【連載 第3回】エンジニア・林憲一氏がVECLOSの新作アクティブ・ニアフィールド・モニター「MSA-380S」を試す!

VECLOSスピーカー企画 by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 撮影:Hiroki Obara(インタビュー) 2017年11月8日

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第3回 エンジニア・林憲一氏が語る「MSA-380S」の実力

魔法びんのパイオニアでもあるサーモスが手掛けるオーディオ・ブランド=VECLOS(ヴェクロス)。去る11月1日に発表され、12月1日(金)に発売が予定されているMSA-380Sは、同ブランド初の音楽クリエイター向けアクティブ・ニアフィールド・モニターだ。製品の詳細は、前回掲載したスタッフの方々へのインタビューに詳しいが、魔法びんの“真空二重構造”を応用したエンクロージャーや52mm径アルミニウム・ダイアフラム、フル・バランスのディスクリート・アンプといった独自コンポーネントを採用し、明りょう度の高いサウンドを実現しているという。また、エンクロージャーの角度を0〜45°の範囲で変えられるチルト・スタンドや、約74(W)×98(H)×171(D)mm(0°状態)というコンパクト・サイズにより、設置性や可搬性が高いのも特徴。連載最終回となる今週は、サンレコ本誌でもおなじみのレコーディング・エンジニア、林憲一氏(トップ写真)にMSA-380Sをチェックしていただき、インプレッションを語ってもらった。

 

【Product Overview】VECLOS MSA-380S

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VECLOSの第2弾製品となるアクティブ・ニアフィールド・モニター。前モデルSSA-40との根本的な違いは“音楽制作向け”というコンセプトで、それが設計の随所に現れている。スピーカー構成は1ウェイ(フルレンジ)となっており、パイオニア製のユニットを採用。口径は52mmで、ピュア・アルミニウムのダイアフラムが使われている。そのユニットを高効率で駆動させるべく専用設計された内蔵アンプは、コンパクトでありながらフル・バランス構成の増幅回路を採用。厳選されたオーディオ用パーツから成り、低ひずみ/低ノイズ/広帯域を特徴としている。そのほか、トロイダル・コイル搭載の電源回路やバスレフなど、SSA-40には無かったコンポーネントを搭載。価格はオープン・プライス:市場予想価格149,800円前後/税抜(ペア)

<SPECIFICATIONS>
▪スピーカー構成:1ウェイ・フルレンジ ▪ドライバー:52mm径コーン型/アルミニウム ▪周波数特性:100Hz〜20kHz(−10dB) ▪最大音圧レベル:90dB ▪アンプ出力:13W(バランス) ▪SN比:97dB ▪入力インピーダンス:20kΩ ▪入力感度:0.55Vrms(−3dBu)/バランス ▪最大入力レベル:22dBu ▪消費電力:22W ▪外形寸法:約74(W)×98(H)×171(D)mm(チルト・スタンド0°状態) ▪重量:約850g(1台)

 

スピード感のある中高域とナチュラルな高域

林氏がMSA-380Sをチェックしたのは自宅の制作スペース。普段リファレンスにしている音源(ロック、ヘビーメタル、ポップス、ジャズ、ヒップホップなど)や最近手掛けた楽曲のセッションをオーディオ・インターフェースからMSA-380Sに入力し、幾つかのスピーカーと聴き比べたと言う。

音質に対する第一印象を尋ねてみると「とにかくスピードや立ち上がりが速いです」との答え。チェックの際は左右のエンクロージャーを70cmほど隔てて設置し、約1m離れたポイントから聴いたそうだ。
「普通、スピーカーを鳴らすと音は広がりながら飛んで来ますよね。しかしMSA-380Sでは、筒のような形をしてストレートに飛んでくる印象で、左右の音があまり混ざらない感じなんです。音像はエンクロージャーの手前の方にできて、一つ一つの音の定位がよく見えます。ヘッドフォンやイアフォンのようとは言わないまでも、指向性が非常に鋭い印象ですね。実際に、音が最も良いと思ったのは、スピーカー・ユニットが真っすぐ耳へ向くようにチルト・スタンドの角度を決めたときでした。もちろん、離れて聴くと拡散して混ざった音になるのですが、1mくらいのポイントで聴く分にはかなりダイレクト音に近い。そしてユニットが1ウェイのフルレンジなので、位相の乱れが非常に少ないですね。奥行きや広がりもきちんと見えます

 

