【プライベート・スタジオ2017】上地等(BEGIN)のequal studio

プライベート・スタジオ2017 by Text:iori matsumoto Photo:Takashi Yashima 2016年12月26日

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Pro Tools 12のクラウド・コラボレーションで
沖縄本島や石垣島とつながる都内のアトリエ

1990年にデビューした沖縄・石垣島出身の3人組のBEGIN。以来26年にわたって「恋しくて」「島人ぬ宝」「涙そうそう」「海の声」など多数のヒットを放ち、日本の誰しもが知るバンドでありながら、現在も故郷沖縄に根付いた活動を両立させている。今回訪れた上地等(k、vo)の都内の自宅にあるequal studioのほか、沖縄本島と石垣島にも拠点があり、なんとクラウドを使って制作を進めているというのだ。上地に自身のスタジオと、現在のBEGINの制作体制について聞いた。
 

24時間ピアノが弾ける環境を求めて

 「最初はここでレコーディングをするつもりはなく、24時間ピアノが弾ける環境が欲しくて。それで不動産屋に相談したら“都内では建てるしかないです”と言われ(笑)、一念発起して建てたのが10年前ですね。地下に造ったこともあって、この近辺はかなり閑静ですが、苦情が来たことはないです」

 それが次第に機材が増えてきて、録音にも使われるようになってきたのはなぜか? 上地が説明してくれた。

 「例えば比嘉栄昇(vo、g)が沖縄に居て、僕と島袋優(g、vo)が沖縄に行ったり、栄昇が東京に来たりしてレコーディングしていたんですが、徐々にデータを送り合って作業することも増えてきて。そういう必要性に迫られて、システムが出来上がっていきました。ギターと歌とピアノくらいは録れて、3人でリハーサルができる環境はそろえておきたいと思ったんです」

 上地自身は、デビュー後にOPCODE Visionでデモ制作などを行っていたそうだが、当時はまだCPUベースDAWの萌芽期であったため、BEGINの制作においてはあくまでデモ作りにとどまっていたそう。現在メインで使っているAVID Pro Toolsは、2001年から。沖縄本島での制作合宿にあたって当時のDIGIDESIGN MBox+Pro Tools LEを導入し、今に至る。

 「当初はまだデモ作り用で、本番はスタジオに入っていました。2014年に栄昇が沖縄本島から石垣に帰って、僕らも手伝って石垣にもスタジオを作ったんです。そんな環境が整ったので、思い切って顔を合わせずに録音してみようという話が持ち上がりました。後輩ミュージシャンの迎里中(むかいざと あたる)がエンジニアリングに詳しいので、僕と優がここで、栄昇と中が石垣で、ファイル便でやり取りして制作したんです」

 そうして完成したアルバムが『Sugar Cane Cable Network』(2015年)。石垣島に台風が来てスタジオの電線が切れてしまい、比嘉がポケットWi-Fiで一日かけてファイルを落としたりしたそうで、「俺たちは光ファイバーじゃなくてサトウキビ(Sugar Cane)くらいだよねという意味でタイトルを付けた」と上地は笑うが、実際のやり取りではファイルの頭がずれるなど、ネットでのファイルのやり取りでよく起こるトラブルに悩まされることが多かったそうだ。

 BEGINが2015年にデビュー25周年を迎えたのを期に、上地はソロ・アルバム『48(よんぱち)』を制作し、2016年に発表した。その際、迎里やタックシステムから助言を得て、DAWシステムをAVID 003 Rackを中心としたCPUネイティブ・ベースのものからPro Tools|HDXへ増強し、マイクプリなども追加。equal studioでの録音クオリティが飛躍的に向上することになった。

 「マイクプリもタックシステムさんにいろいろ持って来ていただいて、試聴して決めましたね。もっとクリアなものもあったけれど、少し癖があるものの方がequal studioの個性になるんじゃないかと考え、PHONENIX AUDIO DRS-8 MK2を導入しました」
 

