Premium Studio Live Vol.1 大友良英+高田漣 @一口坂スタジオ

サンレコ・レーベル by 編集部 2010年9月13日

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“ミュージシャン同士の架け橋”"スタジオ・ライブ”"DSD録音による高音質配信”をテーマにSound&Recording Magazine編集部が主宰するイベント=Premium Studio Live。その記念すべきVol.1が、去る8月27日に東京・一口坂スタジオ Studio 1で行われた。初回を飾ったミュージシャンは、ギターやターンテーブルを用いて独自の音響を追求する音楽家・大友良英と、YMOやpupaなどでペダル・スチール/ギターを操るマルチプレイヤー高田漣の2人。ライブ/録音/ミックスとさまざまな要素が複雑に絡み合う本イベント、一体どのようなシステムで行われたのか、そして作業はどのように進められたのかをレポートしていくことにしよう。

[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2010年10月号の記事をWeb用に編集したものです] 
Photo:Takashi Yashima

レコーディング・スタジオを
ライブ会場として使うシステム

本イベントの会場となったのは、東京・一口坂スタジオ Studio1。236㎡の広さを誇り大編成のオーケストラの録音にも対応するレコーディング・ブースと、コンソールNEVE VR72を中心に、NEVE 33609、UREI 1176などアウトボードの名機を数多く備えたコントロール・ルームから成るスタジオだ。オーケストラの収録のみならずバンド系のプロジェクトにも使用され、これまで幾つもの名作を生み出してきたレコーディング・スタジオだが「さすがにオーディエンスを招いてのライブを行ったことはこれまで無かった」というのは一口坂スタジオのスタッフの弁。そんなこの場所をライブ会場へと変えるシステムのプランニングからPA、レコーディング、ミックスまでのすべての工程を担当したのが、エンジニア葛西敏彦氏だ。

ステージとして使用したレコーディング・ブースからの入力は、ボーカルと楽器合わせて全部で12ch。これらはすべてコントロール・ルームのNEVE VR72のヘッド・アンプにより立ち上げられ、ボーカルと大友のライン系の音はレコーディング・ルーム・モニターの壁面に埋め込まれたスピーカーへと送られた。この出音とギターアンプなどの直接音とが、本公演での”PAサウンド”となるわけだ。さらにレコーディング・ルームには、客席を取り囲むように5基のGENELEC 1029Aをセット。これらは後ろの方の客席用に大友と高田のボーカルを補うために用意されたものだ。また、大友と高田の足元にはMARTIN AUDIOのウェッジ・モニターLE1200Sを1基ずつセット。主にボーカルが返され、こちらと1029Aはステージ上手側にモニター用に用意されたミキサーのSOUNDCRAFT Spirit M12から出力された。

葛西氏がオペレートを行うコントロール・ルームのシステムに関しては、NEVE VR72に立ち上げられた12ch分の音声信号は、葛西氏の手によってリアル・タイムで2ミックスが作られ、KORGのDSDレコーダーMR-2000Sに5.6MHzのDSDで録音される。いわば昔のダイレクト・カッティングのようなやり方だ。それに加え、今回はMR-2000Sをさらに2台用意。同期運転させた上で、2人のボーカルをまとめたもの/オーディエンス・マイクをまとめたもの/それぞれの楽器をまとめたものという、計4つのトラックを録音するMTR的な使い方を行った。レコーディングが終わった後で、ダイレクトに2chで録ったものを使うか、4trで録ったものをミックスして使うかを検討することにした。ちなみに、録音時の処理は基本的にはVR72付属のEQがメインだが、コンプのTUBE-TECH CL 1Bやスタジオ常設のリバーブLEXICON 480Lも使用された。

