今作は曲作りから編集まで、すべて3人の力で行っていきました。この3人で、ずっとセッションしていくのが僕の夢ですね/金子巧(cro-magnon)

インタビュー by キーボード・マガジン編集部 2014年7月11日

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リズム・セクションに鍵盤という、キーボード・トリオ編成のインスト・バンドcro-magnonが、ニュー・アルバム『Ⅴ』を7月16日にリリースする。3年ぶりのオリジナル・アルバムとなる本作は、ファンクやフュージョン、ラテン、ジャズ、カリプソ、人力テクノにいたるまで、さまざまな形態のダンス・ナンバーがそろった気合い十分の1枚。キーボーディストとしてウワモノ楽器を一手に担う金子巧に、自身の音楽歴からアルバムについて話を聞いた。

ジャンルの枠にとらわれずに
いろいろな音楽に挑戦したい

————初めて鍵盤を始めたのはいつごろですか?

金子 4歳のころに、ヤマハのピアノ教室に通い始めたのがきっかけですね。僕の家庭は母親がピアノを、父親はドラムをやっていて、結構音楽的な家庭だったんですよ。それで先に姉がヤマハ音楽教室に通い始め、一緒についていくうちに、自分からピアノをやりたいと言ったみたいです。

————当時はどのような練習をしていましたか?

金子 最初は普通にクラシック・ピアノを習っていましたが、当時は本当に練習が嫌いで(笑)、そういうことを先生に訴えてみたら、チック・コリアのピアノ小曲集や久石譲さんのようなポピュラー・ミュージックの曲を渡してもらえるようになりました。高校に入るとキース・ジャレットの『ケルン・コンサート』をほぼ3年間、まるまるやるようになりましたね。当時はCDのようにはうまく弾けなかったんですが、その先生は、楽譜どおりきちっと弾くのではなく、ちょっと音が間違っていたってグルーブが崩れてなければOK、という教え方をしてくれて、すごく良い先生でした。そうやって、高校のときには自分はピアノをやっていこうと決意するようになっていったんです。

————バンド活動を始めるのは?

金子 2年間音楽系の短大に行ったあと、アメリカのバークリー音楽学校に入学してからですね。そのときに今のcro-magnonのメンバーやいろいろなミュージシャンと出会ってバンドを始めるようになったんです。それまで人と合わせることがなかったので、すごく楽しかったのを覚えていますね。そうして、机の上で音楽を勉強するより人と演奏する方が大事だと思うようになり、学校は卒業せずに辞めることにしたんです。

————当時バンドで使っていたキーボードを教えてください。

金子 ピアノやエレピの音色はコルグのTrinityかTritonを借りて、シンセ音色は自分で買ったノードNord Lead 2で出すという、その2台でやっていました。バンドをやるようになるまではずっとピアノしか弾いていなかったんですが、いろいろなところで演奏するにはステージ・ピアノやPCMシンセがないと無理じゃないですか。そうやって、バンドと同時にキーボード人生が始まったという感じですね。

————cro-magnonの結成の経緯は?

金子 アメリカでセッションをやっていたときのメンバーが日本に帰って来てから、Loop Junktionというヒップホップ・バンドを組んだんですが、そのバンドは3年くらいで解散してしまって。その後シゲ(大竹重寿/d)とツヨシ(コスガツヨシ/b)と3人で組んだのがcro-magnonです。彼らとは、ヒップホップという枠にとらわれずもっとオープンに、ハウスやファンクなど、テンポが速い曲にも挑戦したいとよく話していたんですよね。この3人でやると決まったときは最初、ウワモノは僕のキーボードだけで必然的にフロントになるので、すごく葛藤はあったんですが、“まあいいじゃん、大丈夫大丈夫”というノリで始まりましたね(笑)。

————結成してからはどのような活動を?

金子 最初はとにかくライブをやりながら、契約してくれる事務所やレコード会社をいろいろ探していきました。そのうちにJAZZY SPORTというレーベルのオーナーであるMASAYA FANTASISTA氏と話すことができて、彼とすごく気が合い、じゃあ一緒にやろう、ということになったんです。JAZZY SPORTは直接海外とつながっているレーベルなので、バンド結成して3年目くらいでヨーロッパ・ツアーに行かせてもらったりしましたね。

————海外での反応はどうでしたか?

金子 良かったですよ。やっぱり、海外の人はダンスや遊ぶことに慣れていてどこもすごかったですね。渋い老夫婦みたいな人も、クラブに来て踊ってお酒を飲んで帰るとか、そういう現場も見ることができ、異質な文化を吸収できたと思います。

————金子さんは、cro-magnonの活動とは別に、2013年にピアノをメインにしたソロ・アルバム『Unwind』を出していますよね。

金子 そうですね。これはcro-magnonが一昨年に一旦活動停止したときに作ったものです。cro-magnonの活動をとおして、いろんな人と音楽をやるようになり、その中で、自分が何ができるのか探していたんですよ。ソロ・アルバムを作りたいという漠然とした思いも昔からありましたし、ちょうど良い機会なんじゃないかと思って制作していきました。

————すごく静謐で美しいハーモニーが広がっていて、この音楽性が金子さんの原点なのかな、と思いましたが。

金子 そうかもしれないですね。子どものころにジャズやポピュラー・ミュージックを始めたとき、坂本龍一さんやキース・ジャレットなど、そういう音楽に影響を受けた部分がすごく大きいので。それに近い音楽性が自分の中にあるのかな、と思います。

th_cro-magnonアーティスト写真 (1)

キーボードの音色の違いで
楽曲に差を付けていった

————では新作『V』のお話を聞かせてください。コンセプトはどのようなものなんでしょうか?

