Premium Studio Live Vol.7 大野由美子 + AZUMA HITOMI + Neat’s + Maika Leboutet レポート

サンレコ・レーベル by サンレコ編集部/撮影:伊藤大輔 2014年11月14日

レコーディング・スタジオでの一発録りをライブとして公開し、DSDで収録した音源をDSDファイルのまま配信するという本誌主催Premium Studio Live。約2年半のブランクを経ての再開となるVol.7では、バッファロー・ドーターの大野由美子をリーダーに、AZUMA HITOMI、Neat’s、Maika Leboutetという話題の宅録女子3人を加えたシンセサイザー・カルテットが登場した。4人が奏でるアナログ・シンセと4人の歌による音楽は、これまでに体験したことのない、全く新しい音世界を作り出していた。10月9日に行われた、緊張感あふれる一発録りのレコーディングの模様を、当日までの道程と併せてレポートしていこう。

[この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2014年12月号の記事をWEB用に編集したものです]

4人のアナログ・シンセをラインとマイクで同時録音

レコーディングが行われたのは、今年設立35年を迎えた老舗、サウンドインのAスタジオ。用途に合わせ合計6つにセパレーション可能で、今回は中央に4人が向かい合わせになるよう楽器を設置。同エリアに50名分の客席も用意した。シンセは大野のMOOG Minimoog、そして急遽使われることになった元祖シンセサイザーと言えるオンド・マルトノ。こちらは東京・浅草にあるASADENという工房で作られたもの。そしてAZUMAはDAVE SMITH INSTRUMENTS Mopho、Neat’sはKORG Σ、Maika LeboutetはROLAND Juno-60を用意。個性豊かなアナログ・シンセがそろった。

4台のシンセはライン録音のほか、4台のスピーカーから出した音をマイク録音することにしたため、1つのブースをスピーカー・ルームとしてセパレート。さらに別ブースにはオンド・マルトのスピーカーを設置した。

レコーディング/ミックスを担当したのは、葛西敏彦氏。曽我部恵一、蓮沼執太、ゲスの極み乙女など、レコーディングのみならずPA、舞台音響なども手掛けている。

「ラインはDIからSSL XL9064Kに立ち上げています。シンセはスピーカー・ルームに送るために、インサートから抜いてもう一回卓に立ち上げました。その際にローカットをしています。そしてパッチ盤を通してスピーカー・ルームに送りました。ローカットをしたのは、DIから直だと危なかったので、スピーカーの保護ためです。今回使ったアンプ、スピーカーが、TAGUCHIのSR用。楽器の音がフラットに鳴るので、卓からの送りで、スピーカの音量を細かく調整していました。そのほかの回線は大野さんのボコーダー、AZUMAさんのドラム・シンセをラインで、オンド・マルトノのスピーカーに立てた3本のマイク、スピーカー・ルームのアンビエンス用マイク1本です。マイクはボーカルにDPA D:facto II、4台のスピーカー録音用にNEUMANN U67を4本、アンビエンス用にB&K4006、オンド・マルトノ用にはNEUMANN U87AIを使いました」

レコーダーはTASCAM DA-3000を6台用意。1台2tr仕様のため、録音バスは、ボーカルに4ch、シンセのライン/マイクをミックスしたものに4ch、エクストラに2ch割り当てた。エクストラはボコーダー、リズム・マシン、オンド・マルトノ、アンビ用で、楽曲により切り替えて使用。この10ch分が1度コンソールに戻り、最終的なミックス・バランスを取り、ステレオ・アウトからもう1台のDA-3000に送り2ミックスを録音するというルーティングとなっていた。またサンプリング・レートは5.6MHzに設定。

 

会場となったのは東京・麹町にあるサウンドインのAスタジオ。フルオーケストラを録音できる広さを持つ170㎡あるライブ・ゾーンの中央に楽器を設置。奥にセパレートした部屋がスピーカー・ルームで、オンド・マルトノのスピーカーは左側のブース内に置かれた

会場となったのは東京・麹町にあるサウンドインのAスタジオ。フルオーケストラを録音できる広さを持つ170㎡あるライブ・ゾーンの中央に楽器を設置。奥にセパレートした部屋がスピーカー・ルームで、オンド・マルトノのスピーカーは左側のブース内に置かれた

 

◀録音に使われた6台のTASCAM DA-3000とCG-1000。ボーカルが4tr、シンセが4tr、エクストラ(ボコーダー、リズム・マシン、オンド・マルトノ)が2trと、マスターの2ミックス用として使われた

録音に使われた6台のTASCAM DA-3000とCG-1000。ボーカルが4tr、シンセが4tr、エクストラ(ボコーダー、リズム・マシン、オンド・マルトノ)が2trと、マスターの2ミックス用として使われた

