【スペシャル対談】小川文明×高山博タルカス・トークで大噴火!(キーボード・マガジン2002年1月号より)

コラム by キーボード・マガジン編集部 2016年6月14日

taidan_ph3

キーボード・マガジン2002年1月号に掲載された、小川文明氏、高山博氏によるELP「タルカス」対談記事を大公開!(冒頭文にあるスコアはWebには掲載されておりませんので、ご了承ください)

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ここではスコア「タルカス」を元に高山博、小川文明の両氏に「タルカス・トーク」と銘打って、さまざまな角度からキース・エマーソン&「タルカス」 について検証してもらうことにした。注釈(カッコ内の番号に対応)を用意したので、以下の関西弁トークと照らし合わせながらお楽しみいただきたい。

晩秋のある日、そろそろ日も暮れようとするころ、ピアノの前に高山氏、エレピの前に小川氏がそれぞれ座る形で対談は始められた……。

〜キースのオルガン・アプローチとは?〜

高山 今日は「タルカス」ということで。
小川 オケカス(①) ということで。
高山 ザルカス(②) ということで。
小川 もういいって(笑) 。
高山 文明は「タルカス」をリアルタイムで聴いた?
小川 うん。「ヤング・ミュージックショー」(③)で「展覧会の絵」をやったあとぐらいかな。
高山 俺もそのころ。ところで、「タルカス」冒頭にあるオスティナート(④)部分のポコポコした音、オルガンと分かって聴いてた? 俺、当時はシンセやと思ってた。
小川 俺は木琴やと思ってた(笑) 。
高山 カール・パーマーなら叩きかねん(笑)。
小川 実は3rdパーカッション(⑤) と16’のドローバーを半分ぐら引いた音だったんやね。
高山 全部引かないところがミソで、それによって、異様にパーカッシブな感じになってる。
小川 うん。「ヤング・ミュージックショー」の「展覧会の絵」のビデオとかを見たらよく分かるけど、キースってHAMMOND C3(⑥)を弾くときは、ほとんどボリューム・ペダルを使わずに、ド口ーバーの引き加滅で音量をコントロールしてるよね。
高山 見てるねえ(笑)。あと音色だけじゃなくて、オルガンに対するアプローチも独特やね。
小川 特に「タルカス」は独特。
高山 バンドの中で、ひとりのオルガニストが同じ音で、いろいろ弾いているって感じじゃなくて、次々にいろんなセッティングのオルガン・サウンドを展開して、“オルガン・オーケストレーション”っぽくしてる。
小川 スピーカーもHIWATT(⑦)とLESLIE(⑧)を混ぜて使ってるしね。キースってC3 を使い出したのがELP を始めてからだし、ピアノ・サウンド中心の1stの後に、満を持して出したアルバムだけに、相当気合入ってるよね。

①オケカス:70年代の日本のプログレ・バンド、FIELD EGGのナンバーで、アルバム『DR.SIEGEL’S FLIED EGGSHOOTING MACHINE』に収録。タイトルは当然タルカスからきている。 樽>桶
②ザルカス:同じくFLIED EGGのナンバー。 樽>ザル
③ヤング・ミュージックショー:70年代のNHKの洋楽番組。年に数回オンエアされる、いわば特番で、毎回1アーティストのライブを放映。ELPのほか、ピンク・フロイドのポンペイ・ライブ、WINGS全米ツアーなどもオンエアされていた。この番組を見てミュージシャンを志した者数知れず。
④オスティナート:同じ音型を繰り返すこと。
⑤3rdパーカッション:HAMMONDオルガンには、基本的な音色を作る“ドローバー”のほか、“パーカッション・スイッチ”が付いている。パーカッション・スイッチには2種類あり、2ndではオクターブ上、3rdでは5度上に音が付加される。
⑥HAMMOND C3:言わずと知れたHAMMONDオルガンの名機。内部はB3と同じだが、外部にキャビネットが付いている。
⑦HIWATT(ハイワット):代表的な大型ギター・アンプ。ザ・フーのピート・タウンゼントも使用していた。MARSHALL(マーシャル)じゃないところがキースらしい。

