第6回:対談 ゲイリー芦屋+山口優(後編)〜キャラソンとか劇伴、OP・EDとはまた別の宇宙が、ここにある

マニュエラだから作れた『たまこまーけっと』の音楽 by RandoM編集部 2013年7月12日

作曲家のゲイリー芦屋氏と音楽プロデューサーの山口優氏に伺う、『たまこまーけっと』の劇中曲の世界。今回は第3話以降の劇中曲のことから、ライナーに隠された意味、舞台探訪まで、じっくりお話しいただきました!

10_117

©京都アニメーション/うさぎ山商店街

『たまこまーけっと』の音楽プロデューサーを務めた山口優氏と劇中曲を担当したゲイリー芦屋氏の対談後編では、シミュレーションとオリジナリティや、並行世界、2.5次元と、音楽対談らしからぬ用語が頻出しつつも、やはりその根底には当然のように音楽が横たわっています。早速、お届けしましょう!

大西洋のエキゾチカ2013

――対談後編では、「My Love’s Like」「Un Lieu de Rencontre」以外の劇中曲のお話をまずはお聞きできたらと思います。

山口 結構特典CDに入る予定が無い曲もあって、例えばエキゾなんかもそうですね。アニメの中では南の国から来たチョイに聴かせたら、「こんなのわたしの国の音楽と全然違う!」と言われてしまう設定なんです。そこでヒントになったのが、いわゆるエキゾティック・ミュージックです。あれは、レス・バクスターなどのハリウッドの作曲家が作り上げた架空の南国音楽ですから。ただ、同時に監督からスティールパンを入れてほしいというリクエストもあった。スティールパンはカリブの楽器なので、太平洋には無いんですよね。そこで“大西洋のエキゾ”をやってみようと思ったんです。大西洋にはアトランティス伝説もあるし、その辺りに夢を馳せたアメリカの作曲家の作品というイメージで(笑)。

芦屋 メロディがスティールパンでエキゾって、聴いたことが無いですから、難しかったですよ。どうしてもマーティン・デニーやレス・バクスターに引っ張られてしまう。

山口 基本的にはマリンバをスティールパンに置き換えてるだけだけど(笑)、それで十分だと思う。逆にその偽物感あってこそのエキゾだからね。まあ、架空の音楽自体を架空で作ってて言うのもなんだけども(笑)。

Exif_JPEG_PICTURE

ゲイリー芦屋氏

カメオ出演に彩られたホラー映画のサントラ

山口 ホラー映画のサントラ、『Taste a moment of Satan’s madness(ゼットン悪魔の凶暴集団)』はどうだった?

芦屋 ホラーは仕事でも一番やっているジャンルだし、自分の趣味でもある。それで「どのホラーにします?」って山口さんに確認したんですよね。「どの時代の、どの国ですか?」って。それで山口さんからは、“アメリカ南部のインディーズ系映画で、サイケバンドが駆りだされて演奏している”という発注があった。ホラー映画だからオケものかなと思っていたのでちょっと意外でしたね。発注にドンピシャな“バンドが音楽やっているホラー映画”ってあんまり思いつかなかったですから。

山口 B級バイカー映画とかちょっとポルノっぽいものだと、ロックバンドがかかわってるものもいろいろあるじゃない? だからてっきりありそうかなと(笑)。

芦屋 劇伴はオケが主体で、予算が無い場合は電子音で聴かせるっていう場合が多いですね。

山口 『ゼットン〜』はPink Marigold Ice Creamというサイケバンドとイタリアの作曲家との共作になっているじゃない? これは本編のオケ劇伴をイタリア人作曲家がやって、テーマ曲だけをサイケバンドがやっているって解釈だよね?

芦屋 そうです。例えばラス・メイヤー監督の『ワイルド・パーティー』という映画で、スチュ・フィリップスがオケ劇伴を書きストロベリー・アラーム・クロックが自前のヒット曲を演奏してますが、これがもし映画用にスチュ・フィリップスがアラーム・クロックにも曲を書き下ろしていたら……というような関係性ですかね。アメリカB級映画に出稼ぎに来てるイタリア人作曲家というのは、ジュリアーノ・ソルジーニあたりをイメージしてます。

06_068

©京都アニメーション/うさぎ山商店街

山口 この曲はミックスもばっちりはまってたね。

芦屋 エンジニアをやってくれた坂根尚さんとはもう10年くらい一緒にお仕事をしていて、渚ようこさんとか水木一郎さんとか、時代がかったものをやるときにお願いすることが多かったんですね。だから僕の生理というか、“こいつはこういう音を求める奴だ”というのをよくご存じなので。

山口 ギターは自分で弾いたんだっけ?