▲MSA-380Sについて語る林憲一氏。林氏はもともとビクタースタジオに在籍し、サザンオールスターズの作品に数多く携わった。最近はフリーランスのエンジニアとして、miwaやTHE BACK HORN、WEAVER、石崎ひゅーい、May’n、DISH//などのレコーディング&ミックスを手掛けている

▲MSA-380Sについて語る林憲一氏。林氏はもともとビクタースタジオに在籍し、サザンオールスターズの作品に数多く携わった。最近はフリーランスのエンジニアとして、miwaやTHE BACK HORN、WEAVER、石崎ひゅーい、May’n、DISH//などのレコーディング&ミックスを手掛けている

MSA-380Sの音のスピード感は、どのような周波数成分に由来しているのだろう?
「中高域だと思います。3kHz辺りがすごくしっかりとしていて、まずはそこが立って聴こえてくるんです。具体的には、ボーカルやスネアの輪郭の部分が素早く飛んでくる印象。とは言え、その辺りをはっきりと聴かせるために色付けしている感じはありません。恐らくスピーカー・ユニットの口径やエンクロージャーの構造がこういう音色を生み出しているのではないかと思うんです。例えばエンクロージャーに関しては、内部に真空層を設けて箱鳴りなどを抑えているため、余分な音が伝わりにくく、最もエネルギーのある帯域がストレートに聴こえてくるのかもしれません。高域についても色付けを感じず、自然な印象。スピーカーによっては、派手に聴かせようとして7kHz周辺や10kHz辺りを持ち上げていますが、ソースによっては高域が耳障りに聴こえがちです。シンバルなどの伸びがジャリジャリと聴こえたり、ボーカルの子音が刺さるように感じられるんですね。しかしMSA-380Sでは、そういうことがありません。全く無理を感じませんし、奇麗な高域です

 

▲MSA-380Sのスピーカー・ユニット。パイオニア製で、口径は52mm、素材はピュア・アルミニウムとなっている。「ネット状のキャップが付属し、ユニットを保護できるようになっています。これを外すと、出音の明りょう感がより高まりますね」と林氏

▲MSA-380Sのスピーカー・ユニット。パイオニア製で、口径は52mm、素材はピュア・アルミニウムとなっている。「ネット状のキャップが付属し、ユニットを保護できるようになっています。これを外すと、出音の明りょう感がより高まりますね」と林氏

 

誇張された感の無い低域

本機の周波数特性は100Hz〜20kHz(−10dB)。測定するポイントを下げれば50Hz辺りまで再生されているが、聴感上はどのように聴こえるのだろう?
「150Hzや100Hz辺りから下は、かなり控えめだと感じます。控えめなんですけど、DAWのセッション上で50Hz辺りにブーストEQをかけると、ほんのり量感が増すんです。これは、ユニットが50Hz周辺の動きにも反応しているということですね。スピーカーとしてのサイズを考えると、内蔵アンプのイコライジングなどで低域の量感を多少チューニングしているのでしょうが、無理に膨らませている印象は受けません。ブーストしようと思えばもっとできたものの、音全体の明りょう度や定位感の良さとの兼ね合いを考えて、このバランスに落ち着いたのかなと思います

 

▲MSA-380Sのリア。下のベース部(台座の部分)にはTRSフォーンのオーディオ・インや内蔵アンプの出力端子、電源端子がレイアウトされ、上のスピーカー部にはアンプの入力端子やバスレフ・ポートを配置。アンプの入出力は、付属するバナナ・プラグのケーブルで接続する仕様だ

▲MSA-380Sのリア。下のベース部(台座の部分)にはTRSフォーンのオーディオ・インや内蔵アンプの出力端子、電源端子がレイアウトされ、上のスピーカー部にはアンプの入力端子やバスレフ・ポートを配置。アンプの入出力は、付属するバナナ・プラグのケーブルで接続する仕様だ

この低域のバランスはMSA-380Sの“使い方”にもつながってくると、林氏は考察する。
「ミックスした曲をMSA-380Sで鳴らしてみて、あまりにも量感が無いとすれば100Hzや150Hzなどが不足しているということなので、足すか戻すかしないと再生環境によってバラつきが出てくるでしょう。昨今は再生帯域が広くて解像度の高いモニター・スピーカーが数多く発売されていますが、広く見えるが故に超低域や高域に依存した音作りも散見されます。例えば超低域までよく見えるからと言って、そこをガンガン伸ばした音にすると、環境によっては音楽的なバランスが変わって聴こえてしまう。民生機のスピーカーには超低域が見えにくいものも多いので、そうしたプレーヤーでも音楽的な印象が変わらないようにするのは重要です。そのためのジャッジにも、MSA-380Sは有用だと思いますね。低域重視の楽曲であっても、周波数分布の作り方や、何の楽器にどこの帯域を任せるかといったことが上手にできているものなら、バランスが崩れずに聴こえましたから。その意味で、ある程度の口径のモニター・スピーカーと組み合わせて使ったり、手持ちのスピーカー・ラインナップにうまく組み込むことで、より一層の力を発揮すると思います

