バーニー・グランドマン・マスタリング田中三一氏による マスタリング・セッションの音源ダウンロード!

マガジン連動 by 写真:八島崇 2012年11月15日

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本誌9月号でマスタリング・エンジニアとしての矜恃をうかがったバーニー・グランドマンの田中三一氏。その際に氏の厚意で公開マスタリングを行うことが決定。一般募集した音源の中から20曲が選ばれ、10月9日/10日の2日にわたりマスタリング・セクションが敢行されました。選ばれた音源制作者の多くは立ち合いを希望されたためスタジオ内は活気にあふれ、作業終了後も田中氏にアドバイスを求める参加者の熱心な姿が見受けられました。本誌12月号の誌面では田中氏に各曲の印象や施した処理について語っていただいていますが、下記からはマスタリング前後の音源(16ビット/44.1kHzのWAV)がダウンロード可能。ぜひ手持ちのDAWに読み込んで、田中氏のマスタリング手腕を耳でも確認してください!

マスタリング前/後の音源のダウンロードはこちらから!

マスタリング前/後の音源を
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(Track 01~Track 10:422MB)
マスタリング前/後の音源を
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(Track 11~Track 20:435MB)

 

※トラック・リストのテキスト・ファイルは音源と同じフォルダー内に収録されています

※楽曲の著作権は各クリエイターに属します。私的な試聴以外の目的での使用は固く禁じさせていただきます

マスタリング・セッションに立ち会った参加者によるレポート(敬称略)

武藤英隆(ぽわん)

まずスタジオにある機材に驚きました、イメージではもっと複雑で精密なイメージでしたが、シンプルな構成でした。
あいさつもそこそこに出された音から、そのシンプルに見えていた機材群が計算し尽くされたものであることに気付きました。音のファースト・インプッレションとしては、アナログ的な温かみを感じました。そして、自分のミックスのダメさ加減にも気付かされました。モニタリング環境の良さなのかもしれませんが、自分のミックスの作業工程を浮き彫りにされている感じでした。
田中さんに初めに言われたのがマキシマイザーの使用に関して。指摘されていた通りで、日本屈指のエンジニアの耳はごまかせないなと……ミックスに関しては引き算のミックスということを指導していただき、大変勉強になりました。
2ミックスはベースがボーカルを食っているとのことだったので、ベースを抑えつつボーカルを前に出す作業が主となりました。初めにアナライザーで見ていた中域の物足りなさが解消され奇麗な波形になっていき、音を聴いても歌詞が聴きやすくなりました。無理矢理ベースを引っ込めたわけではなく、曲の印象を壊さず自然に仕上げていただきました。無理なEQ/コンプのかけ過ぎ、そのほかエフェクトの多用が、結果的に楽曲の印象を損なうことを学びました。

七夕真由美

マスタリングによって曲の表情がより鮮明に生き生きと描き出されていくのを目の当たりにして、マスタリングの重要性を痛感することができました。さまざまなタイプの楽曲に最も適したアプローチを瞬時に判断して的確に処理される現場を拝見して、ただただあぜんとしてしまいました。マスタリング=音圧を上げるというイメージがあったのですが、単に音圧を上げるということではなく、楽曲の持つイメージや主張を最大限に引き出してリスニングに適した仕様にするということでもあるんですね。
私の曲の場合、マスタリングによってドラムとベースとピアノ(特にLch)の一体感が出て、8分の”ズンズンズン”というグルーブの輪郭が際立って少しガツガツというかザクザクした質感にしていただいて、もう果てしなくテンションが上がってしまいました(笑)。
多分一番おいしいところを引き出すポイントというのは本当にミクロの世界というか、ちょっとでもずれると違うんだろうなと思いました。わずかなズレも許されない、まさに”匠の技”って感じですね。ハーモニック・ディストーションの効果も実際に体感させていただいて、プラグインの音とは全く違う質感で感動しました!
マスタリングは制作者とリスナーをつなぐとても大切な作業で、本当に奥が深いんだなということを痛感しました。それとマスタリングの前段階での2ミックスの仕上がりをできる限り最上級の状態にしなくてはということもあらためて感じました。良いサウンドにするためには、やはり音色とレベル・バランスとレンジの取り方が重要なんですね。今回の企画によってたくさんのことを学ばせていただいたように思います。本当にありがとうございました。