E-Bow Plusやターンテーブル
多様な楽器を即興的に使用した本番

それでは本番の様子を見ていこう。開場時間の18時30分を過ぎると、次々とスタジオに参加者が流れ込んで来る。客層は本誌読者や大友/高田のファンが入り交じるようなものとなったが、普段めったに立ち入ることが無いスタジオの雰囲気や、ステージ側にセットされているたくさんの楽器に、皆興味津々といった様子だ。
スタジオ内に用意された座席が埋まると、いよいよ大友と高田の登場し、その後、本誌編集長よりイベントの主旨が説明され本編スタート。録音している故の独特の緊張感の中、まずは2人がEBOW E-Bow Plusで生成したアンビエントなサステイン・サウンドに、ノスタルジックなエレキギターが加わる「街の灯」が演奏される。弦楽器のみで行われているとは思えないシネマチックな音像が会場中を包んでいく本楽曲に関しては、13分の長尺な曲ではあるが、オーバーダビングを決行。ダイレクトに2ミックスを録った方のMR-2000Sを再生しつつ、同期運転させた2台のうちの1台にそのテイクをそのまま録音、もう1台に重ねるテイクを実時間かけて録るというかなりトリッキーなやり方で行っていった。

オーバーダビングが終わると、続いては高田のアコギ弾き語りによるビング・クロスビー「It’s Been A Long, Long Time」のカバーと、大友のエレキギター弾き語りによる加川良「教訓1」。どちらも静寂を意識した慎重な演奏を披露しつつも、「It’s Been A Long, Long Time」では大友がパーカッションやノイズを乗せたり、「教訓1」では高田がバンジョーを乗せるなどして弾き語りに背景を付けていくものに。2人の息の合ったセッションを、聴衆はかたずを飲んで見守るという構図で演奏が進められていく中、4曲目の「At The Airport」は、高田がペダル・スチールで濃厚なサウンドスケープを展開する間、大友と観客全員にスタジオ内を歩き回ってもらうことで雑踏も一緒に録音するというハプニング的な試みを敢行。そして最後は即興演奏による「BOW」。E-Bow Plusサウンドと揺らぎを感じさせるひずみを融合させたアンビエント・シューゲイザーを展開し、2人だけとは思えないほどに、音響的かつ映像的なサウンドスケープを創造していった。

ライブ終了直後、葛西氏に感想を伺ってみると「実際に演奏されているスタジオとコントロール・ルームとはセパレートされているので、向こうでどんな音が出ているかが分からなくて……そんなPAは経験したことが無いので難しかったですね」と話してくれた。果たしてどのような音で録れているのだろうか?

DSDの特性を感じたミックスは
アナログ・アウトボードを使用

ライブ後は “ミックス立ち会いチケット”を購入した参加者のみが残り、葛西氏、大友、高田と共にコントロール・ルームでミックス作業を行っていく。

モニター・スピーカーとして使われたのは、スタジオ常設のラージ・スピーカーKINOSHITA Rey Audio RM-4Bと葛西氏の持ち込んだニアフィールド・モニターMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906。まずはそれらを切り替えながらどのような音が録れているのかを確認しつつ、ダビングを行った曲に関しては、ラフ・ミックスを作りながらの作業となった。

しかし、1曲目の「街の灯」でいきなり難航。なかなか音の落ち着くポイントを見出せない様子で、葛西氏は「PCMに慣れていると、DSDの音質はダビングで音を重ねていったときに音圧の感じがとらえにくいですね。例えばコンプに関しても、1台で処理するというよりは、何台かを重ねがけしながら少しずつ処理していかなければいけないかもしれません」と話す。ひとまず「街の灯」のミックスを終え、続く「It’s Been A Long, Long Time」のリアル・タイム・ミックスを聴くと、大友と高田がDSDの威力に驚いた様子。大友が「僕のターンテーブルのノイズが、ラインなのに全然嫌な感じじゃない……圧倒的に素晴らしい」と声を上げると、高田も「ラインで録音したものがラインじゃない感じ……アナログとも違う……弾き語りとか、一発で空気感までとらえる録音には本当に向いていると思うし、生楽器の良いところがしっかりと出ていますね」と発言。また続く3曲目の「教訓1」でも、大友が「エレキギターのひずんだ感じも本当にいいね」と手応えを語る。

