第20回 テイラー・マクファーリン―音楽とファッションは相携えない

音楽家は服を着る by 青野賢一 2014年7月7日

細分化し、ジャンル分けが意味をなさなくなった21世紀の音楽シーンにおいて、ファッションはもはや表現手段としての機能はなくなりつつある。そうした時代を象徴するような存在として、ヒップホップからの影響を感じさせる21世紀ジャズ・シーンの音楽とファッションを考えてみたい。

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それ以前ほどではないにせよ、90年代までは音楽ジャンルとファッションは密接なものとして見ることができた。が、2000年以降はどうだろう。音楽ジャンルはより細分化、ハイブリッド化し、ジャンルそのものを明示しにくくなった。それにより、ある特定のジャンルと紐づくファッションというものも見出しにくくなったと言えるだろう。最近のファッションにおける90年代ブームでは、大雑把な「ストリート」という言葉でまとめられた、当時のヒップホップ・ファッションを思わせるアイテムを取り入れたスタイリングも人気だが、そこには取り立てて音楽とのリンクがある訳ではない。単に90年代ファッションの参照元として存在するだけである。

現在、音楽とファッションが明確なかたちで結びついているものといえば、大きなホールなどで行われるクラシック・コンサートのオーケストラ、そして日本ではアイドルだろうか。それぞれ純度の高いものであり、観る側、聴く側もそれを期待しているに違いない。それ以外は、着ているものからどんな音楽かは推測しにくくなった。先に述べたような音楽ジャンルの細分化、ハイブリッド化は音楽サイドからの視点だが、ファッションから考えてみるならば、ロック、パンク、グランジ、ヒップホップなどを記号として引用、消費してきた経緯がある。音楽は必ずしも必要ではなく、その音楽が持つイメージだけが一人歩きして、音楽そのものが更新されても、過去のイメージだけは亡霊のようにファッションの世界を彷徨っているのである。

2014年3月に発売された『Jazz The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』(シンコーミュージック)は、副題に違わず、ロバート・グラスパーを軸に、ヒップホップに少なからず影響を受けている21世紀のジャズを紹介する一冊だが、ここに登場するアーティストたちが音楽、ルックスともに多様化していることを改めて認識できる。それはもはや互いに関連はありつつも、ひとりひとりがひとつのジャンルと言っても過言ではないだろう。今回このテキストで取り上げるテイラー・マクファーリンも、こうした現在進行形の「ジャズ」との関連が浅からぬ人物だ。

テイラー・マクファーリンはブルックリンをベースに音楽活動を行うプロデューサー、ピアニスト。『ele­-king』に掲載されているインタビュー「僕らはジャズか?」によれば、曲作りを始めたのはミネアポリスの高校に通っていた頃ということである。友人たちに交じってヒップホップに傾倒していたテイラーであったが、彼が興味を持ったのはそのビートだった。2006年には初の12インチシングル『Broken Vybes』(Rude.)をリリース。2014年、フライング・ロータス主宰のレーベル「Brainfeeder」よりデビュー・アルバム『Early Riser』を発表した。5月に開催されたBrainfeederのレーベルショーケース的大型イベント「Brainfeeder 4」にも出演したので、ご覧になった方もおられるのではないだろうか。

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photo by Masanori Naruse

ここで、『Early Riser』にも一曲ボーカルとして参加している、テイラーの父に登場願おう。ボビー・マクファーリンである。映画『カクテル』の挿入歌としても知られる、ボーカルの多重録音で構成された「Don’t Worry Be Happy」は1988年、ビルボードの総合シングルチャートで一位を獲得。メディアではジャズ・ボーカリストとして紹介されることも多いボビーだが、ジャズ、あるいはボーカリストという枠組みを遥かに越える活動を行っており、どちらかというとボイス・パフォーマーという肩書きがぴったりくるように思われる。こうした逸脱感というか越境感は、息子であるテイラーにも受け継がれているように感じるがいかがだろう。

アルバム『Early Riser』はロバート・グラスパー、サンダーキャット、マーカス・ギルモア、ナイ・パーム(ハイエイタス・カイヨーテ)、エミリー・キング、そして先の通りボビー・マクファーリンといった豪華ゲストも参加した話題作であるが、そうしたゲスト陣をさっ引いても色彩豊かな内容だ。70年代の良質フュージョンのような音色が聴ける「Postpartum」で幕を開けたかと思うと、緻密なリズムパートのプログラミングが光る「Degrees Of Light」や、近年のネオ・ソウル人気のなかにあっても引けを取らない「Florasia」、シンプルなギターのリフがどこかポストロック的でもある「Place In My Heart」(この曲は私のフェイバリットでもある)といった楽曲のバリエーションからは、テイラーのソングライターとしてのセンスを感じずにはおけないだろう。アルバムを通して、ヴィンテージ感のある音色が支配的であり、そのことがバラエティーのある曲に一本芯を通している。冒頭に記したように、現在の音楽ジャンルは細分化し、離合集散を繰り返す時代である。そのような時代にあって、言葉本来の意味における21世紀のフュージョン~クロスオーバーを発表したテイラー・マクファーリン。5年後、10年後にどのような音楽を奏でているかが楽しみな存在である。

70年代のフュージョン・ミュージシャンたちは、概ねカジュアルな出で立ちでステージに立っていた。音楽そのものにファッションを通じて表現するべきことがなかった、つまりそれ以前の明快でシンプルなジャンル分けとは違った、さまざまな要素が交ざり合った音楽だったことが、服と音楽の関係性を必要としなくなった理由ではないだろうか。テイラー・マクファーリンもポートレイトやライブの写真を見る限りカジュアルなファッションに身を包んでいる。彼の音楽もまた服を通じて表現することは難しいとは思うが、きちんと現代的にアップデートされ、ニートなボタンダウン・シャツをすっきり着ていたりする。言わば「普通」の格好だ。果たしてオーケストラのメンバー、そしてアイドル以外のミュージシャンが、再び自己表現のひとつとしてのファッションを必要とする季節はやって来るのだろうか。

青野賢一

青野賢一

BEAMS クリエイティブディレクター
BEAMS RECORDS ディレクター
1968年東京生まれ。明治学院大学在学中にアルバイトとしてBEAMSに入社。卒業後社員となり、販売職を経てプレス職に。〈BEAMS RECORDS〉立ち上げや、ウェブ・スーパーバイザー兼務などの後、2010年より個人のソフト力を活かす、社長直轄部署「ビームス創造研究所」所属。執筆、編集、選曲、DJ、イベントや展示の企画運営、大学での講義など、BEAMSの外での活動を行う。著書に『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS)がある。



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