TBアーサーことジェイ・アハーンが語る IRRUPTサンプル・ライブラリーの真髄

レポート by 梨本裕貴 2018年10月31日

TB_ARTHUR

ベルリンを拠点に活動するアシッド・ハウスのプロデューサーTBアーサーが、この9月末に来日。TBアーサーはサンプル・パックなどを扱うメーカーIRRUPTの主宰者、ジェイ・アハーンの活動名義の一つとして一部では知られているものの、これまで彼自身がそれを公言したことはなかった。今回、初めてTBアーサー=ジェイ・アハーンであることを認めた上で、インタビューに応じてくれたアーサー。彼のパーソナリティはもちろん、IRRUPTではどのような理念で製品を作っているのか聞いてみた。

 

名声を得るより純粋に音楽制作を楽しみたい

──“TBアーサー”は、あなたの複数ある名義の一つだそうですね。
 
TBアーサー 実は20個以上のアーティスト名を持っていて、その中で一番人気が出たのがTBアーサーなんです。テクノ・シーンでは1990年代からアーティストの出身や名前などを隠して、ミステリアスさを演出する文化があります。私はアメリカ出身なのですが、“シカゴ出身の謎のアーティスト、TBアーサー”として活動し始めました。

──なぜ名義分けをして活動しているのでしょうか?
 
TBアーサー 有名になって名声を得ようというより、純粋に音楽を制作したりプロデュースするのが好きなので、こういった活動形式を取っているんです。私からさまざまなアーティストが生み出されていくという感覚で、名義によって作風が異なっています。でも親しい友人には、私が作ったサウンドだとバレてしまいますけど(笑)。

──あなたのトラックは、特に芯のあるウォブル・ベースが特徴だと思います。どのような機材を使っているのですか?
 
TBアーサー ROLAND MC-202を使っています。ベースにはクラシックかつモダンなサウンドを求めているのですが、さまざまなシンセサイザーを使用した中でMC-202が一番適していたんです。独特なUKのウォブル・サウンドが出せて、クラブ映えもします。シーケンサーにはINTELLIJEL DESIGNS Metropolisを使用していますよ。

▲ベース・サウンドのかなめになっているというROLAND MC-202

▲ベース・サウンドのかなめになっているというROLAND MC-202

──エレクトロニック・ミュージックを作る上で大切にしていることは?
 
TBアーサー ライブでのパフォーマンス性、そして人間性を楽曲に反映させること。ロック・バンドを見て育ってきた影響かもしれません。

──確かにロック・スピリッツを感じますが、意外でした。
 
TBアーサー 高校生のときはバンド活動もしていましたよ。一番影響を受けたのはマッシヴ・アタックで、『ブルー・ラインズ』は神がかり的に素晴らしい作品でした。ソニック・ユースやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインも大好きです。これらのオリジナリティにあふれたバンドの作品を聴いて、私の感性は養われたと言ってもいいでしょう。コラボレーションが好きなのもそのバックグラウンドが大きいのかもしれないです。

──ところで、TBアーサー名義のアナログ盤、『私はACIDを話します』のジャケットと同じデザインのグッズも、最近では注目を集めていますね。
 
TBアーサー 私が所属するレーベルのハードワックスからリリースした『JE PARLE ACID』の直訳です。2016年の初来日時にDOMMUNEでこのTシャツを着てライブをしたら、思っていた以上に反響があったんです。今ではオリジナルのフランス語版より日本語版の方が人気があって、このデザインを誇りに思っています。ベルリンのテクノ・シーンは硬派な雰囲気なのですが、私はその中にちょっとした“遊び”を入れることが好きで、このデザインもその一環として行いました。

▲イベントでステッカーを配布することもある

▲イベントでステッカーを配布することもある

 

実際に手で触れるアナログ機材が好き

──今回はマグダとのコラボ・ユニット=Blotter Traxのライブがきっかけで来日されましたが、どのような経緯で彼女とコラボレーションすることになったのですか?
 