今泉秀俊

スタジオにおじゃましたのは2時間という短い時間でしたが、とても楽しいときを過ごさせていただきました。
一人で作品を作る場合には、なかなかミックス・ダウンとマスタリングの2つを分けて意識できません。そのためか、そもそもマスタリングとはどのようなものかがいまひとつ具体的にイメージできていませんでしたが、私の質問に対する回答や他の応募者のマスタリング中の田中さんとのやりとりを拝見する過程で、何となくではありますがマスタリング作業というものをイメージできるようになりました。
正直言うと自分の作品をいじってもらっているときよりも、他の応募者のマスタリングを拝見していたときが楽しく、興味深かったです。若い人の疑問の内容やそれに対する田中さんらの受け答えが実に面白かったです。限られた時間の中で極力相手に分かる言葉を探しながら説明しようと努力してくださっている田中さんの姿勢がうかがえました。機材や使用ソフトの種類、またそれらをどのように操作しているのかも興味深いものでした。中には私も使用しているソフトもあったようですが、当たり前のことですが、同じソフトでもプロが使うと違いますね。スピード感も含めて今後の参考にさせていただきます。
帰宅後に早速マスタリング前後の音源をDAWのオーディオ・トラックに並べて取り込み、比較してみました。目いっぱい音量を上げて作成した音源を応募したはずなのに、さらに音量がアップしており、躍動感がより強調されたように感じられました。ただ、私のモニタリング環境についてはもう少し何とかしたいですね。その上で、自宅で今回のマスタリングに近い音を出すにはどうすればよいのかを試行錯誤してみたいと思います。
今回、何気なく応募したことが今回の貴重な体験を得ることにつながったことを大変うれしく思います。本当にありがとうございました。大変勉強になりました。田中さんをはじめ本件にかかわったすべてのスタッフの皆さんに心から感謝いたします。

Namisa Okage

この度はプロフェショナルによるマスタリングを経験させていただき、Sound & Recording Magazineの編集の方々並びに田中氏、スタッフの方々に厚く御礼いたします。
私の2ミックスはひずんでいる個所があることをマスタリングの前に指摘されました。音量を下げた2ミックスを持参したことで音質改善の幅が増えることを教えられたような気がします。
スタジオでの正確なモニタリングを体験して緊張し、そして少しだけホッとしました。自分のモニタリング環境が信用できない所があったので大きく間違っていたらと心配していたのです。
2ミックスはすべてライン録音によるものだからなのか、サウンドに硬さや冷たさが感じられ、ふくよかさが足りない気がしました。それを受けての田中さんの判断の速さと手際の良さには圧倒されました。作業内容は、中低音の補正にハーモニック・ディストーションを元音に乗せて厚みをだすイメージです。
マスタリングの前後を聴くとあらためてエンジニアの技術/サウンドに対する想像力が必要であることに気付かされます。無機質なサウンドから生身な温度感覚を感じられるようなサウンドに変わったと思います。そして、ミキシングにおいてマスタリングを想定して作り込んでおく範囲とマスタリングで磨き上げられる範囲を理解していくことが、これからの自分のスキル・アップに必要ではないかと思いました。作品自体がグレード・アップしたような仕上がりにしていただいた田中氏にあらためて感謝を申し上げます。

前田徹(杉並エステ)

