気鋭クリエイターが語る!とっておきのプラグイン・テクニック〜第7回:松隈ケンタ(SCRAMBLES)

クリエイター直伝プラグイン・テク by 松隈ケンタ(SCRAMBLES) 撮影:Chika Suzuki 2017年11月27日

Plugin_Tech

この連載は、さまざまな音楽クリエイターにプラグイン・エフェクトを使った音作りのノウハウを語っていただくものである。今月登場するのは松隈ケンタ。2005年にロック・バンドBuzz72+のギタリストとしてメジャー・デビューし、バンドの活動休止後は作詞/作曲家に転向。現在は音楽制作チームSCRAMBLESを軸に、個性派アイドル・グループBiSHをプロデュースするなど注目を集めている。Jポップにロック・サウンドを取り入れる名手の彼に、独自の技を披露してもらおう。

RCompを使って各パートに統一感を

僕はもともとロック・バンドでギタリストを務めていたので、ギターの録音や音作りには特別なこだわりがあります。ここでは、その方法を中心にお話ししましょう。

レコーディングのやり方については後述しますが、録り音に必ずと言っていいほどかけるプラグインはWAVES Renaissance CompressorPRESONUS Studio One 3のPro EQです。これらはギターに限らず、ほぼすべてのトラックに使っていますね。まずはRenaissance Compressor(以下、RComp)から見ていきましょう。コンプとEQのどちらを先に挿すかは人や場合によりけりだと思うのですが、僕はコンプからかける方です。よく“どんな楽器でもアナログ卓を通すと、その卓の音になる”などと言いますよね? RCompはその役割に近く、あらゆる音をひとまずまとめることができるんです。さまざまな楽器の音、もしくは同じギターでも異なるプレイヤーの演奏が一曲の中に混在している場合、いったん世界観を統一するイメージで使っています。

もちろん通すだけでなく、各トラックのバラつきを整えています。そのバラつきとは、僕の中では“周波数特性のバラつき”なんです。コンプと言えば音量の粒をそろえるものというイメージがあるでしょうが、僕は各トラックの周波数特性をフラットにするような方向で使用。言い換えると、帯域ごとの音量差を軽くならす目的です。というわけで、ゲイン・リダクションの値はごくわずかですね。

RCompはパラメーターの数が少なく、スレッショルドを下げていくだけでハッキリとした効果を得られます。ギターだけでなく、リズム隊にも必須のコンプです。

 

▲WAVES Renaissance Compressorは、コンプとしてはパラメーターが少なく、設定に手間がかからないのも魅力。松隈は個々のトラックにかけて、音の周波数特性をそろえるイメージで使っている

▲WAVES Renaissance Compressorは、コンプとしてはパラメーターが少なく、設定に手間がかからないのも魅力。松隈は個々のトラックにかけて、音の周波数特性をそろえるイメージで使っている

 

Pro EQで不要な低域を適宜カット

RCompの後段には、決まってPro EQを挿しています。最も気に入っているのは、効き具合が緩やかなところ。例えば設定上は大胆に見えるローカットでも、低域がうっすらと残るんです。こういった特性なので、思い切りEQしてもナチュラルに聴こえるのでしょう。

ギターを処理する場合は、このPro EQを各チャンネルとバスの両方で使用。チャンネルではRComp→Pro EQ、バスではWAVES CLA Guitars(後述)→Pro EQが基本のチェインです。まずチャンネルでのEQは、ピークを落とすなどして聴こえ方を整えるというもの。バスでの処理はローカットです。ヘビー・ロックなどでは、ギターの低域が強調されているように聴こえますよね? しかし実のところ、ギターの低域は邪魔になりやすい成分なので、大抵カットされています。またPro EQの後にはアンプ・シミュレーターを挿したりもするため、適宜ローカットしておかないと低域が飽和しがち。バスやマスターのコンプにより、さらに低域が持ち上がることもあるので、その都度カットしておくのがお勧めです。

