Device 24 音律の新たな組織法を考える by 福島 諭

Maxで作る自分専用パッチ by 福島 諭 2016年7月24日

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING ’74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください

Device 24 音律の新たな組織法を考える by  福島 諭


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▲パッチ内部(パッチング・モード)

 

 

 

『Monocarpic Electra』の音響部をパッチ化

私は現在のCYCLING ’74 MaxがMax/MSPと呼ばれた1997年ごろ、大学の研究室でその存在を知りました。当時オーディオ信号をリアルタイムに操作できるものは極めて恵まれた環境にしかありませんでしたので、それが個人環境の範囲で行えるということに大きな期待を覚えました。実際、その後は抽象的なハウリング・ノイズなどを即興的に加工/セッションしていくMimizでの活動や、作曲家でサクソフォン奏者の濱地潤一さんと続けている“生楽器の演奏をリアルタイムにサンプリング/加工しながら生成させる楽曲を作曲/楽譜化していく室内楽曲シリーズ”などの制作に役立てています。いずれもシーケンス的な発想では扱うことのできない有機的な時間性を獲得し得るため、コンピューター処理が奏者に寄り添うことも可能になりました。

しかし、こうした現在の活動のほかに、初期のころにはCPUの占有率を下げることが難しく、実現できなかった作曲上のアイディアもあります。時が経ち、2013年にどうしても実現させたいと再度試したところ、コンピューターの処理能力向上のおかげで大きな負担無く実現できたというものがあります。その作品が、今回紹介する『Monocarpic Electra』(2013年初演)です。

私は時間の中に展開される音の組織のあり方に、高い純度の関係性を求めています。音は音楽である以前に時間の中で推移していく何物かであり、現れては消えていく小さなサイクルのつながりによって紡がれていく生命の営みを例に出すまでもなく、実に生命的な存在です。既存の“音楽的な”発想内にとどまらずに作曲すること、時には自分が土台にしている音楽的な要素を根底から疑ってみる必要性から、本作を作曲しました。今回のパッチは発表時に使用した音響部を取り出したものです。

パッチの構成(エディット・モードの解説)

パッチ「MonocarpicE4.maxpat」を開くと左上に大きめのtoggleボタンが一つ見えます。こちらをオンにすればそのまま楽曲がスタートします。15分程度です。プログラムの構成は一見複雑に見えますが、基本的な考え方は極めてシンプルで、どれも基本的な処理の組み合わせで成り立っているに過ぎません。しかし、このシンプルな音律の規則は一般的な音楽の約束事からすれば少し特殊です。どのような組織かを以下に説明してみます。

まず音の最低音を60Hzと定めます。そこから任意の最高音となる周波数を一つ選びます。この最低音から最高音までの音程を“仮想的なオクターブ”ととらえ直して12等分します。これで一つの音律が導き出されます。この特殊な音律が最大で8種類独立して存在し、それぞれ4音ずつ音を選べるようになっているため、ここでは最大で32種類の音が選択可能です。これを“第一世代の音律”と言ってみます。楽曲中は任意の最高音が徐々に広がっていくようにプログラムされています。

さらにこの“第一世代の音律”が楽曲中で鳴らしている周波数を、新たな音律の最低音に更新する機能を持たせたものも8種類存在させます。これを“第二世代の音律”とし、同様に最大で32種類の音を“第一世代の音律”との関係を持たせつつ選択可能としています。音を選び取るための和音構成の説明はここでは割愛しますが、4和音が循環的に関係付けられた8種類の和音のみを使用しています。音は単純なFM合成を行うサイン波によって発音され、[poly~]オブジェクトによって合計64音の発音を許す構造になっています。

こうした考え方は普段我々が親しんでいる12平均律の音楽世界からは極めて遠くに存在してもいますが、プログラムを再生していただければそれほど突飛には聴こえないのではないでしょうか。“仮想的なオクターブ”が時間的に推移していきますが、元をたどれば8種類の和音から導かれる音でしかなく、それぞれ縮尺の異なる相似的な響きによって全体が関係付けられているのです。興味のある方は好きなようにパッチを解体していただき、響きを探索していただければと思います。

 

ファイルをダウンロードする→Monocarpic Electra

 

Satoshi_Fukushima福島 諭(satoshi fukushima)

【Profile】1977年新潟出身。作曲家。IAMAS修了。2002年よりコンピューター処理と生楽器との対話的な作曲作品を発表。Mimizのメンバー。賞歴に第十八回文化庁メディア芸術祭アート部門 優秀賞(大賞なし)等。

 

CYCLING ’74 MaxはMI7 STOREでオーダー可能

問合せ:エムアイセブンジャパン
http://www.mi7.co.jp/

 

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