Vol.02 お仕事交遊録~志村明(サウンド・デザイナー/PAエンジニア)編

本間昭光のプロデューサーEYES by 編集部 2012年6月8日

今回のお仕事交遊録のゲストは、エンジニアの志村明さん。志村さんは、僕がまだこの業界に入って、右も左も分からない一番最初の仕事でご一緒させていただいた、恩人です。以降現場で一緒になったことはないのですが、志村さんの活躍ぶりを見れば、日本のライブ・シーンの中心を行っていると言っても過言ではありません。今回は、そんなライブ・シーンにおけるキーボーディスト像について話を聞いてみました。
(取材日:2012年5月)

Section1
志村さんから教わったこと

当時からサウンド・デザイナーという部分は担っていた

本間 最初に志村さんの今の仕事について、話を聞かせてください。

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志村 今はMr.ChildrenとEXILEのツアー中です。あとレギュラーというところですと、桑田佳祐さんを最近やらせてもらっています。あとは、毎年ap bank fesもですね。僕は、一般的なPAオペレーターとはちょっとやり方を変えていまして、肩書きもサウンド・デザイナーと言わせてもらっているんですけど、具体的には、ミキサーとしての仕事だけでなく音全般のことをプロダクションとして扱わせてもらっているんです。レコーディングで言えばディレクターのような仕事でしょうか。なので、1歩下がった立場で俯瞰になれる立場で仕事を受けさせてもらって、誰かがオペレーションをする、というのが今は多くなっていますね。もちろん、自分がオペレートする場合もありますが、最近は僕自身がオペレートすることが少なくなっていますね。

本間 でも、そういう方が、ライブ時にドンといてくれるということの重み、安心感たるや、全スタッフに響きますからね。幹のようなものですから。僕が志村さんと出会ったのは、僕の初仕事のときだったんですよ。

志村 Winkのツアー?あれは初だったんですか? 全然初に見えなかったですよ(笑)。貫禄があって。

本間 初ですよ(笑)。東京に出てきて間もないころで、シンセもヤマハDX7を1台しか持っていませんでした。キーボード・スタンドもなくて(笑)、10Uのラックの上にDX7を置いて弾いていたら、周りがあまりにもかわいそうだと、スタッフがスタンドを貸してくれたくらいですから(笑)。でも、志村さんのオペレートは、当時からバンド重視のサウンドでしたよね。僕らはすごくありがたかったんですよ。

志村 メンバーも結構イケイケな人がそろっていましたからね、僕もイケイケで(笑)。

 本間 そうでしたね(笑)。僕も、Winkは歌謡曲だから、ロックなイメージは持っていなくて、行ってみたらびっくりしました。音に魂があるんですよ。それを自分色に染めていく志村さんはすごかったですよ。

志村 ははは(笑)。

本間  当時のスピーカーは、今のようにハイスピード・タイプではなかったので、コントロールするのには本当に腕がいるんですよね。しかも、打ち込みも多かったですよね。

志村 その時代はユーロビートって言ってましたっけ? 曲のキーになる音は、打ち込みが多かったですよね。当時、シーケンサーはヤマハQXでした?

ユーロビートって言ってましたっけ? 曲のキーになる音は、打ち込みが多かったですよね。当時はヤマハQXとかでしたっけ?

本間  QX3が出たとこでしたね。レコーディングでは、カモン・ミュージックのソフトを使っていましたね。

志村 そうでしたね、PC98のパソコンで。でもそれはライブでは使えなかったですよね、いろんなリスクがあって。結局シーケンスでやろうとすると、音源周りの管理までやらないといけないから、それも難しくて。だから当時はテープを回していたはずです。

本間  4トラックから使い始め、その後は8トラックが多かったですね。

志村 そう。確か、オタリの8トラック・テープをPAの横で操作していました。その中の1チャンネルをクリックにして、それを聴きながら演奏してたんですね。

本間  そうでしたね。でも、僕はその作業を見ていてもなにをやっているか、全然分からないわけですよ。プロになって初現場だったので。ただ、志村さんのなど、プロの技を見て、PAとはどんなものなのかを目の当たりにしたんです。こうやってライブの音を作っていくんだと。いろいろ失礼なこともあったと思うんですけど、本当に優しいアドバイスをしていただいて。すごく印象に残っているんですね。

志村 とんでもないです。でも、いいミュージシャンがそろっていましたよね。だから結構楽しめたし、それが初ツアーってことは、本間さんにとっては、良かったのかな?(笑)

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本間  とにかく厳しかったことだけ心に残っていますけど(笑)。

志村 でも、飄々とやっている印象がありましたよ。キーボードはもう1人、大平(勉)さんがいましたよね。だから当時はシンセのうわもの担当でしたね。

本間  音色作りの仕方も分からないから、アドバイスをもらっていましたよね。「さびしい熱帯魚」のイントロのシンセを目立たせるにはどうしたらいいのかと。そこで志村さんにアドバイスをもらって作るとしっかりと抜ける音になるんですよね。当時からサウンド・デザイナーという部分は担っていたんでしょうね。

志村 すみません、生意気を言ったかもしれませんが(笑)。

本間  そんなことないです。その経験があって、プロとアマチュアの違いを知ったし、サポート・キーボードとしてのあり方など、いろんなノウハウを教えていただいたスタートでしたから。すごく感謝していますね。

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Section2
PAエンジニアリングについて

ライブ全体の中でのプレイを意識する

本間 いろいろな現場に携わってきて、今のPAの状況はいかがですか?

