最終回:対談 山田尚子+山口優(後編)〜私、音楽になってみたいのかもしれません。

マニュエラだから作れた『たまこまーけっと』の音楽 by RandoM編集部 2013年8月9日

山口優氏を軸に、『たまこまーけっと』の音楽をさまざまな角度からひもといてきたこの連載も、ついに最終回。山田監督との対談後編、文字数多めでお送りします!

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

アニメ『たまこまーけっと』の山田尚子監督と山口優音楽プロデューサーの対談後編では、楽曲解説に始まり、初期設定のお話や、監督の男性不信のワケなど、バラエティ豊かにお届けします。

4つ打ちでグッと来る

山口 後編では具体的な曲のことも伺っていきたいと思いますが、オープニングやエンディングはどうでした? 最初の打ち合わせでは、まだイメージが固まっていなかったようですが。

山田 確か方針は決まっていたんですけど、まずオープニングは超おまかせでした。「とにかくバーンとよろしくお願いします。本物っぽいもので!」と、アホっぽい感じで中村(伸一/ポニーキャニオン)さんにはお願いしていました。自分としては、中村さんの音楽に対する愛情を本当に尊敬しているので、本当にお任せしたくって……。変に自分が何か言って、そっちに寄ってしまうのは嫌だなと思っていました。エンディングに関しては、4つ打ちのエモーショナルな感じをやってみたかったっていうところで……。

山口 4つ打ちは監督のリクエストだったんですね! 僕も今驚いてますけど、たぶん見ている人も意外ですよね。作品の世界観は思いきりアコースティックな感じですし。

山田 あらっそうですか? でも『たまこまーけっと』という作品の女の子感を考えた時に、4つ打ちでキックの音がしっかり目にある曲に、たたずむちょっと湿度の高い女の子というのがすごくグッと来てたんですよ。

山口 そこは結構、監督の音楽体験と関係があるんですか?

山田 慈悲深いキックの音で泣けるくらいには(笑)。

山口 4つ打ちと胸キュンが結びついてるんですね。そしてそこにはたぶん電グルの話とかが入ってくる(笑)。

山田 電気グルーヴは確かに根源にあると思います。話すと長くなりますけど(笑)。オープニングとかエンディングの映像って、ショートフィルム作る感覚で作ることができるのですごく好きな作業なんですが、今まで電子音とか4つ打ちみたいなものを使ったことが無かったので……。だから、「おもちアフェっクション!」と「カンカン・マキマキ」のPVも作ってみたくてしょうがない。もう、頭の中で着実に出来上がってきてます(笑)。

山口 オープニングはどうでした?

山田 おもちゃ箱がひっくり返ったみたいな本当に楽しい曲をいただけたなぁってわっくわくしました。うさぎ山商店街を走り回るたまこがキラキラしてみえるだろうなって。デモの段階から毎日ずぅっと聴いて、たまこのイメージを膨らましていきました。劇伴も、ダビングのときに音を入れてもらうと、画面とのなじみがすごく良かったです。だから劇伴だけ浮くとか、劇伴が立たないということが全く無くて。しかも、1曲の中でいろいろな色を付けてくださっていたので、何段階も楽しめました。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

パンク/ニューウェイブの洗礼と電気グルーヴ

山口 最初の打ち合わせのときに、もともとテクノが好きで、電グルから遡ってニューウェイブに行ったみたいな話をされてたじゃないですか?

山田 思春期はそうですね。電気グルーヴを知って、男性不信に陥って……(笑)。

山口 男性不信?

山田 なんか、歌詞とかが……。「B.A.S.S.」とか聴いちゃうと。

山口 ああ、電グルはこじれてますからね(笑)。

山田 そうなんです。大人になってやっと、ラジオなんかも聴き直してみて、「あ、なんだ、こじれてたんだ!」って分かったんですけど。

山口 じゃあ当時は、男性不信と一緒に電グルの音楽も嫌いになったんですか?

山田 そんなことはないんですけど、彼らの言っていることが男性の総意だと思っていましたね。なにせ子どもでしたので。いやっ、今もちょっと後遺症あります(笑)。それでもやっぱり音楽がかっこよくて。ずっと大好きで聴いてましたよ。「この人たち怖い、でもめちゃくちゃかっこいい」って言う感じで2つの両極端な気持ちと戦いながら。青春ですね。

山口 その前は何を聴いてたんですか?

