細野晴臣が40年ぶりに中華街でライブを開催!

レポート by 國崎晋(サウンド&レコーディング・マガジン編集部) 2016年5月13日

40年ぶりに横浜中華街でライブを行った細野晴臣

40年ぶりに横浜中華街でライブを行った細野晴臣

1976年5月8日、横浜中華街の名店、同發新館において、細野晴臣は“ハリー細野& TIN PAN ALLEY IN CHINATOWN”と題したコンベンション・ライブを行った。同年4月に発売したシングル「北京ダック」と6月からスタートする“パラダイス・ツアー”のプロモーションを目的に開催されたもので、メディアやディーラー、そして谷川俊太郎や加藤和彦といったオピニオン・リーダーを招き、中華料理のフルコースをふるまいつつ演奏を披露するという豪華な企画であった。演奏メンバーは、鈴木茂(g、banjo)、林立夫(ds)、矢野顕子(a.p、cho)、坂本龍一(e.p)、田中章弘(b)、浜口茂外也(perc、fl)、村岡建(sax)、羽鳥幸次(tp)、新井英治(tb)というこれまた豪華な面々(ちなみに坂本龍一と矢野顕子はこのときが初共演だった)。そんな手練れのミュージシャンをバックに、細野は得意とするギターやベースを手にすることなく、ボーカルとマリンバを担当。前年に発表した『トロピカル・ダンディー』、そしてこのライブの2カ月後に発売となる『泰安洋行』という、トロピカル三部作の最初の2枚に収録された曲を中心に演奏していった。幸いなことにこの日の模様は撮影/録音されており、2007年にリリースされた『ハリー細野 クラウン・イヤーズ1974-1977』というボックス・セットには全演奏を収録したCDと一部の映像を収録したDVDが入っている。また、昨年発売された「SWITCH SPECIAL ISSUE~70′S VIBRATION YOKOHAMA」の付録DVDにも同じ映像が収められており、それらを聴いたり見たりすることにより当時の様子のかなりの部分を知ることができた。

そんな伝説のライブからちょうど40年をへた2016年5月7日と8日の2日間、場所も同じ同發新館において細野晴臣が“A Night in Chinatown”と題したライブを行った。今回はコンベンションではなく一般に向けてチケットを販売。中華料理フルコースこそ用意されなかったものの“お土産付”とアナウンスされ、何より伝説のライブを追体験したいという熱心なファンから申込みが殺到したことで、プレミアム・チケットとなってしまった。幸運にも初日のライブを見ることができたので以下にレポートしていこう。

40年前と同じ同撥新館にて演奏

横浜中華街の中華街大通りに面した老舗・同撥新館

横浜中華街の中華街大通りに面した老舗・同撥新館

同發新館はもともと映画館だったという場所で、40年前の映像を観るとヤシの木やよしずなどが随所に配置されエキゾチックな雰囲気が漂っていたが、それを期待して会場に入るとかなり拍子抜けする。中華料理店の宴会場といった趣なのだ(当たり前か……)。それもそのはず、40年前のエキゾチックな雰囲気は、当時のマネージャーであった長門芳郎氏や日笠雅子氏らが東映撮影所からさまざまな調度品を借りるなど工夫をこらして実現させたものだったのだ。それでも円卓がどかされパイプ椅子が整然と並べられた客席はステージとの距離がとても近く、最前列の観客の方が緊張してしまうほど。観客というよりは演奏者と同一平面、同じ空間に居る“目撃者”という感が強まる。客入れのBGMはマーティン・デニー。YMOもカバーした「Fire Cracker」や「SUKIYAKI(上を向いて歩こう」といった曲が流れ、いやが応でも期待が高まる。定刻を少し過ぎた18時15分ころ、ステージ奥の幕がめくられメンバーが次々と登場する。今回の演奏者は最近の細野サウンドを支える高田漣(g、steel g)、伊賀航(b)、伊藤大地(ds)、コシミハル(p)に、40年前も出演した林立夫が加わる形が基本だ。最後に登場した細野はボーダーのパーカーにニットキャップといういでたちで、“アソビ好きなお爺ちゃん”と言いたくなるような雰囲気を醸し出す。細野は今回はボーカルとギターを担当し、前回のマリンバの代わりにYMOのステージでもよく使用している小型のシロフォンが置かれていた。

