【ライブ・レポート】ボブズ・フィッシュ・マーケット~日倉士歳朗擁する日本のザ・バンド、30余年を経て再結成!”まさかの2ndアルバム”レコ発ライブ

ライブ/イベントレポート by 編集部 2011年1月28日

[2011年01月14日@横浜サムズアップ]

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敦賀隆(vo、g、harmonica)

“ボブズ・フィッシュ・マーケット”と聞いて、一体どれだけの人が”おっ!”と思うだろうか。強く反応する向きはきっと、70年代に多感期を過ごした相当のロック通で、自らもなんらかの楽器奏者だったに違いない。ミュージシャンからも信頼が厚い音楽評論家・増渕英紀氏の言葉を借りれば、ボブズは、”70年代のライブ・シーンで超有名”だったという。後追い世代の筆者にとってみれば、ギター・マガジン誌、アコースティック・ギター・マガジン誌にたびたび登場いただくスライドの名手、日倉士歳朗の、唯一知らないキャリアといったところ。

“今度また一緒にやることになったんだよ、レコーディングの機会も得たから、またライブが決まったら誘うから”。そう日倉士本人から話をいただいたのが、彼の10年ぶりのソロ作『STEEL MADE』のお披露目ライブを行なった一昨年前のその夜だったか、それ以前だったか。以後、何度かお会いするたびにバンドの近況を教えてもらった。アルバムもできた頃、彼はこうも言った。”バンドはもちろんなんだけど、敦賀隆という才能あるミュージシャンを、もっとみんなに知ってほしいんだ……”。

再結成の経緯

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日倉士歳朗(g、steel g、vo、mandolin)

いくつかの前身バンドを経て75年11月に結成されたというボブズ(人数は脱退・チェンジとあり前期は6名、後期は5名)は、ボーカル&ギター&ハーモニカの敦賀隆が中心人物で、ザ・バンドを彷彿とさせるアンサンブル/サウンドの真ん中を彼のハスキー・ボイスが貫くという、”聴かせる”バンドだったようだ。日倉士は76年9月に加入。これによってバンドの陣形が整い、79年にセルフ・タイトルの『Bob’s Fish Market』をビクターよりリリース。しかしその後ほどなくして解散してしまったという。今回再結成に至った経緯は、かつて入り浸っていたという下北沢にあるバー「ぐ」のマスターが一昨年に逝去、その追悼企画として30余年ぶりに同バー(当時の場所から移転)に結集したというもの。積もり積もった話や、久方ぶりにともにするサウンドの感触などから一度は冷めたはずの情熱がふつふつと再燃しただろうことは想像に難くない。

今回、途中脱退の國見敏博(k)が戻り、オリジナル・メンバーだった長谷川正夫(g、vo)が消息不明による不参加という変則性はあるが、なにせ横たわるのは30年という溝、人生いろいろある。ようやく実現した”2ndアルバム”は、30年という重みがそのまま付され、昨今のレヴォン・ヘルム・ソロ作品のジャケットを思わせる牧歌的な風景画に彩られた、なんとも味わい深い『THREE DECADES』。そのお披露目ライブにいよいようかがった。

お馴染みのカバーが並んだ第1部

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吉田達二(b、vo)

日倉士のソロ・キャリアにおいて分水嶺となるいくつかの夜を目撃してきた場所、横浜サムズアップ。拍手の中そのステージに登場したのは敦賀、日倉士、國見の3人。まずはご挨拶とブルースの古典「Trouble in Mind」のジャムから。かつてのレパートリーでもあるという。しかしこれがどうもしっくりこない。いぶかしげに國見を見る日倉士。そして、”半音低いよ”。場内がどっと笑顔になる。”これだからエレピは嫌なんだ(笑)”そう言ったのは敦賀だったか。どうもピッチ設定がズレていたようだ。ご愛敬。気を取り直し、バンドが揃って今度はディラン・カバー「Down In The Flood」を聴かせる。少し後ノリの、レイドバックしたリズムがいい。敦賀のかすれた歌声は温かく、力強い。日倉士が言っていた意味がよくわかった。

