【製品レビュー】サウンドトラック制作のためにハリウッドで作られたストリングス音源

EASTWEST Quantum Leap Hollywood Strings

PRODUCTS by 編集部 2010/09/15

57人ものミュージシャンを集めて収録された本場ハリウッドの音源

EASTWEST Quantum Leap Hollywood Strings オープン・プライス(市場予想価格/219,800円前後)

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▲写真① 天井高のあるEASTWESTスタジオで録音

サンプル音源ライブラリーの老舗EASTWESTから新しく発売されたQuantum Leap Hollywood Strings(以下Hollywood Strings)は、ストリングス音源の決定打といえる内容だ。まず312GBという容量に驚かされる。これまでのストリングス音源のほぼ10倍の量だ。データ量が巨大なので、製品はハード・ディスクで供給される。再生エンジンはEASTWESTの”PLAY”で(VST/RTAS/Audio Units/スタンドアローン)、オーソライズはiLok USBハードウェア・キーを使う。 57人のプレイヤーを集めて収録されたというHollywood Stringsの3人のプロデューサーのうち2人、ダグ・ロジャーズとニック・フェニックスはアメリカ・ハリウッドでフィルム・スコアを書いている専門家である。このソフトを作る目的ははっきりしていて、映画のサウンドトラックに本当に使えるストリングス音源を作る、ということだ。録音はハリウッドの元United Western Recorders(現在EASTWEST所有・写真①)、エンジニアは『スターウォーズ』などで有名なショーン・マーフィーが行っている。それでは早速Hollywood Stringsをチェックしていこう。

同時に使うインストゥルメントを考え水準の低いハードウェアでも活用可能

今回、ライブラリーの容量がこのように大きくなった理由は、サンプル数を大幅に拡大し、実際にミュージシャンが演奏しているときと同じようなサウンドの変化を追及したことによる。音量や音域の変化に対応するためのサンプルのクロスフェードの数は、これまでのライブラリーに比べ格段に多く、1つのインストゥルメント(”PLAY”で扱う1つのプログラム・パッチのこと)のサイズが1GBを超えるものもある。このために、再生ソフト”PLAY”も改良されて、同時に膨大なサンプルを扱うことを可能にしている。ハードウェアへの要求も高く、Hollywood Stringsをフルに活用するためには、Windowsの場合、プロセッサーはCore 2 Quad 2.66GHz以上、8GB以上のRAM、64ビット・システムで64ビットのホスト(プラグインでPLAYを使う場合。”PLAY” 自体は32ビットと64ビットの両バージョンがある)、またドライブにはハード・ディスクよりもSSDが推奨されている。EASTWESTによれば、同時発音数を確保するためのボトルネックはディスクなのだそうで、複数のSSDをRAID 0で接続するのが最もパフォーマンスが良いそうだ。

とはいえ、同時に使うインストゥルメントの数を制限するなどの工夫をすると、より水準の低いハードウェアでもHollywood Stringsを使うことができる。今回チェックに使用したのは、 FireWire 400接続のハード・ディスクでRAMは2MB、CPUはCore 2 Duoの2.4MHz、Windows XPで、ホストはABLETON Liveという、至って普通のシステムだったが、バッファーを1,024まで上げると、1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの5パートでも無事動作した(ただし、後述するマイク位置は1インストゥルメントあたり1つだけである)。

インストゥルメントの特徴をつかみプロジェクトごとにテンプレートを使用

Hollywood Sringsでは、基本的な楽器の区分はまず1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの5つがあり、それぞれ 16/14/10/10/7の人数構成になっている。また、同じセクションの中で2つのパートに分かれるディビジのインストゥルメントも、豊富に用意されている(コントラバスのディビジまで)。

また、1つのインストゥルメントの中でバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの音域を分けたフル・ストリングスという区分もある。それぞれの区分の中に、ロング、ショート、エフェクトなど演奏法の違いごとに8つのフォルダーがあって、さらにその中にニュアンスの違う個々のインストゥルメントが収められている。例えば1stバイオリンのロングのフォルダーの中には、17ものインストゥルメントがあって、ロング・トーンの中でもさまざまな音色(立ち上がりの速い/遅い、音が伸びている間の音が厚い/薄い、ビブラートのあり/無し、など)が選べるようになっている。

演奏法については、バルトーク・ピチカート、人工ハーモニクス、リコシェ、スピカートなど、普通に使用される奏法すべてが含まれているし、半音や全音のトリル、オクターブの駆け上がりなどはフレーズ・サンプリングされている。また、リアルタイムでの演奏用に、キー・スイッチで演奏法を切り替えるパッチもある。

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▲画面1 画面左中央に位置するPERFORMANCE。ポルタメントやレガート、レペティションなど細かな設定が可能。フィンガー・ポジションまでも調整できる

