第4回:対談 片岡知子+山口優(後編)~全編にちりばめられた80′sっぽさ

マニュエラだから作れた『たまこまーけっと』の音楽 by RandoM編集部 2013年6月28日

片岡知子氏と山口優氏が語る『たまこまーけっと』の音楽制作(後編)。OP「ドラマチックマーケットライド」、キャラソン「太陽とドラム」、そして再び劇伴まで、縦横無尽にお話いただきました!

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

『たまこまーけっと』の音楽面の中心である片岡知子氏と、音楽プロデューサーの山口優氏の対談後編では、オープニングテーマ「ドラマチックマーケットライド」、キャラクターソング「太陽とドラム」の話を中心にしつつ、劇伴のミックスについてや、片岡氏の制作環境についてまで、さまざまな話題が飛び出しました。『たまこまーけっと』をより深く愛するために、ぜひお楽しみください!

シンプルなデモだった「ドラマチックマーケットライド」

――前回は劇伴の話が中心だったので、今回はまずはオープニング曲の話から伺っていけたらと思います。

山口 「ドラマチックマーケットライド」は宮川(弾)がアレンジをしているけど、その辺はどう受け止めた?

片岡 自分でアレンジしないということは聞いていたので、全面的にお任せでという感じでお預けしました。ただ、歌なかだけは元のコードを生かしてほしいなと思っていましたけど。

山口 それでデモがあんなにシンプルだったのか。いつもはあそこまでシンプルじゃないから、ちょっと意外だったんだよね。でも、中途半端にアレンジされたデモだったら、宮川にしてもそれをなぞらないといけないという気になっただろうし。

片岡 カバーとかコピーになっちゃうから、テンション下がりますよね。

山口 そういう意味では、シンプルなデモで良かった。

片岡 ドラムのループと、ベース、ピアノをバックに歌っているくらいでしたよね。ピアノでリフが入っているとか、そんな感じで。オープニングはオケの推進力が曲をぐいぐい引っ張っていく素晴らしいアレンジで、本当に感謝しています。

山口 オープニングに関しては過剰なアレンジをしてほしいというリクエストが中村(伸一/ポニーキャニオン)さんからあって、それで宮川がすごく装飾的な編曲をしたんだよね。ベースラインの過剰な動きやドラムのフィルの多さなんかもそう。でも僕は元のシンプルなバージョンも好きだったから、それに近いバージョンを、サントラにはスキャットバージョンとして入れたという経緯もある。リスナーにも両方を聴き比べて楽しんでもらえるかなと思って。

片岡 デモよりシンプルになっちゃいましたけどね(笑)。

山口 そうそう。最初はデモ音源でも良いかなと思っていたけど、結局は片岡に作ってもらって、洲崎綾さんにスキャットを入れたもらった。非常に面白い上がりになったと思います。

片岡 牧歌的な感じになりましたね。でも「ドラマチックマーケットライド」を作るときは、マニュエラの一員としてオープニング曲を書くんだという考えがあって……。

山口 そんな意識があったの?

片岡 EXPOが音楽を担当した『キルミーベイベー』でマニュエラという音楽チームがいるということが浸透したので、生半可な曲はダメだろう、と。転調もころんころんして、リスナーさんを突き放すくらいの感じじゃないといけないのでは? と思っていました。

山口 それは劇伴の話と真逆じゃない(笑)。

片岡 確かに、オープニングはちょっとひねくれようっていう思いはありましたね。

山口 でも結局、オープニングの曲はコード進行的にはすごくシンプルになったよね。片岡は途中で何度も曲をいじりたがってたけど、僕も中村さんも今回のストレートさがベストだと思ったんで、その都度変えるの止めちゃった。

片岡 自分的には、中2のころに書いたポエム集みたいな感じがあって(笑)。

山口 ずっと恥ずかしがってたよね。照れちゃうのは、同じ作家としてよく分かります(笑)。ストレートさ具合のジャッジってやっぱり自分では難しいんだよね。だから力づくで押し切りました(笑)。

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片岡知子氏

ロック的な「太陽とドラム」

山口 キャラソンはチョイの「太陽とドラム」を作ってもらったけど、どうだった?

片岡 チョイのキャラソンはこういう感じにしようというのは、腹の中で思っていました。もう1曲候補があったんですけど、そっちはいただいたオーダーを踏襲してっていう感じで作りましたね。

山口 ストーリーとか、劇中曲との兼ね合いを考えて僕がオーダーを出したんだけど、結果的には僕の当初のオーダーではない方向性に決まった(笑)。

片岡 もう1曲も、すごく良い曲だったんですけど……。

山口 あっちの方が複雑になりそうで、比べると「太陽とドラム」はロック的な曲だよね。

片岡 「太陽とドラム」はロックですね。『たまこまーけっと』で面白かったことの1つに、自分の中でいままでアウトプットして来なかった80′sをちょっとずつ混ぜているところがあります。「太陽とドラム」はそれが顕著ですけど、劇伴なんかでもそういうことをしていますね。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

山口 それは監督との打ち合わせの流れもあって?

片岡 そうですね。80′sと向き合った感じになっています。

山口 例えばどの曲?