芦屋 ファンシーナムナムというプログレ+テクノ+ジャーマンロックって感じの面白い女の子バンドがありまして、そのメンバーの西田知代さんに弾いてもらいました。芸能山城組「恐山」風なスキャットも西田さん。彼女はナムナムのレパートリーの多くを作っていて、まあずっと注目していたんですよ。カメオ出演的な感じで、この人にここで演奏してもらったらきっと後で何か面白いことにつながっていくんじゃないかって思いまして……。あと、冒頭にサスペリアチックな悪魔の呼び声みたいな声がちょっと入っているんですけど、これはやはりホラーに造詣が深い映画監督にお願いしたいと思って、佐々木浩久監督にお願いしています。佐々木監督は『発狂する唇』等を撮っている方で、もちろんホラーやらB級映画なんかも嫌っちゅうほど見てる方で、なおかつこういうふざけたお願いもノって楽しんでやってくださるって分かってたので、「ぜひお願いします!」って。

山口 佐々木監督、そのためだけに来てくれて(笑)。

芦屋 喜んでくれるのは、ほんの一握りの映画ファンだけかもしれないですけど。それにそもそも、本編のオンエアーでは冒頭部分は流れていませんし(笑)。

山口 今回の劇中曲は全部フル尺で作っているから、オンエアーだけだとほんの一部しか聴けないんだよね。これはまとめて聴けるようになるといいなぁと思っています。

Exif_JPEG_PICTURE

山口優氏

 シミュレーションとオリジナリティ

山口 特典CDに収録された架空映画の主題歌「Girl Next Door」もゲイリーの作品。監督からはタイトルも含めた映画の設定も結構聞いたんだけど、その時点ではおそらくビージーズの「小さな恋のメロディ」がイメージ的に一番近かったんだとは思う。ただ僕の中ではもう少しイタリアの、例えばピエロ・ピッチオーニみたいな大御所作曲家が力を抜いて作ったみたいな青春映画のサントラのイメージを出したくて、その辺りにも滅法詳しいゲイリーに相談したんだよね。いきなり素晴らしい曲が上がってきてびっくりしたよ。オーダー通りなのはもちろん、曲自体が素晴らしかった。

芦屋 あの曲に関しては、自分が何をやれば良いかは分かっていました。確信を持っていたので、全然迷いは無かったです。

山口 この曲も飯尾(芳史)さんにミックスしていただきましたが、70年代の設定なのでステレオミックスになっている。録りは別セッションだったよね?

芦屋 Cage NorthやMarilouとは別日で、メンバーも重複はギターの天野さんだけです。

山口 ところで今回、ゲイリーには劇中曲だけをお願いしたから、作家性みたいなところはほとんど求めなかったんだけど、シミュレーションとオリジナリティの関係はどう考えているの?

芦屋 例え何かのシミュレートであっても、結局は僕自身の中から出てくるメロディなんですよね。この出てきたメロディこそが、僕自身の個性であってオリジナリティだと思ってます。

山口 自然に出ちゃうものだけで、もう十分オリジナリティということね。

芦屋 多分、それが作家性ということなんだと思います。

山口 その作家性を、作品世界の中でかつて存在していた音楽として自然に聴かせるために、綿密にシミュレートしているようなところもあったよね? BDの特典CD用に詳細なライナーを書いたりもしているし。

芦屋 シミュレートは誰かの作家性をなぞるってことではなく、自分の作家性をその時代……例えば60年代……にとけ込ませるための方法論なんですよね。引用とかオマージュの名の元にメロディ自体をなぞってしまうのはパクリであって、シミュレートじゃないですよね。その違いは強調しておきたい。しかしあそこまでディティールをシミュレートしていると、もう実在しているような気になりますよね。

山口 これ、傍で見てたら気持ち悪いかもしれないんだけど、打ち合わせでは真顔でずっと実在する映画なりレコードの話としてしゃべってたんだよね(笑)。「冒頭のあのシーンで流れるからスキャットが必要」、みたいなこと言いながら(笑)。これって並行世界だなって思ったりもして。

芦屋 まさにSFですよね。

山口 だからキャラソンとか劇伴、OP・EDとはまた別の宇宙が、ここにもう1個ある。これは、結構魅力的なところだと思うよ。

芦屋 ただ、ここまでディティールにこだわってマニアックなことをやったら、リスナーは付いてきてくれないかなっていう恐れもあったんですよ。でも全然そんなことはなくて、意外に「良い曲だった」なんていう反応があって、うれしかったです。

山口 思い出したんだけど、あるインタビューで監督が登場人物を「あのコは」って語ってたのね。これまでの打ち合わせでも、「たまこはこういうことは言わない」みたいなことも言ってたし。当然と言えば当然なんだけど、アニメにしても小説にしても、もう1つの世界を作り出す作業なんだよね。だから今回僕らが劇中曲でやってきたことも、僕らなりに『たまこまーけっと』の物語の一部を作る作業だったのかもしれない。だからこそ、ファンの方々もちゃんと付いてきてくれてたんじゃないかな。

