蓮沼執太が“フルフィル”のメンバーをオーディションする理由

レポート by 國崎晋(サウンド&レコーディング・マガジン編集部) 2017年10月14日

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音楽とアートの境界を軽々と飛び越えた活動を続けるアーティスト蓮沼執太が、2010年から自身のメイン・プロジェクトの1つとしているのが“蓮沼執太フィル”。石塚周太(b、g)、 イトケン(ds、syn)、大谷能生(sax)、葛西敏彦(PA)、木下美紗都(cho)、 K-Ta(marimba)、小林うてな(Steelpan)、ゴンドウトモヒコ(euphonium)、斉藤亮輔(g)、Jimanica(ds)環ROY(rap)、千葉広樹(vln、b)、手島絵里子(viola)、宮地夏海(fl)、三浦千明(flugelhorn、 Glockenspiel)という総勢16名の多彩なメンバーをそろえ、唯一無二のアンサンブル・サウンドを生み出している。このたび蓮沼はそれをさらに増員した“蓮沼執太フルフィル”のクリエーションを計画。そのためにメンバーのオーディションを行うこととなった。ひとまずのゴールは2018年8月に東京都内での初演ということだが、募集告知ページを見ても、果たしてどんな人材が求められているのか、今ひとつ分からない。そこでニューヨークに居る蓮沼にSkypeインタビューを試み、詳細について語ってもらうことにした。

 いろんな人たちが集って音楽をする場所を作りたい

──今回、蓮沼執太フルフィルを立ち上げることにしたのはなぜですか?

僕は何か目的があってプロジェクトを立ち上げるということが、そもそも少ないんです。いつも自分から何かをやりたいというよりは、知らず知らずそうなっていくことが結果的に多いんですね。実は蓮沼執太フィルもそうで、HEADZの佐々木敦さんが“アンサンブルでのライヴが見たい”と提案してくれたのがきっかけです。一番最近ではタブラ奏者のユザーンとのコラボレーション・アルバム『ツートーン』。こちらも事前に設計図を描いたのでは無く、ライブなどの共演から自然にアルバム制作になりました。しかし、フルフィルについては意識的に組んでみたいと考えました。そもそも蓮沼執太フィルというのは、アンサンブルでもあるし、ロック・バンドのような側面もあります。いろんな音楽の畑の人が集まっていて、“僕の音楽がなければ、この人たちは出会わなかっただろうな……”っていう場所になっていた。震災以降、いろんな音楽ジャンルの人間が集まって何かひとつの音楽を奏でることが、僕の蓮沼フィルでの根本的なテーマになっていたんですね。小さな社会を自分の音楽で、しかもライブの現場で生で反映させていくことでした。そこから5~6年が経って、単に人数を増やすというよりも、より深いレベルでこの環境を作り上げたい……更にいろんな人たちが集って音楽をする環境を作りたい、と思うようになりました。

──プロの音楽家たちの場を作ろう、というのが目的のオーディションなのですね。

このオーディションを経て、新たに参加するメンバーの担当楽器のための音楽を僕が作曲していくというのが一番のテーマです。例えば、既存曲をどこかの楽団とコラボレーションして実演するのではなく、自分がこれまで培ってきた方法論で演奏家を集結して、新しい音楽を作り上げたいという自然な欲求です。

──そういう意味では素人ではなく優れた音楽家を集めたい?

いいえ、僕は芸術全般に“素人”や“プロ”という考え方を持っていません。音楽の上手下手は一方的な視点であって、実際は多様性があります。僕自身だって楽器演奏の専門家というよりも、環境音の収集から音楽活動が始まったので、どちらかというとアウトサイダーに入ると思います。なので、いわゆるプロの方に限った募集という意味とはまったく違いますね。

──しかし、募集の幅が広いというか、つかみきれません。どんな楽器をやっている人が求められているのでしょうか? 例えば今の蓮沼執太フィルのメンバーとパートが被る人は応募していいのでしょうか?

