第8回:鼎談 藤本功一+宮川弾+山口優(後編)〜男がメロディを作るとき

マニュエラだから作れた『たまこまーけっと』の音楽 by RandoM編集部 2013年7月26日

EDカップリング曲「キミの魔法」からキャラソン「Call me Anne」「今日も言えない」「きっとね、ずっとね、よろしくね」まで、『たまこまーけっと』を彩る楽曲群の詳細な制作エピソードをお届けします!

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

マニュアル・オブ・エラーズ(マニュエラ)の作家陣に聞く、アニメ『たまこまーけっと』の音楽制作。藤本宮川山口鼎談の後編では、歌詞についてより深く掘り下げつつ、楽理方面や機材にも話題が及びました。音楽制作をされている方は、ぜひ参考にしてください。

「キミの魔法」制作秘話

——前編で「ドラマチックマーケットライド」のことをかなり詳細にお話いただきましたので、エンディングのカップリング曲「キミの魔法」についても、教えていただけますか?

山口 前の僕のインタビューで、「ねぐせ」のカップリング曲の「キミの魔法」は、実はエンディングのもう1つの候補曲だったっていう話をしちゃってるんだけど、アレンジ丸投げしちゃってすいません(笑)。

藤本 いえいえいえ(笑)。「ねぐせ」がクラブ寄りということもあって、同じ4つ打ちでもポップス的なものにしてくれということでした。なので、ギターを入れたり、可愛い音色を使ったり……。ソロアイドルがカチっとしたトラックの上でつたなくも一生懸命歌っている……という雰囲気を目指した感じです。

山口 落としどころはあうんの呼吸だったね。あとこの曲の歌詞は、オープニングが商店街を走っている感じだから、こっちは空を飛んでいるような、俯瞰で街を見ているようなものにしようって言ってたんだよね。

藤本 その方向性で1番を書いて中村(伸一/ポニーキャニオン)さんに送ったら、「鳥の目線がいいですね」ってメールが来て……。

山口 「鳥とたまこの関係がよく表れていると思います」とか(笑)。

藤本 すかさず「ですよね!」って返信して(笑)。そこから内容を鳥とたまこの関係に寄せていきました。実はあれ、恋愛の歌じゃなくて、鳥とたまこの歌なんです。

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藤本功一氏

「Call me Anne」「今日も言えない」について

——キャラソンでは、藤本さん作曲、宮川さん作詞という組み合わせの「Call me Anne」(北白川あんこ)という曲がありますね。

宮川 あの曲が、人の曲に歌詞を付けた2曲目です(笑)。キャラソンはお題がはっきりあるし、シナリオに出てくる言葉を使うことも多いですよね。

藤本 僕が好きな「外国の映画みたい」というフレーズも出てきましたっけ?

宮川 出てこないよ。

藤本 えっ!

宮川 あれはあんこが“Anne”にいかにこだわっているかを、自分で勝手に想像した結果、出てきた言葉なんです。さっきと言ってること全然違いますけど(笑)。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

藤本 なるほど(笑)。あんこちゃんのそういう“背伸び感”を表す言葉として、とても良いなあと。僕もそのあたりはすごく意識しましたね。

山口 音的に?

藤本 音的に。思春期の彼女が大人にあこがれているという設定をどう表現しようか考えて、エレクトロにチップチューンを乗せてみました。最初の打ち合わせの最中にこのアイデアが浮かんで、そのままメロディ作りに突入した感じです。アレンジから想起しているので、曲とアレンジが一体だったんです。

山口 打ち合わせ中に作曲し始めてたの、雰囲気で分かったよ(笑)。

藤本 キャラソンで言えば弾さんが全部作った史織ちゃんの曲(「今日も言えない」)は、ミュージシャンにも評判ですね。

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宮川弾氏

宮川 一般的には地味なのかなぁ?

