第2回:インタビュー 山口優(後編)〜お琴バージョンでも成り立つ曲を作りたい

マニュエラだから作れた『たまこまーけっと』の音楽 by RandoM編集部 2013年6月14日

山口優氏が語る『たまこまーけっと』の音楽制作(後編)。キャラソン録音時のエピソードから、ED
「ねぐせ」の詳細までをお送りします! これを読めば、『たまこまーけっと』が10倍面白くなる!?

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

『たまこまーけっと』の音楽プロデューサーを務めた山口優氏のインタビュー後編では、自身が制作にかかわられた楽曲の話を中心に伺いました。エンディングテーマの「ねぐせ」、キャラクターソングの「おもちアフェっクション!」、そして劇中曲「恋の歌」などは、どのような意図で作られたのか。その真意を、早速伺っていきましょう!

仮歌は初音ミクで

――山口さんは『たまこまーけっと』の音楽制作を音楽プロデューサーとして束ねる一方で、作家として曲の制作も行なわれていますね。

山口 僕は今回、自分では曲は作らないつもりでいたんです。プロデューサーに徹しようかと。でもエンディングはいろいろ考えた末に自分が適任なのかもしれないと思って(笑)、作ることにしました。ただやはり自分一人でやると客観性を失いそうだったんで、アレンジは若い人と一緒にやることにしたんです。まあ結果的には、キャラソンや劇伴も成り行きで書くことになってしまったんですが(笑)。

――エンディングテーマ「ねぐせ」のアレンジは赤羽俊之さんとの共同名義になっています。

山口 Dizzi Mystica名義で活動していた、クラブミュージックのスペシャリストです。彼はKatana Bitsというサンプル音源やシンセ音色パッチメーカーもやっていて、アレンジャーとしての技量に加えて、僕の中ではそれも彼と一緒にやる決め手になりました。オープニングとは真逆で、最新の音を踏まえた上で作りたかったんです。曲のオーダーとしては“エレクトロで”というのがまずあって、外向きのオープニング曲とのイメージの対比で、内省的な仕上がりにする必要がありました。あと、4つ打ちだけどクラブミュージックにはしないということで、僕と中村(伸一/ポニーキャニオン)さんの間で了解がありました。「もっとクラブっぽくしても良かったのに」という方もいるんですが、赤羽くんとは最初からエレクトロで、なおかつポップスであり得るものを目指して試行錯誤していました。

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山口優氏

――キックの感じからも、それはよく分かりますね。

山口 メロディをきちんと鼻歌で歌える曲にしたかったこととも関係あるんです。エレクトロの歌モノによくあるような、モード的というか、コードのループの上でスケールの音をふわふわ歌うメロディとか、90年代っぽい同音反復のAメロみたいのはなるべく避けたかった。“一蘭”っていうラーメン屋さんはBGMでJ-POPのお琴バージョンが流れているんですが、あのバージョンで聴いても「良い曲だな」と思える曲を作りたかったんです。

――「ねぐせ」のお琴バージョン、ちょっと聴いてみたいです。

山口 ちょっと演歌っぽく聴こえるかもしれません(笑)。結果的にコードとメロディの関係は、やっぱり70年代ポップスに近くなっていますから。ただ最初に言ったように、音色的には赤羽くんが豊富な知識から取捨選択をしているので、かなりやりきった感じはしています。あとこの曲は「キルミーベイベー」の時にもお願いした中村督さんにミックスをお願いしていて、そこでももう1つ魔法をかけてもらった感じです。

――ところで初音ミクで仮歌を入れるというお話でしたが、具体的にはどういう感じで作業をされるんですか?