山田 お姉ちゃんが熱狂的なファンだった影響で、チェッカーズを……。幼少期はそんな感じでした。

山口 今回一番驚いたのが、劇中曲「恋の歌」のサンプル曲です。セレクションがあまりに微妙というか、ニューウェイブ前夜のイギリスのバンドの、それほど売れてない曲だったから(笑)。

山田 大好きな曲なんです! 青年豆大があこがれて歌う曲なので、すこしギャップがほしくて。とんがっていないというか、メロウで、もしかするとちょっとダサいかもしれないくらいの感じ。その時の打ち合わせで印象的だったのが、山口さんがXTCを推してらっしゃったことなんですけど。そのお話をいただいて「いや、豆大はもう少しストレートなね」とか分かった風な話をしながら頭の中では大盛り上がりで「ヘリコプター」歌ってました。楽しかったです(笑)。でも、その辺の音楽を聴いたのはすごく後追いで……。自分が生まれてなかったりとか、生まれたくらいのころの音楽ですからね。大学生の時にレコード屋さんに行くことを覚えまして。

山口 レコードを買っていたんですか?

山田 はい。なぜレコードを好きかというと、たぶん幼少期なんですよ。母親がいつも音楽を聴いていた影響で。私も母が好きな音楽がすきで、それでずっとレコード盤を見たり聴いたりして。だから、自分の中でもすごく大事にしていたんですね。ガゼボを口ずさむ幼児でした。

山口 いい話だなあ。

山田 (笑)。なので、その辺のエレクトリックなものとかが好きだったりします。

山口 じゃあ、いわゆる80’sがもともと体に入っていたんですね。

山田 たぶんそうなんです。プラス、ちょっとフュージョン系の生演奏みたいなものと、両方あった感じで。あとは、パンクとかニューウェイブに興味を持っていたときに、『24アワー・パーティ・ピープル』という映画が公開されて。そのレビューを卓球さんが書いていて、そこでなんかいろいろ邂逅して(笑)。それで、70年代の音楽により興味を持つようになったという。

山口 電グルの影響を受けた世代の話はよく聞くんですけど、音楽だけじゃなくて卓球くんのテキストやラジオでの啓蒙活動の影響も大きいんですよね。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

映像と劇伴のたすきがけ

山口 映画音楽は聴いていました?

山田 映画音楽は……買って聴くような聴き方はしていないですね。

山口 映像って、そこにつける音楽によって印象がすごく変わるじゃないですか。そういう意味で劇伴に対して何か特別な意識を持ってたりしますか?

山田 劇伴はすごく大事なものだと思っています。私の場合は、音楽と一緒に画面が盛り上がらない方が好きなんですけど……。

山口 抑えが効いている方が良い?

山田 はい、どっちかが抑えている方が好きですね。

山口 それは、仕事をしてきて気づいたことですか?

山田 自分が好きな映画とかも、ずっとそういう感じだったんだと思います。もちろん、仕事をやってきて、言語化できて、具体的に分かるようになってきたというのはあるんですけど……。

山口 振り返ってみると、もともとそういうものが好きだったな、と。

山田 そうかな、と思います。でもこの間『バットマン』なんかを見たら、画面も音楽もガンガン盛り上がってて、ものすごく感銘を受けたんですが。

山口 それは、きっと年の功でしょう(笑)。

山田 確かに、大人になってきたのかもしれません(笑)。年を取って素直になってきた気がします。愉しめるものが増えましたしね。

山口 年を取ると、本当にそうなりますね(笑)。ちなみに今回の選曲は、監督ではないんですよね?

山田 「ここぞ!」というところ以外は、音響の名倉さんがやってくださっています。

山口 イメージはだいたい合っていました? 結構、違うところ用に作ったものが当たっていたりもしていましたが。

山田 名倉さんは前作でもご一緒させていただいていて、自分としてもとてもしっくりくるんですよ。キャラクターのテーマでも機械的に当てはめていくのではなく、何パターンか用意してくださっていて。

山口 意外性がいっぱいでした。ガツンといきそうなところに静かな曲が流れてたり。

山田 そうなんですよ。作品をとても深いところまで考えてくださっているなと感じますね。映像と音楽をうまくたすきがけしてくださるんです。

山口 結構外してきますよね。「すごく映画的なセンスだなあ」と思いながらオンエアを見ていましたが、結果的に監督がさっき言った“どっちかが盛り上がる”みたいなことになってたんですね。作る側は結構テーマに沿って素直に作ってたけど、名倉さんの選曲が結構な力になってたんですね。

山田 ええ、とても。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

もともとは妖怪の話だった!?

山口 そう言えば聞き忘れていたんですけど、そもそも劇中曲ってなんで入れることになったんでしたっけ?