山口 「ドラマチックマーケットライド」みたいに、90年代に回収された70年代感じゃないからね。コードやメロディはもっと普遍的な意味で美しいと思うけど、でもこういう曲は今だとやっぱり渋いってことになるのかな。

宮川 渋さということでは山下(百合恵)さんの声、というか史織のキャラとして歌ってもらう時の声域のせいもあると思います。今時の曲の声域と比べるとかなり低いですからね。打ち合わせでは上の音域使えないのかって戸惑いましたけど、結果的にはその選択も渋谷系の中で補完されなかった70年代感を増幅させたのかもしれません。

藤本 アコギとスライドのギターフレーズは、スタジオで作ってましたよね?

宮川 ギターの演奏にはあまり口を出さないタチなんですけど、特にあの曲はニューミュージックっぽさが欲しくて、ヘッドアレンジ感みたいなものが残れば良いなと思っていたんです。

山口 この曲はとにかく背景の楽器やフレーズがむちゃくちゃ多いんだけど、それを感じさせないのは、弾ちゃんのアレンジャーとしての高い技術と、あとはミックスの柏井(日向)さんの力量も大きいなあと感じてます。

宮川 音的には古臭さを特に目指したわけでもなくて、現代的なシンセの音が同居してるのがミソかなって思ってます。ダブステップでもお馴染みのNATIVE INSTRUMENTS Massiveも入ってたりしますからね。よくまとめてくださったなと思ってます。実際は生っぽい楽器だけでも成立しているので、オケがもうちょっと寝て、ギターだけみたいなバージョンも気持ち良いかもしれないですね。リリースはできなくても、自分用にそういうバージョンを聴きたいなと思ってます。

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難しいパズルのような「きっとね、ずっとね、よろしくね」

山口 キャラソンではもう1曲、藤本が作詞作曲編曲すべてをやっている「きっとね、ずっとね、よろしくね」という王道のグループアイドルポップスがあります。

藤本 この曲はライブイベントで歌われることを前提に作りました。なので、声優さんたちが順番にソロパートを取る構成になっています。難しかったのは、皆さん歌える声域が違うので、それを考慮しながら担当パートを振り分ける必要があったことですね。それによって歌詞の構築の仕方も変わりますし。ベストな配置にするには、パズルみたいな考え方が必要でした。

宮川 キャラクターによる役割もあるしね。

藤本 基本的には声優さん扮するキャラクターが作品の中での出来事を歌っているんですけど、同時にステージからお客さんへのメッセージとも取れるようになっています。その辺りもライブを強く意識した結果ですね。

山口 グループものだとよくあるけど、スケジュールの都合で6人の録音日もスタジオもマイクも全部バラバラなんだよね。

藤本 こういう場合ってプロの歌い手さんでも歌い方や音質がそろわなかったりしてなかなか大変なんですが、今回のミックスエンジニアの方が歌の処理に長けた方で、一文字単位まで頑張って整えてくれました(笑)。

山口 場所によっては子音と母音でボリューム変えてるところもあった。この曲みたいな“商業ポップス”のデザインは、逆にそういうディティールをきちんとやって初めて“普通”として成立するんだよね。ただそういうのも、元の曲やメロディが良いからこそ生きてくるわけで、今回はみんなそこを頑張ってくれたのがとてもうれしいです。

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山口優氏

——皆さんの場合は、どのようにメロディを作っているのでしょうか?

山口 僕は前にも言いましたが、ネットで見つけた適当な言葉に合わせて作っています。曲先のこともあるけど、それだと字余りにひっぱられてメロディが変化するみたいなことはできないんですよね。きっちりしちゃうというか。

藤本 バンド系の人は、詞先が苦手だったりしますよね。僕は詞先の方が楽なんですけど。

宮川 僕はなるべくすべて同時でありたいと思ってます。少なくともワンコーラス目は。

藤本 弾さんはシンガーソングライター的なんですね。僕の場合は鼻歌で歌って、コードは後で付ける感じです。経験上その方が良いメロディになるんですよね。

山口 コードは後で付けるんだ? 同時に出てくるものじゃない?

藤本 そうなんですけど、道を歩いている時なんかに鼻歌で歌うので、あとは家でそれを入れてからリハモすることが多いです。

山口 歩いてるとできるよねえ。一番できるのは打ち合わせの帰り。あれは困る(笑)。

藤本 あー、分かる!