山口 メロ先の場合は、ネットで見つけた適当なポエムや歌詞を下敷きにして作るようにしています。何でもいいんです。女子高生がアップしてるブログとか(笑)。めちゃくちゃ英語の代わりに、人が書いた適当なものを使うという感じですね。その言葉に合わせて、メロディを作っていく。で、メロができたらその歌詞は忘れる(笑)。「ねぐせ」も最初はそうやって作ってたんですけど、それだと完全に歌える曲、歌って気持ちいい曲になってしまうんですね。鼻歌から作ってるわけですから当然なんですけど。ただ「ねぐせ」の場合はサビに関しては多少マシーナリーというか、シーケンシャルにしたくて、あえて歌詞を想定しないで鍵盤で作りました。インストを作る時みたいに。だから息継ぎができないようになってる(笑)。ライブで歌わなきゃいけない洲崎さんには申し訳なかったんですが。

――「ねぐせ」のカップリング曲である「キミの魔法」は、山口さんが作曲で藤本功一さんがアレンジと作詞を担当されていますね。

山口 あの曲は実はエンディングのもう1つの候補曲だったんです。だから楽曲の構成が「ねぐせ」によく似てる(笑)。ただこちらはスケジュール的に手に負えなかったので、やりかけたアレンジをほぼ完全に藤本に引き継いでもらいました。一応「ねぐせ」との対比を考えて、明るめの音色でとお願いしたと思います。ついでに歌詞も頼んじゃったので、かなり共作度が高い曲になりました。

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©京都アニメーション/うさぎ山商店街

ライブが楽しみな「ねぐせ」「おもちアフェっクション!」

――山口さんは今回、「三十路の小娘」以来となる作詞もされていますね。

山口 いままでも機会はあったんですけど、あえてしてこなかった感じがありまして……。なんか、そこまで責任を持てないというか……。でも今回はキャラソンということで、結構飛び道具的な2曲だったので、ちょっとTwitter的な感覚で書いてみました。

――たまこのキャラソン「おもちアフェっクション!」に出てくる「みんなもおもちを愛してね」というフレーズは、なんだかすごいですよね。

山口 中村さんから「この曲に関しては、いつものたまこというより、ちょっとおかしいくらいのおもち狂でお願いします」と言われたので、どこまでもおもちのことしか考えていないというのを、極端にやってみました。

――かなり早口なのですが、録音は大変じゃなかったですか?

山口 ミクではできなくて、僕が仮歌を入れたんですけど、自分ではうまく歌えませんでした(笑)。でも、声優さんはラクラクと歌ったんですよね。レコーディングでは、「まずはサウンドチェックです」って言って回したら歌えちゃったので、そのテイクを本番に使いました。もう、倍速にしてもいいくらいですね。

――“テイク0”でOKだった。

山口 それ以上やると、上手くなっちゃうからって(笑)。でも、本当は歌えない感じにしたかったんですよね。ちょっと歌えてないところは若干ありますけど、本当はもっと歌えていない感じが欲しかった。でも真面目な方だったので、練習をしてきてしまって(笑)。練習しないで、いきなり歌ってほしかったですね。それでテンパッて「あわわわ」みたいになれば、歌詞カードに「あわわわ」って書けたのになって。そういうイタズラっぽい仕掛けだったんですけど、普通に歌えてしまった。さすがプロだと思いました。で、先日はライブに向けて練習しているところを見たんですけど、もう振付を付けて余裕で歌えてました(笑)。それで、「オケのテンポ速くしちゃおうかな?」って思ったりして。

――この2曲はライブが楽しみですね。

山口 「ねぐせ」はキー的にも無茶なところがありますし、さっき言ったみたいにインスト的なメロ部分もあるので、かなり頑張ってもらわないといけないかもしれません(笑)。

――山口さんは今回、劇中曲も作られたんですよね?