金子 活動休止してからの1作目で、本当に初心に返ってできることをやった、という感じですね。前までは、1年に1枚は出していたので、前作からの流れというのを意識していたんですが、今回は間が空いたので、今までとは違うフレッシュなものをたくさん詰め込むことができたと思います。

————楽曲はどのように作っていったのでしょうか?

金子 基本的にセッションを録音しておいて、それをもとに作り上げていきました。セッションは何も決めずに合わせることもありますし、曲調のイメージを決めたり、コード進行を先に考えて作ったりしたものもあります。ジャズ・トリオ的な「//Walts for Who?//」はまさにコードから考えていった曲ですね。

————バンド・アレンジはどう詰めていくのですか?

金子 スタジオに3人で入って、セッションの録音を聴きながら良い部分を抜き出していくんですよ。それから話合って抜き出したパートをくっ付けてみたり、さらに展開を作っていったりします。僕らのアルバム作りは、曲作りから編集するまで、基本的に3人で集まって作っていくというやり方なんですね。今作はみんなで共通のイメージを共有できたりして、すごく良い雰囲気で作っていけました。

————では、レコーディングは?

金子 レコーディングは、曲によってやり方は変えていきます。せーので一発で録ってしまうものあれば、シンセをたくさんダビングしていったものもありますし。ローランドTB-303のベース・マシンを使うような曲もあるので、曲によって臨機応変に対応していく、という感じですね。

————使った鍵盤機材を教えてください。

金子 たくさん使いましたよ。キーボード類はスタジオで借りたもので、スタインウェイModle O-180、ハモンドB-3、ホーナーD6、ローズMark ⅠヤマハCP80。シンセ類はJAZZY SPORTにあるモーグMinimoog、コルグPolysix、ローランドJX-8P、ヤマハMotif Rack XSを主に使いました。あとは自分で所有しているNord Lead 2や、スズキMelodion M-37、ヤマハP-25cなどの鍵盤ハーモニカを使っています。キーボードに囲まれて、至福のひとときでしたね(笑)。

————すごい機材の量ですね。なぜそれだけたくさんの機材を使ったのでしょうか?

金子 やっぱり音色の違いで曲の差を付けたいという思いがあるんですよ。音色が印象的だと、一発鳴らしたときに “なんだこの曲は?”と、人の耳を惹きつけることができるじゃないですか。それに、3人しかいないので、弾ける楽器が限られているという意味でも、変化を付けるならキーボードの音色が良かったんですよね。なので音色選びは3人で話合って決めるようにしています。“もうちょっとフィルター開いた方が良いかな”、というぐらいで話が終わるときもあれば、全く違うイメージの音色を使ってみたり、いろいろ試しましたね。

————ラテン色の強い「bonita」では、テーマをとるアコーディオンの音色が印象的でした。

金子 あれはアコーディオン音色をMotif Rack XSで出して、そこに鍵盤ハーモニカを2台重ねて作っていったものですね。どうしてもシンセのアコーディオンというよりは、息づかいのある音色を作りたかったので。

————爽やかなフュージョン・タッチの「Seductive」には、スティール・パンの音色が入っていますが、あれは?

金子 あれはNord Lead 2に入っているプリセット音色です。以前はプリセットをそのまま使うことに抵抗があったんですが、前にいろいろ音選びしているときに、メンバーが“そのプリセットの音良いじゃん”と言うので結構使うようになっていったんですよ。最近はライブでプリセット音色を弾くこともあるんですが、みんな良い音だったって言ってくれて。やっぱりプリセットはダメだとかあれこれ否定するのは簡単なんですが、それにこだわらず楽曲にあった良い音を探していくことが一番大事だと思いますね。

————人力テクノ的な楽曲の「Patchwork Jazz」は、どのように作っていったのですか?

金子 これはTB-303で同じ音符で持続させていくベース・パターンを作って、その上でアコースティック・ピアノでジャジーなソロをやたらと弾いたという感じです(笑)。ソロ以外のピアノのパートは結構ヒップホップ的な考え方で、一小節的のループを繰り返すパターンを作ったりもしました。そうしてシンセ音色を入れて、展開を付けていく、という流れですね。

————本作の中で、金子さんが一番気に入っている曲はどれになりますか?

金子 悩みますが、「回遊人」ですかね。今まで、ちょっと硬派な曲ばっかりやってきたんですが、この曲ではメジャー・コードをたくさん使って、明るい開けたイメージの楽曲にできたと思うので。「Floating Point」や「bonita」もすごく良い曲になったので、この3曲がお気に入りです。

————それでは、最後にバンドとしての目標を教えてください。

金子 この3人で死ぬまでセッションできたら良いんじゃないかな、と思っていますね。”世界一のフェス”みたいなものにも出たいかもしれないですけど、それよりやっぱりみんなそれぞれ幸せに生きて、60歳になっても70歳になってもお客さんの前で良い演奏をやる。そういうことが僕の夢ですね。

 

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