関正道(DIGITAL SONIC DESIGN)が使う「Pro Tools」第4回

クリエイターが使うPro Tools by 関 正道 2018年1月25日

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ProToolsでの演奏シミュレートと
付属インストゥルメントの隠し技

 AVID Pro Toolsについては書きたいことがまだまだ書き切れないほどありますが、最終回を迎えました。最後は具体的にPro Toolsとオーケストラ劇伴制作過程をマニピュレーターの立場から紹介します。

 

オーケストラの再現は生楽器を知り
その上で物理限界を越えるべし

 第2回でも書きましたが、弊社の作曲家、関美奈子はPro Toolsで作曲し、私が各楽器の音源差し替えや奏法の表現付けなどを行っています。生演奏を重ねるときは外部スタジオと自分のシステムとの互換性を持ったデータ作りなどのサポートもしています。私が受け取る時点で和声のアンサンブルは出来上がっているので、私は演奏のニュアンスを付けていき、演奏イメージや音間違えは無いか、確認してもらいながら作業を進めていきます。

 アコースティック楽器をMIDIでシミュレートする場合、やはり生演奏を間近で見たり音を聴いた経験が生きてきます。楽器の構造や特性、大きな音を出すときの演奏動作や小さく繊細な奏法などを演奏家に聞くと、とても勉強になります。私も昔、ストリングスのサステインで徐々に音を大きくしていく奏法をダウン・ボウ(引き弓)で演奏すると思っていたのですが、ダウン・ボウでは弓を持っている手が楽器から遠ざかるため逆に力が弦に伝わりづらくなり、弱くなっていくのだと知ってハッとしました。そして、アップ/ダウンの両方をサンプリングした音源を使って奏法サンプルを整え直したら、すごくしっかりと鳴ったのです。

▲通常はKICKやSNAREなど、そのチャンネルに該当する楽器しか読み込めないが、隠しコマンドの入力で、どのチャンネルにも任意の楽器をアサイン可能に

▲通常はKICKやSNAREなど、そのチャンネルに該当する楽器しか読み込めないが、隠しコマンドの入力で、どのチャンネルにも任意の楽器をアサイン可能に

 

 弦楽器や打楽器など力を加えて音を出す楽器と、人の息によって鳴らす管楽器など、それぞれに物理的な制限がある故、あの音色になるのです。それを研究することで、サンプリング音源のパラメーターの意味が分かってきます。

 また、MIDIでサンプリング音源を鳴らすメリットの一つに、物理の壁を越えられることがあります。楽器演奏には物理的な基本があり、それによって音色が作られるわけですが、複数人のゆらぎをサンプル音源は持っていないので、このゆらぎだけは物理の壁をMIDIで越えます。

 例えば、ストリングスで速い駆け上がりのパッセージを想像してください。MIDIで速いパッセージを再現する際、スタッカートやスピッカート(弓を弦の上で跳ねさせて短い音を出す奏法)の音色を使って鳴らすと音の粒はそろうのですが、逆にそろい過ぎて人数感が減ってしまうように聴こえることがあります。なので、まずはこの短いサンプリング音色を速いパッセージの輪郭とします。次にやや立ち上がりが弱くリリースが長いサステイン音色を用いて、そのスタッカートの裏で同時に鳴らします。そうすると音の輪郭を保ちつつ、複数人数の若干のズレをシミュレートできます。サンプリング音の人数的には倍になりますが、速いパッセージ後の音へも自然につながります。最近ではこの人数感の揺れを再現するRunという奏法サンプルを含んでいる音源もあります。

▲上(赤)のようなフレーズをスタッカート(中段/緑)とサステイン(下段/紫)に分ける場合、かけ上がりのフレーズ部分はスタッカートだけでなくサステインの音色もレイヤーする。スタッカートで輪郭を作りつつ、サステイン音色を重ねたり微妙にノートのタイミングをずらすことで人数感を補う

▲上(赤)のようなフレーズをスタッカート(中段/緑)とサステイン(下段/紫)に分ける場合、かけ上がりのフレーズ部分はスタッカートだけでなくサステインの音色もレイヤーする。スタッカートで輪郭を作りつつ、サステイン音色を重ねたり微妙にノートのタイミングをずらすことで人数感を補う

 

 このようにストリングスのサステイン音色とスタッカートなどの短い奏法音色は同時に鳴らすことも多く、アタックが強いサステインにしたいときなど、MIDIトラックを複製してそれぞれ音色アサインを別のものに変えるなどして試すことが簡単にできます。最近の音源はその辺りも考慮した音色を用意しているものもありますが、別奏法を部分的に同時に扱うことで、表現力が増します。