蓮沼フィルのメンバーと楽器が同じでもOKです。バイオリンやビオラは人数が増えると層が厚くなるからうれしいかもしれません(笑)。そもそも募集するにあたって、人間をこちら側の都合で条件を設定して制限したくなかったんですね。演奏家の前に一人の人間……男性、女性関係無く、国籍も関係無く、本当にだれでも応募してほしい気持ちがあります。しかし、楽器が演奏できない人と共に音を出すこと自体が目的ではなく、音楽は人に聴いてもらうために行う芸術であって、やはり音楽ではなくてはいけない、と考えてます。人間のコミュニケーションのためだけに、僕は音楽は作れません。

──まずは人間性重視なのですね。

そうです。楽器と人間ですよね。演奏って性格を現すと思うんです。同じ楽器でも、どう触れるかによって音が変わる。電子楽器でも同様です。スコアにいくら“強く弾くように”と指示が書いてあったとしても、どういうふうに強く弾くかは人それぞれ。既に何件か応募いただいている動画を見ても、やっぱり人となりが出ているんですね。音楽を通して、そういうものが垣間見えるのは喜びですし、僕自身もエネルギーもらえるし、それが必ず音楽と結びついていく。

──オーディションへの応募はYouTubeなど動画投稿サイトへのアップとされていますが、それは一次審査なのですか?

アップされた動画で判断します。蓮沼フィルのメンバーにも意見をもらいます。来年1月に蓮沼執太フィルのライブが草月ホールであるので、オーディションを経て参加が決まった新メンバーとは、そのときに初めてお会いするつもりです。

──オーディションをパスしたら、来年8月に東京都内で行われる蓮沼執太フルフィルのライブに参加することになるわけですが、譜面を渡して、さあ弾いてください、という形なるのでしょうか?

まずですね、蓮沼執太フィルも全員が五線譜を使って演奏しているわけではありません。僕も細かい部分まで記譜をしていない場合もあれば、即興的な要素を残したりすることもあります。つまり、蓮沼執太フィルでは曲を伝える方法が幾つも存在します……演奏者によってコード譜だけ渡すとか、音源を渡すなどさまざまです。僕はそれがとても現代的だと認識していて、五線譜だけがプレイヤーへの音楽の伝達方法のすべてだとは思っていないです。図形楽譜だったり、テキストのみのノーテーションでも、面白い音楽や音楽的な実践がたくさんあって、僕も大きく影響を受けています。とはいいつつ、実際にはその人が楽譜を読めるか読めないかには当然左右されるとは思います。人数が多いので合理的に進めるには楽譜が読めた方がスピードは早いですけど、その人の演奏スタイルや音楽的な考え方などをヒヤリングして、どのようにして自分の音楽を演奏できるように伝えていけるか、一緒に作っていく感じになると思います。

──実際にはどんな曲を演奏することになるのでしょう?

フルフィルでは1つの大きな楽曲を作りたいとイメージしています。蓮沼執太フィルの曲をフルフィルの編成でパフォーマンスすることは考えていません。フルフィルの編成のために新たに曲を書きます。

──フルフィルの編成は、総勢何名くらいを想定しているのですか?

そうですね……全く想定できませんが、蓮沼執太フィルのメンバーに30人足すくらいでしょうか。蓮沼執太フィルが16名ですから、40人近くですかね。でもどうなるかまだまだ分かりません。ステージにみんなが乗りますように!

──では、どんな音楽になるかも現時点ではまったく分からないわけですね?

はい。現段階だけでも面白いアプローチのパーカッショニストとか、自作デバイスを使った電子音の作家から応募が来たりしています。もちろん、ギターやストリングスの方などもいらっしゃいます。やっぱり、僕はどのようにして人が集って、音楽が出来上がっていくのか、そのプロセスを楽しんでいます。それを経て、自分が彼ら彼女らのためにどのように音楽を作曲をしていくか。そのポイントに集中しています。

──蓮沼さんの音楽は“多幸感”が特徴だと思いますが、フルフィルでもそれは出て来るのでしょうか?

うーん、どうでしょうね。さまざまな特徴を生かしていきたいです。もちろん、音楽的にチャレンジしたい部分も幾つかあります。蓮沼フィルの延長ではなくて、また新しい集合体としての音楽にチャレンジしていきます。

──ちなみに、オーディションをパスしてフルフィルのメンバーになった場合、ギャラは支払われるのでしょうか?

いわゆる“オーケストラ」と呼ばれる音楽集団が現代にどうやって機能していくか、その一つにお金という要素も十分ありますよね。普段僕は音楽公演を自主で行う場合、ほとんど興行収入で運営しています。いわゆる助成金は使っていません。しかし、出演者が50人近くになった場合、演奏料の支払いは単純に採算が合わなくなります。オーディションが終わった段階でフルフィルに参加してくださるメンバーと相談していきたいと思います。もちろん多くの方々に演奏を聴いて、観ていただいて、始めて音楽が成立するので、この形を発展しつつも、自分にとっても新しい企画公演の作り方を進めています。

オーディション告知ページはこちら

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