▲PRESONUSのDAWソフト、Studio One 3のPro EQ。「周波数ポイントを表すドットのグラフィックが小さいので、マウス・ポインターで動かす際に、どの帯域を処理しているのか分かりやすい」と松隈

▲PRESONUSのDAWソフト、Studio One 3のPro EQ。「周波数ポイントを表すドットのグラフィックが小さいので、マウス・ポインターで動かす際に、どの帯域を処理しているのか分かりやすい」と松隈

 

CLA Guitarsをバス・コンプとして活用

先述の通り、ギター・バスでは最初にWAVES CLA Guitarsをかけるのが基本です。EQやコンプ、リバーブ、ディレイ、コーラスなどを併装したプラグインで、それぞれを画面上のスライダーでコントロールできます。

興味深いのは、EQの特性が実機のギター・アンプに似ている点。一例として、低域を処理するための“BASS”スライダーを見てみましょう。まずギタリストが“ロー”と言う場合、大抵は200〜300Hz辺りを指していると思います。エンジニアが中低域と呼ぶ帯域ですが、そこがギタリストにとっての低域なのです。そう、ギター・アンプの低域EQで触る部分ですね! BASSスライダーでは中心周波数を“UPPER”“LOWER”“SUB”の3つから選択でき、UPPERに設定すると200〜300Hzを中心に調整可能。つまり“ギタリストがおいしいと感じる低域”を迷うことなく即座にコントロールできるわけです。

ただ、僕は後段のPro EQで周波数特性を整えることが多いため、CLA Guitarsで使用するのは主に“COMPRESS”スライダーです。名前の通りコンプレッション用のスライダーで、上げ下げすると、音の重心が移動するイメージ。またバスの中の音色がまちまちでも、質感を簡単にまとめることができます。CLA Guitarsは、僕が唯一出会ったギター特化型のバス・コンプと言えますね。

▲︎エンジニアのクリス・ロード・アルジのテクニックをプラグイン化したWAVES CLA Guitars。ギター・アンプの特性をよく再現していると松隈は評しており、「BASSやTREBLEのスライダーを上げていったときのブースト具合もギター・アンプさながらで、EQカーブまでそれらしく設定されているようです」と語る

▲︎エンジニアのクリス・ロード・アルジのテクニックをプラグイン化したWAVES CLA Guitars。ギター・アンプの特性をよく再現していると松隈は評しており、「BASSやTREBLEのスライダーを上げていったときのブースト具合もギター・アンプさながらで、EQカーブまでそれらしく設定されているようです」と語る

 

さて、ギター用プラグインの代表格と言えばアンプ・シミュレーターということで、愛用のWAVES GTRを紹介してみます。僕は基本的に、ライン録りしたギターをリアンプして本チャン用のトラックを作ります。リアンプ時は2種類のスピーカー・ユニットが入ったキャビネットを使い、各ユニットに7〜8本のマイクを設置。その中からベストなものを選ぶ形です。つまりスピーカー・ユニットとマイクの組み合わせにこだわっているわけですが、GTRはキャビネットとマイクのシミュレーターを豊富に備えており、精度も高いため、リアンプ時と同様に作業することが可能。僕は主に、ひずみ系のフレーズに用います。

使いどころは、リアンプの時間が取れないときや、デモの制作時など。またリアンプとGTRの音を比較し、後者を選ぶこともあります。その理由は、音が非常に良いから。主張が激しくオケから浮きやすいアンプ・シミュレーターが多い中、GTRはなじみが良く操作もしやすいため、自分の中では最強のアンプ・シミュレーターです。音色はVOX AC30などの英国製コンボ・アンプに近く、そうしたサウンドが好みの人にはばっちりハマるでしょう。

▲︎アンプ・シミュレーターのWAVES GTRは、キャビネットとマイクのシミュレーター(赤枠)も豊富に備え、それらの組み合わせで多彩な音色を作り出せる

▲︎アンプ・シミュレーターのWAVES GTRは、キャビネットとマイクのシミュレーター(赤枠)も豊富に備え、それらの組み合わせで多彩な音色を作り出せる

 

