Device 31 Maxで音楽理論を構築する生成的作曲法 by 松本昭彦

Maxで作る自分専用パッチ by 松本昭彦 2019年3月25日

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING ’74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください

Device 31 Maxで音楽理論を構築する生成的作曲法 by 松本昭彦

 

▲TotalRandom

 

RandomComposition▲RandomComposition

 

DrunkMelody
▲DrunkMelody

 

sub_DiatonicSet
▲sub_DiatonicSet

 

TonalHarmony
▲TonalHarmony

 

ファイルをダウンロードする→1905_Max

 

 

 

生成と作曲

“作曲”という言葉は誰もが聞いたことがあると思いますが、“生成”という言葉についてはあまりなじみが無いかもしれません。今回は音楽の生成にフォーカスして、作曲における固定観念を解きほぐします。パッチを通じてどのようにして機械に作曲させるのかを体験し、人間と機械の特性の違いについて考えていきましょう。

“生成”とは、実存しなかったものをプログラミングなどの力を借りて生じさせることです。コンピューターの誕生以降、生成技術を用いることで音楽の様式をデザインしやすくなりました。様式とは、作曲/作品群に共通する音使いの特徴を後から分析し、体系的にまとめたものです。アルゴリズムという形で作曲するための設計図、すなわち音楽の様式そのものをメタレベルで作曲家が記述できるということは、作者独自の作曲理論を構築する上で大きな役割を果たします。

Maxでは、収録されているオブジェクトの簡単な組み合わせで、さまざまな音楽の自動生成を試みることができます。他者とは違う音楽を生み出すための規則をデザインするという意識は、現代の作曲家が独創性を生み出す上で重要になってくるでしょう。

Maxにおける生成の基本は乱数です。オブジェクトの[random]が最も基本的な種となり、それを加工する規則を作っていくことで少しずつ音楽が姿を現していきます。乱数というとコンピューター特有の概念のように思えますが、揺らがせても問題が無いパラメーターに対して無作為な選択をすることも“乱数的”と言えるでしょう。打ち込みと人間の演奏を比較しても、人間の演奏は楽譜に対して毎回不規則に音の強さや長さ、タイミングが揺らぐため、そのことが音楽的にメリットにもデメリットにもなります。その適材適所の選択をするのも作曲家の仕事です。

それでは、さまざまなパラメーターの出現確率をランダムに選択するパッチ「TotalRandom」で生成される音を聴いてみましょう。新ウィーン楽派の時代に作曲家が目指した、特定の音に中心性が無く、すべてが等価の究極の無重力な音楽はこのような響きになるのではないでしょうか? 人間よりも機械が得意な作曲表現の一つであり、ある意味では究極の到達点とも出発点とも言えるでしょう。

 

偶然性を制御し理論を構築する

乱数は、そのままではランダムな数字をただ吐き出すだけですが、確率の考え方を使うことでこれを制御して、乱数に重みを付けることができます。2つ目のパッチ「RandomComposition」のように[itable]を使うと、そのテーブルの分布での乱数生成を行うことが可能です。高い値の出現頻度を上げたり、中央付近の出現頻度を下げたりすることで、さまざまな作曲や音響合成のアイディアにも応用できます。

ある値を別の特定の値にマッピングする方法も乱数を制御するには有効です。3つ目のパッチ「DrunkMelody」内のサブパッチ「sub_DiatonicSet」のように、乱数が吐き出す値をダイアトニック音階のMIDIノート・ナンバーに強制的にマッピングすることで、ダイアトニック音階から外れないメロディの生成が可能になります。このパッチでは[drunk]を使い、過度な音の跳躍が生じないよう制御しました。

確率を使ったアプローチに、前後の数値の関係性から出現頻度をコントロールする“マルコフ連鎖”と呼ばれるものがあります。連続する事象を確率過程で説明できる音楽理論も多く存在しており、例えば和声法や対位法などもその代表です。4つ目のパッチ「TonalHarmony」では、古典的な藝大和声の様式に基づくコード進行のルールを[prob]を使って記述しました。和音構成を変えるだけでも、古典派和声とは全く違った進行の様式を作り出すことができます。メッセージ・ボックスの数字を差し替えるだけで音楽は変わっていきますが、これも立派な作曲。五線譜とペンを使っているだけでは到達できない様式のデザインを考えることが重要です。理論的な仮説を立てて音を聴きながらプログラミングを進めていけることは、Maxを使って作曲をする大きな利点の一つだと思います。

絶対に禁則を犯さないのが機械の作曲です。メリット/デメリットはありますが、作曲のプロセスにおいては人間の頭を使った計算だけでなく、機械計算のほうが得意な場面があります。これはプロセスの話で、最終的にアプトプットされる音楽が人間的なのか、機械的なのかという話とはまた別の次元の話です。人間らしい音楽を生み出したい場合でも、機械的な計算が有効な場面は多々あります。

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生成的作曲のアプローチはレジャレン・ヒラーのイリアック組曲に始まり、1950年代からさまざまな実験が試みられています。しかし、その学術資産を応用し、音符レベルだけでなく波形レベルからどのようにアルゴリズミックに音楽を生成していくのか……。そこにはまだまだ未知の領域が広がっているのです。読者の皆さんから独創的な発想が生まれることを期待しています。

 

松本昭彦

AkihikoMatsumoto

【Profile】音楽家/プログラマー。東京藝術大学大学院修了。自身の作品だけでなく、さまざまなアーティストの作品展示や企業の研究開発にCYCLING’74 Maxプログラマーとしてかかわる。2016年には、アルゴリズム作曲や電子音響処理技術を駆使した1stアルバム『Preludes for Piano Book1』をリリースした。

http://akihikomatsumoto.com

 

 

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