バーニー・グランドマンという名門スタジオに足を踏み入れた瞬間に私の音源が流れていたのには緊張を感じたが、田中氏は大御所という風格とともに、とても親しみやすい柔らかな雰囲気を持った方だった。
田中氏が私の音源を一聴し採ったアプローチは、音の平べったさを改善し、さらにはもっと汚して汗臭くしてみようというものであった。一体どういうことかと見守っていると、田中氏は手元にある卓やプラグインのパラメーターをちょちょいと操る。すると、スタジオにそれまで流れていた2ミックスとは段違いの迫力ある音が出現した。ぶつかり合って平たい印象になってしまっていたギター、ベース、ドラムの音が分離し、ダイナミクスがグアッと立ち上がる3Dの音像が現れたのだ。まるで、初めてニンテンドー3DSの3Dスイッチをフルに入れたときのような感動に近い。出るべきものが出され、引っ込むべきものは鮮やかに引っ込められている。サラッとまとまってしまっていたボーカルには迫力が足され、なるほど確かに汗臭い! あのわずかな工程で何がなされたか伺ったところ、全体にディストーションをかけることでギターに厚みを加え、ボーカルは良い感じに汚れ、シンバルは荒くなり、楽曲の派手さが増したのだという。
田中氏いわく”歌モノでリスナーが最も気にするのは、まずメロディ/歌詞/声質。演奏がその邪魔をしてはいけない、各パートのおいしいところをぶつけ合ってはならない”とのこと。欲しいところは強く押し出し、要らないところは抑える。それは、時にはプロのミュージシャン/エンジニアですら忘れてしまうことなのだそうだ。役割分担を意識し、一つの作品としての面白さが最も重要であるということをていねいに答えてくださる田中氏は、一言一言に重みがあった。
最後に私の失敗を一つ。今回の企画に応募するにあたり、ミックスの段階でマキシマイザーをかけた音源を使用してしまったのだ。田中氏は、”それが無ければもっと派手に瞬発力を加えることができた”という。反省!

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やはり肝はミックスですね。”マスタリングで音は変えられるが、あくまで基本はバランスの良い2ミックス”とはよく言われることですが、プロのスタジオで、TANNOYのラージや10万円近くかけてカスタマイズされたSONYのラジカセで自分の曲を客観視して、強く実感しました。自分の音楽に立体感や臨場感、説得力は欲しいところ。私の2ミックスは、ボーカルが出過ぎ、全体的にこぢんまりしていました。
マスタリングではプラグインでローミッドを持ち上げ(EQではなくエキスパンダー!)、6kHzを上げてスネアを強調、ハーモニック・ディストーションを通して前に出る音に、という処理。プラグインでは0.5dB程の処理でも効果が感じられたのが印象的でした。自分のセッションは午後1時からでしたが、ほかの方のセッションも見学させてもらい、午後8時近くまで居座って、いろいろアドバイスをいただきました。
「歌モノはやはりボーカル録りが大事。環境作りに留意する。ヘッドフォン着けて歌っているのを忘れるくらいコンプの設定を詰める。例えばマイケル・ジャクソンはレシオが20:1、ジョニ・ミッチェルは12:1とガッツリかけている」
「コンプはアタック速めでリリース遅め、アタック遅めでリリース速め、2つのうち聴いて良かった方を使う」
「ボーカルは、特に日本語の場合80Hzくらいまで出ている。100Hz以下をバッサリ切るのはいただけない」
「ビンテージを再現した高価なプラグインでも、あくまでシミュレーション。全く同じということではない。アナログの可能性は無限大」
「ミキシングについて、雑誌などで何Hzをどうしたとか言うのはうのみにしない。結局はケース・バイ・ケース。自分の耳で、音楽的に聴いて判断する。感覚が大事」
「2ミックスをマスタリング後のような音にするのは無理がある。マスタリングはミキシングと違った特殊な技術」
「リファレンスには自分が本当に感動できる音楽を。自分が何度聴いても飽きないものを。そんなに多くはないはず」
音楽を作っている者の目的は、結局はシンプルに”良い音楽を作りたい”ということに尽きると思います。自分もその一人です。その目的のためには頭の中に、身体の中に確固たるリファレンス音を作ることが肝要です。今回の経験がそれに一役買ってくれると期待します。ありがとうございました。

シライ ショー

今回の田中氏によるマスタリングによって、マスタリングがいかに重要な作業か、またエンジニアの技量/経験などによって曲そのものが大きく左右されることを感じた。マスタリング後の曲を聴いたときに、音圧だけでなく音の1つ1つのバランスをうまくとらえ、表現豊かにマスタリングされていたと感じた。また意識していなかった音がマスタリングを通して浮き出てきて、それが実は表現したかった音だったと気付いたときは、田中氏があらためて凄い方だと感じた。
私が表現したかったのは、アナログ感のある力強さや、温かさといった人間味のある音だった。すべてがデジタルで処理され”それなりに”完結してしまうこの時代において、田中氏は人間の欲している音でマスタリングしてくれる。やはりデジタルでは表現しきれない部分は、人間の感覚によってのアナログ的な作業によってのみ表現できると感じた。
今回の田中氏とのマスタリングを通して、私自身の音楽に対する姿勢/感覚を見直す機会となった。また田中氏は技量/経験だけでなく、人間的にもとても素晴らしく魅力を感じる方で、本当に今回の経験はとても貴重な体験でした。この度、マスタリング作業に立ち会わせていただき、誠にありがとうございました。