音にインパクトを与える2つのプラグイン

最後に2つ、ギター以外のソースによく使うプラグインを紹介します。まずはローシェルフ・フィルターを備える低域ブースター、WAVES OneKnob Phatter。このOneKnob Phatterは、ド低域というよりスネアの胴鳴りやエレキベースの太い部分といった中低域を持ち上げるのに向くツール。例えばスネアに挿すと、胴鳴りがバコッと出てきてインパクトが増します。

昨今の音楽は大半がデジタル領域で作られているからか、ドンシャリなものが多いと思うんです。テープを使っていた世代は音がこもるのを避ける傾向にありますが、20代などの若い人たちは最初からデジタルの派手な音に慣れてきたため、ギラつくことに抵抗を感じている模様。OneKnob Phatterを使えば、中低域が強化されることでギラつきが相対的に和らぎます。またどっしりとした感じが強まるので、僕は“もう一押し、何かが欲しい”というトラックに使うことが多いです。

 

▲中央のノブを右に回すことで中低域の量感を増やせるWAVES OneKnob Phatter。「キックにインサートすると温かい部分が出てきて、ベースではブーミーにならずとも下からグッと来る感じが強まります」と松隈

▲中央のノブを右に回すことで中低域の量感を増やせるWAVES OneKnob Phatter。「キックにインサートすると温かい部分が出てきて、ベースではブーミーにならずとも下からグッと来る感じが強まります」と松隈

 

もう一つ紹介したいのはWAVES L2。“マスターに挿してゴキゲンにガツッとつぶす!”というのが僕の基本です。WAVESはL1やL3などのマキシマイザーも発売していますが、それぞれキャラクターが異なります。イメージとしては、L1がガレージーな音質、L2はロックに合う感じで、L3はクリアかつ高解像度。僕はロック・ミュージシャンなので、中域にガッツの出るL2を愛用しているわけです。L2を使うとギターやスネア、キックなどのアタッキーな部分を出せるので、ロックにおいて一番聴こえてほしい要素が押し出されます。ギター・バスやドラム・バスに挿して、パンチを出すこともありますね。

 

▲マキシマイザーWAVES L2。中域にガッツを出せる音質が松隈のお気に入りだが、リダクション値を−3〜−2dBに収めて生々しさが損なわれないようにしている

▲マキシマイザーWAVES L2。中域にガッツを出せる音質が松隈のお気に入りだが、リダクション値を−3〜−2dBに収めて生々しさが損なわれないようにしている

今回は“プラグインの親玉”とも言えそうなWAVESの製品をメインに紹介しました。僕は生楽器の音が大好きなので、ギターにしてもドラムにしても、なるべく実際の楽器を使うようにしています。その音を丸っきり脚色してしまうのではなく、本質を生かしながらグレード・アップさせるためのツール……つまり本来の意味でのエフェクターという点で筋を通しているのがWAVESプラグインだと思っていますね。

 

【TOPIC】L1、L2、L3のキャラクターの違いについて

今回は、松隈ケンタさんがご紹介してくださったL1、L2、L3について解説します。これら3つのプラグインには、WAVESがL1のために開発した“ルック・アヘッド・アルゴリズム”が用いられています。L2にはARC(Adaptive Release Control)機能が追加され、リリース・タイムを自動で制御します。これにより高いRMSレベルを確保しながら、ひずみを抑えることができるのです。またL2はシングル・バンド仕様のため、透明度よりもはっきりとしたキャラクターを生み出します。“強いキャラクター”という印象はこれに起因するものでしょう。L3はマルチバンド・ピーク・リミッターを採用し、異なる帯域間におけるインター・モジュレーションひずみを抑えることでクリーンなサウンドを実現しました。

我々はL3以降もL2やL1を取り扱っています。各製品にはキャラクターがあり、異なる使い方に寄与します。すべての製品は存在価値のある、有効な機能を有しているのです。(解説:メイア・シャシュア/WAVES最高技術責任者)

 

 

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