Premium Studio Live Vol.9 INO hidefumi+jan and naomi レポート

サンレコ・レーベル by サンレコ編集部/Photo:Yukitaka Amemiya 2015年3月13日

一発録りのライブ・レコーディングを公開し、DSDで収録した音源をDSDのまま配信する本誌主催のイベントPremium Studio Live。2月24日に行われたVol.9では、RHODESの名手として自身のinnocent recordより5枚のソロ・アルバムを発表しているINO hidefumiと、美しいボーカルワークがにわかに注目を集めるアシッド・フォーク・デュオjan and naomiが登場。ともにメロウながら一筋縄ではいかない音楽性の2組によるスモーキーなセッションが繰り広げられた。本稿では、シンプルながらさまざまなアイディアが盛り込まれた機材セッティングやレコーディングの模様をレポートしていく。

[この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2015年4月号の記事をWeb用に編集したものです]

 

シンセもアンプから出力しマイクで収音

Vol.9の会場となったのは、東京・世田谷にあるクレッセント・スタジオ。コントロール・ルームには名匠ルパート・ニーヴが手掛けたアナログ・コンソールFOCUSRITE Forte(72in/48out GML 72ch Automation Fader System)が鎮座し、多くのミュージシャン/エンジニアに愛されてきたスタジオだ。

クレッセント・スタジオのメイン・フロア。縦に長いスペースの奥に楽器類を配置し、それに正対する形で観客席を設置。観客席の前方にある左右のスタンドにセットされたDYNAUDIO PROFESSIONAL BM5AはボーカルのPA用

クレッセント・スタジオのメイン・フロア。縦に長いスペースの奥に楽器類を配置し、それに正対する形で観客席を設置。観客席の前方にある左右のスタンドにセットされたDYNAUDIO PROFESSIONAL BM5AはボーカルのPA用

今回参加するミュージシャンのセットアップだが、まずINO hidefumiはトレード・マークであるRHODES Suitcase 73を中心とした構成で、オンド・マルノト型のアナログ・コントローラー+CV/GateキーボードANALOGUE SYSTEMS French ConnectionでMFB Nanozwergをコントロールするほか、YAMAHA Tenori-On、エレクトリック・カリンバなど多彩な音源を用意。これらはアナログ・ミキサーSOUNDCRAFT EFX8でまとめられた後、RHODESのアンプより出力される。ほかに自身のボーカル用としてTC・HELICON VoiceLive 2も持ち込まれていた。

INO hidefumiのセクション全景。RHODES Suitcase 73を中心にYAMAHA Tenori-Onなどさまざまな楽器をセット。音源は奥に写るアナログ・ミキサーSOUNDCRAFT EFX8でまとめられ、RHODESのアンプより出力される。ボーカル・マイクはSHURE SM58を使用

INO hidefumiのセクション全景。RHODES Suitcase 73を中心にYAMAHA Tenori-Onなどさまざまな楽器をセット。音源は奥に写るアナログ・ミキサーSOUNDCRAFT EFX8でまとめられ、RHODESのアンプより出力される。ボーカル・マイクはSHURE SM58を使用

一方のjan and naomiは、2人のボーカルに加え、ギター&ベースをアンプで鳴らすシンプルなセッティング。先述したようにINOのRHODESを含めてラインで録音する楽器は無く、ボーカルやアンプの音をすべてマイクで収音し、FOCUSRITEの卓でバランスを取った後、TASCAM DA-3000に5.6MHzのDSFで2tr一発録音するという、ダイレクト・カッティング的な手法が採られた。

レコーダーは2台のTASCAM DA3000が持ち込まれ、5.6MHzのDSFにて2trレコーディングを敢行(下はバックアップ用)。ワード・クロックはLAVRY AD122-96より供給された

レコーダーは2台のTASCAM DA3000が持ち込まれ、5.6MHzのDSFにて2trレコーディングを敢行(下はバックアップ用)。ワード・クロックはLAVRY AD122-96より供給された

レコーディングを担当するのは、Premium Studio Live初登板となる米津裕二郎氏。1985年生まれという若さながら、相対性理論~やくしまるえつこをはじめ、幅広いアーティストを手掛ける気鋭エンジニアだ。まず米津氏に今回の録音の音像的な青写真について尋ねると、「最初はRHODESをラインでも録った方がいいかなと考えていたんですよ」との答えが返ってきた。
「ですが、演奏者と同じ空間に観客も入りますし、そこにラインで録ったエレピを混ぜると逆に浮いてしまいそうだったので、マイクのみで収音することにしました。RHODESのアンプにはAKG C414を2本立てています。INOさんのエレピが音像全体を支えるイメージなので、低域まで過不足なく拾えるマイクをチョイスしました」

 

リバーブを多用してスモーキーな音場を演出

これらのマイクで収められた音は、コントロール・ルームのFOCUSRITEコンソールや各種アウトボードで処理が施される。
「FOCUSRITEの卓のヘッド・アンプに加えて、普段から使い慣れているNEVEのマイクプリやUREI 1176LNなどを持ち込みました。トータルEQはGML 9500で、最終段のトータル・コンプNEVE 33609を通った2ミックスがDA-3000に入っています」

コントロール・ルームに常設されているFOCUSRITE Forte(72in/48out GML 72ch Automation Fader System)。モニター・スピーカーはラージのGENELEC 1035B、YAMAHA NS-10M Studioに加え、米津氏が持ち込んだDYNAUDIO PROFESSIONAL BM12Aを使用

