【連載】サーモスが手掛けるスピーカー・ブランド「VECLOS」の動向を追う!

VECLOSスピーカー企画 by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 撮影:Hiroki Obara 2017年10月26日

IMG_7408

第1回 VECLOSのデビュー・モデル=SSA-40に込められた技術

魔法びんのパイオニアでもあるサーモス。同社は2015年3月よりスピーカー・ブランドVECLOS(ヴェクロス)を展開しており、これまでにアクティブ・タイプのBluetoothスピーカーSSA-40を発売。約52(W)×94(H)×61(D)mmというコンパクトなサイズもさることながら、そのサウンドが音楽制作者の間で“モニター・スピーカーのよう”と話題を呼んでいる。興味深いのは、同社魔法びんの真空二重構造を生かしている点。“内筒”(ないとう)と“外筒”(がいとう)の2つの筒から成るステンレス製エンクロージャーを採用し、色付けを感じさせない明りょうなサウンドを実現しているのだ。本機の発売から約2年半たった今、そろそろ次の動きも気になるところ。というわけで、この連載ではVECLOSの動向を3週にわたってレポートしていく。初回である今週は、SSA-40の開発プロセスから振り返っていこう。

 

【Product Overview】VECLOS SSA-40

Products

サーモスとしては初となるアクティブ・スピーカー。コンピューターやスマートフォンなどとBluetooth接続、もしくはステレオ・ミニのケーブルで接続できる仕様となっており、ステレオ・タイプのSSA-40S(オープン・プライス:市場予想価格18,000円前後/税抜)とモノラル・タイプのSSA-40M(オープン・プライス:市場予想価格10,000円前後/税抜)をラインナップ。両タイプ共にカラー・バリエーションはホワイト/レッド/ブルー/ブラックの4種類となっている。技術的な特徴としては、魔法びんの真空技術を生かしたエンクロージャーが出色。箱鳴りなどの付帯音を減じることで、クリアなサウンドを実現している。

 

エンクロージャーの剛性の高さが“良い音”のファクター

魔法びんや真空保温調理器で知られるサーモスだが、そもそもなぜスピーカーを手掛けることにしたのだろう? 同社VECLOS課の平松仁昌氏(トップ写真)に尋ねてみると「弊社には“常に新しいことに取り組む”というDNAがあるんです」という答えが返ってきた。
「換言すると、自分たちの技術で新しい価値を作り続けていきたいと思っているんですね。それで、魔法びんの筐体の真空二重構造を応用する研究が始まり、ひょんなことからスピーカーという解にたどり着きました。魔法びんの筐体にスピーカー・ユニットを取り付けて鳴らしてみたら良い音がしたので、“これは何かあるんじゃないか?”と思ったわけですね

それまでも既存製品とは異なる取り組みをしてきたそうだが、“飲食に使う器”というカテゴリーからは抜け出せないでいたという。だからこそ、魔法びんが“音”に結び付いたときのインパクトは大きかった。
それで、なぜそんなに良い音がするのか研究を進めたところ、真空二重構造の遮音効果が理由の一つとして見えてきたんです。弊社の魔法びんの筐体は、内筒(ないとう)と外筒(がいとう)の2つの筒を重ねたもので、両者の間には真空状態のわずかなスペースがあります。空気が無ければ音は伝播しないため、ユニットの背面から出る音(=逆相成分)はその真空層で遮断され、外筒にはほとんど伝わりません。結果、箱鳴りなどの付帯音を抑えることができ、クリアなサウンドが得られるのです」

 

▲VECLOSスピーカーのエンクロージャーの断面。魔法びんと同様に“内筒”と“外筒”の2つが重なった構造で、両者の間にある1mm以下のわずかなスペースが真空の層となっている。ここが遮音効果を生み出しているのだ

▲VECLOSスピーカーのエンクロージャーの断面。魔法びんと同様に“内筒”と“外筒”の2つが重なった構造で、両者の間にある1mm以下のわずかなスペースが真空の層となっている。ここが遮音効果を生み出しているのだ

 

▲真空層の遮音効果を示す概念図。左の絵のように内筒と外筒の間に空気が存在する場合、スピーカー・ユニットの背面から出た音が外筒にまで伝わり箱鳴りなどを起こすが、右の絵のように真空であればほとんど遮断されるので、ユニット正面からの音がクリアに聴こえるようになる。これがSSA-40のサウンドのメカニズムだ

▲真空層の遮音効果を示す概念図。左の絵のように内筒と外筒の間に空気が存在する場合、スピーカー・ユニットの背面から出た音が外筒にまで伝わり箱鳴りなどを起こすが、右の絵のように真空であればほとんど遮断されるので、ユニット正面からの音がクリアに聴こえるようになる。これがSSA-40のサウンドのメカニズムだ

 