再生ソフト”PLAY”の左中央にはパフォーマンス用の6つのボタンがあって、レガートやポルタメントをかけたり、同じ音を繰り返すときに違うサンプルを演奏して単調さを避けたり、弱音器を付けた音に切り替えたりする。ボタンの横のダイアルは、同じ音を演奏するのに低音弦のハイポジションを使うかどうか(通常、音が太く豊かになる)の選択をする。なお、これらのコントロールは、MIDIのエクスクルーシブ・データでコントロールすることも可能だ(画面①)。 また、音の大きさや音色の変化をコントロールするためのやり方も、MIDIのベロシティのほかにモジュレーション・ホイールなど幾つかの方法が採用されているので、インストゥルメントごとに特徴をつかんでおく必要がある。インストゥルメント数が膨大で、それぞれにコントロールできるパラメーターが異なったりしているので、購入後はまず最初にマニュアルを読み、それぞれのインストゥルメントが何を狙っているのかを理解することが重要だ。ただし、いったんHollywood Stringsの区分に慣れてしまえば、譜面に書かれた音楽表現のどこにどのインストゥルメントを当てはめればよいかが想像できるようになり、打ち込みのスピードも速くなるだろう。マニュアルにあるように、コメディとか活劇といった音楽プロジェクトに応じてインストゥルメントを組み合わせたテンプレートを活用できると作業が楽になる。

ポピュラー音楽や打ち込みなどどんなジャンルにも対応できる

Hollywood Stringsの音色は、全体にからっとしたくせのない音色で、セクションごとのバランスも良い。バイオリンの高域でもリアルさが失われないのと、1stバイオリンと2ndバイオリンのキャラクターがはっきり違うことは、大きな利点だ。各セクションは、通常のオーケストラに比べ若干センターよりの定位に置かれているが、後で定位バランスを変えて広げたり、ステレオ音源からモノのセンター定位にすることもボタンやつまみで簡単に操作できる。

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▲画面2 マイク位置を決めることができるミキサー。しっかりと位相が合わせてあり、本製品の並々ならぬ仕様が実感できる

さて、私がHollywood Stringsを試していて、最も強力だと感じたのが、画面右の4つのマイク位置のミキサーだ(画面②)。これは、同じ演奏をクロース、ミドル、メイン、サラウンド(順番に音源から遠くなる)で録音したもので、どのマイクの録音もしっかり位相が合わせてあるので、ミキサーで混ぜ合わせても音がぼけることはない。パッチを立ち上げた段階では適切なマイク位置のものが自動的に立ち上がり(通常はメイン、ハーモニクスなどはクローズ)、別のマイクのものをアクティブにすると、その段階でサンプルを読み込む。ミドル以降のものは普通に良いストリングスの音なのだが、クローズ・マイクで収録されたものが、ちょうど現在のポピュラー音楽用のストリングスにフィットしているのだ。とてもリアルで近くに位置する音は、打ち込み主体のトラックとそのまま拮抗(きっこう)させてもよいし、エフェクトを深くかけて加工して使うのにも向いている。Hollywood Stringsを使えば新しいストリングスの質感を、生録音することなしに作り出すことができるのだ。もちろん、残響の多いマイクを選んだり、IRファイルが60種類以上用意されたリバーブを使うことによって、通常の”良い音”のストリングスの音を作り出すことは簡単だ。

このように強力な機能を備えたHollywood Stringsは、どのような可能性を持っているのだろうか? まず確かなのは、映画やコマーシャルといったスピードとクオリティが求められる現場において、信頼の置ける即戦力となる、ということだ。適切な使い方をすれば、リスナーにとっては生のストリングスと同じクオリティの印象を与えることができる。ただし、室内楽的な編成の小さい弦のシミュレーションは、もともと録音されている楽器編成が異なるので適さない。また、クラシックのフル・オーケストラのシミュレーションをする場合には、管楽器などほかの楽器とのマッチングを考えなければいけなくなる。

もう1つ、面白いのはクローズ・マイクを用いた音作りで、リアルさと新しさの両方の質感を持ったストリングスを作ることだ。こちらは、ジャンルを問わず意欲的なクリエイターなら試してみたくなるところだろう。 Hollywood Stringsをフルに使いこなすためには、コンピューター周りのハードウェアが高機能であることが必要だ。サンプル・ライブラリーにおいては、フル64ビット・システムの時代がもう到来している。また同時に、MIDIのエクスクルーシブ・データなどを使いこなし、演奏に多彩な表情を付けられるだけの打ち込みのテクニックを身に着けていることも必要条件になっている。

『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年9月号より)

EASTWEST

Quantum Leap Hollywood Strings

オープン・プライス(市場予想価格/219,800円前後)
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

問い合わせ
ハイ・リゾリューション
TEL: 03-5775-6290 http://www.h-resolution.com/

【SPECIFICATIONS】
▪Windows/Windows XP SP2/VISTA/7、INTEL Core 2 Duo 2.1GHz以上、もしくはAMD Dual Core 2.1GHz以上/INTEL Core 2 Quad2.66GHz以上、もしくはAMD Quad Core(2.66GHz以上推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上推奨)、ASIOドライバー、7,200回転以上のハード・ディスク(SSD推奨)、iLok ▪Mac/Mac OS X 10.5以降、INTEL Core 2Duo 2.1GHz以上、4GB以上のRAM(8GB以上推奨)、7,200回転以上のハード・ディスク(SSD推奨)、iLok

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