ストリーミング時代のオルタナティブ!〜その(3) 前田康二(Bernie Grundman Mastering Tokyo)が推す「ブルーレイ・ディスク」

連続インタビュー「ストリーミング時代のオルタナティブ!」 by 國崎晋(サウンド&レコーディング・マガジン編集部) 2015年8月21日

AWA、LINEミュージック、そしてApple Musicと、今年に入って次々サービスが開始された「定額制の音楽ストリーミング・サービス」。その利便性ゆえデファクト・スタンダードになりそうな気配が濃厚だが、“いや、そんなことはない!”と、別のサービスや方法を提唱している人たちがいる。そんな人たちの声を、数回にわたって伝えていくのがこの連載だ。高橋健太郎氏オノセイゲン氏に続き、第3回に登場いただくのはバーニー・グランドマン・マスタリング東京の代表、前田康二氏だ。氏が“音楽業界が再生するにはこれしかない”と断言する「ブルーレイ・ディスク」の魅力について語ってもらおう。

前田康二●バーニー・グランドマン・マスタリング東京の代表。アメリカの伝説的マスタリング・エンジニア=バーニー・グランドマンのもとで学び、1997年に東京支社を開設。マスタリング・エンジニアとして数多くのCDの制作にかかわる

前田康二●バーニー・グランドマン・マスタリング東京の代表。アメリカの伝説的マスタリング・エンジニア=バーニー・グランドマンのもとで学び、1997年に東京支社を開設。マスタリング・エンジニアとして数多くのCD制作にかかわる

今の時代に音楽が売れるための4つの要件

──前田さんのツィッターを拝見すると、ストリーミングやハイレゾ配信には否定的で、ブルーレイ・ディスクを強力に推していますが、どんな理由からなのでしょうか?

オレ、本当はどれでもいいのよ……ストリーミングだろうが、ハイレゾだろうが、USBメモリーだろうが、この業界が潤えば何でもいいの。今はみんなお金が無くていいものが作れていないから、ちゃんと売れるものを作ってお金が回ってくるようにしよう、音楽業界を再生させましょうって言っているだけなの。

──前田さんが考える、“今の時代にちゃんと売れるもの”とはどんなものでしょうか?

ちゃんと売れるためには4つの要件がある。1つ目を説明する前に、なぜ音楽が売れなくなったかなんだけど、日本の音楽ソフトの売上ピークは1998年で、6千億円あったのが、2014年には3千億円を切るくらいまで落ちているのね。その直接の原因は1999年にCD-RドライブがPCに付いたことによって、みんなが手軽に音楽をコピーしてCD-Rに焼けるようになったからなんだよ。それから音楽業界は下降を始める。だからちゃんと売れるものってまずは“コピーしにくい”というのが必須条件。間違えちゃいけないのは“コピーをさせない”じゃなくて“コピーがしにくい”こと。団塊の世代の人たちはそこで間違えてコピーコントロールCDをやっちゃった。“コピーするな”じゃダメで、“コピーしにくい”じゃなきゃいけない。それが1つ目の要件。

──なるほど。では、2つ目の要件とは?

パッケージでなければいけない。2003年にアメリカでiTunes Music Storeがスタートして、2005年には日本にも上陸した。もう、10年以上も続いているのに音楽業界はだれも豊かになっていないのね。完全に失敗なわけよ。去年の世界の音楽市場って1位がアメリカで、2位が日本、3位がドイツ。日本とドイツの方がイギリスとかよりも売上がいいのはパッケージが売れているから。ドイツも日本もCDの売上が60%以上を占めている。CDだと付録も付けられるし、数種類のパッケージを作り分けることもできるのが大きいんだよね。ダウンロードだとそういうのは何もできないから。

──しかし、アメリカではCDは壊滅し、その次を担うビジネスとしてダウンロード配信やストリーミングが台頭してきたわけですよね?

その考え方が間違っている。なぜアメリカを見るの? ドイツと日本でパッケージが売れ続けているのはハードウェアと結びついていたから。CDを開発したのは日本のソニーとオランダのフィリップスで、日本では国内のハードウェア・メーカーとレーベルが、ドイツはグラモフォンなどのレーベルがフィリップスと一緒にCDを根付かせていった。ハードウェアと一緒に音楽を作っていた国はパッケージ・メディアが根付いているんだよ。

──アメリカではそういう結びつきがないと?