左から伊藤大地(ds)、高田漣(g、steel g)、伊賀航(b)、細野晴臣(vo、g)、コシミハル(p)

左から伊藤大地(ds)、高田漣(g、steel g)、伊賀航(b)、細野晴臣(vo、g)、コシミハル(p)

前半はトロピカル三部作の曲を中心に演奏

拍手と歓声が飛び交う中、1曲目のカウントが始まり演奏……となるはずが、「ゴメン、違う曲だった」と細野が謝っていきなり中断。場内の空気が一気に和らぐ中、あらためてカウントされて始まったのは40年前も演奏した「北京ダック」だった。冒頭に「横浜 光る街~」という歌詞のあるこの曲以上にふさわしいオープニングはないだろう。従来の演奏に比べてテンポがゆっくりで、サビの「慌てて逃げる~」も一拍おいてから入るという素敵なアレンジも施されていた。演奏が終わると同時に大きな拍手。40年ぶりの中華街ライブになったことを細野は当時も一緒に演奏した林立夫と懐かしもうとするが、実は二人ともよく覚えていない様子。「新館っていうから、新しいかと思った」と会場をくすぐった後、早々メンバー紹介。

2曲目に演奏したのは、これまた40年前にも演奏した「香港ブルース」。ホーギー・カーマイケルの曲だが、まるで自分のオリジナル曲のように歌いこなしている。随所でキメもしっかりと入っており、このライブに向けて綿密なリハーサルが行われたことがうかがえる。続いて演奏された「熱帯夜」も、40年前に披露された曲だが、林立夫と伊藤大地によるツイン・ドラムが実に端正なリズムを構築していた。4曲目の「Paraiso」は1978年にリリースされた『はらいそ』収録曲で、40年前にはまだできていなかった曲だが、トロピカル・シリーズのひとつの到達点とも言える作品で、今回、高田漣によるスティール・ギターの美しいハーモニーとともに会場を桃源郷のような雰囲気へと変えていった。

ここでトロピカル路線の曲を一区切りし、最近、細野が力を入れているカントリーの演目を6曲披露。最初に伊藤大地の口笛が素敵な「Heigh-Ho」を演奏した後、林はいったん退場。続いてはコシミハルと組んだユニット“swing slow”でもカバーした「Good Morning Mr. Echo」、さらには「I’m Fool To Care」「Pistol Pachin’ Mama」「Tutti Frutti」までを楽しそうに演奏した。

ゲストとして参加した星野源(左端)はマリンバを2曲演奏した後、ギターに持ち替えてジェームス・ブラウンの「Sex Machine」を演奏。隣の林立夫も伊藤大地とともにバウンシーなリズムであおっていた

ゲストとして参加した星野源(左端)はマリンバを2曲演奏した後、ギターに持ち替えてジェームス・ブラウンの「Sex Machine」を演奏。隣の林立夫も伊藤大地とともにバウンシーなリズムであおっていた

ゲストとして星野源と斎藤圭土(レ・フレール)が登場

「40年前にはいろんな人に来てもらった。矢野顕子、坂本龍一、鈴木茂……ゲストがいっぱい。でも今回は予算が無いのでいっぱい呼べない」と細野がMCで笑わせておいて、「その代わり素晴らしいゲストを」ということで呼び込まれたのが何と星野源! 40年前の細野のような白いいでたちで下手に用意されたマリンバの前に立つ。細野もシロフォンの前に移動し「一緒にやるか」と声掛けし、再度登場した林も加わりマーティン・デニーの「Fire Cracker」の演奏をスタート。YMOのアレンジとは違った原曲に近い形で、星野は細かなフレーズをキレのある演奏でこなしていく。演奏終了後、その達者な腕前に細野も思わず「うまい! 努力家だね」と称賛。星野は高校生のころに中華街ライブでマリンバを弾いている細野の写真を見てマリンバを始める決心をしたとのこと。そんなあこがれの人と中華街で共演が実現したことに感無量の様子だ。続いてもマーティン・デニーの曲であり、星野がかつて伊藤大地らと組んでいたバンド名の由来でもある「Sake Rock」を演奏。観客の手拍子もあおり、実に良い雰囲気に会場が満たされていく。「もう1曲やってもらえる?」との細野の依頼に応じて星野はエレキギターを持ち、細野もアコギに持ち替えてジェームス・ブラウンの「セックス・マシン」をカバー。伊賀航が今回唯一エレキベースを持ってグルービーなフレーズをたたき出す中、細野と星野が楽しそうに「ゲロンパ!」と掛け合った。

