第3回:対談 片岡知子+山口優(前編)〜淡々とした女の子らしさで、フランス近代や教会音楽をイメージ

マニュエラだから作れた『たまこまーけっと』の音楽 by RandoM編集部 2013年6月21日

『たまこまーけっと』の音楽世界をひもとく連載の3回目は、劇伴とオープニング曲を手がけた音楽面の中心人物である片岡知子氏と音楽プロデューサー山口優氏による対談です!

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

京都アニメーションの新作アニメ『たまこまーけっと』(2013年1〜3月放送)は、アニメ本体の魅力があるのはもちろんのこと、音楽面での独特なアプローチも注目を集めています。作品内にレコード店が登場し、架空の劇中曲が作られているという意味では、音楽アニメと言ってしまいたい誘惑にかられるほどです。そこで本連載では『たまこまーけっと』の音楽制作を担当した作家集団、マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ(以下マニュエラ)の皆さんに、どのように楽曲が作られていったかをお聞きしています。
今回からは、音楽面の中心人物である片岡知子氏と、全体を統括したマニュエラ代表山口優氏の対談を前後編の2回に分けてお送りします。前編は主に、劇伴のお話を伺っていきましょう!

“音楽:片岡知子”は最初から決まっていた

――今回は劇伴とオープニング曲というキーになる部分を片岡さんが担当されていますが、山口さんとしてはどのような意図で片岡さんに依頼をされたのでしょうか?

山口 作風や劇伴への理解度みたいなものを考えると、片岡がベストだろうというのは最初から思ってました。劇伴はずっと流れているので、一番世界観が必要とされますし、あと、レコードが出てくる作品ということだったので、それもありまして。

――片岡さんは、その時にどういうオーダーを受けたか覚えていますか?

片岡 実はわたしはそういう認識が全く無くて、マニュエラ全体でお受けしたと思っていたんです。それで、9月に監督とお打ち合わせをさせていただいた時も、ただ代表として連れて行かれたと思っていた(笑)。

山口 超勘違いをしていた(笑)。

片岡 なんとなく、監督からのオーダーを通訳する役目なんだろうって……。

山口 そんな役割の人連れてかないよ(笑)。

片岡 そこのヘルプ的な役割なのかな? って。だから後で劇伴は全部私がやると聞いて、驚天動地でしたね。でも山口さんから「レコードが出てくる作品なんだよ」って言われて、わたしもご飯よりレコードが好きな質なのでいそいそとしちゃった。

山口 量が多いので覚悟してもらわないとっていうところで、甘いことを言ったわけですね。

片岡 「お菓子あるよ」って誘拐される子供みたいな感じで(笑)。

山口 最終的には中古レコード屋さんがカバーになっているCDもできて、すごい良かったでしょ?

片岡 ありがとうございます。でも“星とピエロ”の話で言えば、わたしは劇伴ではなく劇中曲を担当するんだと思っていたんですよね。

山口 もちろんそっちもやってほしかったんだけど、劇伴は量が多いからスケジュール的に難しいということもあったんだよね。

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片岡知子氏

監督との打ち合わせ

――9月にあったという監督との打ち合わせは、いかがでした?

山口 監督と片岡が2人で「分かるー!」なんて盛り上がっていたので、安心してました。音楽家同士ではないので、色や心象描写でたとえたりしてたんですが、ちゃんと通じ合ってて良かったんじゃないかな、と。あ、でも、そのとき片岡は自分が作るとは思ってなかったのか(笑)。

片岡 みんなに監督の言葉を通訳しないといけないと思っていたので、詳細にちゃんとメモっていました。もう、一生懸命。「せつない」の定義とか、情緒的な風景の説明とか、そういうことを話していましたね。

山口 いまから思うと、あの打ち合わせにすべてが集約されていた気もするね。監督はストーリーよりもキャラクターとか世界観にすごく思い入れがあって、それを映像的にグラフィカルなイメージで持っている感じ。説明に色とかが出てくるのは、そういうことなのかな。

片岡 具体的に「だれだれのこんな曲で」とか、そういうリクエストは無かったですね。だから今回は、自分的にも世界を広げながら作れたので、とても楽しかったです。

山口 片岡のデモを最初に聴いて、想像していたよりも大人っぽいなと思ったんだけど、これは意識していたことなのかな? 端的に言うとジャズの要素が思った以上に強かったんだけど。

片岡 そんなに大人っぽかったですか?

山口 自分では意識していない?

片岡 確かに大人っぽい曲もあると思うんですけど、実は最初『たまこまーけっと』はもっとコメディタッチだと思っていたんです。でも実際は、とてもとてもそういうものではなかった。

山口 コメディと大人っぽさって、どうつながるの?

片岡 逆にコメディだと、そこに徹するとガチャガチャになってしまうので、あえてハズしてシックにしていくというか……。だから、いつも通りと言えばいつも通り。

山口 60年代のイタリアのコメディみたいに、ジャズの作曲家が大人でも聴ける音楽をつけてる感じ? 確かに昭和の黄金期のコメディドラマも、ジャズの人たちの遊び心が満載だったよね。

片岡 そうですね。

山口 でも、僕は今回のコンテや設定を見た時点では、こんなに大人っぽい楽曲になるのは正直想像してなかったです。

片岡 私は個人的には、自分をジャズの人だと思っているんですよ(笑)。

山口 それは初耳!(笑)。

片岡 1920年代の、ビバップよりずっと前のジャズなんですけど……。クラシックの要素に、ダンスの要素が混じってきたころ。これは、インスタントシトロンでデビューした当時から思っていることです。それで1stアルバムを作ったときも、曲が全部シャッフルだったから、「シャッフルばっかりじゃダメだ」って言われてしまった(笑)。

山口 なるほど。もともとが非ロックであると。

片岡 今回は、その部分をかなり純化させてるつもりです。

山口 あと、キャラが可愛くなるということも分かっていたわけだけど、そこに対するアプローチはどうしようと考えていた?

