腕を奮う料理を高級店の3分の1で楽しめる“俺のフレンチ”“俺のイタリアン”などの店舗を次々と立ち上げ、急成長。現在では着席スタイルでの店舗が増えるとともに、店舗ジャンルも増え、一部の店舗ではジャズを中心に生演奏でのライブを開催して人気に。“俺のGrill&Bakery 大手町”では毎夜、土日祝日はランチ・タイムにもライブ演奏が行われているという。

 「ライブ・チャージは設定しておらず、アミューズも含めたテーブル・チャージとして500円いただいております」と店長の飯田隆広氏は説明する。

 138席の店内は、地下2階から地下1階にかけての吹き抜けとなっており、ステージを見下ろせるような放射状に客席が設けられている。演奏者支援部の伊藤源氏が説明してくれた。

 「創業者の坂本の、最高のピアノを入れたいという意向で、STEINWAY D-274を導入しました。STEINWAYのピアノが入っている店舗はほかにもありますが、フルコンサート・サイズは当店のみです。編成は、弾き語りからビッグバンドまで対応しています。弊社では現在700人ほどの登録ミュージシャンがいますが、当店はステージにこだわり、特に秀でたプレイヤーにご出演いただいております」

▲STEINWAYのフルコンサート・グランド・ピアノD-274の中には、DPA MICROPHONES Core 4099をステレオで常設。Core 4099はウッド・ベース用にも別途用意されている

▲STEINWAYのフルコンサート・グランド・ピアノD-274の中には、DPA MICROPHONES Core 4099をステレオで常設。Core 4099はウッド・ベース用にも別途用意されている

 
 壁にはベルナール・ビュフェのリトグラフが並ぶなど、内装にも力を入れた同店。そんな空間だからこそ、音響にも注力するのは当然の流れだろう。音響システム構築はヒビノプロオーディオセールス Div.が担当。プランニングをした西郡篤司氏に詳しく聞いていく。

 「まず、大きな空間なのでデッド・ポイントを無くす必要があると考えました。メイン・スピーカーはJBL PROFESSIONAL VRX932LA-1を左右に3基ずつ、サブウーファーのVRX918Sを2基ずつフライング。さらにRch側の客席エリアがやや広いため、一回り小さなVRX928LAを2基加えています」

▲スピーカーはJBL PROFESSIONAL VRX900 Seriesで統一。写真はRch側で、メインは左側のVRX932LA-1×3基。サブウーファー(中央)はVRX918S×2基。右は、サイド・フィルとして用いられているVRX928LA×2基。VRX928LA×2基は当初はモノサミングした信号を出力するプランもあったが、試聴の結果Rchの音声をローカットして出力しているという

▲スピーカーはJBL PROFESSIONAL VRX900 Seriesで統一。写真はRch側で、メインは左側のVRX932LA-1×3基。サブウーファー(中央)はVRX918S×2基。右は、サイド・フィルとして用いられているVRX928LA×2基。VRX928LA×2基は当初はモノサミングした信号を出力するプランもあったが、試聴の結果Rchの音声をローカットして出力しているという

 
 これらVRX900 Seriesは、フライングはもちろんグランド・スタックやポール・マウントにも対応した、多用途に対応できる小型ラインアレイだ。西郡氏は選定理由をこう続ける。

 「サイズ的に使いやすいんです。ウーファー・ユニットを2基備える上位モデルだと、スピーカーの存在感が強くなってしまいます。“ちょうど良い大きさのスピーカー”だからこそ、VRX900 Seriesはロングセラーなんだと思います。このサイズでもパワーは十分ですからね」

 モニター・スピーカーは、フロアに置いたVRX915Mに加え、客席上のバトンにメインと同じVRX932LA-1を左右2基ずつフライングし、ステージに向けている。

 「演奏者のモニターとしてはもちろん、ステージ近くの客席までカバーすることで、デッド・ポイントを減らしています」と西郡氏は語る。

▲フロア・モニターもVRX900 SeriesのVRX915Mを使用。2ウェイ・モデルで、メイン・スピーカーやフライング・モニターと同様にバイアンプで駆動している

▲フロア・モニターもVRX900 SeriesのVRX915Mを使用。2ウェイ・モデルで、メイン・スピーカーやフライング・モニターと同様にバイアンプで駆動している

 

▲客席からステージに向けて、VRX932LA-1×4基をフライングし(写真はLch側のみ)、演奏者モニターとして使用。ステージ至近の客席をカバーする狙いもある

▲客席からステージに向けて、VRX932LA-1×4基をフライングし(写真はLch側のみ)、演奏者モニターとして使用。ステージ至近の客席をカバーする狙いもある

 