高山 歪みひとつとってもいろいろ使い分けてるね。例えば「タルカス」のテーマ部分とか【C】のメ口を弾いている音色が、この後、キースのトレードマークっぽくなる張りのある音で、それとは別に強力に歪んだ音が要所要所に入っててかっこいい。もちろんクリーンな音も使ってるし、パーカッションも効果的。
小川 これだけパーカッションを効かせてきれいに弾くのは相当難しいよ。単にスタッカートにしただけだと、グルーブが軽くなって思いっきりダサくなる。こういう風にできるだけ音を保持しつつ、完全にノン・レガートで弾かないとオルガンのかっこよさは出ない。だけど、ちょっとでも重音になると、パーカッションが出なくなってすごい悲しいことになるね(⑨)。
高山 俺も経験者(笑)。ところで、譜面の26小節からの右手、小節の変わり目でB ナチュラルからB ♭に行くところってどんな運指で禅いてる? 俺は親指>人差し指で無理やり弾いてたけど(⑩)。
小川 これ、キースが練習してるところ見たら、実は両方親指やってん。
高山 うわぁ、黒鍵に上がるのは難しそう! では、読者の皆さんに弾きこなしのコツを……。
小川 オスティナー卜は、「4つ3つ3つ」でグルービングして勢いをつけるんやけど、こけないように素早く指を上げることが大事やね。
高山 なるほど。キースってタッチは浅めやけど、とにかく指がよく上がるからね。

⑧LESLIE(レスリー):ロータリー・スピーカー。HAMMONDといえばこれ。
⑨HAMMONDのパーカッションは、モノフォニックでシングル・トリガー。つまり2音弾いても先に弾いた方しか鳴らない。

楽譜1
⑩楽譜1

 

〜元祖にして完成者!〜

小川 オルガンと並んで強力なのがシンセ。MOOGモジュラー(⑪)やけど、とにかくいい音してるよね。
高山 モーグ博士と直接相談しながら、楽器も作ってもらってたらしいし、シンセがロックに大々的に導入され始めたのもキースの功績やし、ほんと元祖にして完成者って感じ。
小川 俺の見たキースの練習風景ってピアノでやってたんやけど、譜面図のシンセ・メ口のところで、ちゃんとボルタメントの基点の音も練習してたよ(⑫)。
高山 下からしゃくるようにするためやね。あのフレーズはほんと印象的やったなあ。当時、“ロバート・プラントがシャウ卜するようなことをキーボードでもできるんや”って感じがしたもん。フラストレーションいっぱいの思春期の破様衝動をわしづかみ、みたいな(笑) 。
小川 あと、ジミヘン(⑬)のような感じもあるよね。やっぱりロックって感じ。
高山 タルカスのシンセの音は、どれもかっこいいから、なんとか自分でも作ろうとしたし。
小川 当時やったらROLAND SH-3A(⑭)?
高山 うん。でも1VCOやから、「アクアタルカス」(⑮)を弾くのに、「レゾナンスを発振させてなんとか4 度でハモれないか」とか、それはもう涙ぐましい努力(笑)。

⑪MOOG:巨大なパッチ式のMOOGシンセサイザーは、キースのトレードマークのひとつ。

楽譜2
⑫楽譜2

⑬ジミヘン:ジミ・ヘンドリックス。伝説的なロック・ギタリスト。グレッグ・レイクはELP結成時に、キースを誘うかジミヘンを誘うかで迷ったとか。
⑭ROLAND SH-3A:ROLANDの初期のシンセ。国内メーカーとして初のADSRやレゾナンス・フィルターといった“標準的なパラメーター”をすべて装備したモデル。筆者は友達のを借りて使っていた。
⑮アクアタルカス:組曲「タルカス」の7曲目。ふたつのオシレーターを4度インターバルにしてモノシンセで弾いている。

楽譜3_1
▲楽譜3

 

〜原点はブギウギ?〜

小川 そろそろ曲の分析の方にいきましょうか?
高山 左手でオスティナート、右手でテーマ、ほとんどひとりだけで曲は完成されてて、ドラムとべースをそれに付けていく感じ。曲は変拍子でややこしいけど、このパターンはブギウギから来てるかな。
小川 例えば典型的なブギウギやとこんな感じ(⑯)。この音をひとつずつずらして4度音程にすると、「タルカス」っぽくなる(⑰) 。あと、右手の合いの手の、7th を2度でぶつける入れ方も、ブギウギでよくあるパターンやし(⑱)。