山田 音楽に絡む何かを、どうしてもやりたかったんですよ。やっぱり音楽が好きだし、憧れもありますから……。

山口 ストーリーに絡む音楽性としては、かなり異質な存在ですよね。

山田 実は最初は、もっと音楽的な設定があったんですよ(笑)。いろいろ変わってきてしまったんですけど……。今回の対談があるから初期設定のメモを引っ張りだして読み返したら結構面白くて、“主人公は母が聴いていた影響で京大西部講堂系の音楽が好き”なんて書いてある(笑)。このときはもっとロックなイメージもあったし、もっと京都色も強かった。“もち蔵”も“よし蔵”って書いてあったりして。

山口 うわー、これはすごい! 昔の『宝島』みたいなことがいっぱい書いてある(笑)。

山田 主人公じゃないだれかが、音楽を好きな設定を入れたかったんですよ。それで、お母さんは良いかなーと。あと、いまメモを見ていて思い出しましたけど、『たまこまーけっと』はもともと、妖怪の話だったりもして……。

山口 妖怪……? さっぱり分からない(笑)。

山田 王子が不老不死という設定だったんですよ。

山口 マジですか(笑)。あ、ベニクラゲ式って書いてありますね?

山田 ベニクラゲって不老不死らしいんですよ。それで、ベニクラゲを研究している先生に王子が会いに来るという設定でした。いやーでも、こんなことしようとしてたんやって、すごくいま新鮮でした(笑)。

山口 驚いたなあ。じゃあ劇中曲は音楽ネタとして入れたかったということなんですね。

山田 音楽を聴くことで元気が出たり、ちょっとひたれたり、テンション上がったり、感情をコントロールしてくれると思っていて。なので、音楽によって、キャラクターたちが癒されたら良いなって。画面としてはあまり長く見せられていないんですけど、彼女たちの経験としては、しっかり残っているという感覚なんですよね。

山口 キャラクターへのサービスだったんですね(笑)。実際、劇中曲はオンエアされた部分は短いから、無ければ無いでも成立はしたかもしれないですよね?

山田 だから、ものすごくぜいたくなことをせていただいてますよね。なんだかもう、いま山口さんの目を見れないです(笑)。

山口 ちなみにプログレっていうのは、どこから出てきたんですか?

山田 あれは、八百比先生のことを考えると、どうしてもそっちに行っちゃうなっていうイメージがあって……。

山口 BD3巻に付いているCDは、結構反響あったみたいですね。

山田 だって、めちゃくちゃかっこいいですもん。あれ、宇宙ですよ!

山口 あれは松前(公高)がイギリスじゃなくてアメリカのバンドの設定にしたんですよね。10年遅れくらいの。なんかその詰めが甘い感じへの偏愛ぶりがよく出ていて、僕もそれに乗っかってダメなバンドのストーリーを書いてる(笑)。

山田 読む度に、「たまこっていうか、もう別の世界だな」ってビックリする(笑)。

山口 たまこたちが生きてる世界でも、過去の歴史というのはリアリティを持って在ったはずなので(笑)。あれは書いていて楽しくてしょうがないんです。

山田 分かります。楽しさが溢れ出していますから。ちなみにあのジャケットはボッシュ風です。昔のオランダの画家なんですが、すごくプログレにぴったりだなって思って。

山口 物語が拡張された感じでありがたいです。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

頭の中で音を足したり引いたり

山口 いろいろお話を伺って、監督が音楽にすごく思い入れがあることが分かりました。今後もまた音楽にこだわって作品を作っていく感じですか?

山田 音楽に詳しいわけではないですけど、憧れがあるので……。そこが無くなると、自分のアイデンティティが無くなるかもしれないですね。

山口 そこまで?

山田 いや、他にあまり趣味が無いので……(笑)。そう思うと、また音楽にこだわってやりたいですね。

山口 それは作り手としてというか、音楽ファンに近い感じなんですか?

山田 うーん、そうですねぇ……。私、音楽になってみたいのかもしれません。

山口 それは、バンドをやりたいということではないんですよね?

山田 そうですね、なんというか概念的な意味で。音楽は作ってみたいし、バンドもやってみたいんですけど、でもなんか……それは頭の中で作って、満足しています(笑)。

山口 今回も、頭の中で作ったりはしていたんですか?

山田 作っていますよ。しかも、音は結構重ねています(笑)。頭の中で、足したり引いたりして……。

山口 そこまでやられてたとは(笑)。

山田 スキャットまで入れたりしているんですけど、それをしていると楽しくて寝れなくなるので、あんまりやらないようにはしています。

山口 いやもう今回のインタビューで、監督がアイキャッチの曲を鼻歌で作ったりしてた理由がよく分かりました(笑)。ありがとうございました。

(この連載は今回で終了です)

山口優(やまぐち・すぐる)

マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ代表。1987年に松前公高とのユニット“EXPO”でデビュー。
現在までCF・ゲーム・テレビ・Web・プロダクトなど様々なメディアのサウンド制作を数多く手がけている。
「UNIQLO」各種サイト、「iida INFOBAR」など。
またプロデューサーとしてマニュアル・オブ・エラーズ全体の仕事を取り仕切っている。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

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