片岡 あんこのテーマ曲とかもそうですね。あとは北白川家のテーマとかも、70′sと80′sの境界線みたいなところを狙ってみました。

山口 確かに80′sっぽさはこのアニメ自体に散りばめられてるから、音楽の方にもそれが反映されるのは自然な流れなんだよね。僕らの世代だと、放っておくと恥ずかしくてなかなかアウトプットしないけど。

片岡 「太陽とドラム」では、自分ではちょっと恥ずかしい80′sの感じを、どうにか昇華できないかっていうことで作ってみました。なので、わざわざウッドベースで難しいことを演奏していただいたり……。

山口 なるほどね。いろいろ考えているんだなぁ。

片岡 意外と考えているんですよ(笑)。

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山口優氏

寝ているのも仕事の内

山口 劇伴について聞き忘れていたんだけど、生楽器をさんざん録っているのに、時間的な制約もあって今回は自分でミックスをしたでしょう。これはどうだった?

片岡 ミックスを自分でするのは不安ではあるんですけど、プロのエンジニアさんとは合う/合わないという問題もあって。わたしは人見知り&気が弱いので(笑)、合わなかったときに、なかなかリクエストを言えなかったりして。「やっぱりプロの方がやっているんだから、正しいんだろうな」って思いますし。

山口 そういう意味では自分でやって良かった面もある。

片岡 そこは満足ですね。1個1個の音にていねいにカーブを書いたりできました。愛情を持って、1本1本を仕上げられたのは良かったことだと思っています。あと、譜面が出来上がっていて、録った段階で終わりなら良いんでしょうけど、私たちは録り終わった後に考えることも多いですよね? 生楽器を録って、「さあ、どうしましょう?」って考える時間は大事だと思います。

山口 それは上に足すものとか、音像、ミックスバランスといったこと?

片岡 そうですね。スタジオでの生録りで終わらせたくないというのがあって、なんかひと味、変な音を入れたりとかしたいんですよね。

山口 そこが結構キモになっていたりするのかな。

片岡 まあ、のろまゆえなんですけど(笑)。

山口 あと、“寝かす”ということをよく言うじゃない? この日までにデモはできるけど、それはまだ寝かせた状態じゃないから聴かせたくない、みたいな。やっぱり寝かせる時間も必要で、寝ているのも仕事の内っていうね。でも、それは同じ作家としてすごくよく分かる。

片岡 そんなこと言いましたっけ?(笑)。ひどいですね(笑)。そんな小生意気なことを……。

山口 火がまだ通ってない状態、茹で上がってない状態、みたいなことで。寝かせている間に、客観視できたりもするから大事なんだろうなって思っています。あとは、生楽器のレコーディングはどうだった?

片岡 旧知の仲の方に来ていただいたので、スムーズに進みました。いろんなフィーリングを解釈してくださって、すごく人間的な、情緒のこもった演奏をしてもらえました。そこは打ち込みではできないところで、1人だけで完パケてしまうと、出せないゆらぎをいただけたと思っています。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

メロとアンサンブルだけで勝負

――では片岡さんの制作環境を教えていただけますか?

片岡 DAWがLogic Pro9で、オーディオインターフェースはAPOGEE Ensembleです。エフェクト系プラグインは、ベーシックにWAVESのものを。アウトボードにNEVE Kelsoも使うつもりだったのですが、時間と気持ちに余裕が無くて、ミックスはコンピューター内で完結しています。その代わりサントラのCDでは、プレマスタリングという形で、STUBBIE STUDIOの島田さんにトータルでEQとコンプ調整していただきました。ピアノは……今回はGALAXY VINTAGE Dを半分くらい使用しています。残りも癖のあるソフト音源をセレクトしていますし、あまり使えませんでしたが自宅にある1930年代頃のEavestaffのアンティークピアノの場合もあります。あと音源に関しては、自分でサンプリングして作ったものをよく使いますね。

山口 あれが片岡ワールドを生み出していて、いつも感心してます。でも今回は、おもちゃ楽器やそのサンプリング音源なんかをそれほど入れてないよね? そこがまた大人っぽさの一因になってると思うんだけど、あれはセーブしたの? それとも自然に?

片岡 ちょっと勝負に出た感じですね。

山口 特にテーマにあたるようなところとか、かなりストレートに、ちょっと言い方はアレだけど、音色に頼らずに、メロとアンサンブルだけで男らしく(笑)勝負に来てる印象がありました。

片岡 何話かは先に映像を見せていただいていて、それで「これはえらいことになっている」と思ったので(笑)。それで頑張ったというのもありますし、今回は劇伴でのテーマの使い回しもほとんど無かったので、力は入っていますよね。

山口 それでサントラも2枚組というボリュームになったし、同じ曲でも楽器違いで納品したりしているので、実際は倍くらいの曲を作っていることになる。短い期間で、これだけの仕事をするのが大変だったと思います。おつかれさまでした!
(次回は対談:ゲイリー芦屋+山口優をお届けする予定です)

山口優(やまぐち・すぐる)

マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ代表。1987年に松前公高とのユニット“EXPO”でデビュー。
現在までCF・ゲーム・テレビ・Web・プロダクトなど様々なメディアのサウンド制作を数多く手がけている。「UNIQLO」各種サイト、「iida INFOBAR」など。
またプロデューサーとしてマニュアル・オブ・エラーズ全体の仕事を取り仕切っている。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

片岡知子(かたおか・ともこ)

インスタント シトロンの作詞、作編曲・ボーカル担当。フレンチポップ、カートゥーンジャズ、トイポップを得意とする。
Eテレ「みいつけた!」、「スキマの国のポルタ」 などに楽曲を多数提供。全国の子どもたちにヘッポコで楽しい曲を送り続けている。
マニュアル・オブ・エラーズ経営のレコードショプ SONOTAスタッフでもある。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

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