楽譜4
⑯楽譜4

楽譜5
⑰楽譜5

楽譜6
⑱楽譜6

高山 そうそう、テーマのここのフレーズとかもブギウギっぽいし(⑲)、このキメ(⑳) もドクター・ジョン(㉑)とかの三連符の奏法に通じるよね。
小川 こんな感じやね(㉒)。キースはブギウギもかなりやってるからね(㉓) 。あと、ジャズ・フレーズもかなりある。例えば【B】の最後のかけ上がりフレーズはコンディミ(㉔)やしね。
高山 キースとジャズっていうと、サードストリーム(㉕)の影響はかなりあるよね。「タルカス」のB面「ジ・オンリー・ウェイ」ではMJQ と同じようにバッハの平均律の4ビートを使ってるし。
小川 あとビル・エヴァンス。『展覧会の絵』の「ブルース・ヴァリエイション」は、「インタープレイ」のテーマを弾いてる。オスカー・ピーターソン(㉖)のフレーズもよく出るね。
高山 それとジミー・スミス(㉗) 。とにかく、最初はエマーソンから触発されてこの辺聴きまくったよね。
小川 うん、ジャズ喫茶とか行きまくったりして。そういう意味で、ジャズへの扉を開いてくれた人でもあるかな。

楽譜7
⑲楽譜7

楽譜8
⑳楽譜8

㉑ドクター・ジョン:ニューオーリンズ・ピアニストの代表的存在。

楽譜9
㉒楽譜9

㉓シングルにもなった「ホンキー・トンク・トレイン・ブルース」はブギウギの名曲。ほかにも、ライブ「レディース&ジェントルメン」のピアノ・ソロは強力なブギウギ・プレイ。
㉔コンディミ:コンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケールのこと。バップなど典型的なジャズ・フレーズで多用される。
㉕サードストリーム:クラシックとの融合を目指したジャズ・ムーブメント。クラシックの楽曲をジャズで演奏するようなスタイルから12音技法など現代音楽の手法を取り入れたものまでさまざま。ジャズ版のプログレと言えるかもしれない。MJQは代表的なアーティスト。
㉖オスカー・ピーターソン:ジャズ・ピアノ最強の名手の一人。小川氏はピーターソンとキースの競演ビデオも見たことあるらしい。おれも見たいぞ。
㉗ジミー・スミス:ジャズ・オルガンの第一人者。オルガニストでこの人の影響を受けていない人はいないといっても過言ではない。

 

〜何といっても4 度音程!〜

高山 「タルカス」といえば、何といっても4度音程。
小川 徹底してるよね。あまりに印象的なせいか、安易な「プログレ風フレーズの作り方っていうと、やたら「4度音程を使う」と解脱してあったりする(笑)。
高山 直接はバルトーク(㉘)とかの影響なんだろうけど、キースの4度音程好きは、もう“偏愛”といってもいいほどかもしれない。
小川 『展覧会の絵』の「ブルース・ヴァリエイション」のシンセのテーマとか。
高山 あとナイス時代の「悲愴」(㉙)とか、作曲、引用含めて多いよね。
小川 そういえば、エディ・ハリスの「フリーダム・ジャズ・ダンス」っていうジャズの曲を、キースと同時期にブライアン・オーガー(㉚)がやってるんだけど、ちょっと聴いてみて。
高山 をを、こ、これは!
小川 4度音程がテーマになってるやろ。このころ、こういうムーブメントがあったんやろうね。
高山 むしろSuzy Cream Cheese(㉛)を彷彿させるような。
小川 (爆笑)

㉘バルトーク:ハンガリーの作曲家。キースは東欧の作曲家がお気に入りのようだ。
㉙悲愴:チャイコフスキー作曲、交響曲第6番「悲愴」第3楽章。

楽譜10
▲楽譜10:「悲愴」の一部。

㉚ブライアン・オーガー:70年代活躍したジャズ・ロック・オルガニスト。非常にかっこいい。ちなみに、このとき聴いたアルバムは、Brian Auger’s Oblibion Express『SECOND WIND』。