志村 僕らが一緒にやったときから、2世代くらいバージョンが上がりましたね。1番大きかったのは、スピーカーのラインアレイ化です。昔は大きな面のようににスピーカーを並べていたんですが、新しい理論に基づいてシステムが開発され、今はほとんどのメーカーがラインアレイ・タイプになっています。もう1つは機材のデジタル化です。今は、ほとんどのPAの現場はデジタル化されています。アナログも確かに良い部分はたくさんあるんですけど、PAみたいな大きな現場だといろんなロスがありました。それがかなり軽減されたところで、音がストレートになった。あとは、今までアナログで考えられなかったエフェクトが使えるようになりました。いわゆるアヴィッドPro Toolsのプラグインがあるのと同じですね。だからエンジニアとしてはテクニックの幅が広がりましたよ。そういうことで、昔に比べると、日々違うホールでもある程度の安定した音が届けられるようにはなったんです。

本間 志村さんから見て、キーボードの進化についてはいかがですか?

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志村 ものすごく感じますね。昔のシンセ、例えばProphet-5とかを聴くと、あぁいい音だなと思いますけど、今は、普段接するのはほとんどデジタル・シンセですよね。レコーディングの現場だとソフト・シンセも入ってくる。だから、音の幅やツールの幅が広がったので、なんでもできてしまう。極端な例でいくと、フルオケだってシンセでできる。あと、ライブの現場で、昔聴いていて良い音だと思っていたものが、今は古く感じることがあるんです。当時はすごく良い音だと思っていた音源を今聴くと、レンジが足りなかったりするんですよね。ということは、普段聴いている音が、それだけレンジが広がったのかなと。

本間 慣れというのもありますよね。テンポも上がっていますし。みんなが普通に感じるテンポが、速くなっているんです。昔のゆったりした曲をやると、重い、と感じるというか。間を我慢できなくなったということかなと。時間的な間もそうだし、上下の間もそう。常に鋭角的な感じになっている印象がありますね。そんな中で、実際のPAエンジニアリングは、どのようなことに気を付けているんでしょうか?

志村 会場のチューニングに関しては、できるだけ同じニュアンスにするのが理想なんですね。つまり、まずリハーサルで音を作って、その音をアーティストに聴いてもらってOKなら、卓の中の調整は、ほとんどいじらないようにするんです。調整は、スピーカー・システムの方で主にします。だから、今、サウンド・チェックのときに毎回CDを流しているんですけど、それと同じ音がすべきですよね。もちろんなかなか難しい面もありますけどね、楽器の鳴りも会場によって違いますから。ただ、たとえばJポップのライブでは、シーケンスだけの場面とかあるわけで、そういうところはできるだけ同じにしないと、盛り上がらないですよね。だけど、全曲分のシーケンスを毎回いじるわけにはいかないんですよ。

本間 なるほど、そうなんですね。

志村 それに、付随して面白い話として、小林(武史)さんや、亀田(誠治)さんのライブをやらせていただくとき、彼らがモニターとして聴くのは、僕が聴いている(会場にながしている)メインのLRなんですよ。

本間 それは大正解ですね。

志村 でも、よく演奏できるな、と思うこともあるんですけどね。例えばゲストでギタリストが来て、ソロでもやったら、ギターのボリュームを上げますからね(笑)。ただ彼らのようなプロデューサー・タイプの人間は、全体の中でのプレイを意識しているので、僕もすごくコミュニケーションが取りやすいんですよ。つまり、僕らがフェーダーのレベル、音色、アレンジなどを調整することを、彼らも意識しているということですからね。今はイヤモニで、それらのバランスは楽に実現できるので、ある意味スタジオのレコーディング感覚に近い形のモニターにすることが可能なんです。

本間 僕もレコーディングではそれが理想で、基本2ミックスを聴いて演奏するんですけど、個々のバンド演奏の音量レベルを上げるのではなく、エンジニアがバランスを取った2ミックスのレベルを上げるんです。そして、出だしだけクリックを聴こえるようにして、あとはドラムを聴きながら演奏する。

志村 素晴らしいですね、それは。

本間 やっぱり、クリックにガチガチ縛られた演奏はしたくないのと同時に、エンジニアが何を作ろうとしているのか、というのを以心伝心で伝わるように演奏するのが、そのミュージシャンにとっても幸せなことだと思うんです。でも、それをライブの現場でやるのはなかなか難しいし、技術的にも大変ですよね。ただそれは一考の余地はありますね。

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Section3
キーボードが目立つためには

“ミュージカル・ディレクター”という立ち位置の確立

本間 これまでいろんな現場を見てこられて、キーボード・プレイヤーの存在、あり方について思うことはありますか?