シンセはマイクの音をメインにラインを足してミックス

本レコーディングのポイントは、シンセをラインとマイクの両方で録っているという点だ。その理由を葛西氏は「今回は楽器の数も音数も少なかったので、どうデザインするかが難しかったです。なので、まずはシンセの位置を分かりやすく、LchにMopho、RchにΣ、真ん中にMinimoog、Juno-60というのを基本的な配置して音像を作ろうと思っていました。そのためにスピーカーの音をマイク録音し、ラインの音とうまく使い分けようと考えたのです。結果としては、マイクの音をメインにミックスしています」

◀大野が演奏したMOOG Minimoog(「亡き王女のパヴァーヌ」ではAZUMAが演奏)。左はSTRYMON El CapistanとKORGのチューナーPB-01-GD

大野が演奏したMOOG Minimoog(「亡き王女のパヴァーヌ」ではAZUMAが演奏)。左はSTRYMON El CapistanとKORGのチューナーPB-01-GD

 

「亡き王女のパヴァーヌ」のリードで演奏されたASADENオンド・マルトノ

「亡き王女のパヴァーヌ」のリードで演奏されたASADENオンド・マルトノ

 

AZUMA HITOMIのシンセはDAVE SMITH INSTRUMENTS Mopho。隣には「Computer Love」と「風の谷のナウシカ」で使用されたドラム・シンセSTANDUINO FrauangelicoとLINE6 DL4。DL4は「風の谷のナウシカ」でディレイのほか、「Jojo」ではループ・サンプラーとして使用された

AZUMA HITOMIのシンセはDAVE SMITH INSTRUMENTS Mopho。隣には「Computer Love」と「風の谷のナウシカ」で使用されたドラム・シンセSTANDUINO FrauangelicoとLINE6 DL4。DL4は「風の谷のナウシカ」でディレイのほか、「Jojo」ではループ・サンプラーとして使用された

 

◀Neat’sのブース。シンセはKORG Σで隣には、MOOG MF Ring、KORG SDD-3000 Pedal、TC Electronic PolyTune2が置かれていた

Neat’sのブース。シンセはKORG Σで隣には、MOOG MF Ring、KORG SDD-3000 Pedal、TC Electronic PolyTune2が置かれていた

 

Maika LeboutetはROLAND Juno-60と足元にSDD-3000 Pedalとボリューム・ペダルBOSS FV-50Lをセット

Maika LeboutetはROLAND Juno-60と足元にSDD-3000 Pedalとボリューム・ペダルBOSS FV-50Lをセット

 

アナログ・シンセと歌声で唯一無二の世界観を生み出す

今回のPremium Studio Liveは、譜面ありきのレコーディングで行われた。3度にわたるリハーサルをみっちり行い、大野も「リハは毎回長時間集中しての練習になってしまったけれど、3人ともとても頑張っていました! 難曲も回を重ねるごとにどんどん演奏が良くなって、その過程がとても面白かったですね」と振り返る。譜面を追うだけで精一杯といったところから、徐々に一体感が生まれ、グルーブし、音色や歌、コーラスなど、細かい部分にまで意見を出し合い完成させていく、まさにバンドとして形がそこにはあったと思う。それでは、その集大成となった本番の模様をレポートしていこう。

当日は昼過ぎから機材セッティングが始まり、サウンド・チェック後にリハーサルが行われた。1曲終わるごとに最終確認をして全曲終わるころには、開場時間が迫っていた。

ライブ・ゾーンに置かれたシンセ。4人が向かい合わせになるように設置された

ライブ・ゾーンに置かれたシンセ。4人が向かい合わせになるように設置された

曲目は、4人のオリジナル曲とカバー曲を併せた全10曲で、「Daisy Bell / A Bicycle Built for Two」からスタート。1890年代に作られ、初めてコンピューターが歌ったことで知られる本曲を、大野がボコーダーで歌唱。演奏も、Minimoogのみのイントロから始まり、全員が1音のみという音数で、シンセの魅力を存分に聴かせた。続くバッハの『ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調 BWV1048 第三楽章』は、本イベントのハイライトの1つ。ウェンディ・カーロスが『スウィッチト・オン・バッハ』でMOOGをフィーチャーしたことが現代でも受け継がれていることを提示するための選曲だ。次曲はクラフトワーク「Computer Love」。こちらはAZUMAがメイン・ボーカルとアレンジを担当。「手弾きのシーケンス・フレーズを繰り返すことで、徐々に盛り上がるようなテクノポップを目指した」と言うように、後半に向けてのサウンドの盛り上がりが秀逸なアレンジとなっていた。続いてバッファロー・ドーターの「Great Five Lakes」は、縦横無尽に演奏された大野のMinimoogソロが強烈な印象を与えたに違いない。