TBアーサー 共通の友達が私の楽曲をマグダに紹介して、興味を持ってくれたマグダが連絡をくれたんです。お互い忙しくてなかなか時間が合わせられなかったので、私のスタジオでライブ・レコーディングを行いました。マルチトラック・レコーディングは多くの時間が必要ですから。アナログ・テープ・レコーダーのMCI JH110Cに録音しました。

▲Blotter Traxのレコーディングで使用されたMCI JH110C(撮影:Yuko Asanuma)

▲Blotter Traxのレコーディングで使用されたMCI JH110C(撮影:Yuko Asanuma)

──昔ながらの手法ですね。アナログに対してのこだわりを感じます。
 
TBアーサー 自分の手で実際に触ることが好きなので、アナログ機材には思い入れがあります。ハードウェアのシンセも多く所有していて、中でもEurorackモジュラーが好きです。Superboothを主催しているアーノルド・シュナイダーと仲が良くて、彼のショップ、シュナイダーズラデンでいろいろなメーカーのシンセを買っています。ハードウェアはソフトウェアよりもCV/Gateのレスポンスが速い点が気にいっているんです。

──最近お気に入りの機材は?
 
TBアーサー リズム・マシンのROLAND TR-808、シンセサイザーのROLAND System-100M、セミモジュラーのMAKE NOISE 0-Coastです。その中でもアメリカ西海岸のシンセ・サウンドを持つ0-Coastは、エクスペリメンタルなサウンドが作れるから気に入っています。近代的なEurorackとビンテージ・シンセを組み合わせたようなサウンドなので、本名のジェイ・アハーン名義で主宰するメーカー=IRRUPTのサンプル・パックの制作にも使えるんです。

▲TBアーサー所有のROLAND TR-808。奥に見えるのはTIPTOP AUDIOの電源ケースに収納されたEurorackモジュラー・シンセ群

▲TBアーサー所有のROLAND TR-808。奥に見えるのはTIPTOP AUDIOの電源ケースに収納されたEurorackモジュラー・シンセ群

 

サンプル・パックを使う人が主役でいてほしい

──IRRUPTはどのようなメーカーなのでしょうか?

TBアーサー 良質なアナログ・サウンドを簡単に使えるサンプル・パックをリリースしています。日本でもアシッド・ハウス向けのサンプル・パックがSONICWIREで扱われています。自社製品だけではなくNATIVE INSTRUMENTS Komplete/Maschine用にCarbon DecayというEXPANTIONを提供したりもしているんですよ。

▲SONICWIREでのみ販売されているIRRUPT Modern Acid

▲SONICWIREでのみ販売されているIRRUPT Modern Acid


 
▲NATIVE INSTRUMENTSのEXPANTION、Carbon Decayも手掛けている

▲NATIVE INSTRUMENTSのEXPANTION、Carbon Decayも手掛けている

──IRRUPT製品はあなたが一人で制作しているのですか?
 
TBアーサー いえ、人に頼むこともあります。私が信頼したプロデューサーにのみに依頼しているので、大体は良いものが仕上がってきますが、最終的なチェックは私がしています。電話で要望を伝えることもありますね。

──サンプル・パックを制作する上での理念を教えてください。
 
TBアーサー サンプル・パックを使う人が主役でいてほしい。IRRUPTが扱う製品の中には世界で活躍するビッグ・ネームが作ったサンプル・パックもあるのですが、そういった理由でアーティスト/クリエイターの名前は伏せています。

──無意識にサンプル・パックを作ったアーティストの作風に寄せてしまうから?
 
TBアーサー そうです。IRRUPTを始める前はBeatport(エレクトロニック・ミュージックに特化したストリーミング&ダウンロード・サービス)で働いていたのですが、トップ・チャートの70%が有名なプロデューサーが作ったサンプルを使用した曲で、実際にその傾向を感じました。なのでIRRUPTからはクリエイティビティを刺激できるようなサンプル・パックを出していきたいと考えています。

──楽曲にオリジナリティを持たせるために、どのような姿勢が必要だと思いますか?
 
TBアーサー 楽曲制作を楽しんで、そしてクリエイティブにいてください。音楽にルールはありません。感銘を受けたものは、すべて自分の楽曲に取り入れていきましょう。

 
TBアーサー(bandcamp)
https://tbarthur.bandcamp.com/

SONICWIREのIRRUPTページ
https://sonicwire.com/product/sample/maker/156893
 

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