SSA-40は、歯切れが良くて透明感のあるサウンドを特徴としている。これを生み出すファクターとしては、エンクロージャーの遮音効果だけでなく“剛性の高さ”も挙げられるのだと平松氏は言う。
「真空層は0気圧で、内筒の内側と外筒の外側はいずれも1気圧です。この気圧差により、内筒と外筒には絶えず1気圧分の力が働いていて、ものすごいテンション(張力)がかかった状態となっています。このテンションがエンクロージャーに剛性をもたらしているわけですが、最近になって、ユニットの挙動にも一役買っていることが分かりました。エンクロージャーが非常に柔らかいと仮定してみましょう。ユニットが動くと、それによって発生する力を支え切れずに変形してしまいます。こうなった場合、ダイアフラムが前に出切らなかったり、後ろへ引っ込み切らなかったりして音の輪郭がモヤけるわけですが、エンクロージャーの剛性が高いとユニットの挙動がホールドされるため、リニアリティ、つまり明りょうな出音が得られるんです

 

▲SSA-40のエンクロージャーは、気圧差によりピンと張った状態になっている。これが剛性の高さを生み出しているのだ

▲SSA-40のエンクロージャーは、気圧差によりピンと張った状態になっている。これが剛性の高さを生み出しているのだ

 

パイオニアと共同開発したユニット

“真空二重構造の筐体×スピーカー”という発想は非常にユニークだが、それを製品化するだけのノウハウはどのようにして手に入れたのだろう?
「弊社には当然、音響専門の技術者などは居ませんでしたが、オーディオについての知識や関心を持つ者なら何人かおりますので、彼らがコア・メンバーとなりました。しかし開発を進めるとなると、そうした社内のリソースだけでは解決できない問題も出てきます」

スピーカー・ユニットはパイオニアと共同開発したもので、“マイカ混抄コーン”を採用した40mm径のフルレンジ。「紙にマイカという鉱物を固着させ、軽さと硬さを両立させたんです」と平松氏は続ける。
「一般的な紙のコーンは軽いから動かしやすいのですが、同時に柔らかくもあるので、受け取る振動の強さによってはうねってしまってリニアに動かないんです。それがひずみなどの原因となり、出音の透明感を損ねるわけですが、硬さを重視するあまり金属を使用すれば今度は重くなる。磁気回路のパワーを考えると軽さも必要だと思ったので、紙にマイカを固着させることでうまくバランスを取ったんです

 

▲パイオニアと共同開発したスピーカー・ユニット。コーンの素材は紙にマイカ(雲母)を固着させたもので、軽量ながら高いレスポンス性能を誇る。コンパクトなユニットは磁気回路のパワーを高めるのに限界があるが、この“マイカ混抄コーン”であれば磁気回路のパワーを効率良く使用することができる

▲パイオニアと共同開発したスピーカー・ユニット。コーンの素材は紙にマイカ(雲母)を固着させたもので、軽量ながら高いレスポンス性能を誇る。コンパクトなユニットは磁気回路のパワーを高めるのに限界があるが、この“マイカ混抄コーン”であれば磁気回路のパワーを効率良く使用することができる

 

バタフライ・ダンパーでユニットの可動域を確保

磁気回路については、コンパクトでありながらも可能な限り大きなパワーが得られるよう、強磁力のレア・アース・マグネットを採用。「だからレスポンスが速いんです」と平松氏は語る。
「その磁気回路とともに、面に切れ込みの入った“バタフライ・ダンパー”と呼ばれるダンパーを使っているので、ボビンのストローク(可動域)を十分に確保できます。つまり、大きなストロークが必要な低音出力時にも有利で、このサイズのスピーカーとしては量感のあるサウンドが得られるんです

 

▲バタフライ・ダンパーは、ボビン(写真中央の白い筒)の周りに備えられている。面に切れ込みが入っているため深く沈み込むような動きが可能で、低音出力時など大きなストロークが必要な場合に有利。SSA-40はコンパクトなスピーカーだが、その中で可能な限り低域の特性を高めるために採用されている

▲バタフライ・ダンパーは、ボビン(写真中央の白い筒)の周りに備えられている。面に切れ込みが入っているため深く沈み込むような動きが可能で、低音出力時など大きなストロークが必要な場合に有利。SSA-40はコンパクトなスピーカーだが、その中で可能な限り低域の特性を高めるために採用されている

SSA-40はLchとRchのエンクロージャーをセパレートしたモデルで、左右一体型が多い昨今のBluetoothスピーカー市場においては珍しい存在とも言える。「定位や音場の表現など、セパレート・タイプならではの体験というものはあるので、コンシューマーの方々から“左右に分かれていると立体的に聴こえていいですね”と言われたのは良い評価だったと思っています」と平松氏。ステレオ・イメージのとらえやすさは、こと音楽制作においては欠かせない要素なので、その点でもSSA-40はモニター・ユースに向きそうだ。自宅スタジオから外出先まで使えるシーンが幅広いので、そのポテンシャルを体験してみるとよいだろう。

さて、次回はVECLOSの新たな動向について聞いてみるとしよう。

 

VECLOS SSA-40
https://www.veclos.jp/veclos/products/ssa40/

VECLOSオフィシャルWebサイト
https://www.veclos.jp/veclos/

 

digimart-bnr

 

TUNECORE JAPAN