第25回 ホセ・ジェイムズ―ジャズを更新してゆく男

音楽家は服を着る by 青野賢一 2015年1月30日

デビューアルバム『The Dreamer』から、新世代ジャズを背負って立つボーカリストとして注目を集めているホセ・ジェイムズ。最新作『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』のジャケットでは端正なタイドアップスタイルを披露しているが、その音楽とファッションには、歴史あるものをいかにアップデートするかのヒントがあるのではないだろうか。

(C) Jeanette Beckman

(C) Jeanette Beckman

この連載のなかでもテイラー・マクファーリンを取り上げた際に触れたが、ここ数年でジャズの進化形とでも呼ぶべき音楽が興隆をみせている。ロバート・グラスパー、フライング・ロータス、そして先にも挙げたテイラー・マクファーリンなどなど、ヒップホップ、ベースミュージック、ダブステップといったジャンルと接続しながら、新たなジャズの地平を切り開くアーティストたちの活躍には目を見張るものがある。そうしたなかで、ボーカリスト、ホセ・ジェイムズの新作の知らせを聞いたのは昨年12月のことだったか。

ホセ・ジェイムズはアメリカ・ミネアポリスに生まれ、現在はニューヨークを拠点に活動するシンガーだ。ラジオから流れてきたデューク・エリントンの「A列車で行こう」を聞いてジャズにのめりこんだのが14歳のとき。以後「ビリー・ホリデイやマーヴィン・ゲイといった歌い手にも傾倒しつつ、同時期にヒップホップにものめりこみ、アイス・キューブ、ビースティ・ボーイズ、デ・ラ・ソウルなどを聴き倒した」(シンコーミュージック・ムック『Jazz The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』より)。ニューヨークの大学でジャズを専攻し、様々なジャズ・コンテストに参加するなか、2006年、ロンドンのジャズ・コンテストでジャイルス・ピーターソンと出会う。ジャイルスはホセの歌声と音楽性に惚れ込み、2008年にホセはジャイルスが主宰するレーベル、ブラウンズウッド・レコーディングスからアルバム『The Dreamer』でデビューを果たすこととなった。

2010年リリースのセカンドアルバム『Blackmagic』では、ムーディーマン、フライング・ロータスらとのコラボレーションを果たし、続いて歴史あるジャズレーベル、インパルス!からの『For All We Know』ではベルギーのピアニスト、ジェフ・ニーヴとのデュオでスタンダードなジャズに取り組んだ。2013年の『No Beginning No End』はスモーキーな質感(それこそが実にジャズ的である)を湛えたネオ・ソウルで、ジャズの名門ブルーノートからリリースされている。

自身の作品で「ジャズの閉鎖的な状況を変えるために貢献したいと思っている」(シンコーミュージック・ムック『Jazz The New Chapter 2』ホセ・ジェイムズインタビューより)と述べるホセだが、ファッション面でも現代的なスタイリングだ。ライブ映像などでよく見る〈ニューエラ〉のキャップ、レザーのライダースジャケットという出で立ちが印象的である。思えば、ホセをはじめジャズの新世代アーティストの多くは、ヒップホップの曲のサンプリングソースとしてのジャズに親しみを持っていた。つまりジャズは彼らにとってストリート感覚に根ざしたものであったのだろう。そういった意味では、ステージで着るものもヒップホップ的、ストリート的な要素をベースにしていても何ら不思議はない。形骸化したジャズには彼らも興味がないだろうし、リスナーだって面白くない。聴きたい、観たいのは今の新しいジャズだからだ。

とはいえ、過去の歴史を取るに足らないものとして切り捨てるような姿勢はホセにはない。いいものはいい、ピンと来ないものはピンと来ない、というだけだ。そのことは、最新アルバム『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』が、敬愛するビリー・ホリデイのレパートリーを取り上げたトリビュートアルバムであることからも容易に想像がつく。このアルバムでホセは、現ブルーノートを代表するピアニスト、ジェイソン・モラン、ウェイン・ショーター・カルテットで活躍するベーシスト、ジョン・パティトゥッチ、そしてそのしなやかなドラミングで引っ張りだこのドラマー、エリック・ハーランドというトリオをバックに歌っているのだが、演奏も音の質感も鮮度があって実にいい。そうした演奏にのるホセの歌声は、包み込むような滋味深いもので、聴くたび味わいを増してゆく。

『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』のジャケットに写るホセは、きりりとタイドアップしたジャケットスタイルだ。そこからは、このアルバムにまさしく襟を正して臨んだという姿勢が読み取れる。レコード会社を通じてホセ本人に着ているブランドを聞いてもらったところ、ジャケットはシンガポールのデザイナーが手がける〈WYKIDD〉、タイはブルックリンの〈ザ ヒルサイド〉、〈AG〉のジーンズにシャツは〈ユナイテッドアローズ〉、サングラスは〈モスコット〉と、まるでセレクトショップのスタッフのような好みで驚いた。そして、アップデートされたビリー・ホリデイのレパートリーと歩調を合わせるように、このアルバムジャケットは、往年のブルーノートの名盤の雰囲気を現代的に更新することに成功しているといえるだろう。

音楽に限らず、長い歴史のあるものを現代にどう伝えるかは大きな課題である。ともすれば伝統を履き違えて形骸化してしまうこうしたものを、過去を大切にしながら更新してゆく。そういう意味では、ホセ・ジェイムズはじめ近年のジャズに携わるミュージシャンの姿勢は心強い。彼らが開いた扉から、次はどんな音が飛び出すか、楽しみに待ちたい。なお、本稿執筆にあたり、ユニバーサルミュージックの斉藤嘉久さんにホセ・ジェイムズとやりとりしていただいた。この場を借りてお礼申し上げます。

青野賢一

青野賢一

BEAMS クリエイティブディレクター
BEAMS RECORDS ディレクター
1968年東京生まれ。明治学院大学在学中にアルバイトとしてBEAMSに入社。卒業後社員となり、販売職を経てプレス職に。〈BEAMS RECORDS〉立ち上げや、ウェブ・スーパーバイザー兼務などの後、2010年より個人のソフト力を活かす、社長直轄部署「ビームス創造研究所」所属。執筆、編集、選曲、DJ、イベントや展示の企画運営、大学での講義など、BEAMSの外での活動を行う。著書に『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS)がある。



TUNECORE JAPAN