Device11 オーディオ・ファイルから自律的音響バリエーションの生成 by 松本昭彦

Maxで作る自分専用パッチ by 松本昭彦 2013年12月15日

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING ’74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください

Device11 オーディオ・ファイルから自律的音響バリエーションの生成 by 松本昭彦

AudioAtmosphere

▲パッチ外観(プレゼンテーション・モード)


AudioAtmospherePatchingMode

▲パッチ内部(パッチング・モード)

 

 

ファイルをダウンロードする:(Patches.zip)

楽譜→演奏、録音→再生だけが音楽?!

楽譜を使った伝統的な音楽の作曲法では演奏に解釈の余地があり、楽譜に細かく指示されていない個所は演奏家の創造性と組み合わされて初めて実空間で音になり、リアライゼーションされます。では、録音されたデジタル・オーディオ・ファイルはどうでしょう?

暗黙の了解で、それらは1倍の速度で順方向に再生させることになっており、iTunesのような一般的な音楽再生ソフトウェアは、皆このような形でオーディオ・ファイルを再生します。しかし、ここに“創造性”を介入させてみてはどうだろう?と思ったのが、このパッチを制作するきっかけになっています。

このパッチでは、1つのオーディオ・ファイルを読み込んで、スペクトルの特徴を維持したまま新たな音響を自律的に生成させ続けることが可能になります。プラグイン・エフェクトなどを駆使して、破壊的に原音とは別の音に作り替えていくわけではなく、あくまで元のオーディオ・ファイルの“バリエーション”を生成します。

読み込むオーディオ・ファイルは、数小節の楽器演奏でも数十分に及ぶフィールド・レコーディングでも大丈夫です。そのファイルが持つ音響的特徴を維持しながら、別の形に生まれ変わらせるのがこのパッチの特徴であるため、読み込む素材によって出音の雰囲気が大きく変わり、半分予想できつつ、半分は予想ができないような音響が生成されます。

パッチの構造

このパッチは、オーディオ・ファイルの再生のタイミングと速度の操作のみという単純なアルゴリズムで構成されています。[buffer~]に読み込まれたオーディオ・ファイルの一部分を[poly~]で次々に再生し、一度ファイルの再生が終わると次の再生位置が[drunk]で運動しながら変わり、終わることのない音を奏でる2台のプレーヤーから成り立っています。

再生速度は2倍/1倍/0.5倍/0.25倍の中からランダムに選ばれる可能性があります。周波数的にはちょうど2倍/半分/1/4となるため、ピッチやコード感があるオーディオ・ファイルは、オクターブの調和を崩さずに音響化されます。ただ、ピッチ感の無い環境音などの音色であっても、オクターブ関係にあるピッチ・シフトされた素材同士のミックスは不思議と自然に混ざります。

[drunk]で自律的に再生位置を計算させる関係上、出てくる音の組み合わせや順番は当然毎回異なります。出力はステレオ2ch空間になりますが、[poly~]で断片化された細かいオーディオ素材は[mxj gaussian]を利用し、ガウス分布で中心と分散が決定されミックスされます。これは確率理論を使ったイアニス・クセナキスのトーンクラスターの技法を空間展開に応用したものです。

このパッチはプロジェクション・マッピングなどのデジタル・テクノロジーを駆使したダムタイプの藤本隆行氏の舞台作品『NODE / 砂漠の老人』における楽曲制作でも活用しています。舞台ではしばしば、“効果音以上音楽未満”の空気のような響きが必要になります。その一例として、藤本氏より「雑踏の音を言葉の意味が分からないように使用したい」というリクエストがあったので、会話の声が入っている雑踏のフィールド・レコーディングによるオーディオ・ファイルをこのパッチで処理し、雑踏の雰囲気は残しつつ、ディテールをぼかすような響きを作りました。

ほかにも、バイオリンと組み合わせるためのピアノの音楽は、無調音楽の分析理論を応用し、現代音楽としても実験的と言えるアプローチをMax6を活用して行いましたが、そちらはまた別の機会にでも紹介できればと思います。なお、「NODE / 砂漠の老人」についてのテクニカルなインタビューは、Maxの代理店であるMI7のWebサイトに掲載されています。

 

AkihikoMatsumoto_profile_photo松本昭彦

【Profile】東京藝術大学大学院修了(古川聖研究室)。現代音楽、コンピューター音楽の作曲、音楽理論を高岡明、ジョナサン・リー、キャシー・コックスに師事。Maxプログラマーとしてはevala、坂本龍一+高谷史郎、大友良英×飴屋法水、藤本隆行、池上高志、やくしまるえつこらの作品制作に携わる。 http://akihikomatsumoto.com

 

 

CYCLING ’74 MaxはMI7 STOREでオーダー可能

問合せ:エムアイセブンジャパン
http://www.mi7.co.jp/

 

TUNECORE JAPAN