会期はあと1カ月足らず! 札幌国際芸術際で見逃せないサウンド・インスタレーション

レポート by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 2014年9月2日

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坂本龍一がゲスト・ディレクターを務め「都市と自然」をテーマに行われている札幌国際芸術際2014 (SIAF2014)。サウンド&レコーディング・マガジンでは2013年9月号から8月号までの1年間、「skmt 2013 to 2314」と題した坂本のコラムを掲載し、SIAF2014については準備段階のころから何度も紹介してきた。既報の通り、坂本は病気のため参加予定だったプログラムやコンサートへの出演を見送らざるを得なくなったが、ディレクションの仕事は開催前に終えており、期待にたがわぬ質の高い作品が多く取りそろえられている。会期終了の9月28日まで1カ月を切ったが、サウンド&レコーディング・マガジン読者にとって必見のものが多いので、“音”がかかわる作品を中心に案内してみることにしよう。

●モエレ沼公園
「センシング・ストリームズ - 不可視、不可聴」坂本龍一+真鍋大度
「フォレスト・シンフォニー in モエレ沼」坂本龍一+YCAM Inter Lab

「センシング・ストリームズ - 不可視、不可聴」坂本龍一+真鍋大度
「センシング・ストリームズ - 不可視、不可聴」坂本龍一+真鍋大度

SIAF2014は幾つかの会場に分散して開催されているが、まず押さえておきたい場所がモエレ沼公園。イサム・ノグチがマスター・プランを作り上げたことで知られる公園で、そのモニュメント的存在であるガラスのピラミッドの中に、坂本がかかわった2つの作品が展示されているのだ。

1つはPerfumeの演出サポートやディレクションを手掛けるメディア・アーティスト=真鍋大度と組んだ「センシング・ストリームズ - 不可視、不可聴」。“電磁波を可視化・可聴化する”というコンセプトのもとに作られた作品だ。体験者はSONY PCLの手による幅7.2m×高さ3.9mという巨大な自発光型超高精細ビジョンの前に立ち、手前に置かれたGRIFFIN製ダイアル型USBコントローラーを操作することで、ガラスのピラミッド内および札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)に設営されたアンテナがキャッチした80MHz~5.2GHzの電磁波の中から任意の周波数を選択する。するとその周波数が受信している信号をもとにしたにグラフィックがビジョンに描かれ、サウンドもMUSIK ELECTRONIC GEITHAINのRL901Kから出力されるというもの。FMラジオから地上波デジタル、さらには携帯電話にWi-Fiという現代の生活に欠かせない周波数を含む電磁波が、暴力的とさえ言える映像と音に変換されることで、われわれが置かれている環境をまた違った気持ちでとらえざるを得なくなる作品である。

もう1つの作品は、既に坂本が山口情報芸術センター [YCAM]で発表した「フォレスト・シンフォニー」の新バージョン。さまざまな場所において計測した木の生体電位をリアル・タイムに音へ変換していく作品で、今回はモエレ沼はもとより、札幌市内、北海道内、さらには海外をも含む計11カ所において計測したデータを、計測地の緯度と経度を考慮して配置した11個の無指向性のスピーカーから再生。YCAMのホワイエで展示されていたときと比べ、閉じた空間に設置されていたためかスピーカー個々の音……それぞれの木の音をよりクリアに聴くことができるのがうれしいところだ。また、別のスペースには生体電位を計測する装置の実機が置かれシステムの解説がされるなど、より深く作品のテーマを理解できるよう配慮されているのも親切である。

「フォレスト・シンフォニー in モエレ沼」坂本龍一+YCAM Inter Lab
「フォレスト・シンフォニー in モエレ沼」坂本龍一+YCAM Inter Lab

●札幌芸術の森
「FOGSCAPE #47412」中谷芙二子
「unicolor」カールステン・ニコライ
「カッコウの巣」スーザン・フィリップス

「FOGSCAPE #47412」中谷芙二子
「FOGSCAPE #47412」中谷芙二子

続いて紹介したい会場は札幌芸術の森。坂本龍一が大貫妙子と『UTAU』を作り上げた芸森スタジオのあるエリアだが、その中心的な施設である札幌芸術の森美術館の中庭および手前の池を使い、霧の彫刻家=中谷芙二子の人口霧による作品が30分に一度、8分という長さで立ち現れる。音の作品というわけではないが、時間という枠があり、その中で常に形を変えるという意味では、とても音楽的に感じることができるものだ。移ろいゆく霧に見とれている内に8分という時間があっという間に過ぎてしまうことから、音楽を作っている人間なら時間というものについてさまざまな思いを巡らせてしまうことだろう。

札幌芸術の森美術館の館内では、アルヴァ・ノト名義でミュージシャンとしても活動するカールステン・ニコライによる新作「unicolor」に注目したい。2台のプロジェクターを使用して壁面に投影された幅16mの映像は、左右に配置された鏡によって無限とも思える空間に延長されていく様子がとても魅力的だ。“色”がテーマであり、それがどう知覚されるかをさまざまな色彩パターンによってテストされているような不思議な感覚がもたらされる。音もその色彩と同調するようなすべての周波数を含む音であるホワイト・ノイズを中心に静かに発せられていた。カールステン・ニコライは別会場である北海道立近代美術館でも、先の中谷芙二子の父、中谷宇吉郎が行った雪の結晶研究に感銘を受けて制作した「snow noise」という人工雪の作品も展示し、そこでもランダム・ノイズ発生器を使ったホワイト・ノイズによりあたかも作品を浄化しているような空間を作り上げていた。