DAWソフトはAVID Pro Tools HD 12で、HDXカード1枚で運用。画面は作曲用のテンプレートで、ソフト音源としてSYNTHOGY Ivory 2(ピアノ)、NATIVE INSTRUMENTS Scarbee Mark 1(エレピ)、AIR DB-33(オルガン)が立ち上がっている。モニター・スピーカーはYAMAHA MSP7 Studio。以前は一回り小さなMSP5 Studioを使用していたそうだが「大きな方がこのスタジオにマッチしていた」とのこと。左のAPPLE iPadを使ってFacetimeでビデオ・チャットをしながら遠隔録音を進めていくそうだ。トラックボールの横にあるのはモニター・コントローラーのSM PRO AUDIO Nano Patch+。ちなみにこのデスクは上地が自作したもので、天板は石垣島から取り寄せたという

DAWソフトはAVID Pro Tools HD 12で、HDXカード1枚で運用。画面は作曲用のテンプレートで、ソフト音源としてSYNTHOGY Ivory 2(ピアノ)、NATIVE INSTRUMENTS Scarbee Mark 1(エレピ)、AIR DB-33(オルガン)が立ち上がっている。モニター・スピーカーはYAMAHA MSP7 Studio。以前は一回り小さなMSP5 Studioを使用していたそうだが「大きな方がこのスタジオにマッチしていた」とのこと。左のAPPLE iPadを使ってFacetimeでビデオ・チャットをしながら遠隔録音を進めていくそうだ。トラックボールの横にあるのはモニター・コントローラーのSM PRO AUDIO Nano Patch+。ちなみにこのデスクは上地が自作したもので、天板は石垣島から取り寄せたという


キーボード/コントローラーはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88。ソフト音源の操作体系を統一したいというのが導入の理由で、今後使用する音源はKontakt系もしくはNKS対応のものが中心となる見込みとのこと

キーボード/コントローラーはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88。ソフト音源の操作体系を統一したいというのが導入の理由で、今後使用する音源はKontakt系もしくはNKS対応のものが中心となる見込みとのこと


デスク下。右はThunderbolt接続のPCIeシャーシで、AVID HDXカードを収めている。左のラックには、リハ用のヘッドフォン・モニター・システムBEHRINGER Powerplay16の入力モジュールP16-I、TEACの電源モジュールAV-P25、リハ用スピーカーのパワー・アンプCLASSIC PRO CP400がスタンバイ

デスク下。右はThunderbolt接続のPCIeシャーシで、AVID HDXカードを収めている。左のラックには、リハ用のヘッドフォン・モニター・システムBEHRINGER Powerplay16の入力モジュールP16-I、TEACの電源モジュールAV-P25、リハ用スピーカーのパワー・アンプCLASSIC PRO CP400がスタンバイ


デスク右側には8chマイクプリのPHOENIX AUDIO DRS-8 MK2とAVID HD I/Oを用意(上にあるのは後述のマイクSA538Bの電源)。手前にあるのはBEHRINGER Powerplay 16のミキサーP16-Mで、メンバー分=3台を用意

デスク右側には8chマイクプリのPHOENIX AUDIO DRS-8 MK2とAVID HD I/Oを用意(上にあるのは後述のマイクSA538Bの電源)。手前にあるのはBEHRINGER Powerplay 16のミキサーP16-Mで、メンバー分=3台を用意


 

クラウド登場で“俺たちの時代がやってきた”

 そしてBEGINチームにとって決定的だったのが、2016年のPro Toolsクラウド・コラボレーション・サービスの提供開始だったという。

 「もちろん事前に情報は聞いていて、僕と中はとにかく“これだ! 俺たちの時代がやってきた!”と思いました。クラウド・コラボレーションがスタートした翌日から使い始めて、いろいろ試して。とにかくクラウドの中にマスターがあることで、テイクの管理やファイルのやり取りに関するミスを気にしなくてよくなった。ほかの人から見たら、ファイル便で送って、インポートしてというのと、何も変わってないのかもしれない。でも、僕らにとっては大きく違うんです。普段ネットでやり取りしていても、多くの人は隣県在住くらいで、会おうと思えばすぐに会える。でもBEGINは飛行機に乗らないといけないから、“明日来いよ”と簡単に言えないので。本当に助かっています」

 既にPro Toolsクラウド・コラボレーションを使った制作もスタートしているとのことで、2016年10月リリースの最新シングル『網にも掛からん別れ話』のタイトル曲を例に説明してもらった。

 「ツアー・メンバーの国場幸孝(ds)、カナミネケイタロウ(b)とともに東京のスタジオでベーシックを録ったんですが、栄昇は翌日石垣に帰らなければいけなかったので、彼は石垣でボーカルをダビングし、僕はここでソフト音源を使ってストリングスのダビングをしました。今までもオーディオ化して送って、という作業をやっていましたけど、速さと安心感は段違いですね」