中村栄之輔(Lamb On Sunday)

普段はALESIS ADATとAKAI PROFESSIONAL DR16で録音、YAMAHA 02R+各種アウトボードでミックス、マスター音源はPANASONIC SV3800という1990年代システムで制作をしています。今回の曲は16ビット/48kHzのDATマスターをCD-Rにした際に失われたふくよかさが、田中さんのマスタリングによって豊潤に生まれ変わり、とてもうれしいです。
マスタリング当日はアナログ/デジタルEQの併用、ハーモニック・ディストーションを生かした温かい音作りを中心に学ばせていただきました。特定の楽器の存在感をトランスで生み出し立体的なミックスにする方法、リバーブ使用時のプリディレイの扱い方、ボーカル録音時のアイディアなど、マスタリングにとどまらずミックスやレコーディングにまで田中さんから直接アドバイスをいただけて、とても参考になりました。1970年代に手掛けられた作品やA&Mスタジオ訪問時のルーム・エコーの話は長いキャリアを持つ田中さんならではの貴重な内容で興味深かったです。
何よりも感銘を受けたのは、瞬時に曲のキモを見抜いてマスタリングの方向性を決め、アナログ/デジタルのさまざまな機器を使い、短時間で具現化していくその仕事ぶりでした。音量大きめのサイン波ベースも、制作意図である”電子音の野蛮さ”を残しつつ優雅さを加えていただきました。私の初歩的な質問にも丁寧に答えていただいた田中さんの気さくなお人柄とハーモニック・ディストーションが生み出すぬくもりとが重なる、温かいマスタリング・セッションでした。どうもありがとうございました。

工藤敦子(Lamb On Sunday)

EQなどさまざまな機材の使用技術や空間での音の配置など、曲を介して具体的に幅広く説明してくださり、今後に生かせるヒントをたくさんいただきました。心から感謝いたします。マスタリングによって曲の印象が一変する面白さと、それ故の恐さ、そして感動があり、マスタリングの重要性をあらためて実感しました。さまざまな音の中で、最近は気候や小鳥のさえずりなど自然の音に心を添わせて自分の音楽性を見つめています。マスタリング作業の繊細さ、構築される美しさに、それら自然と相通ずるものを感じました。

石川泰昭

今回、田中さんに自分の作品をマスタリングしていただき、家に帰ってあらためて音源を聴いてみて、音像が全く変わっていたのにまず驚きました。市販の音源に手が届かなかったかゆい部分に、手が届いた感じがしました。また、田中さんの豊富な経験からくる言葉に重みを感じ、その優しく温和な人柄に引かれました。田中さんがおっしゃっていた言葉に”僕たちはエンジニアであって僕たちから何かを提案するものではなく、また必ずマスタリングで何かをしなければいけないというものでもない。アーティストが現場で聴いて、これでOKと言ったら、そのまま何もいじらない場合もある”という言葉が印象に残りました。作曲した側としてその音楽をどういう風に表現したいか、どういう風に音を聴かせたいか、そうした明確なビジョンを持つことが大切だと思いました。
また、プラグインでは出すことができないアナログ機材の音に関してや、そうしたアナログ機材を触ることにより手で覚えていく感覚についても話されていました。普段はコンピューター上でミキシングしているので、そうした現場で養われる感覚に対して、ある意味うらやましくも感じました。おそらく1週間もその場にいれば、自分の感覚や音作りも変わってくると思うので、早くそうした現場に入って仕事ができるようになる必要があると思いました。今回は、スタジオに入って田中さんのマスタリングの現場を見学したり話をしたりすることで大変勉強になり、さまざまな刺激を受けました。今回の経験が、今後の音楽活動/作曲活動の活力にもなりました。こうした機会を与えてくださった関係者の皆様方にはとても感謝しています。どうもありがとうございました。