second wind
『SECOND WIND』Brian Auger’s Oblibion Express

㉛Suzy Cream Cheese:小川文明率いるオルガン・トリオ。最強です。

高山 タルカスのテーマ部分って、4度堆積コードやけど、一応機能的にも説明できるね。この部分(㉜)って一応FのドミナントのC7♯9と考えることができるやん。あと、F のコードにもA♭(G♯)の音があるから♯9 っぽいし。こういうところが、ジャズ・ロックっぽく聞こえるんやろね。
小川 #9といえばジミヘンゃったりもするし(㉝)。
高山 話がクラシック系に戻るけど、ヒナステラ(㉞)の影響もすごいよね。アルバム『恐怖の頭脳改革』で、は「トッカータ」やってるし。この楽譜だと、70 小節目からのどんどん展開していくところとかはヒナステラっぽい行き方やね。
小川 ヒナステラのピアノ曲とか、普段からかなり弾いていると思うなぁ。でないと、こういうのをバランスよく書けないと思うし。とにかくアイデアの多さだけじゃなくて、バランスの良さがすごいよね。まさにグレート。

楽譜11
㉜楽譜11

㉝#9:もちろん、ジミヘンの名曲「紫の煙」のこと。
㉞ヒナステラ:ALBERTO GINASTERA(1916-1983)。アルゼンチンの作曲家。

enrique batiz
『ENRIQUE BATIZ』ALBERTO GINASTERA

 

〜今も影響を与えまくる名曲〜

小川  ところで、「タルカス」ってだいぶ練習とかした?
高山 うん、高校のころとか、それこそ運指練習みたいなつもりで毎日ちょっとずつテンポを上げながらやったりしたなあ。全部の指を使うし、手も広がるし、なかなかエチュードとしてもいいねん。
小川 おれも、10 年前は、CLUB  eggsite(㉟) のプログレ・ナイトとか、最近では大高さん(㊱) と連弾やったりしてるし。
高山 高校のころとか、「タルカス」みたいな曲を書こうとか思わなかった?
小川 書いた書いた。4度音程使ってこんなんとか(㊲)。
高山 俺も「タルカスが4度ゃったら5度にしてやれ」って思って、こんなんとか(㊳)書いたなあ。あと、ニュース番組のテーマ曲を書くようになって、4度を使うときに、ついつい影響が出てしまう。
小川 俺もついこの前、コナミのゲーム、「キーボードマニア」用に「アルマジロ」ってタイトルの曲書いたよ(笑)(㊴)。
高山 僕らはともかくとして、世界中にもフォロワー多いよね。トリアンヴィラード(㊵)とかスリー・ピースのキーボード・トリオはELP 以後いっぱい出てきたし。リック・ウェイクマン(㊶) も、当時はsus4とか4度音程を使いまくりだった。
小川 ほかにも、直後の影響関係4草分からないけどチック・コリア(㊷) とかと似たところもある。
高山 それならデヴィッド・フォスター(㊸)も。

㉟CLUB egg-man:渋谷のライブハウス。小川文明もよく出没する。
㊱大高さん:ジャズ・オルガニストの大高清美さん。

楽譜12
㊲楽譜12

楽譜13
㊳楽譜13

㊴キーボードマニア:24鍵あるYAMAHA製のキーボードとホイール・コントローラーを使用し、メロディ・ラインを奏でるPlayStasion2専用の“キーボード・シミュレーション・ゲーム”。
㊵トリアンヴィラード(Triumvirat):ドイツのキーボード・トリオ。
㊶リック・ウェイクマン:イエスのキーボーディスト。
㊷チック・コリア:ジャズ、フュージョン・キーボードの第1人者。バルトークの影響があるので共通した音になるという説もあるが、実はプログレ・ファンではないかと睨んでいる。
㊸デヴィッド・フォスター:プロデューサー/キーボーディスト。C(onE)のようなベースが第3音にあるときの処理などに、似た要素がある。キースの映画音楽「幻魔対戦」のテーマを聴くべし。

小川 音だけじゃなくて、ロックの中でのキーボードの在り方というか、キーボードがフロントになりうるということを実証した人でもあるしね。
高山 うん。なんといっても、ロックっぽいかっこよさがすごいよな。多分、今でも世界中で多くの青少年の将来を誤らせていると思う。
小川 ほんまほんま。
高山 というわけで、この辺で終わりましょうか。
小川 じゃ、あとはビールでも飲みながらということで……。
高山 トリロジーでも肴に。

既に夜になったのをいいことに、二人の話はさらに続くのであった。語れども語り尽くせないELP の魅力。まさにEndless Enigma(㊹) である。

㊹Endless Enigma:アルバム『トリロジー』収録曲。邦題は「永遠の謎」。

 

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