うん、ハードウェア・メーカーが無い。あるのはアップルだけ。だからみんなそっちに行っちゃっているわけ。

──要件の3つ目は何でしょう?

映像と一緒でなければいけない。日本は昔から歌謡テレビ文化が根付いている。小さいころからNHK「いないないばぁ」を見て、歌謡番組で育つ。だから映像と音楽が常にリンクしている。それに日本人ってアメリカ人と比べて音楽が好きじゃないのね。アメリカ人は本当に音楽が好きなんだよ。だからiTunes StoreとかApple Musicのように音楽だけでも大丈夫なの。でも、日本は映像が無いといけない……極端に言うと日本人は音楽なんかどうでもいいと思っている。DVD付きCDって成立しているのは日本だけだもん。アメリカでビヨンセがDVD付きCDとか作っても全然当たらない(笑)。

──うーん、音楽好きの日本人としてはうなずき難い意見ではありますが、最後の4つ目の要件も教えてください。

今、ほとんどのリスナーが音楽を何で聴いているかというと、どう考えてもスマホだよね? そしてその6割がアップルのiPhoneなんだから、iPhoneに入れられるものでないといけないっていうのが4つ目の要件。それって実は昔から変わってない。アナログ・レコードの時代からレコードを聴いているやつなんてそんなにいなかった。みんなカセットにダビングしたものを聴いてたもん。携帯可能なメディアって利便性が高いから強いの。だから、そこへのキーとなるものをちゃんと作ればいい。

──以上の4つの要件……(1)コピーしにくくて、(2)手に取れるパッケージで、(3)映像が付いていて、(4)iPhoneに入る、のすべてを満たしているのがブルーレイだということでしょうか?

うん、それしかないんだもん。ブルーレイだとオリコンの総合チャートにも入るしね。USBメモリーでまかなえるならそれでいいんだけど、そうじゃないから。だってUSBメモリーはiPhoneに直接挿さらないし、PCを持っていない人も増えているんだから、中に入っているデータを転送することさえできない。

──ブルーレイだとiPhoneに転送できるのですか?

できるよ。ウチのスタジオでオーサリングまでやっているゲーム「ファイナルファンタジーXIV」の映像付サウンドトラックでは、家庭内LAN経由でMP3ファイルがスマホにダウンロードできるようにしてある。ディスク自体には24ビット/96kHzのハイレゾ音源も収録してあって、BDプレーヤーでかけるとそのクオリティで再生されるんだけど、生データはダウンロードとかコピーができないようにしてある。それに転送する方法だとJASRACも2倍課金してこないからね。

──その仕組みを利用するためにはBDプレーヤーがLANに接続されている必要がありますが、それはユーザーにとってハードルが高くないでしょうか?

BDプレーヤーで一番台数が出ているのは、ソニーのPlayStation 3とPlayStation 4なんだけど、それを持っている人は絶対ネットワークにつないでいる。コンシューマーは順応性が高いから、つながないといけないとなるとみんなつなぐんだよ。だって、2歳の子供がタブレットをいじる時代だよ、使えないとか言っているのは爺さんだけ(笑)。

ブルーレイ・ディスク『BEFORE THE FALL』にはMP3ダウンロード機能が用意されている。ユーザーは画面に表示されたURLに家庭内LAN経由でアクセスすることで、スマホやPCにMP3の音源をダウンロードすることができるのだ

ブルーレイ・ディスク『BEFORE THE FALL』にはMP3ダウンロード機能が用意されている。ユーザーは画面に表示されたURLに家庭内LAN経由でアクセスすることで、スマホやPCにMP3の音源をダウンロードすることができるのだ

 

音楽はスマホで聴くもの。テレビは見るためのもの。

──前田さんがマスタリングとオーサリングを手掛けた「ファイナルファンタジーXIV」のブルーレイは、セールス的に成功したのでしょうか?

うん。去年にリリースした『A REALM REBORN』は4万枚売れた。で、今年の8月26日に発売される『BEFORE THE FALL』は既に予約で1万枚を超えているから、さらに売れるんじゃないかな。

──売れたのは、やはり先の4つの要件を満たしていたからでしょうか?

もちろんそれもあるけど、サウンドトラックを作っている祖堅(正慶)君のクリエイティビティというか発想力も大きい。彼はファンが欲しいものをちゃんと理解して作っているからね。

──例えばどんなことでしょう?