 これまで、1,000曲近くオーケストラ楽曲をPro Toolsと一緒に作ってきましたが、本当にゴールは無いというくらい奥深いものです。いろいろ追求していくと、オーケストラ楽器がそれぞれどういう役割を果たし、どうしてあの配置で演奏されるのかなど、歴史のすごさに驚かされます。

 

Pro Tools付属のインストルゥメント
VacuumとBoomの隠しコマンド

 劇伴の音作りとしては、オーケストラ楽器だけでなく、シンセなども混ぜてより映像やストーリーに奥行きをもたせるテクニックも必要です。特に低音域などは恐怖や不安といった要素を強調しやすいですが、コントラバスの低音だけだと物足りない場合、シンセでサブベースな音色を混ぜたりします。私はよくPro Toolsに標準で用意されているVacuumを低音の補強に使っています。モノラルのアナログ・シンセをモデリングしたインストゥルメントで、サブベースとしてだけでなく、ミョンミョンしたアシッドなシーケンスなども作れます。

▲Pro Toolsに標準付属するAIR製のモノフォニック・シンセ、Vacuum。その名の通り真空管回路をモデリングした2オシレーター仕様

▲Pro Toolsに標準付属するAIR製のモノフォニック・シンセ、Vacuum。その名の通り真空管回路をモデリングした2オシレーター仕様

 

 そしてこのVacuumには、隠しコマンドが存在します! 左上VTO ONEの中央下に壊れたツマミがあります。なんともビンテージな見た目を作ってるだけかと思いきや、この壊れたツマミをダブル・クリックすると、ボリューム、ピッチ、ARP以外のパラメーターがランダムで変化し、プリセットに無い音を作り出してくれます。時に楽器的であったり、ノイズ的であったりと予想もしない音色に出会うでしょう。

▲VTO ONEの中央下にあるダミー・ノブ(赤枠)をダブル・クリックするとほとんどのパラメーターがランダマイズされる

▲VTO ONEの中央下にあるダミー・ノブ(赤枠)をダブル・クリックするとほとんどのパラメーターがランダマイズされる

 

 隠し技をもう一つ。同じく標準のプラグインBoomです。私は劇伴で、よくBoomのキックで鼓動のようなリズムを打って、緊張感ある場面の演出に使っています。

▲Pro Toolsに標準付属するAIR製のリズム・マシン音源、Boom

▲Pro Toolsに標準付属するAIR製のリズム・マシン音源、Boom

 

 このBoomには2つの隠し技があります。まず1つ目は、プルダウンでキットを選ぶ上にある+ネジ。ここをクリックしながらマウスを上下に動かしてみましょう。なんと、音色のアタック・アジャストを変化できます。音色は良いけれど、アタックがもうちょっと欲しいと思ったときなど、この隠しパラメーターをいじってみましょう!

▲Boomの各チャンネルにある+ネジ(赤枠)のマウス・ドラッグでアタック感の調整が可能

▲Boomの各チャンネルにある+ネジ(赤枠)のマウス・ドラッグでアタック感の調整が可能

 

 2つ目の隠し技は、10個あるスロットのどこにでも任意の音色をアサインできるというもの。まず、左上の【【【 BOOM 】】】と書かれた一番右の】をクリックしてみましょう。パターン・シーケンス表示に“BOOM”という文字が現れたら成功です。後は、キット選択部をプルダウンしてみましょう。すると、そのスロットのパート(KICK、SNARE、RIMなど)以外の音色もすべてメニューに登場するようになります。例えば、キックの音色を2種類レイヤーしたいときなどに便利です。

▲【【【BOOM】】】の右端の】(赤枠)をダブル・クリックすると、その下のディスプレイに“BOOM”と表示される

▲【【【BOOM】】】の右端の】(赤枠)をダブル・クリックすると、その下のディスプレイに“BOOM”と表示される

▲通常はKICKやSNAREなど、そのチャンネルに該当する楽器しか読み込めないが、隠しコマンドの入力で、どのチャンネルにも任意の楽器をアサイン可能に

▲通常はKICKやSNAREなど、そのチャンネルに該当する楽器しか読み込めないが、隠しコマンドの入力で、どのチャンネルにも任意の楽器をアサイン可能に

 

 私の連載担当はこれで最後となります。Pro Toolsが無かったらこの職業にも就いていなかったであろう私は、今後もPro Toolsを使い新しいサウンドに挑戦していきたいと思います。またいつかどこかで皆様に会える日を。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja

サウンド&レコーディング・マガジン 2018年2月号より転載

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