会場の緊張感も徐々にほぐれてきた中盤、Neat’sのMC後に「黄昏に雨」が演奏された。「原曲は4拍子ですが、しょんぼり感増量のため3拍子にして、オーケストラの木管協奏曲のようなアレンジを目指しました」と語るように、シンプルながらNeat’sの世界観を見事に再現。続くMaikaの新曲「Jojo」は、余白を残したアレンジを目指した結果、アドリブ要素の多い仕上がりになり「自分だけでは想像でなかった音が飛び出してきてうれしかったですね」と語る。

イベントも終盤に差し掛かり披露されたのは、AZUMAのオリジナル曲「free」は、4つ打ちのミドルテンポの原曲を、“弦楽四重奏のように、シンセ4音でアレンジしました”というAZUMAの狙い通り、シンセ・カルテットとしての完成形がそこにあった。続く「風の谷のナウシカ」はNeat’sがボーカルを取り、80’sシンセポップにアレンジ。ハーモニーがキモの「The Sound of Silence」はMaikaがメイン、AZUMAと大野が交互にコーラスを担当し、アコースティック・バージョンを元にしたシンセ・アルペジオ主体のアレンジで聴かせた。そしてラストはオンド・マルトノをフィーチャーした「亡き王女のパヴァーヌ」。オンド・マルトノの演奏とサウンドの圧倒的な表現力の高さに驚かされるとともに、短期間でその演奏を身につけた大野にも賛辞を送りたい。そして、オンド・マルトノのメロディに引っ張られるように各人のシンセ・メロが原曲の独特な和声を紡いでいくという、唯一無二の世界観を生み出していた。

セパレートされたスピーカー・ルーム。4台のスピーカーはTAGUCHI製。ライブで楽器の音をフラットに鳴らすことができると葛西氏がチョイスした。マイクはNEUMANN U67を4本のほか、アンビエンスにB&K4006を1本立てている。写真はリハーサル時のもので、左奥と右側のスピーカーが向かい合っているが、かぶりが多かったため、レコーディングの際は外側に向けられた

セパレートされたスピーカー・ルーム。4台のスピーカーはTAGUCHI製。ライブで楽器の音をフラットに鳴らすことができると葛西氏がチョイスした。マイクはNEUMANN U67を4本のほか、アンビエンスにB&K4006を1本立てている。写真はリハーサル時のもので、左奥と右側のスピーカーが向かい合っているが、かぶりが多かったため、レコーディングの際は外側に向けられた

以上で本編が終了したが、編集部の國崎よりアンコールの声がかかった。曲目は「ブランデンブルグ〜」と「Computer Love」。メンバーも予想していたような表情を見せたが、気を引き締め演奏に臨んだ。見事2曲ともOKの声がかかると、感嘆の声を上げ、観客からも素晴らしいパフォーマンスに惜しみない拍手が送られていた。

メンバーがスタジオを後にしたあと、ボーカル、楽器、エクストラのDA-3000の音を再度卓に立ち上げ、ミックスが行われた。「ブランデンブルグ〜」「亡き王女〜」などのインストは、基本レコーディング時のテイクがそのままOKとなった。そのほかのボーカル楽曲は、ボーカルに対してUNIVERSAL AUDIO 1176LN、TUBE-TECH CL 1Aを使うなど、楽器と声のボリューム・バランス、置き位置などに注意しながらミックスを行った。また、2ミックスの前にはNEVE 33609を通していた。ミックスを終えた葛西氏は「アナログ・シンセの音の強さにびっくりしつつ、こんなにパワフルに鳴っていたんだとその良さを再認識しました。しかもDSDとのマッチングがすごく良いですね」と語り、過去にも例のない本イベントは大成功のうちに幕を閉じた。

◀Aスタジオに設置されたコンソールはSSL XL9064K。モニターはスタジオ常設のQUESTED Q412と葛西氏が持ち込んだMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906が使われた

Aスタジオに設置されたコンソールはSSL XL9064K。モニターはスタジオ常設のQUESTED Q412と葛西氏が持ち込んだMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906が使われた

大野由美子+ AZUMA HITOMI +Neat’s+Maika Leboutet『Hello, Wendy!』

 

PSL7_JK

1. Daisy Bell / A Bicycle Built for Two

2. ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調

    BWV1048 第三楽章

3. Computer Love

4. Great Five Lakes

5. 黄昏に雨

6. Jojo

7. free

8. 風の谷のナウシカ

9. The Sound of Silence

10. 亡き王女のためのパヴァーヌ

配信開始:11月14日(金)
配信サイト:e-onkyo www.e-onkyo.com
OTOTOY http://ototoy.jp
配信ファイル形式:DSDおよびFLAC(e-onkyo)、DSDおよびALAC(OTOTOY)
価格:1,000円

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