DJ WATARAIが使う「Pro Tools」第1回

クリエイターが使うPro Tools by DJ WATARAI 2018年10月25日

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サンプルを軸にトラックを構築 オーソドックスなヒップホップ制作法

 今月からAVID Pro Toolsの連載を担当するDJ WATARAIです。僕は昔からPro Toolsをトラック制作に使ってきましたが、ある時期まではハードウェアと併用するスタイルでした。今はサンプルとソフト音源を使い、ほとんどPro Tools内部で完結するシステムとなっています。今回はその辺りの話から、サンプルをヒントに制作をしていく流れを紹介していきたいと思います。

 

ビートの骨格をブレイクビーツと
ソフト・サンプラーで作る

 以前はAKAI PROFESSIONAL MPCでビートを作り、Pro Toolsに流し込むスタイルで制作をしていました。いわば、小節管理のできるレコーダーとしてPro Toolsを使っていたというわけです。ところが2011年の東日本大震災で、自分の作業部屋も被害に遭い、MPCのディスプレイも割れてしまいました。これは環境を再構築する機会なんじゃないかと思い、ソフト音源を買い集め、Pro Tools内部で完結するスタイルを模索するようになったのです。

 とはいえ、制作のスタートは鍵となるサンプルを探すところから。これは以前から変わりません。これだと思うサンプルを見つけたら、まずオーディオ・トラックで長さを調節します。イメージしたテンポに合わせるために、TCEトリマーで長さを調整し、クリップの長さが小節単位になるようタイム・ストレッチします。

▲テンポを決めた後、読み込んだサンプルをTCEトリマーを使って小節線までドラッグ(上段)。すると下段のように小節にピッタリ収まるので、これを選択して“複製”コマンドで後ろへループさせていく

▲テンポを決めた後、読み込んだサンプルをTCEトリマーを使って小節線までドラッグ(上段)。すると下段のように小節にピッタリ収まるので、これを選択して“複製”コマンドで後ろへループさせていく


 

 必要に応じて、サンプルをチョップして組み替えたりすることもありますが、今回の例ではサンプルをそのまま使用。長さをそろえたら、複製コマンド(Macの場合は⌘+D)で適当な長さまで繰り返します。

 次に、ブレイクビーツからビートを組んでいきます。僕の場合、ブレイクビーツはAPPLE iTunesのライブラリーにまとめてあって、そこから合いそうなものを選んでPro Toolsへドラッグ&ドロップ。クリップを適当にチョップして、オーディオ・トラック上で並べていきます。Pro Toolsではビートのアタックを検出して分割することもできますが、僕の場合は目視で見当を付けてマニュアルで分割しています。その方が、個人的にはスピーディだと感じているからです。

 チョップしたサンプルの配置は、クリップをドラッグして大体の位置を決めた後、テンキーの+/−でナッジして調整します。試聴した上で位置を決定。今回の例では、キックとスネアでトラックを分けてみました。

▲上が軸となるサンプルで、下に別のブレイクビーツからチョップしたキック(中段)とスネア(下段)を並べる。基本的にはグリッドや、上段のサンプルにあるキック&スネアの位置と合わせて並べるが、サンプルの切り方などでもグルーブが変わってくる

▲上が軸となるサンプルで、下に別のブレイクビーツからチョップしたキック(中段)とスネア(下段)を並べる。基本的にはグリッドや、上段のサンプルにあるキック&スネアの位置と合わせて並べるが、サンプルの切り方などでもグルーブが変わってくる


 

 ここまでがビートの骨格ですが、ちょっとボトムが薄く感じられたので、サブキックを足してみたいと思います。こういう場合にはソフト・サンプラーとしてNATIVE INSTRUMENTS Maschineを使うことが多いです。Maschineのコントローラーは普段、机の上には置いておらず、ソフトウェアだけでソフト・サンプラーとして使用することがほとんどです。

 Maschineソフトウェアをインストゥルメント・トラックに立ち上げて、ROLAND TR-808系キックのサンプルを読み込みます。MIDIノートの音高でキックのピッチを調整。タイミングは、先にサンプルを並べたキックと同じ位置にMIDIノートを動かして調整していきます。また、Maschine側ではエンベロープをADSRにして、MIDIノートの長さ(デュレーション)でキックの長さをコントロールできるようにもしています。

▲キック(中段)を補強するために、サブキックをMIDIでトリガーする(下段)。トラック上で直接MIDIノートの移動や編集が行えるのはPro Toolsの特徴のひとつ

▲キック(中段)を補強するために、サブキックをMIDIでトリガーする(下段)。トラック上で直接MIDIノートの移動や編集が行えるのはPro Toolsの特徴のひとつ


 