アルバトロスP

私もエンジニアを目指していたときがありました。エンジニアもアーティストでなければこの業界では生きていけないと思っていましたが、それは大きな勘違いだったのかもしれません。
セッションの会話の中で、マスタリングでは私情を挟んではだめだし、客観的にならないといけないと仰っていました。個性やこだわりを信じて制作してきた私にとっては全く別の作業だと感じました。むしろそれができないからマスタリング・エンジニアが必要なのだとマスタリングに対する考え方が180度変わった気がします。
より良い音楽を作るために、マスタリング・スタジオまでの工程に万全を期して、2ミックスを持っていくことが私たちアーティストの役割なのかもしれません。

レバ

自宅ではスピーカーの補正ツールを使っているからか、自分の制作環境とそれほど出てくる音の印象に差は感じませんでした。ただ、音のディティールはスタジオの方がはるかに分かりやすく、さすが専用スタジオだと思いました。ラジカセでのモニタリングもイメージしやすく、スイッチングで切り替えられるのが便利だと思いました。
いつも30Hz以下は切り捨てていたので、逆に持ち上げるという処理が新鮮でした。上げたところ、曲の重心が下がり安定したと思います。それ以外は微調整程度でしたが、自分で試したマスタリングと比べると音にメリハリがありました。これは、アナログ機材やコンバーターなどの差もあると思います。音数が少ない部分では少しノイズが気になりました。
今後は”出すところは出し、引っ込めるところは引っ込める”というメリハリの部分を意識してマスタリングしようと思いました。またミックスは、トラックごとにピークを抑えつつ、トータルの音量はつぶさない程度になるべく自然に稼いでおくことなども参考になりました。立ち会ってよかったのは、”最終的な音量の基準が分かったこと”"自分のミックスに大きな間違いがなかったこと”です。今後の自信になります。
ただ、15分ほど触ってOKにしたデータに対して言うのも失礼ですが、上記のプロ(環境含め)と自分との差は許容範囲だと思っています。もちろんミックスから作っていただいていればものすごい差がでたでしょう。音作りの9割はミックスでなすべきだとも思いました。
今回一番参考になったのは、”曲は一人で作るより、任せられる部分は任せた方がいい”ということです。鼻歌~歌詞~作曲~アレンジ~レコーディング~ミックス~マスタリングと続く工程を一人でやる以上、その曲にかけられる時間/情熱は一工程あたりわずかな量でしかありません。田中さんのこだわりを聞いていると、とてもそれだけの情熱をマスタリングだけに注ぐことは不可能です。曲を作るのにミュージシャン/エンジニア/ディレクターなどいろいろな立場の人が関わっていますが、見ている視点もみんな違います。それらも1人で同時にジャッジし、進行させることも宅録のレベルが上がるほどに不可能なことだと感じます。顕微鏡で微生物を見ながら青空をイメージするくらい無理があります。だからプロに任せる、友人とシェアするなど、自分の注力すべき工程以外にはなるべくリソースをかけず、考えずに作るということが、最後まで情熱や新鮮さを保ちつつ、客観的に聴いても”いい曲”に仕上がるのではと思いました。貴重な体験をどうもありがとうございました。

長屋裕二(嶺岸和浩「石巻から明日へ」エンジニア)