 

中低域が充実していてソースの個性をとらえやすい

林氏は、MSA-380Sの中低域についても「好印象」と評価している。
300〜500Hzといった中低域がきちんと聴こえて良いですね。このくらいのサイズのスピーカーは民生機にもよくあるんですが、中低域をごっそりカットしたものが目立つんですよ。各楽器に含まれる帯域なのでダンゴになりやすく、カットするとクリアに聴こえるというメリットがあるんですが、曲のキャラクターにおいて個性的な部分を切ってしまうことにもなるので、何を再生しても同じような音に聴こえてしまう。しかしMSA-380Sではその辺りがカットされていないので、ソース本来のキャラクターをとらえやすいんですね。低域は控えめで自然な感じ、中低域もナチュラル、中域はスピード感があって高域は故意に伸ばしていない……全体の作りとしては、無理に何かをしようとしていない感じです。一般的な音楽リスナーにとっては淡白に聴こえるかもしれませんが、音楽制作をする人にとってはモニターとして使えるでしょう。何しろソースの音が正直に出ていますからね。いろいろなソースを聴いてみると、それぞれの本来のキャラクターがよく分かりますよ」

MSA-380Sは、独自のエンクロージャーやスピーカー・ユニット、フル・バランスのディスクリート・アンプのほか、トロイダル・コイルを備えた電源回路、アンプ回路の電源ノイズがオペアンプ・ブロックに混入するのを防ぐアイソレーション・コイル、電磁波からアンプを保護するマグネシウム合金のベース部(台座の部分)など、高品位なコンポーネントの数々を採用している。「すごいですよね。約15万円という価格にもうなづけます」と林氏。
こうした細部の積み重ねが、音の位相感の良さなどにつながっているのかもしれません。SN比も良いし、実にクリーンな音をしています。ものとしての作りもしっかりしていて、例えばベース部にしても非常に頑丈なんです。チルト・スタンドの“しっかり止まる感じ”も良いですね。長く使っているうちに、狙いの角度で止まらなくなってしまうようなこともないでしょう」

 

▲アンプ基板には、コンパクトながらフル・バランスの増幅回路を採用。オーディオ用のパーツを厳選して使ったディスクリート構成となっている。アンプ回路の電源ノイズがオペアンプ・ブロックに混ざらないよう配置されたアイソレーション・コイル、トロイダル・コイルを備えた電源回路なども特徴

▲アンプ基板には、コンパクトながらフル・バランスの増幅回路を採用。オーディオ用のパーツを厳選して使ったディスクリート構成となっている。アンプ回路の電源ノイズがオペアンプ・ブロックに混ざらないよう配置されたアイソレーション・コイル、トロイダル・コイルを備えた電源回路なども特徴

 

▲林氏が「作りがしっかりしている」と評価するマグネシウム合金のベース部。アンプを内蔵しており、正面に電源スイッチやボリューム・ノブを備える

▲林氏が「作りがしっかりしている」と評価するマグネシウム合金のベース部。アンプを内蔵しており、正面に電源スイッチやボリューム・ノブを備える

コンパクトなニアフィールド・モニターとして、完成度の高さを誇るMSA-380S。冒頭でも述べた通り、きたる12月1日(金)に発売されるが、その前に11月15日(水)〜17日(金)の間、幕張メッセで行われる“Inter BEE 2017での展示を予定している。いち早く音を聴いてみたいという人は、サーモスのブースを訪ねてみよう。

 

 

【関連記事】
VECLOS連載 第1回「VECLOSのデビュー・モデル=SSA-40に込められた技術」
http://rittor-music.jp/sound/feature/2017/10/70818

VECLOS連載 第2回「音楽クリエイター向けに新開発されたアクティブ・ニアフィールド・モニターMSA-380S」
http://rittor-music.jp/sound/feature/2017/11/70922

 

【関連サイト】
VECLOSオフィシャルWebサイト
https://www.veclos.jp/veclos/

 

 

 

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