4曲目は、観客がフロア内を歩く様子が録音された「At The Airport」。こちらも「街の灯」同様オーバーダビングが行われた楽曲だ。こちらのミックスに関して、葛西氏は「最初に聴いたときに、足音がかなりざわざわした感じで録れていたので、後に録ったトラックをモノラル化して、そこにアンビエントっぽく足音をミックスしました」という。「At The Airport」の録音時は、大友も観客と共に歩きながらギターを弾いていたが、そのサウンドも楽曲に良い味付けを施している。このミックスに関しては、高田も「ペダル・スチールにリバーブを深くかけていたんですけど、こんなに空気感が出るならここまでリバーブをかけなくてよかったかもしれない」と話す。

ダビングを行わなかった2曲と「At The Airport」の録り音があまりに良かったため、葛西氏と協議の上、もう一度「街の灯」のミックスに立ち戻り、「空気感は重ねない方がいいかもしれない」という大友の発言のもと、なんとオーバーダビングしたトラックを破棄。最終的にはダイレクトに2chで録ったトラックを採用することになった。

そして最後のトラック「BOW」も2ミックスで録音した素材を微調整してミックスの作業が終了。生楽器の迫力や観衆の緊張感までもを生々しくキャプチャーしながらも、シネマチックな音像が展開される本作、本誌の読者にはボーカルやギターの質感はもちろんだが、大友のターンテーブルから発せられたノイズやE-Bowで鳴らされた高田のペダル・スチールの音の揺れに注目していただきたい。きっとこれまで体験したことのないサウンドがそこから感じ取 れるはずだ。

§

ここまでお伝えしてきた1回目のPremium Studio Liveの模様、レコーディング・スタジオという音響に特化された空間において、ライブならではの緊張感を持ってレコーディングするという狙いは大成功であったと言えるだろう。今回レコーディングされたライブ音源は、OTOTOYにて配信中だ。

 

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▲本公演のレコーダーとして用意されたKORG MR-2000S。ここでは3台同期させて使用している

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▲実際にライブを行うのは、一口坂スタジオ Studio1のレコーディング・ブース。参加者用のイスが約50席用意され、それを取り囲むようにMic W N101、N201、B&K 4006をアンビエンス・マイクとしてセットされた

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▲大友と高田はコントロール・ルームの窓を背に陣取り、客席は大友/高田と真正面に対峙するように設置されている 。大友と高田の使用する楽器はギターやペダル・スチールなどの弦楽器にとどまらず、ノイズ用のターンテーブル、ハーモニウムから短波ラジオのSONYスカイセンサーなど多岐にわたるもので、一口坂スタジオ所有のRCA 77DXやNEUMANN U67、M49などのほかにも、AIWA VM-20A、1952年に生産された東芝の前身であるマツダのOB-1056A、同じく目黒音響電気研究所のRCA 44BXそっくりのリボン・マイクといった変わり種で収音された

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▲「At The Airport」演奏中の様子。高田がペダル・スチールを演奏する中、参加者が会場内を徘徊する音をアンビエンス用のマイクで録音することで、”雑踏”のサウンドを生成した。このとき大友も、参加者と共にアコースティック・ギターを弾きながらブースを回っている

 

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大友良英+高田漣 『BOW』

1.街の灯 2.It’s Been A Long,  Long Time 3.教訓1 4.At The Airport 5.BOW

 

*ファイル・フォーマットは下記の3種類、2つのパッケージでの配信となります。

●24ビット/48kHz WAV

●1ビット/2.8MHz DSFとMP3のバンドル

いずれもアルバムのみの販売で価格は1,000円。

購入はOTOTOYのサイトから!

Premium Studio Live vol.2 10月31日開催&出演者決定!!

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