 ちなみに、このビートが組み上がるくらいの段階で、マスターにリミッター/マキシマイザー系のプラグインをインサートして、最終的な仕上がりを確認しながら作業を進めていくパターンが多いです。初段に入れるのはWAVES L2 Ultramaximizer。これで得られる質感変化が好きで必ず入れています。その後段には質感変化の少ないA.O.M. Invisible Limiter G2をインサートして音圧を上げます。また最近はBRAINWORX Vertigo VSC-2を最終段に入れ、全体のコンプ感を少し出すという使い方も気に入っています。

 
 

意外なシンセ・ベース向け音色
エフェクト処理も制作中に

 続いてはベース→上モノという流れです。ベースはSPECTRASONICSのベース専用音源、Trilianのシンセ・ベース音色を使うことが多いのですが、ここで少し変わった使い方を紹介します。

 まず、Trilianで選ぶのは“Chapman Stick”というプリセット。両手でタッピングして演奏する楽器です。これにコンプのWAVES CLA-2をかけてサステインを伸ばし、さらにWAVES Renaissance Bassで低域を増強します。これは偶然見つけた組み合わせなのですが、太く芯のあるシンセ・ベース系の音色として使えます。

 ベースの入力は、鍵盤を使ってメインとなるサンプルのキーとルートを探し当て、最初の音だけリアルタイム録音。それを元にマウスでMIDIノートを動かしたりコピーしながらフレーズを組み立てていきます。このChapman Stickを使った音色は部分的にMIDIノートを重ねて、ポルタメントをかけてみるのも効果的です。

▲シンセ・ベースを打ち込む。ここではノートが重なっているレガート部分(赤丸)でポルタメントがかかる

▲シンセ・ベースを打ち込む。ここではノートが重なっているレガート部分(赤丸)でポルタメントがかかる


 
▲両手でタッピングする弦楽器、Chapman Stickのプリセットを読み込んだSPECTRASONIC Trilian。後段にWAVES CLA-2とRenaissance Bassをインサートすると、一挙にシンセ・ベースっぽい音色に

▲両手でタッピングする弦楽器、Chapman Stickのプリセットを読み込んだSPECTRASONIC Trilian。後段にWAVES CLA-2とRenaissance Bassをインサートすると、一挙にシンセ・ベースっぽい音色に


 

 あとは必要に応じてトラックを足していくことになります。シンセ類では長らくREFX Nexus2を使うことが多かったのですが、最近はSPECTRASONICS Omnisphere 2や、SEQUENTIAL Pro-Oneを模したU-HE Repro-1を使う機会も増えてきました。また、Analog Brass & WindsやExhaleなどOUTPUTのソフト音源の使用頻度も高いです。

 エフェクトに関しては、トラックを作りながらどんどんかけていきます。キックやスネアに関して言えば、BRAINWORX Black Box Analog Design HG-2でひずませたり、FABFILTER Pro-Q 2で補正をかけたり、CYTMIC The Grueでコンプをかけたりと、思いつくままに処理をしています。

▲キックの音色作りに使う頻度の高いプラグイン。左上のBRAINWORX Black Box Analog Design HG-2はサチュレーションに、左下のFABFILTER Pro-Q2は低域のブーストや高域のカットに使用する。右のCYTMIC The Grueはコンソールのバス・コンプレッサーをモデリングしたプラグイン

▲キックの音色作りに使う頻度の高いプラグイン。左上のBRAINWORX Black Box Analog Design HG-2はサチュレーションに、左下のFABFILTER Pro-Q2は低域のブーストや高域のカットに使用する。右のCYTMIC The Grueはコンソールのバス・コンプレッサーをモデリングしたプラグイン


 

 こうして組み上げたトラックは、Pro Toolsセッションのままエンジニアに渡します。これはPro Toolsの利点と言えるところですね。例えばD.O.I.さんにミックスをお願いする場合は、僕が使っているプラグインは大抵D.O.I.さんも持っているので、エフェクトの互換性をあまり考えずにほぼそのまま渡せるのは便利です。

 実際の制作では、サンプルをフィーチャーしたトラックを作る機会は減っていますが、基本的な作り方はこの流れを踏襲しています。次回以降は、実際に手掛けたトラックから、もう少し詳細に作業の流れを紹介していきたいと思います。

 
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*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja

 

DJ WATARAI

プロデューサーとしてはMUROやNitro Microphone Underground、MISIA、AI、加藤ミリヤ、SKY-HI、KEN THE 390、OZROSAURUSなど多くのアーティストにトラックを提供。DJとしては渋谷HARLEM毎週土曜の“MONSTER”でレジデントを務めるほか、AbemaTVのノンストップDJ番組『AbemaMix』で水曜レギュラーも担当。1990年代から現在まで一線で活躍するヒップホップDJ/プロデューサーの一人。

2018年11月号
サウンド&レコーディング・マガジン2018年11月号より転載

TUNECORE JAPAN