『A REALM REBORN』には100曲以上入っているんだけど、実際のゲームでプレイヤーは最初に国を選んでから始めるので、音楽の流れる順番は人によって違うわけね。その体験は大切にした方がいいからって、祖堅君は“国ごとのプレイリストを作りましょう”って言ってくるわけよ。ブルーレイだとそういうことができるわけ。音がいいとかカッコイイってもちろん大事だよ。でも、その前にファンが何を求めているのかに対してアーティストはもっと敏感になるべきってこと。

──ブルーレイのポテンシャルについては理解できましたが、気になるのはPlayStation 3とPlayStation 4を含むほとんどのBDプレーヤーがテレビに直接つなげられていて、満足の行く音質で再生されないことです。それについてはどう考えていますか?

それはみんなに言われるけど、いつも“お前、バカか? 音楽をテレビで聴くかよ!”って言い返してる。音楽はスマホで聴くものなの。だから音楽をじっくり聴きたければスマホに入れればいいのよ。テレビは見るものなんだから、それで音楽をじっくり聴くわけないじゃん。

──そこまで割り切っているのですか!?

もちろん! で、高級なBDプレーヤーもあって高級なオーディオにつないでいる人もいる。その人たちはそれでハイレゾの音を楽しめばいい。普通の人はテレビで映像を楽しんで、スマホで音楽を楽しめばいいの。

──うーん、そうですか……。もう1つ気になるのは、現在のCDがそうであったように、ブルーレイというメディアも急に衰退する危険性があることですが。

ブルーレイはハリウッドが牛耳っているものだから簡単にはなくならないよ。映画業界が自分たちの権利を守るためにお金をつぎ込んでいるんだから、30年くらいは続くメディアになるね。

──だから音楽業界もそれに寄り添って作っていけばいいと?

そういうこと。ブルーレイは単に映像と音楽が再生できるディスクだけじゃなくて、ネットワーク経由で後でコンテンツが追加できたり、それこそ買い物することだってできる。コンテンツを運ぶハコであり、コンテンツにアクセスできるキーなの。だからアーティストや制作サイドはその機能を生かすことを考えなくちゃいけない。これまでの作り方と違うわけだから抵抗がある人もいるだろうけど、それが受け入れられるかどうかでアーティストの将来が変わってくるね。また祖堅君の例だけど、昨年12月に彼は『From Astral to Umbral』っていうブルーレイを出したんだけど、それは当初「ファイナルファンタジーXIV」のピアノ・アレンジものっていう企画だったのね……ピアノ・アレンジものって売れるからさ。でも、祖堅君はバンド・アレンジをやりたがっていて、じゃあ、一緒にしちゃえと。自分の曲を別のアレンジャーに渡してピアノ演奏されたものと、自分自身がバンドでやったものを一緒にするなんて、普通のアーティストだったら嫌がるよね。でも、それを両方入れたわけよ。で、その2つを好きに切り替えられるようにしたり、ピアノ・アレンジの方では音声を演奏者の後ろのマイクだけとかアンビエンスだけとかに切り替えられるようにしたりと、いろいろ機能を盛り込んだの。

──そのように音だけでなく映像も、さらにはある種のマルチメディア的なコンテンツまで作るとなると、インディペンデントなアーティストやレーベルがブルーレイ作品を作るのは敷居が高そうですよね。

うん。でも、CDも最初はそうだった。だからここはメジャー・レーベルが頑張ってお手本を示していかないと。年度内にはロック・バンドのスゴイやつを出せると思う。そういうのって何が出るんだろうってワクワクするじゃん。それそれ。

 

ハイレゾ配信に反対する2つの理由

──前田さんがブルーレイを推す理由は分かりましたが、ハイレゾ配信に対して否定的なのはなぜでしょう。

2つの点で反対してるんだよ。1つは音がいいとかっていうのはお金ができてからの話ってこと。だって、自宅でヘッドフォンを使ってミックスしてきたものを、“24ビット/96kHzのハイレゾです”って持って来られても、1990年代に大きなスタジオでSONY PCM-3348とコンソールを使って作った音源の方がクオリティ高いからね。……ホント、ウチのスタジオにもヘッドフォンでミックスしたようなのがいっぱい持って来られるのよ。それを再生すると持ってきた人が“こんなに低音出てましたっけ!?”ってビックリするわけ。ちゃんとしたモニターでミックスしてないから聴こえてないのね。

──制作側のクオリティが落ちているから、ハイレゾは無意味であると?