すべてのスピーカーの位相をそろえる

 しかし、ただスピーカーを増やせばデッド・ポイントを減らせるというわけではない。西郡氏は、すべてのスピーカーの位相をそろえることが重要だと考えたそうだ。

 「モニターを含むすべてのスピーカーをバイアンプで駆動し、DBX DriveRack Venu360で各ドライバーの位相を全部そろえました。位相をそろえることのメリットは3つあります。1つ目は、位相の異なるスピーカーを組み合わせたときに生じる音のキャンセリングを防げることです。正位相のスピーカーと逆位相のモニターがあると、音が打ち消し合って音量が下がってしまいます。位相をそろえれば、少ないスピーカーで最大のパワーを得ることができるため、今回のように設置できるスピーカーの本数に制約がある場合はメリットが大きいです。2つ目は自然な音にするため。さまざまなスピーカーを組み合わせれば位相のずれは必ず起こり、場所によっては音質が変化してしまいます。音量だけでなく音質も均一にするため、位相をそろえることにこだわりました。最後のメリットは1つ目と関連しますが、音のキャンセリングを防ぐことで、パワー・アンプの出力が無駄なく音として出力できるという点です。ここはもともと、通常の飲食店物件なので電源容量に限りがあります。位相をそろえることで、電力を効率的に使い、無駄のないようにしました」

▲アンプ・ラック。CROWN XTI4002×13基とDBX DriveRack Venu360×4基を収めている。ラックはキャスター付きのため、万が一トラブルが起こった際の交換も容易だ。また各ラック背面上部には静音ファンを取り付けており、冷却することで機材の温度上昇によるトラブルを予防している

▲アンプ・ラック。CROWN XTI4002×13基とDBX DriveRack Venu360×4基を収めている。ラックはキャスター付きのため、万が一トラブルが起こった際の交換も容易だ。また各ラック背面上部には静音ファンを取り付けており、冷却することで機材の温度上昇によるトラブルを予防している

 
 もう一つ、ライブ・レストランならではの音作りのポイントがあったと、西郡氏は説明する。

 「ライブ・ハウスなどでは、スピーカー特性をフラットにしていくのですが、店舗やイベント・スペースでは3〜8kHzに“肩を入れる”……耳に痛いポイントを抑えるんです。明りょう度を保ちながら、痛い音にはしないことに気を遣いました。ここは食事をしながら音楽を楽しむところですから、長時間演奏を聴いても疲れにくいように調整しています」

 そのほか、同店ではPAエンジニアが常駐していないため、メインテナンスやオペレーションを考慮したさまざまな工夫をしたという。営業がスタートして、毎日店頭で指揮を採る伊藤氏は「クリアな音で、お客様にも満足いただけていると感じています」と語る。また伊藤氏はミュージシャン担当の立場から「演奏しやすく、やりがいのある場所だとミュージシャンの方々におっしゃっていただけています」とコメントしてくれた。同店での円滑なライブに、システム全体が貢献していることは間違いなさそうだ。

▲コンソールはSOUNDCRAFT SI Performer 3。PAエンジニアが立ち会わないことも多いため、ミュージシャン自身で調整しやすいようにフェーダーや操作子の多いこのモデルが採用されたとのこと。不具合があったときのために、もう1台予備がバックステージに保管されているという。奥は照明卓のAVOLITES Quartz

▲コンソールはSOUNDCRAFT SI Performer 3。PAエンジニアが立ち会わないことも多いため、ミュージシャン自身で調整しやすいようにフェーダーや操作子の多いこのモデルが採用されたとのこと。不具合があったときのために、もう1台予備がバックステージに保管されているという。奥は照明卓のAVOLITES Quartz

 

▲コンソール下のラック。右手前にSHUREのデジタル・ワイアレス受信機AD4QJ-Bや、CDプレーヤー、無停電電源などが収められている。左奥は照明関係のラック

▲コンソール下のラック。右手前にSHUREのデジタル・ワイアレス受信機AD4QJ-Bや、CDプレーヤー、無停電電源などが収められている。左奥は照明関係のラック

 

▲左が演奏者支援部の伊藤源氏、中央が店長の飯田隆広氏。右がヒビノプロオーディオセールス Div.の西郡篤司氏

▲左が演奏者支援部の伊藤源氏、中央が店長の飯田隆広氏。右がヒビノプロオーディオセールス Div.の西郡篤司氏

 

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