『Swiss Movement』 Les McCann & Eddie Harris

塚本謙のFunk裏Recommend Disc by 塚本謙 2014年7月24日

FUNK的千円生活:レス・マッキャン&エディ・ハリス編

今回の”裏”Recommend Disc

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『Swiss Movement』 Les McCann & Eddie Harris

 

『スイス・ムーヴメント』レス・マッキャン&エディ・ハリス

Atlantic (1969)

 

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“大統領は戦争を手に入れた/人々はそれが何のためだか知りゃしない/誰にもその道理を聞かされぬまま/疑ったほうがいいぜ、背信行為っていう奴をさ/俺たちゃみんな鳥の羽根みたいに軽い存在さ/たった一人の阿呆以外は、クソッタレめ!” ———「Compared To What」

いや、集団的自衛権の話じゃなくって、ニクソン大統領とベトナム戦争の話です。超意訳歌詞なのでツッコまないでくださいね。曲を書いたのはジーン(ユージーン)・マクダニエルズ。60年代初頭に何曲かのヒットを飛ばしたこの黒人シンガー・ソングライターはしかしその後低迷、60年代末には北欧に移住していました。キング牧師の暗殺でほとほとアメリカに嫌気がさしたそうです。クソッタレのニクソンにもブチ切れていた彼が旧知の先輩ジャズ・ピアニスト、レス・マッキャンに送ったのがこの曲です。気に入ったマッキャンは当時彼が見いだしたばかりの新人天才歌手、ロバータ・フラックに歌わせることを思いつきます。結局この曲はフラックのデビュー・アルバム『First Take』(Atlantic, 69年)のオープニングを飾ることになりました。ちなみにのちのフラックの大ヒット曲「Feel Like Makin’ Love」もマクダニエルズのペンによるものです。

フラックのデビュー作の録音から4ヶ月後。マッキャン・トリオはスイス、レマン湖のほとりで開催されるモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに招かれていました。フェス最終日の夜、特別プログラムとしてスペシャルなジャム・セッションが企画されます。シカゴが生んだ変態ファンキィ・テナーの雄、エディ・ハリスとアメリカ人ながらヨーロッパに移住していたベニー・ベイリー(tp)がトリオと共演するというものです。しかし迎えたセッション本番はリハーサルなし、事前打合せなし、どんな曲をやるかも知らない、というヒドい状態でした。そんな環境から生まれたアルバムが今日の一枚。もはや説明するのも恥ずかしいほどの有名盤で顔真っ赤になるよ。

ライヴの冒頭にマッキャンが持ってきたのが「Compared To What」。9分間で歴史が変わりました。フラックのヴァージョンとはガラリと違うファンキィなアレンジ。ゴスペル的なブ厚い響きのピアノに8ビートの刻み。ヌルヌルしたハリスのテナー。塩辛いマッキャンの歌声。そしてスネアが一閃、ファンクが沸点に達した瞬間にブヨブヨと暑苦しい電気サックスが途方もなくヒップなフレーズばかりを夜空に放り投げます。なんたるカッコ良さ。なんたる衝動。ハリスのテナーの異様さについては特筆したいんだけど、いわゆる低音方向の倍音をすべてカットして高音だけにしたようなツルリとした爬虫類的触感が実にキモカッコいい。高音フレーズのコントロールの上手さ、斜に構えたようなファンキィなタッチも独特です。続くベイリーのソロも貫禄じゅうぶん。さすがクインシー・ジョーンズに「Meet B.B.」を書かせた男。このマッキャン&ハリスの「Compared To What」がミリオン・セラーになったおかげでマクダニエルズは71年に帰国。Atlanticに素晴らしいソロ・アルバムを2枚吹込みましたとさ。

塚本謙

CDリイシュー企画「Return Of Jazz Funk」主宰。モダン・ジャズ〜ジャズ・ファンク〜レア・グルーヴまでこよなく愛するレコード・コレクター。学生時代はベイシー・マナーのフルバンでサックス担当。



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