「”いま鳴っている音がこういう風に録音されると一番良いかな?”っていうことを、実行するんです」~赤川新一(STRIP)インタビュー

特集 by 書籍編集部/撮影:八島崇 2010年3月30日

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【『リスニングオーディオ攻略』スペシャルCD『Flow』のレコーディング詳細レポート&インタビュー】
オーディオ入門書『ミュージシャンも納得! リスニングオーディオ攻略』に添付されたオーディオチェック用CD『Flow』は、楽曲を金子飛鳥(バイオリン)が書下ろし、金子自身に加え井上鑑(ピアノ)、江口心一(チェロ)による演奏が収められた、なんともぜいたくなシロモノとなっている。しかも録音&ミックスを赤川新一氏が、マスタリングを小泉由香氏が担当したとあって、音質面でのクオリティの高さも特筆に値する。
書籍内でもレコーディングの模様は報じられているが、ここではよりサウンド&レコーディング寄りの内容を赤川氏に聞いていきたい。

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▲赤川新一氏

鳴っている音を
良い感じで録れれば良い

■オーディオ関係の書籍に添付されるCDということで、企画段階ではまずどのようなことを考えられました?

□どんなものが良いかは著者の西野(正和)さんと一緒に考えたんですけど、オーディオチェック用に音楽を入れたいというのは大前提としてありましたね。そこから、何の楽器が良いのかっていう話をしたのかな? 聴いていて気持ち良くて、楽しくて、しかもチェックに向いている楽器は何だろうっていうね。で、何回か話した後で、”ソロが良いんじゃないか?”と思いついた。だれかにソロを1曲書いてもらって、それをモチーフにして各楽器がソロで演奏しているようなもの……。楽器のソロって、そんなに聴く機会も無いですしね。しかも、各楽器が集まってバンド演奏となれば、それもまた良いだろうという話になったんですね。

■レコーディングはハイビット/レートで行われたようですが?
□オーディオチェック用CDということもあって、そこは条件反射のように24ビット/192kHzで録っていましたね。レコーダーはDIGIDESIGN Pro Tools HDで、マイクやマイク・プリアンプ、電源コンディショナー、モニター・スピーカーを鑑さんのスタジオPablo Workshopに持ち込みました。Pablo Workshopの機材で使ったのは、192 I/O(オーディオ・インターフェース)とFOCUSRITE ISA 115HD(マイク・プリアンプ)、RAMSA WR-DA7(モニター用のコンソール)くらいかな。

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▲赤川氏が持ち込んだ機材(その1)。AMEK System9098(マイクプリアンプ)と、ブラベックの真空管マイクプリアンプ(トランスインプット)。ブラベックは最近の赤川氏のお気に入りで、いわゆるカスタムメイドの機材である。また右にある黒いラック機材はSINANOの電源コンディショナーGPC-1500

▲赤川氏が持ち込んだ機材(その2)。レコーダーとして活躍したのは、静音ラックに格納されたAPPLE Power Mac G5。このマシンの上で、Pro Tools Softwareが走っているわけだ。録音時には手前の開放部分も締め切られ、コンピューターの動作音は抑えられる。ブースとスタジオが分かれていない今回のようなレコーディングでは、静音性への配慮は非常に重要だ。また、Power Mac G5の両脇にはREQST Resonance Pitが見える

▲赤川氏が持ち込んだ機材(その3)。モニタリングには、REQST SH-SP7を使用。今回のような現場では、録音中はヘッドフォンでモニターし、プレイバックをミュージシャンと確認する際はスピーカーでモニターするため、両者の違和感がなるべく少ないスピーカーが良いとのこと。また、ミックスではモニター・スピーカーはREQST DW-SIが使われている

■楽器はバイオリン、ピアノ、チェロの3つだけですが、トラック数はどれくらいになりました?
□バイオリンにNEUMANN KM184が2本立っているので、モノトラックが2つ。それから、チェロにはKM184が1本と、SANKEN CU41が1本。で、ピアノにBK 4003が2本オンマイクで立っていて、いろいろ回り込むだろうから、まあオフマイクは要らないだろうと。あとは、鑑さんのスタジオは吹き抜けなので、バルコニーのところにKM184を2本置いてアンビにしています。だから、マイクが計8本で8トラックですね。

■小編成だけど、マイクは結構多かったんですね。
□ある程度は、セレクトできるようにしておいたということですね。

■マイクの位置は固定ではなく、ソロやトリオなどによって、その都度自由なアレンジをされていたのも印象的でしたね。
□リハーサルをしている時にヘッドフォンで聴いて、「あれ、ちょっと違うかな?」って思うと、思ったことに従ってマイクの位置を動かしていました。もちろんそのままで良ければ、ずっとそのままだし……。基本的には、鳴っている音を良い感じで録れれば良いわけだから、特に”こういう音にしたいな”っていう目標は持たずにやっていますよね。

■つまり、ミュージシャンの音をそのまま録るということですか?
□そのままっていうのとも、またちょっと違うんですけどね。何だろう……。まあ、”いま鳴っている音がこういう風に録音されると一番良いかな?”っていうことを、ぼんやり実行するんですよね(笑)。それは、マイクを近づけることだったり遠ざけることだったり、あるいはバイオリンだったら裏側から録ることだったりと、その時々で、いろいろなんですけどね。