02_321

©京都アニメーション/うさぎ山商店街

 舞台を訪れる楽しさ

山口 そういえばうさぎ山商店街のモデルになった商店街は、ニュースでも取り上げられていたね。今回、自分で訪れてみて、その楽しさを実感しました。

芦屋 実際の場所に行くと、作品の見方も変わるじゃないですか? すごく実写的にとらえるようになったし、位置関係もすごく意識するようになる。

山口 2.5次元が浮かび上がってくる感じですね。星とピエロ(レコード屋さん)なんか、完全に2.5次元だよね。人で言えば声優さんが2.5次元だけど、背景にまで2.5次元ができてる時代なんだな。

芦屋 街のスケール感も分かってきますしね。

山口 でも結果的に今回の劇中曲のシリーズって、まさに2.5次元を持つ『たまこまーけっと』ならではの企画になったと思う。完全な夢物語じゃなくて、リアルともちょっとづつリンクしている並行世界的なファンタジーというか。まあこの対談も実際には行なわれていないわけだけどね。

芦屋 え!?

山口 ……みたいなことだよね(笑)。でも実際僕らはソノタ(マニュエラが経営するレコード店)のフリーペーパーで、実在しないレコードの紹介のコーナーとかやってたんで、もともとそういうウソは大好きなんだよね。

芦屋 びっくりしました(笑)。僕、アマチュアのころに、MTRを買って最初にやったのが、自分の好きだった60年代のポップスを1人で完コピ再現することだったんですよ。キンクス、ビートルズ、ドアーズ、ラヴィンスプーンフル、ナッズ……とにかく、60年代の音の秘密を探ろう、みたいなことを考えてて、それこそ寝ないで完コピに熱中してました。まあXTCの“The Dukes Of Stratosphear”プロジェクトの影響なんですけど、当時アンディ・パートリッジがインタビューで「デイブ・グレゴリーが自宅でビートルズの完コピを趣味で作っている」と言ってて、猛烈に聴いてみたかったんですよね。しかも、ちょうどその頃(80年代中盤)トッド・ラングレンの再発ブームもあって、『Faithfull』あたりのアルバムを手軽に聴けるようになった。『Faithfull』は1人じゃないですけど、要するにビーチ・ボーイズやビートルズ、ヤードバーズの完コピ版ですから、こういうことをまずはやらないとダメだ、と。テクノの終焉ははっきり意識してましたから、そこが出発点だったんですよね。

山口 そんなことをしてたんだ(笑)。

芦屋 どうすればこういうサイケデリックな音作りができるのかを、4TRのカセットMTRでずっと工夫していました。あの時代は日本でもB-52′sとかコンパクトオーガニゼイション、そしてもちろん“The Dukes Of Stratosphear”なんかも視野に入れつつ、ニューウェイブからネオサイケ、ネオGSへって流れがあって、それがまあ渋谷系にもつながるわけですけれど、懐古趣味ではない再評価、研究、レコード蒐集に血道をあげたりっていう、その後の自分の音楽とのかかわり方を決定した時代でもありました。あの頃から、結局自分の中の大きな柱は変わってないってことなんでしょうねえ。

山口 なるほど。僕はゲイリーとは正反対の不真面目タイプだからちょっと想像つかないけど、確かに今回の仕事はウソ好きの研究者じゃなければできなかったものだと思う。こういう作家がいて良かった(笑)。

(次回は鼎談:藤本功一+宮川弾+山口優をお送りする予定です)

山口優(やまぐち・すぐる)

マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ代表。1987年に松前公高とのユニット“EXPO”でデビュー。
現在までCF・ゲーム・テレビ・Web・プロダクトなど様々なメディアのサウンド制作を数多く手がけている。
「UNIQLO」各種サイト、「iida INFOBAR」など。
またプロデューサーとしてマニュアル・オブ・エラーズ全体の仕事を取り仕切っている。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

ゲイリー芦屋(げいりー・あしや)

スキャット・口笛などラウンジ系劇伴やオーケストラ劇伴を得意とし、映画、ゲーム音楽を多数手がける。
黒沢清監督作品、清水崇監督「呪怨」(ビデオ版)やホラーゲームの代表作 「SIREN」など、Jホラーを牽引する一人である。
また、犬童一心監督作品、NHKドラマ、特撮ものなど幅広く活動している。
近作はNHKの人気ドラマを映画化した「サラリーマンNEO 劇場版(笑)」など。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

TUNECORE JAPAN