「unicolor」カールステン・ニコライ
「unicolor」カールステン・ニコライ

札幌芸術の森美術館から少し離れたところに、野外美術館という7.5ヘクタールという広大な敷地を使った彫刻の展示施設があるのだが、その中の「北斗まんだら」という作品が置かれた小さな森で、スーザン・フィリップスの「カッコウの巣」というサウンド・インスタレーションが展示されている。旧式のホーン型スピーカーを6つ木にくくりつけてサラウンド空間を作り出し、中世イングランドのカノン「夏は来たりぬ」を自身で多重録音した6声の歌として流すこの作品、サウンド・インスタレーションというと聴こえるか聴こえないかくらいの繊細なものが多い中、ホーン型スピーカーの特徴である声の遠達性の高さゆえ、木々の間から明瞭な歌声が響いてくるさまは爽快ですらあった。そのメロディは一度聴いたら耳から離れず、札幌芸術の森エリアのほかの場所に居ても、幻聴のように聴こえてくるほどだ。

「カッコウの巣」スーザン・フィリップス
「カッコウの巣」スーザン・フィリップス
スーザン・フィリップスの「カッコウの巣」が設置された野外公演の「北斗まんだら」
スーザン・フィリップスの「カッコウの巣」が設置された野外公演の「北斗まんだら」

 

【その他の会場】

●札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)
「DesktopBAM」エキソニモ
●北海道庁赤れんが庁舎
「伊福部昭・掛川源一郎」展
●札幌市資料館
「都市空間のサウンドコンペティション」

「DesktopBAM」エキソニモ
「DesktopBAM」エキソニモ

SIAF2014はほかにもいろいろな会場で開催されているのだが、その中から面白いものをピックアップしておこう。札幌駅から大通駅に通じる約500mの札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)では「センシング・ストリームズ」と題した特別展示が行われ、山川冬樹や毛利悠子などさまざまなアーティストが参加していたのだが、その中で見入ってしまったのがエキソニモの「DesktopBAM」。APPLE MacBookの“カーソルの動きをプログラミングした作品”で、いろいろなリズム・マシンのキットの音を1つ1つ別のファイルとしてQuickTime Playerで開き、タイミングをきちんと合わせて再生することでリズム・パターンを作ったり、はたまたブレイク・ビーツを作ったり、人間が手でトラックパッドやマウスを動かしたのでは絶対に不可能な操作を行うことで、なぜか音楽的な作品へと昇華していくというもの。見ているとついつい笑ってしまうほど楽し作品である。

それとは対照的に実に重厚なのが、北海道庁赤れんが庁舎で開催されている「伊福部昭・掛川源一郎」展。北海道で育ち、映画『ゴジラ』の音楽を作ったことで知られる伊福部昭と、1950年代に土門拳らのリアリズムに影響を受け、北海道における社会派カメラマンとして活躍した掛川源一郎という、土地にゆかりのある2人をフィーチャーしたもので、伊福部による「ゴジラのテーマ」の直筆スコア譜(!)の展示や、音楽を手掛けた中谷宇吉郎制作による科学映画『霜の花』の上映が行われている。赤れんが庁舎という歴史的な建造物に非常にマッチした内容で、その重みを存分に感じ取ることができた。

「伊福部昭・掛川源一郎」展が開催されている北海道庁赤れんが庁舎
「伊福部昭・掛川源一郎」展が開催されている北海道庁赤れんが庁舎

歴史的な建造物としてはもうひとつ、札幌市資料館も展示会場として使われている。SIAF全体のインフォメーション・センター的な機能も果たしている場所であり、そこでは「都市空間のサウンドコンペティション」の入選作品の展示・再生が行われている。前出の坂本のコラムでも紹介したが、このコンペティションはSIAF2014のテーマに合致し、なおかつ都市の公共空間にふさわしいサウンド・ロゴを広く募集したもの。グランプリとして選ばれた渡邉和三郎の作品はアイヌの伝統楽器トンコリをフィーチャーした作品で、その響きはチ・カ・ホをはじめとする幾つかの会場で非常に印象的な音として耳に残る。札幌市資料館のエントランスでは、そのグランプリ作品を含めた6つの入選作のロング・バージョンがGENELEC 6010Aを用いて再生されているが、いずれもクオリティの高いものばかりで、クラシカルな雰囲気の中で聴くのは格別の体験である。

札幌市資料館エントランスでは「都市空間のサウンドコンペティション」の入選作をリピート再生している
札幌市資料館エントランスでは「都市空間のサウンドコンペティション」の入選作をリピート再生している

以上、サウンドに関連した作品を幾つか紹介してきたが、もちろんSIAFはそれに特化した芸術祭ではない。ほかにも魅力的なアート作品が多いので、ぜひとも会期中に札幌を訪れてほしい。作品をゆっくりと楽しむには最低でも2日間は必要。できれば2泊して、札幌の魅力である食もゆっくり堪能する旅程を組むと良いだろう。

 

 

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