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▲こちらはPablo Workshopの常設機材。FOCUSRITE ISA 115HD、UREI 1176LN、SUMMIT AUDIO TPA-200A、DELTA LAB DL-4などが見える。赤川氏は、アンビエンスマイク用にISA 115HDを使用していた

▲その奥に鎮座するコンソールRAMSA WR-DA7と、Pro ToolsのI/O関係(192 I/OとSYNC I/O)

今回はコンプはゼロ
EQも結局ゼロです

■ではミックスの話もうかがいたいのですが、マスタリングが小泉さんで決まっていたということで、作業中に何か意識されたことはありますか?
□いつもそうですけど、そんなに意識はしていないですね。ちなみにミックスでは、Pro Toolsのセッション・ファイルを立ち上げると録音時のラフミックスバランスが立ち上がるじゃないですか? それを聴いて、なんだかんだいじってみたり、戻してみたり……ということを繰り返すんですよね。で、今回はスケジュール的にも比較的余裕があったので、1回ミックスしてからしばらく間を置いて、もう1回ミックス・ルームに入ってみたんです。そのときにスピーカーを替えて聴いてみたりいろいろ試したんですけど、”ちょっと作り過ぎたかな?”って思えてきた。それで、そこまでに作り上げたものはほとんど元に戻してしまったんです。ただ、バランスとかセレクトしたマイクとか、位相関係は微妙に変わっている。今回は、そういうミックスですね。

■位相というのは?
□オーディオファイルをサンプル単位でずらすということもやったし、あとはマイクそのものを逆相にしたり……。アンビだけ逆相にして混ぜたりとか、いろいろですね。で、今回はコンプはゼロですね。EQも、結局ゼロ。リバーブをかけたのと、バランス、あとはマイクのチョイスと位相です。

■EQも使っていないとは驚きですね。
□例えば、バイオリンの中高域が気になったとするじゃないですか? そうしたら、普通はEQでまず中高域を切ってみますよね。でも、どうも違う。じゃあ、切るのをやめて高域と低域を上げてみる。で、どうもそれも違う。そうしたら今度は、違うマイクを混ぜるとか、違うマイクだけにしてみたり、位相関係を変えてみたり、サンプル単位で混ぜるタイミングをずらしたり、混ぜる比率を変えたり……。それも、ピアノに対してどれくらい出すかを変えてみたり……というようなことを、延々とぐるぐるやっているんですよ。そうこうしている内に、”お!”っていうバランスが出来上がれば、それが完成。だから、最初にイメージを作り上げて、そこに向けてやるっていうやり方ではないんですね。これは、昔からそうなんですけど。

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▲ピアノにはBK 4003をややオン気味で2本セット。ただし、ソロやトリオなどの編成違いによって、このマイク位置は調整されていた。また、ほかの楽器のマイクへの回り込み成分も当然あるので、CDで聞かれるピアノの音を作り出している要素は多岐に渡ることが分かる

▲バイオリンへのマイキングは、奏者の後方から1本、前方かなり上から1本と、計2本を用意(NEUMANN KM184)

▲チェロへのマイキング。やや上方からKM184、正面からSANKEN CU41で収音されていた

型にはめてしまうのは
相当やばいことだと思う

■最後に、マスタリングを終えての感想をお願いします。
□マスタリングに関しても、特に予想とかをしていないんですよね。やっぱり、型にはめてしまうのは相当やばいことだと思うんですよ。例えば、”今回はツヤツヤした音に仕上げてもらおうかな”って感じでマスタリングルームに入ると、たいがいろくでもないことが起きるわけで。

■虚心で向かった方が良い?
□まだまだ変化するでしょうけど、共同作業における現時点での理想型というのは、信頼できる人に勝手にやってもらうことですね。誰もが虚心で居てほしいんです。それは意志を持つな!……と言っているわけではなくて、それぞれの個人が、今までの経験とか蓄積とか、果ては人間性なんかも含めて、勝手に発想するってことです。提示されたものに違和感を覚えたら、その時初めて意見をぶつけ合う。このやり方は、好みが合ってないと危険(笑)なんですが、意外に”理想型”は一致するものなんですね。今回のレコーディングも、わりと初期の段階から、「今までに聴いたこと無いようなガッとした音で……」みたいなことを西野さんが言っていたんですが、付き合いが長いので無視してました(笑)。西野さん本人に気合いが入ってるっていうことが分かっていれば十分で、実際にガッとした音を作ろうとすると、失敗するのは分かっていましたから。

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▲トリオ演奏では、ピアノのオンマイクが全体向けになっていたほか、バイオリンのマイクも前方×2に変化。まさに、曲調に合わせた自由自在のマイクアレンジ。また演奏者と同じ空間でレコーディングされているのが、この写真から分かる(右奥に赤川氏が)

▲Pablo Workshopの吹き抜けにあるバルコニーには、アンビエンスマイクとしてNEUMANN KM184×2本を用意。計8本のマイクのチョイスとバランス設定、そして位相の調節だけで『Flow』のサウンドがほぼ出来上がっているのである

 

RM1778B.jpgオーディオチェック用に音楽CDが付いた楽しいオーディオ入門書

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著者:西野正和
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