いいものを作ろうと思うと時間はかかるし、それなりの技術力も必要。なのに現状では制作費がどんどん減らされているわけだからね。お金が無いからって44.1kHzからのデジタル・アップ・コンバートもザラ。“CDの予算なんですけど、ハイレゾまでできますか?”ってできるわけがない。だからデジタル処理のアップ・コンバートでいいですかと提案すると、“それでお願いします”と言われる。目茶苦茶。

──制作費が少ないのが問題だということですね。

でも、アーティストやレーベル側にも問題はあるよ。みんな30年もの間ずっとCDを作っていたから、CDを作るアタマしかないの。画家が30年間同じ大きさのキャンバスに絵を描いていたようなものだから、ハイレゾとか言ってすごく大きなキャンバスを渡されて困っている……やたら隙間の多い絵になっちゃうわけ(笑)。制作側がハイレゾを楽しんで聴いていないわけだから当たり前だよね。

──前田さんがハイレゾ配信に反対しているもう1つの理由とは何でしょう?

マスターのファイルは渡しちゃいけないから。1982年にCDの生産が開始され音楽業界が盛んになったのは、過去の音源を売ったから。過去の音源を売らないと音楽業界は豊かにならないんだよ。それなのに“マスター・クオリティ”とか言ってコピー・ガードが付いていないハイレゾのファイルを売っちゃったら、20年後に売るものがなくなってしまうよ。だから、ゲスの極み乙女みたいに才能のあるバンドの制作サイドには、“彼らの音源は20年後も価値があるから、今、ハイレゾのファイルをばらまくようなことはしない方がいいよ”って言って、作っていない。ホント、マスターを渡すバカがどこにいるんだよ……。歳が上の人たちはあと4~5年売り切って引退すりゃいいんだろうけど、こっちはゴメンだよ。

──今日うかがった、ちゃんと売れるもの作るための4つの要件は、日本を前提にした話だと思うのですが、アメリカでは今後どうやってビジネスをやっていこうとしているのでしょう? バーニー・グランドマン・マスタリングはアメリカのハリウッドに本社があるわけですから、そのあたりの事情もご存じだと思うのですが。

アメリカはライブだね。そのためのプロモーション・ツールとしてSpotifyとかApple Musicのストリーミングがある。アメリカでのソフトの売上ってもはや日本と同じくらいの規模になってしまってきている……あれだけの数のアーティストがいて、あれだけ素晴らしい人材がいるのに、日本と同じ規模ってあり得ないじゃない?

──アメリカではもはや音源を売るビジネスは終わっていると。

うん、もうムリだね。でも、今はアナログ・レコードがブームになっている。若い奴らがアナログが楽しいと思っているから、ウチのハリウッドのスタジオも今はアナログのカッティングで大忙し。バーニーもSCULLYのカッティング・マシンを取っておいて良かったって言ってた(笑)。たくさんのバック・オーダーを抱えていて、2台のカッティング・マシンが24時間フル稼働しているよ。

ハリウッドにあるバーニー・グランド・マスタリング本社にてアナログ・カッティングを行う創業者のグランドマン氏

ハリウッドにあるバーニー・グランド・マスタリング本社にてアナログ・カッティングを行う創業者のグランドマン氏

──アナログのカッティングには制作費がかけられているということですね?

そう、CD制作とは別のプロダクトだから違う予算が付いている。作っているのもレーベルじゃなくて販売店だったりすることもあるし、アーティストが切りたがるから、自分のポケット・マネーだったり事務所がお金出したりしていることも多い。

──アメリカでは映像と音楽をセットにしたパッケージの可能性はないのでしょうか?

アメリカは映画業界が強いから映像と音楽は別なんだよ。映像の方が圧倒的に強くて、音楽を見下している。ポストプロダクションの会社も強くて、アメリカにはウチみたいにブルーレイのオーサリングまでしているようなマスタリング・スタジオは無い。そこには入り込めない。だから音楽だけのプラットフォームに特化していくしかないわけ。そういう意味でも日本はアメリカの真似をする必要はない。さっきの4つの要件を満たすプロダクトを作ればいいんだよ。別にストリーミングをなくせって言っているわけじゃないよ。コンシューマーの方が柔軟だからそういうのも無いと困る。でも、それとは別に、これまで売上のメインだったCDがもう無理なんだから、それに代わるスタンダードを作って、もっとクリエイティビティあふれるものを作りましょうよってことなんだ。

 

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