片岡 それはやっぱり音色ですね。

山口 フォーマットは大人っぽいんだけど、それを木管楽器とかで演奏する。確かにそれは片岡らしくもあるし、今回のミッションにも合ってるね。

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山口優氏

商店街ならではの温かさを音楽でも出す

山口 最初の監督との打ち合わせでは、商店街の話も出ていたわけだけど、それに関してはどういうふうに考えていた?

片岡 ちょうどタイムリーに、関西に住んでいるスイス人の方で、日本の商店街が大好きで写真を撮りまくっているという人のインタビューを見ていたんですね。それで日本の商店街は海外には無いシステムで、住居と商店が一緒になっていて、そこに住んで暮らしているというのは珍しいということを知りました。これは、とても素敵なことだなって。

山口 自分の生活の場と、他人の生活の場が一緒になっている。お互いの家で買い物をするわけだから面白いよね。

片岡 リンクの仕方が強固なんだって思いました。だから、このアットホームさ、温かい感じは出していかないといけないな、と。それであまり突き放さない感じと言うか、コード展開の不条理さなどを出さない、やり過ぎない感じで作っていきました。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

山口 あと印象的だったのが、1つは史織のテーマ曲であるフランス近代的な和声のピアノ曲。フランスに対するアプローチって、いろいろあるとは思うんだけど、いわゆる“おフランス”じゃない部分を出して来たなと思ったんだけど。

片岡 史織のテーマ曲は、割と分かりやすいフレンチだと思うんですよ。ロックファンには耳馴染みが無いかもしれませんけど、クラシックを聴いている方にはフォーレとかミヨーとかの感じだっていうのが分かりやすい。

山口 分かりやすいかなあ(笑)。

片岡 女子高生のあこがれっていうことで、史織とみどりのテーマに関しては、それを出したつもりです。みどりちゃんはパイプオルガンで、ちょっと教会音楽の感じですね。

山口 ああいうバロック的な要素も今回は少し入っていたね。

片岡 そこは今までやってこなかったところですね。私はあんまり女の子と付き合いが無いのであんまり分からないんですけど(笑)、どのレコードのどの曲が好きだったなんていうお話を聞くと、やっぱり教会音楽とかバロックを好きらしいんですよ。それで入れてみたんですけど……。

山口 えー? そんな女の子に会ったこと無いよ(笑)。どこでリサーチしたの?

片岡 美大出のお友達とか……。だから、ちょっと感性が鋭い系の女の子なんですかね。

山口 バロックや近代を持ってきたのは、女の子の憧れっていう文脈だったんだね。実際そういうコがいるかどうかは別にしても、面白いね。史織のテーマはかなり抑えた感じだったね。

片岡 “淡々と”というオーダーは最初に監督からいただいていたので、そこと女の子らしさというのをつなげたつもりです。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

『地下鉄のザジ』のいなたいトーンで

山口 フランスに関して言えば、例えばCMの仕事なんかでフランスっぽくしてくれって言われた時に作るのとは、ちょっと違ってたね。コード進行や編成なんかが。

片岡 最初に監督からのオーダーで、ヨーロッパ的な洒脱さが欲しいということを伺っていたので、まずそのフレンチポップさをどのテンションにしようかというのを考えていました。ミシェル・ルグランではないし、イタリアのトロヴァヨーリでもないし……。

山口 ルグランではないというのは、どの辺が?

片岡 これはあくまで私の心の声なんですけど、あんまり楽しくない(笑)。あと、たまこにしてはちょっとおしゃれすぎるかもしれない。

山口 それはあるかもしれない。商店街だし、シャレきっちゃダメというね。

片岡 もうちょっと下町っぽさがあった方が良いかな、と。「おしゃれすぎないでください」というのも、最初に監督から言われていたことでしたし。

山口 最初の打ち合わせは、ちゃんと生きてるんだね。

片岡 そうなんです。なので私が最初に決めたのが、『地下鉄のザジ』という映画のトーンでいこう、と。フィオレンツォ・カルピという、いなたい曲を書く作曲家さんなんですけどね。それで『地下鉄のザジ』を見直すことから始めました。なので、テーマ曲の最後にどうしても口笛を入れたいっていう要望を言ったんです。「口笛を入れると人の声とかぶってしまって、こんがらがるから止めた方が良いんじゃない?」という話もあったんですけど、結局入れちゃった(笑)。それは、『地下鉄のザジ』のテンションとか濃度に持っていきたかったからなんです。

山口 例えばフレンチのイメージだけをとっても、かなり細かい幅を設定してたんだね。この辺は作業中にはあえて訊かないでいたところだったから、今とても腑に落ちてます(笑)。
(後編に続く)

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山口優(やまぐち・すぐる)

マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ代表。1987年に松前公高とのユニット“EXPO”でデビュー。
現在までCF・ゲーム・テレビ・Web・プロダクトなど様々なメディアのサウンド制作を数多く手がけている。「UNIQLO」各種サイト、「iida INFOBAR」など。
またプロデューサーとしてマニュアル・オブ・エラーズ全体の仕事を取り仕切っている。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

片岡知子(かたおか・ともこ)

インスタント シトロンの作詞、作編曲・ボーカル担当。フレンチポップ、カートゥーンジャズ、トイポップを得意とする。
Eテレ「みいつけた!」、「スキマの国のポルタ」 などに楽曲を多数提供。全国の子どもたちにヘッポコで楽しい曲を送り続けている。
マニュアル・オブ・エラーズ経営のレコードショプ SONOTAスタッフでもある。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

 

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