山口 第3話で流れたピアノ曲と、あとは豆大(たまこの父)が高校時代にやっていたバンドの曲「恋の歌」ですね。あれは監督にかなり初期に具体的にサンプルイメージをいただいてたんです。それが意外なほどマニアックで。ニューウェイブ直前のイギリスのバンドの、アルバムにだけ入ってる曲みたいな(笑)。そのあたりが監督の“胸キュンポイント”だったらしいんです。実は最初弊社の別な作家に頼んでたんですが、僕より7〜8歳くらい若いと、ニューウェイブの頃の美意識やら手法やらが体に染み付いてないんですよね(笑)。どうしてもネオアコ以降になってしまうというか。なので結果的にリアルニューウェイバーだった僕が作ることになってしまいました。

――昔の高校生バンドの曲を作るというのは、結構難易度高そうですね。

山口 コーラスも入らないし、ギターは1本という制約の中で作りました。アニメの中では年代をはっきりとは言っていませんが、ニューウェイブ黎明期のUKロックを、同時代に日本語で、しかも高校生が作曲している、という設定なんですけど、実際当時の高校生でそんなことをやってるバンドはいなかったんじゃないかと思います(笑)。なんでおもち屋の息子がそんなにトンガっているのかは、よく分かりません(笑)。でもあれは、レコード屋さんの八百比さんがバンドのキーボーディストで、音楽的なリーダーなんですよね。曲はたぶん豆大が書いているからストレートで、アレンジで引っ張ってニューウェイブ感を入れたっていう感じでしょうね。実際の演奏は、当時の雰囲気も知っていて、かつスタジオミュージシャンではない人に頼みたくて、アップルヘッドのさゆキャンディ君とフレディ君、吉田仁郎君にお願いしました。第9話はこの曲が「ねぐせ」の代わりにエンディング曲になっているんですが、あまりにも曲調が違うので、どちらも同じ人間が書いてることにはまだあまり気付かれていないみたいです(笑)。

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しゃべらないコミュニケーション

――劇中曲に関しては、作品のBD化に際してCDが特典で付くほか、詳細なライナーノーツも掲載されています。このライナーまで自分たちで書いてしまうのが、マニュエラならではですよね。

山口 あれはひどいですね(笑)。僕だけではなく、ゲイリー(芦屋)も松前(公高)も書いています。そもそも架空の曲を作るという時点で、設定を考えないといけないわけですしね。ただ、みんなレコードや音楽史みたいなものに対する思い入れが半端じゃないし、架空の設定を書くのが大好きなんで、最終的に僕がまとめる時に字数を削らなければいけないくらいの文字量だったりしました(笑)。今回は、その辺を中村さんに読まれていたというのもあるんでしょうね。

――中村さんGJですね! ところでアニメでは、ユーザーが能動的に関与していくところが面白かったりすると思うのですが、『たまこまーけっと』ではその辺はいかがでした?

山口 ネット上には、制作メーカーの中の人のことまで、「この人がやっているんだろう」みたいな推測があって、すごいなと思いました。良い意味でアニメユーザーはしつこいし、下手は打てないなと(笑)。Twitterなどを見ていても、本当にコマ単位で分析をしてたり、一瞬の描写に気付いたりしている人もいて、しかもそれを丁寧にまとめたりする。アニメ本体も音楽も声優さんも、徹底的に分析されているので、逆にこちらもそれを想定しながら作っていた面もありますね。

――ある種のコミュニケーションが発生しているわけですね。

山口 完全におもねっているわけでもなく、分析されるのをこちらも楽しみながら、暗黙のコミュニケーション、しゃべらないコミュニケーションみたいな感じでのやり取りがある。向こうも見てるし、こっちも見ている、という感じですね(笑)。ネットの声に直接反応するわけではないけど、目配せをしつつ作っていく。そういう楽しさがありました。
(次回は対談:片岡知子+山口優をお送りする予定です)

山口優(やまぐち・すぐる)

マニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツ代表。1987年に松前公高とのユニット“EXPO”でデビュー。
現在までCF・ゲーム・テレビ・Web・プロダクトなど様々なメディアのサウンド制作を数多く手がけている。「UNIQLO」各種サイト、「iida INFOBAR」など。
またプロデューサーとしてマニュアル・オブ・エラーズ全体の仕事を取り仕切っている。
所属プロダクションによるプロフィールはこちらへ。

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