宮川 歩いていてできたこと無いです……。鼻歌でも作らないし。2人の話を聞いていたら、ちょっと落ち込んできた(笑)。

山口 そうなんだ!

藤本 理論派の弾さんなら納得な気もします。弾さんはどんな感じでメロディを作るんですか?

宮川 いきなりサビからですね。同じ歌詞で何種類もメロを作ったりもする。

藤本 サビを作って、そこからAメロBメロと結んでいく?

宮川 そうそう。だから僕にとって作曲は道筋というか構築なんです。サビから作るということは、まずはI(トニック)から始まるかIV(サブドミナント)から始まるかっていう選択なんです。

藤本 IかIVかってそんなに意識してます? 僕はたいてい自然にIVになるんですけど。

宮川 現代っ子なんだね(笑)。僕は意識しないとそこにいかないから。

山口 「ねぐせ」も「キミの魔法」もサビはIV始まりなんだけど、やっぱり意識して持っていった覚えがあるなあ。

藤本 逆に僕はIが照れくさいんですよね。だから「Call Me Anne」なんかはIなんだけどon 3rdから始めてるんです。しかもそのメロディをIVから始まるサビにも乗せたりしてる。メロディにもよりますけど、だからIとIVの区別って僕にはあまりないんです。

宮川 あの曲はサイドチェーンの曲で、ベースがあまり大きく動かない。だからオンコードの転回形が活かしやすいっていうのもあるかもしれないね。

山口 I on 3rdは最近の曲でも時々耳にするね。IなんだけどIVの浮遊感を保っているみたいな感じ。

宮川 IV始まりのサビは、毎回ちょっと面倒だなって思うポイントがあるんです。転調したサビにいきなりIVが現れると、それがIだかIVだか判断し辛くなる。つまりサビのキーがつかみにくくなるんですよね。僕は最初から転調込みで曲を考えてるので、そこがちょっと面倒。なのでサビに行く道筋でいろいろ工夫をしてるんです。

藤本 僕はロックっぽいのかもしれないですね。そんなに転調を考えないし。

山口 確かに弾ちゃんの曲は転調が多いよね。「ドラマチックマーケットライド」は片岡の仕業だけど(笑)。

藤本 Aメロ9小節目でいきなり全音上がっていますからね。

山口 あれは実はソフトロックでは時々見かける転調なんです。弾ちゃんも最初驚いていたよね。

宮川 そうですね。あれがソフトロックのポイントだとは気づいていなかったです。

山口 いやいやそこまで普遍的でもないんだけど(笑)、僕や片岡は結構な量のソフトロックを聴いてきてるから、たぶん耳慣れてたんだと思います。

宮川 自分では1回もやったことが無かったです。でもあれを僕のせいだと思ってる人もたぶんいるんでしょうね(笑)。

(次回は対談 山田尚子+山口優をお送りする予定です)

山口優(やまぐち・すぐる)

マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ代表。1987年に松前公高とのユニット“EXPO”でデビュー。
現在までCF・ゲーム・テレビ・Web・プロダクトなど様々なメディアのサウンド制作を数多く手がけている。
「UNIQLO」各種サイト、「iida INFOBAR」など。
またプロデューサーとしてマニュアル・オブ・エラーズ全体の仕事を取り仕切っている。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

宮川弾(みやかわ・だん)

93年、ラブ・タンバリンズとしてデビュー。
解散後アレンジャー、ソングライターとして活動を始める。
太田裕美、南波志帆、安藤裕子、伴都美子、花澤香菜などへの楽曲提供を中心に、
近年は「たまこまーけっと」「まおゆう魔王勇者」「こばと。」「ココロ図書館」などテレビアニメでも活躍中。
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藤本功一(ふじもと・こういち)

音楽学校でギター演奏や音楽理論を学び、その後、バンド活動やコンピューターによる楽曲制作を開始。
ギター中心のものから打ち込み主体のものまで、いわゆる「歌もの」を得意分野としている。
kylee、さくら学院、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなどに楽曲提供・アレンジで参加。
近年ではアニメ「キルミーベイベー」のオープニング、エンディング曲の作詞・リミックスを担当。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

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