 ちなみにこの曲、リズムはヘッド・アレンジで、クリックを使っていないという。「実際、BEGINのレコーディングではクリックを使わないことが多くて、コピー&ペーストができないのはちょっと面倒です」と上地は笑うが、演奏タイミングはきちんと合うという。

 「栄昇が歌っているものにギターとピアノをかぶせていっても、意外とエンディングのリタルダンドも合う。バンドだからでしょうね。お互いに何をするか想像できるし。優が琉球放送『おきなわのホームソング』の子供向きの曲を作ったときも、アコーディオンを入れてほしいと言われて、クラウド・コラボレーションで送ってという形でできましたしね。よくこうしたサービスは“見知らぬジャマイカのベーシストとアフリカのドラマーがコラボ”などと語られていて、それはそれで夢がある。僕らの使い方はそれとは真逆だけど、僕らには必要なんですよね」
 

部屋の大部分を占めるのが、equal studio誕生のきっかけとなったBOSTONのグランド・ピアノ。表参道のカワイショップで試奏して決めた一台だという。ピアノの下にはEXCELSIORのアコーディオンが置かれている

部屋の大部分を占めるのが、equal studio誕生のきっかけとなったBOSTONのグランド・ピアノ。表参道のカワイショップで試奏して決めた一台だという。ピアノの下にはEXCELSIORのアコーディオンが置かれている


マイク類。メインは一番左にあるコンデンサー・マイク、CHARTEROAK SA538Bで、生楽器録音に使うと好みの音が得られるという。右はSHURE 55SH Series II、SM58×2、SM57×2、RODE M3×2

マイク類。メインは一番左にあるコンデンサー・マイク、CHARTEROAK SA538Bで、生楽器録音に使うと好みの音が得られるという。右はSHURE 55SH Series II、SM58×2、SM57×2、RODE M3×2


壁に掛かる弦楽器類。左から2本目(奏生)と4本目(カスタム)はBEGINとK.YAIRIの共同開発による一五一会。左上に取り付けられたスピーカーCLASSIC PRO CPS6はリハーサル用

壁に掛かる弦楽器類。左から2本目(奏生)と4本目(カスタム)はBEGINとK.YAIRIの共同開発による一五一会。左上に取り付けられたスピーカーCLASSIC PRO CPS6はリハーサル用


リハーサルに使うMACKIE. DFX・12

リハーサルに使うMACKIE. DFX・12


 

上地等

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沖縄県石垣島出身。BEGINのキーボーディストとして1990年に「恋しくて」でデビュー。「島人ぬ宝」「涙そうそう」「海の声」など多くのヒット曲を放つ。2016年8月には初のソロ・アルバム『48(よんぱち)』をリリース

Recent Work

uechiJacket
『網にも掛からん別れ話』BEGIN iTunesLg
インペリアル:TECI-523

Equipment

DAW System

Computer:APPLE iMac
DAW:AVID Pro Tools HD 12
Audio I/O:AVID HD I/O
Controller:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88

Recording & Monitoring

Monitor Speaker:YAMAHA MSP7 Studio
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Monitor Controller:SM PRO AUDIO Nano Patch+
Microphone:CHARTEROAK SA538B、RODE M3、SHURE SM57、SM58、55SH Series II
PA Speaker:CLASSIC PRO CSP6
PA Mixer:MACKIE. DFX・12
Power Amplifier:CLASSIC PRO CP400
Headphone Mixer:BEHRINGER Powerplay 16
Outboard & Effects
Mic Preamp:PHOENIX AUDIO DRS-8 MK2
DI:COUNTRYMAN Type 85、RUPERT NEVE DESIGNS RNDI、TDC Bass DI
Other:SAMSON S・Phantom

Instruments

Keyboard & Synthesizer:BOSTON Grand Piano、EXCELSIOR Accordion
Guitar:K.YAIRI Acoutic Guitar、Gut Guitar、MORRIS Acoustic Guitar
Other:K.YAIRI 一五一会カスタム、一五一会 奏生、MARTIN Ukulele、Charango(No Brand)
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※『サウンド&レコーディング・マガジン』2017年1月号より転載

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