Pro Toolsユーザー・レポート② Studio ARM

Pro Toolsユーザー・レポート by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 撮影:小原啓樹 2017年3月29日

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AVID Pro Toolsユーザーを訪れ、仕事で使うツールとしての魅力を語っていただくこの連載。今回は東京・飯田橋のMAスタジオ、Studio ARMを訪問した。もともとサラウンドやプラネタリウムを得意とするStudio ARMでは、近年VRにも注力しているという。詳しく話を聞いていこう。
 

Pro Toolsの柔軟なバス・ルーティングで
さまざまな再生システムを前提にした作業が可能

Studio ARMは、ビデオサンモールや一口坂スタジオでMAエンジニアを務めてきたエンジニアの河村大氏が2011年に他のスタッフとともに独立して立ち上げられた。物件を探し、翌2012年からスタジオが稼働し始める。河村氏に当時を振り返ってもらった。

「このフロアだけもともと屋内ゴルフスクールだったこともあり、躯体の天井高が4mありました。プラネタリウムの仕事をする上で、トップ・スピーカーが必要になるので、どうしても天井高が必要だったんです」

氏はテレビ番組やCMなどはもちろん、一口坂スタジオ在籍時からプラネタリウムのMAを手掛けており、MAのみならず音声収録から選曲、SEなどに携わるケースも多いそうだ。

「全国で400館近くあるプラネタリウムのほとんどが公営ですが、弊社ではそうした公営のところに限らず、サンシャインシティ満天と東京スカイツリー天空というコニカミノルタ系のプラネタリウムをメインで担当していて、ここでは昔のプラネタリウムのように星を投影して“何座です”というプログラムとは全く違う、エンターテインメント性の高い作品が増えてきました。実写で360度のタイムラプス・ムービーを撮影し、それに5.1chで収録したその場所の音声を合わせたり、音楽家が書き下ろした楽曲をステムでいただいてミックスしたりということまでしています」

一口にプラネタリウムと言ってもそのシステムはさまざま。ステレオから4.0ch、5.1chといった一般的なサラウンド・フォーマットに加え、天井にスピーカーをつけた6.0chや6.1chといったシステムもある。氏が天井スピーカー設置にこだわったのは、こうした事情があったからだ。

「以前はトップ・スピーカーが無いスタジオで作業していて、現場での調整していたために、調整が1週間くらいかかかってたんです。このスタジオで作業するようになってからは、ある程度ファイナルに近い形で持っていけるようになり、現地調整は1〜2日で済むようになりました。プラネタリウムはドーム形状なので、初期反射と回り込み反射が多くなります。それをどうやって打ち消していくかを現場で調整していくんですね」

こうしたさまざまなフォーマットに対応する上で、Pro Toolsのバス・ルーティングの柔軟さが重宝すると氏は語る。

「例えば5.1chと、天井スピーカーの6.0chの両方を作らないといけないときに、LFEや天井スピーカーはAuxセンド扱いにするといったことが簡単にできるんです。ルーティングの簡単さは圧倒的ですよね。すごくシンプルで、実際にケーブルをパッチしている感覚に近い。現在、このスタジオでは6.0chと5.1chとダウン・ミックスが同時にバウンスできるような組み方もしています」

3Fコントロール・ルーム。音響設計/施工はアコースティックエンジニアリング、機材やシステム周りは宮地楽器プロフェッショナル事業部が担当。Pro Tools|HDXシステムを中心に、GENELEC 8030A+7060Bによる6.1chモニター環境を構築。サラウンド業務の拠点として必要なため、業務拡張に併せてステレオ専用のスタジオも同ビル内に増設した

3Fコントロール・ルーム。音響設計/施工はアコースティックエンジニアリング、機材やシステム周りは宮地楽器プロフェッショナル事業部が担当。Pro Tools|HDXシステムを中心に、6.1chモニター環境を構築。サラウンド業務の拠点として必要なため、業務拡張に併せてステレオ専用のスタジオも同ビル内に増設した

 