レ・フレールの斎藤圭土(右端)が参加したブギウギで細野もノリノリに

レ・フレールの斎藤圭土(右端)が参加したブギウギで細野もノリノリに

3曲を共に演奏した星野と林が退場した後に、今度はレ・フレールの斎藤圭土が登場。ラグタイム・ピアノの名手として知られる彼は、昨年から細野とは共演を重ねている。リズムもタッチも抜群なそのピアノに導かれるように、ブギウギ曲を立て続けに5曲披露して、会場のテンションはマックスとなった。斎藤がさっそうと引き上げると「最後は2曲のオリジナルで締めます。オリジナルを歌ってもカバーに聴こえると言われる……矢野顕子と逆ですが、うれしいです」と言って、テクノ期の細野ナンバーである「Sports Men」「Body Snatchers」をカントリー・アレンジで披露し本編は終了した。

鳴り止まないアンコールの拍手の中、本日の出演者すべてがステージに再登場し、『泰安洋行』に収録された「Pom Pom 蒸気」を全員で演奏して、2時間弱の夢のような時間は終了した。メンバーの演奏テクニックが優れているのはもちろんだが、決して広いとは言えない会場で、音を飽和させずに届けていたPAも見事であった。AVIDのデジタル卓とMEYER SOUND UPA-1Pを核としたシステムが使用されていたが、特に伊賀のアップライト・ベースのサウンドは終始ボトムを支え続け、実に心地良く響いた。

今回の中華街ライブは、6月にスタートする“港町ツアー”の規模と合わせて考えると、そもそもは『Heavenly Music』以来となる細野の新作リリースに合わせた形で計画されたものだったのかもしれない。だが、一向に新作がリリースされる気配はなく、このライブが発表されたときに“制作中の新作アルバムから数曲を披露します!」と告知されたがその約束も果たされなかった。それでもやはり細野のライブを中華街という異界の雰囲気の中、至近距離で見ることができたのは得がたい体験であった。40年前と比較してボーカリストとして円熟した現在の細野晴臣に来場したすべての観客は酔いしれ、お土産として渡された「妄想ジャケット画集」を手に、まだ夜はこれからといった面持ちで中華街をさまよい始めていった。

来場者にお土産として配られた妄想ジャケット画集「imaginary record covers」は、『泰安洋行』のイラストを担当したヤギヤスオ氏が、その裏ジャケット用にカメラマンの桑本正士士とともに制作した架空のレコード・ジャケット群と、アート・ディレクターの岡田崇氏が今回新たに制作したものを加えた構成。40年前のライブの資料や当時の関係者の話など、貴重な内容となっている

来場者にお土産として配られた妄想ジャケット画集「imaginary record covers」は、『泰安洋行』のイラストを担当したヤギヤスオ氏が、その裏ジャケット用にカメラマンの桑本正士氏とともに制作した架空のレコード・ジャケット群と、アート・ディレクターの岡田崇氏が今回新たに制作したものを加えた構成。40年前のライブの資料や当時の関係者の話など、貴重な内容となっている

set list 2016/05/07
1. 北京ダック
2. 香港ブルース
3. 熱帯夜
4. Paraiso
5. Heigh-Ho
6. Angel On My Shoulder
7. Good Morning Mr. Echo
8. I’m Fool To Care
9. Pistol Pachin’ Mama
10. Tutti Frutti
11. fire Cracker
12. Sake Rock
13. Sex Machine
14. Ain’t Nobody Here But Us Chickens
15. Down The Road A Piece
16. Beat Me Daddy, Eight To The Bar
17. Cow Cow Boogie
18. The House Of Blue Lights
19. Sports Men
20. Body Snatchers
en. Pom Pom 蒸気

 

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