志村 実際キーボード・プレイヤーでありプロデューサーという人は1番多いですよね。ということに象徴されるように、やっぱりキーボードというポジションからしても、あと楽器としてもバンドの中のどの楽器よりもレンジの広い楽器です。だから、そういう中で音楽をプレイしている人たちだから、必然的にアンサンブル中心なんですね。ポップスの世界で言えば、キーボードが中心になっていることが多いんじゃないですかね。歌をキチッと聴かせるためには和音が聴こえないとだめなんですね。その部分の管理者でもあると思うんですよ。ギターよりも。そういうイメージですね。

本間 全体をまとめる感じとおっしゃいましたけど、それに反してキーボードの人口は減っているし、とにかく目立たない。今後、キーボーディストが目立っていくには、どういうことをしていけばいいですかね。

志村 すごく目立つキーボーディストを1人知っていますからね(笑)。

本間 やっぱり、そこに行き着きますね(笑)。スーパー・スターという存在が影響を与えるというのは、まず1つありますよね。

志村 そうですね。それも1つあると思うんですけど、今ふと思ったのが、キーボーディストが目立つという点で、欧米などではミュージカル・ディレクターというポジションがありますよね。例えば、キーボーディストがボーカリストのすぐ側にいて、その人が指揮までしたりする。そういう目立ち方って、カッコいいと思うんですよ。日本は、曲終わりをドラムが締めたりしますけど、海外では、ミュージカル・ディレクターが締めるんですよ。

本間 ちょうど今、いきものがかりのツアーでは、僕が締めていますよ。やっぱり拍手の具合とか、その場その場で変わりますからね。どのくらい延ばそうかというのは、ピアノなど楽器のリリースだけではなく、ペダルで混ぜているパッドも調整し、拍手聴きながら、ココで、というのを測って指示を出す。

志村 それは素晴らしいと思います。どんどんやっていっていただきたいですね。その呼吸というのは、すごく大事だと思うんですよ、ライブにとって。あと曲の始まりも向こうのミュージカル・ディレクターは、マイクで指示を出せるようにしているんです。

本間 ローリング・ストーンズもそうですよね、チャック・リーベルがそれを担っている。

志村 ポップ・オーケストラはそうですね。だから、向こうの映像を見ると、キーボードの側にマイクが立っていることが多いですよ。でもコーラス用ではないですからね。そういう立ち位置でキーボードが目立っていけばカッコいいと思いますよ。だから本間さんがカッコいいですよ。

本間 いえいえ(笑)。ただ本当に、もっとプレイヤーが増えてほしいと思うんですよね。打ち込みアレンジャーは増えているんですけど、プレイヤーがあまり増えていない印象なんですよ。 

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志村  それは、レコーディング・スタジオが減っていて、レコーディング・エンジニアも、仕事が少なくなっているということにもつながっていますよね。つまり、家で作ってきたものを、1回もスタジオの卓に立ち上げないでそのまま納品できますから。ただ、そういう音楽はいつの時代にもあります。昔だって、カセットで録ったものがレコードになっていたことだってあるわけですから。それはそれでいいと思うんですけど、逆にしっかり作り込んだものが少なくなっているのは、この業界にいるすべての人たちに危惧してもらいたいですね。

本間 おっしゃるとおりですね。

志村 そういう話をしていると、僕はライブのエンジニアで良かったなと思うわけですよ。最近ライブでも生で弦を入れたりすることも増えてきて、PAにとっては結構大変なんですけど(笑)、充実はしているんです。やっぱり生の音は良いですし、お客さんもそれは伝わっているはずですから。だからそういうライブが残っているという意味では、僕は恵まれているなと。本当はCDを作る現場で、そういう部分が一番残っていないといけないと思うんですけどね。

本間 本当にそうですね。僕もまだまだやるべきことがありますね。今日は貴重な話をいろいろとありがとうございました。

志村 こちらこそありがとうございます。楽しかったですよ。

本間昭光

大阪府出身。作編曲家、キーボーディスト、プロデューサー。4歳よりピアノを始め、アマチュア・バンドでキーボードを担当する。松任谷正隆に作曲、アレンジを師事、その後本格的に活動を開始する。現在は、いきものがかりをはじめとし、ポルノグラフィティ、浜崎あゆみ、和太鼓チーム、倭の音楽プロデュースなど多数のアーティストを手がける。(www.bluesofa.co.jp/

志村明

PAカンパニーSTAR*TECH主宰のサウンド・デザイナー/PAエンジニア。Mr.Children、EXILE、TM NETWORKなど、日本のトップ・クラスのコンサート・システムをデザインする一方で、PAエンジニアとしても活躍。最新システムへの意識の高さと合理的な理論、さらに経験豊かな知識も備え、アーティスト、イベント制作スタッフからの信頼も厚い。

JUJU
「ただいま」

 

JUJU_H1.jpg SMA:AICL-2386~7

 

カップリング「花がめぐるところへ」で、サウンド・プロデュース&アレンジで参加。

TUNECORE JAPAN