バトンでつるしたトップ・スピーカーはエンジニア席に向けられている

バトンでつるしたトップ・スピーカーはエンジニア席に向けられている


 

バイノーラルからサラウンドまでのノウハウが
先端のVR制作で生きている

こうしたプラネタリウムでの音声制作のノウハウが、現在はVRやサラウンドなどの他の領域でも生きていると河村氏は語る。

「特に家庭用ゲームでのサラウンド需要が非常に高いですね。守秘義務があるのですが、時には僕らもどんなタイトルかは分からないまま、海外に長期出張して国内では収録できない自然音を録音したりしています。また、VR用音声の収録も、前後左右上下が収音できるAmbisonicsマイクも持っているので、これでAmbisonics Aフォーマットで録音してBフォーマットに展開する、という形でスムーズに行えます。マイクはCORESOUND TetraMicとOKTAVA MK-4012で、後者はたぶんまだ日本に1本しかないと思います。システム導入でお世話になっている宮地楽器さんに、無理を言って取り寄せてもらったものなので」

VRのミックスを行うのも、もちろんPro Tools上。サンレコ5月号特集「360°VRミュージック・ビデオ制作に挑む」でも使用したAUDIO EASE 360Pan Suiteと、NOISEMAKERS AmbiPanを併用しているそうだ。

「360Panがメインになりますが、定位が明確なものに向いている。一方で、もう少しまとまっていたい音源についてはAmbiPanを使います。どちらも4chのAmbisonic Bフォーマットになるので、同じ4chバスでまとめて、360Pan Suiteの360Monitorでバイノーラル・モニタリングできるんです」

実はStudio ARMでは、サラウンド対応と並行してもともとバイノーラル……つまりステレオでサラウンドのような効果が体感できる音像の制作を行っていた。「そのため、クライアント席でお客様がヘッドフォン・モニターできるようになっているんです。ですのでVRの音を確認していただくときも楽なんですよね」と河村氏は説明する。バイノーラルも、プラネタリウム・プログラム制作の中で培ってきたノウハウだという。

「ステレオ・システムのプラネタリウムでサラウンド的に聴かせたい……サラウンドで制作してきたものを、ステレオ・システムの上映館で聴いて“これは違う”と感じてしまったんです。それでなんとかしたいという提案をこちらからして、考えたのがスピーカーでのバイノーラル再生でした。弊社が手がけたプログラムは、サラウンドであっても、バイノーラルであっても、お客様から“包まれるような感じがする”と好評いただいているようで、意義のある仕事ができているのはうれしいですね」

映像と一致する音は、すべてのMAエンジニアが目指すところだろう。プラネタリウム=全天周という映像表現に対しても、このように正面から向き合い続けてきたStudio ARMは、VRという新しい領域でも、着実に成果を出してきている。

画面内のAAXプラグインは、左がNOISEMAKERS AmbiPan、右がAUDIO EASE 360Pan。コントローラーはAVID D-Command ESで、AVID X-Monと併せてモニター・セクションとしても機能している。モニター・スピーカーはステレオ用にGENELEC 1031AとAURATONE 5C、サラウンド用がGENELC8030A+7060B

画面内のAAXプラグインは、左がNOISEMAKERS AmbiPan、右がAUDIO EASE 360Pan。コントローラーはAVID D-Command ESで、AVID X-Monと併せてモニター・セクションとしても機能している。モニター・スピーカーはステレオ用にGENELEC 1031AとAURATONE 5C、サラウンド用がGENELC8030A+7060B


ラックに収められたPro Toolsハードウェア。上からHD Sync、HD I/O、X-Monで、その下はカスタムメイドのレベル・アジャスター

ラックに収められたPro Toolsハードウェア。上からHD Sync、HD I/O、X-Monで、その下はカスタムメイドのレベル・アジャスター


Studio ARM代表の河村大氏(右)と、音響部部長の伊藤結衣氏(左)

Studio ARM代表の河村大氏(右)と、音響部部長の伊藤結衣氏(左)

Presented by AVID & Miyaji Professional Division

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