コントロール・ルームに常設されているFOCUSRITE Forte(72in/48out GML 72ch Automation Fader System)。モニター・スピーカーはラージのGENELEC 1035B、YAMAHA NS-10M Studioに加え、米津氏が持ち込んだDYNAUDIO PROFESSIONAL BM12Aを使用

続けて米津氏は「全編を通してレベリングには気を遣っています」と語る。
「2trの一発録りなので当然ですが、後から特定のパートの音量を下げたりすることはできません。あまりコンプレッションされた音にはしたくないのですが、音量的に行き過ぎたパートは止めないと聴きづらくなってしまいますから、ボーカルとベースを中心にコンプを多用しています。とは言え、リダクションの量はほんのわずかですが」
FOCUSRITEの卓について米津氏は「同社のモジュールを使ったときに感じていた通りの、奇麗な音がします」とその音質を評価する。
「汚した音を入れても大丈夫と言うか、卓で変化しないので、音作りしやすかったです。今回はリバーブをふんだんに使いたくて、スタジオにあるEMT 140に加えてBRICASTI DESIGN M7を持ち込みました。3人が奏でる煙った感じの音像にはM7が合っていましたね」

米津氏が持ち込んだアウトボード類。左列上よりトータルEQのGML 9500、トータル・コンプNEVE 33609、UREI 1176LN、janのベースに使われたNEVE 1073×2。右列上よりCHANDLER LIMITED TG2、BRICASTI DESIGN M7、UNIVERSAL AUDIO 1176LN、UREI 1176LN、NEVE 1081×2

米津氏が持ち込んだアウトボード類。左列上よりトータルEQのGML 9500、トータル・コンプNEVE 33609、UREI 1176LN、janのベースに使われたNEVE 1073×2。右列上よりCHANDLER LIMITED TG2、BRICASTI DESIGN M7、UNIVERSAL AUDIO 1176LN、UREI 1176LN、NEVE 1081×2

 

DSDの解像度の高さで3人が演奏する空気感をキャプチャー

ではレコーディングの模様を伝えていこう。演奏される10曲の内訳は、カバーが5曲、INOの持ち曲が2曲、jan and naomiが3曲。観客を前にした3人はやや緊張した面持ちだったが、1曲目の「A Portrait of the Artist as a Young Man」でINOの奏でるRHODESがスタジオ内に静かに響き、jan and naomiが一声を発した瞬間に、観客が息を飲む様子が伝わってきた。RHODESには要所でリバース・エフェクトがかけられ、アコースティックでありながらエレクトロニックな質感をたたえた音世界に観客を引き込んでいく。4曲目の「Smooth Operator」はご存じシャーデーのカバー。naomiのファルセットが生むメロウな雰囲気が場内を満たし、INOの甘美なインスト曲「思えば世界はあまりにも美しい」へとつないだ。

美しいボーカルとギターワークで観客を魅了したnaomiのセクション。ボーカル・マイクはNEUMANN U47 Tubeで、HOLLAND 2×12 Brentwood AmpにはSENNHEISER MD421とSHURE SM57が立てられていた

美しいボーカルとギターワークで観客を魅了したnaomiのセクション。ボーカル・マイクはNEUMANN U47 Tubeで、HOLLAND 2×12 Brentwood AmpにはSENNHEISER MD421とSHURE SM57が立てられていた

その後もjanの選曲による「Our House」(クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング)、INOのボーカルによる「ナイアガラ・ムーンがまた輝けば」(大瀧詠一)などのカバーを交えつつレコーディングは進行。「ナイアガラ~」では元曲のイントロ/アウトロに入っていた滝のSEを観客が声で再現する演出をINOが提案。これがDSDでどう再現されるのか興味深いところだ。場内の雰囲気が盛り上がったところでINOがTenori-Onのシーケンスを走らせ、スタンダード曲「End Of The World」でセッションは大団円を迎えた。
終演後、コントロール・ルームに入った3人は早速DA-3000のプレイバックを試聴。INOが「ここまでRHODESが奇麗に録れているとは思っていませんでした。シンセをアンプから出すセッティングも成功でしたね」と語れば、janも「歌っているときに聴こえている自分の声より良かったです。こうした経験はなかなか無いんですけど」とDA-3000の録り音に感心した様子だった。
米津氏は「ボーカルに関してはマイクのチョイスがハマりましたね。イメージ通りの音で録れていました」と今回のセッションを振り返る。
「僕の中ではPCMは線画で、DSDは筆。音がただ単に“パン”と鳴るのではなく、アタックから減衰まですべてが濃密なんです。今回は録っていて楽しかったですし、PCMだったら全体をもっとひずませないと、ここまで安定した音像にはならなかったでしょう。3人が同じ空間で演奏している空気感を、すごく魅力的に残せたと思います」

レコーディングを担当した米津裕二郎氏。“2trの一発録音においては、PCMよりもDSDの方が、音の輪郭がにじむのでやりやすい”と語る

レコーディングを担当した米津裕二郎氏。“2trの一発録音においては、PCMよりもDSDの方が、音の輪郭がにじむのでやりやすい”と語る

 

 

 

INO hidefumi+jan and naomi
『Crescente Shades』

03_CrescenteShades_011. Portrait of the Artist as a Young Man

2. Watch

3. Manai

4. Smooth Operator

5. 思えば世界はあまりにも美しい

6. May I

7.(Wouldn’t It Be Nice)To Fall Asleep In The Library

8. Our House

9. ナイアガラ・ムーンがまた輝けば

10. End Of The World

 

配信開始:3月13日(金)
配信サイト:e-onkyo
OTOTOY
配信ファイル形式:DSDおよびFLAC(e-onkyo)、DSDおよびALAC(OTOTOY)
価格:2,000円

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