1980年、東京の専門学校でレコーディング・エンジニアを目指し勉強していた頃に創刊されたSound & Recording Magazineは、授業とは異なる面からレコーディングや音楽制作の現場についての情報が詰まっていてとても参考になり、今でも手元にあります。卒業後は映像編集の仕事に就きましたが、当時学んだ録音の技術や考え方はさまざまな面で役に立っています。昨年、40代最後の年に震災が起こり、50歳からの生き方を考えさせられました。震災の影響で仕事も激減しましたが、これまでの自分の経験を生かして自由な活動ができるようフリーランスになり、30年前に目指していたレコーディング・エンジニアも始めました。今回、自己流のミキシングのクセがつく前に、田中三一氏の長年の経験に基づく話を聞けたのはとても幸運でした。
まず一番印象に残ったことは、”生で聴いて体感し感動した音楽を自分のリファレンスにし、その感動を目指す。また、その感動する経験を多く積む”と言われたことです。先日、プロの歌い手さんがマイクもPAも使わない生声で行うライブを聴く機会がありましたが、まさにこの経験が今後生かされると確信しました。
次に”テスト・テイクではブースに入って生の本当の声を聴き、録音したものが正しいか正しくないかを判断する”"歌い手が緊張しない環境を作り、メンタル面を十分配慮する”"リミッターを8:1以上かけた音を返す”等々、ボーカル録音における数々のアドバイスが大変参考になりました。普段、プロのナレーターを相手にMAの仕事もしていますが、歌い手もナレーターもブースで一人で声を出すことは大変な緊張感を持つものだと気付かされました。今後はベストなパフォーマンスができるよう環境面や精神面にも気を付けて対応しようと思います。
コンピューターを使ったマスタリングとマスタリング・スタジオの大きな違いは、アナログ機材の使い方のテクニックが大きいと感じました。”デジタルでは出せないアナログならではの不完全なものをうまく利用する”"アナログでは音のニュアンスを無限大に変えられる”と田中氏はおっしゃっていました。今回の音源はボーカルに気になるところがありましたが、田中氏のマスタリングでボーカルの良いところが強調された結果、ほとんど気にならなくなったことに驚かされました。例えるなら、素人の化粧とプロのメイクアップ・アーティストが施す化粧では、同じ女性でも魅力が何倍にも引き立つことと似ていると思います。今後はマスタリングのエンジニアさんに相談しながらミックスを作り、コンピューター・ベースで長時間かけて素人マスタリングせずに、お金を出してプロのマスタリング・スタジオでクオリティを上げるべきだと実感しました。
田中氏は”自分が感動しなければ他人も感動しない”ともおっしゃっていました。自分もいつ終わりが来ても悔いがないよう、感動して楽しめる音楽作り/映像作りに関わっていきます。また、今回マスタリングしていただいた楽曲が、石巻の人に何かしら役に立つことができるよう願っています。今回の田中氏のマスタリング・セッションに参加して学んだことや考えたことを今後の録音/ミキシングに生かしていきます。田中氏、バーニー・グランドマン、サンレコのスタッフに感謝申し上げます。

ボンマリアージュ

田中三一氏のマスタリングを見学させていただき、ありがとうございました。コンピューターでの音楽制作が初めてであり、参考にと思いSound & Recording Magazineを購入し、勢いに任せ応募した次第であります。プロの制作現場に立ち会ったことは一度もなく、田中氏の”レベルが高いね”の一言に、作曲のレベルが高いのかと勘違いするほどの素人です。
マスタリングの意味も内容も知らない私でしたが、見学を通して音楽が放つ素晴らしさや感動をCDに詰め、世に届けるのがマスタリングの仕事だと感じました。田中氏は見学者個々の音源を聴き、曲を理解し、どのようにすれば楽曲がリスナーの心へ届くかを瞬時に見極め、1曲を30分ほどで仕上げていました。音の響き/音圧などを調整され、確かにマスタリング前より音がダイレクトに伝わり、曲の世界観が一層明確になったと感じました。専門用語が飛び交う現場で、私はただ作業を眺めているだけでしたが、曲の意図をつかみ、すべき事を瞬時に判断していく田中氏の作業工程に圧倒されました。氏いわく、”大切なものとは、何十年経って聴いても素晴らしいと感じるレコード。感動する音楽を聴いた際の感覚を忘れずにいること”とのこと。
マスタリングは曲全体を客観的に聴き、リスナーに最大限届くよう自分の揺るぎない価値観で曲を判断する大変複雑な仕事に思えますが、作り手と聴き手を結ぶ架け橋として重要な役割という印象を受けました。マスタリング・セッションを見学し、田中氏のプロフェッショナルな作業工程、そして音楽を愛していることを間近で感じることができました。このような貴重な体験を与えていただきまして、ありがとうございました。

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▲バーニー・グランドマン・オリジナルのマスタリング用コンソール。田中氏のルームのものはEQを0.25dB刻みで調整できるようカスタマイズが施されている

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▲田中氏がカスタム・メイドしたハーモニック・ディストーション・コントローラー。DAW環境で制作された音源に対して特に効果が高いという

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▲上に乗せられた6つのコンデンサーが異様な存在感を放つUREI 1178改造モデル。リリース・タイムは9段階で切り替えが可能だ

 

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