第18回 MGMT―神話的大作からの解放

音楽家は服を着る by 青野賢一 2014年3月4日

その大成功から、「Time To Pretend」「Kids」「Electric Feel」といった曲や、サイケデリックなイメージなどファーストアルバムに起因する印象で語られることが多いMGMT。2013年の『MGMT』までの軌跡を、音とヴィジュアルから追いかけてみよう。

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MGMTはアンドリュー・ヴァンウィンガーデンとベン・ゴールドワッサーのふたりを中心としたバンドだ。結成は彼らがコネチカット州ミドルタウンのウェスリアン大学在学中である。2008年、デビューアルバム『オラキュラー・スペクタキュラー』を、ベル&セバスチャンやフレーミング・リップスを手掛けたデイヴ・フリッドマンのプロデュースによりリリース(デジタルは前年リリース)し、一躍人気となった。この『オラキュラー・スペクタキュラー』は、ふたりでの制作だったが、2010年のアルバム『コングラチュレイションズ』では、サポートメンバー3人が正式にバンドに加入。現時点での最新作『MGMT』(2013年)では、再びふたりでの制作に戻っている。

一般的に「サイケデリック」という形容詞を付けられることの多いMGMTだが、そのイメージの多くは、サウンド面というよりは、ミュージック・ビデオ(MV)からもたらされていると言って差し支えないだろう。とりわけ初期の作品にその傾向は強い。

2009年4月の『ローリングストーン』誌日本版のインタビュー記事(ウェブサイト「X BRAND」に掲載)で、アンドリューは「僕らの記事はいつも”ドラッグ”という言葉がついてまわるんだ」と語っているが、どうもこれは確信犯的にやっていたと思われる節がある。「Time To Pretend」のMVでは、先史時代へと連なるイメージが矢継ぎ早に映し出され、文字通りトリッピーな演出が成されている。古代のイニシエーションさながら「錠剤」を口に放り込んだ途端、映像は俄然加速する。歌詞にもドラッグの固有名詞は頻出するし、オーヴァードーズによる死を想起させるフレーズもあって、額面通りに受け取れば、確かにドラッギーな曲である(SONY MUSICのアーティスト・サイトには「ロックスター然とした存在に対しての皮肉」とある)。しかし、取り繕って生きる運命だったんだ、という歌詞からは、自分たちではどうすることもできない、後戻り出来ないもどかしさも感じられる。こうした批判精神を含んだシニカルな歌詞をシンセ・ポップに纏めることで、多くのリスナーが共感しただろうことは想像に難くない。
改めてこのMVを観ていると、子供時代に知った神話物語や、それを下敷きにした特撮の戦隊もの、あるいはヘンリー・ダーガーの「ヴィヴィアン・ガールズ」などにも通じるものがあるように思うが、いかがだろうか。

2009年春夏のGUCCIのメンズ・コレクション(つまり2008年に発表されている)は、さまざまなブルーのバリエーションを中心に、刺繍やハワイアン・プリント、フローラル・パターンを配した、ライトでクリーンなイメージのものだったが、このコレクションのなかでMGucciMTというMGMTからインスピレーションを受けたコレクションも発表された。色遣いをよりトランシーに、悪趣味ギリギリのところで洗練された印象を保ったこのMGucciMTは、「Time To Pretend」のMVからの影響が明らかであり、当然ランウェイにはこの曲が使われたのは言うまでもないだろう。この頃の彼らのファッションは、MVの世界観に近いややヒッピー調のものであり、アンドリューはよくジミ・ヘンドリックスよろしくバンダナを頭に巻いたりしていた。このようにかなり抜かりなくイメージが統一され、観る者に音楽とともにその印象をしっかりと植え付けることに成功したと言えるだろう。

2009年に制作を開始し、2010年4月にリリースされたセカンド・アルバム『コングラチュレイションズ』の頃になると、初期のサイケ~ヒッピー的なヴィジュアル・イメージは影を潜め、より自然体とでも言うべきスタイルへと移ってゆく。これは、このアルバムを「ただ楽しんで作った」(前出、SONY MUSICのアーティスト・サイト)ということに起因するのかもしれない。バンド形態での制作となった『コングラチュレイションズ』の音は、ややもするとクラブミュージック的に捉えられることが多かった前作に比べ、ロック色が濃く、音もカラフルで楽しい。最早ヴィジュアルのカラフルさに寄りかからずとも、音は立派に色彩豊かであり、MVもより洗練され、よく練られたものになっている。

最新作『MGMT』について、アンドリューはこう言っている。「もしアルバム全体にテーマがあるとしたら、その時その時を実感を持って生きることかな。現実逃避主義じゃないんだ」(ウェブマガジン『Qetic』2013年9月17日更新、MGMTインタビューより)。再びふたり体制となって制作した本作は、彼らの日常生活に根ざした楽曲が多いという。先の発言の通り、普段の生活を実感を持って生きることから湧き出てくる感情を、前作、前々作で培った音楽表現を駆使して現している、といった印象だ。抜け感のあるジャケットのアートワークからも、それまでの2作には見られない日常感、健康的なイメージが感じられるだろう。

『オラキュラー・スペクタキュラー』の大いなる成功を追いかけて、同じアプローチの作品をリリースし続けていたら、それこそオーヴァードーズで”We’ll choke on our vomit and that will be the end”となっていたに違いない。近年のライブ映像を観ると、ずいぶんすっきりとした佇まいが却ってナードというか音楽ギークっぽさを醸し出していていい。かつてのようにコレクションに影響を与えるようなことはもうないかもしれないが、だからと言って彼らは残念がりはしないだろう。もうそんな謳い文句なしに、MGMTの音楽は聴かれるべきであるということを、アルバム『MGMT』は証明しているのではないだろうか。

青野賢一

青野賢一

BEAMS クリエイティブディレクター
BEAMS RECORDS ディレクター
1968年東京生まれ。明治学院大学在学中にアルバイトとしてBEAMSに入社。卒業後社員となり、販売職を経てプレス職に。〈BEAMS RECORDS〉立ち上げや、ウェブ・スーパーバイザー兼務などの後、2010年より個人のソフト力を活かす、社長直轄部署「ビームス創造研究所」所属。執筆、編集、選曲、DJ、イベントや展示の企画運営、大学での講義など、BEAMSの外での活動を行う。著書に『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS)がある。



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