今度はかつての対バン仲間、エドズ・バムで活動してきたギタリスト/ボーカリスト、安藤則男がサポート・ゲストとして迎え入れられる。この日最後までステージに立っていた彼は構図上、消息不明の長谷川のポジションに収まった格好だが、”代演”というわけではなく、アンサンブル的に足りないところを補う役割だったとか。安藤もディランの名曲から「Knocking On The Heavens Door」を選び、叫ぶように歌った。それに次いで敦賀が歌うのは、デビュー作に収録される「また吠え始めたよ」。これはアンコールで披露した「のっぺら坊」と同様、久保田麻琴と夕焼け楽団にカバーされた知られざる名曲である。この曲を始め、多くのシーンで日倉士のスライドが聴きもので、バンド・サウンドのバックアップを受け、普段のソロ・ステージよりもイキイキと、そしてグイグイと飛翔しているのがまた嬉しかった。

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國見敏博(k)

ちなみに日倉士は70年代製のドブロ、ナショナルの8弦ダブル・ネック・スティール、レイジー・リヴァーのカスタム・アコースティック8弦スティール、プレート部分をリフィニッシュした戦前のリッケンバッカー”パンダ”、60年代初期製の3シングルを持つぼろぼろテスコ、黒面デカ頭の73年製フェンダー・ストラトキャスター、ジョンソン製リゾネイター・マンドリン、エピフォンAタイプ・マンドリンと、いつもどおりお店を広げている。全国津々浦々、これだけの機材を持ち運ぶ労を彼は惜しまない。それだけひとつひとつの音色を大切にしている証であり、それこそが彼のミュージシャンシップである。ソロ活動の折や不定期活動のジャグ・バンド、マッド・ワーズでもデヴィッド・リンドレー・ライクなマルチ弦楽器奏者ぶりを見せてはいるが、ボブズではなお一層その向きが強いと感じた。一方の敦賀は、最高級ラインを示すGフィールド・ヘッド・インレイ/クラウド・ブリッジを持つギルドFスタイル(F-50R、もしくはカスタム・モデルか)1本のみ。まるで、俺の歌はギルドじゃなきゃダメなんだと言わんかのよう。ふたりの、この対照的な感じがまた面白い。

ソロに転身してからレパートリーにしているカバー「White Line Fever」を”ジェシ・エド・デイヴィスらに敬意を表して……”と言って、この日初めてのボーカルに向かう姿勢は実に日倉士らしい。その流れで、いつもの”情けない男のブルース”「Shake Hand Blues」で第1部終了と相成るわけだが、なんと新作からは1曲もやらず仕舞い。この天の邪鬼(?)な姿勢が彼ららしいのかどうかはわかりかねたが。

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30年の歴史を背負って”歩き始めたよ”

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前田政明(d)

一転、第2部はアルバムの曲順どおりの10曲が並んだ。なるほど、第1部ではオリジナル・ボブズの”続き”を見せ、第2部で現在の姿を見てもらうという趣向だったか(後日日倉士に振り返ってもらうと、第1部は肩の力を抜く目的も含めた”セルフ前座”だったとか)。改めて聴き入る。ハープ&アコギというディラン・スタイルで歌う敦賀、そしてそれに呼応する日倉士のスライド、この二枚看板がボブズ最大の魅力に違いないが、國見、吉田達二(b、vo)、前田政明(d)という屋台骨は、お互いが見事に絡み合った、なんとも味わい深い、ウッドストックでニューオリンズなリズムを作り出す。かつてのライブでお馴染みだったという第2部の序盤戦は、その時代を知る者にすれば涙ものだったろう。なんと言っても頭の2曲「丘の上に佇んで」と「ストックホルム風景」はバンド・メンバー全員が代表曲と呼ぶもので、本来であればデビュー作に封入されて然るべき作品。客席のひと際大きな声は、当時から応援する者だろう。『THREE DECADES』には納得いく形で収めることができたという。そんな背景を噛みしめながらアルバムを聴いていただきたい。

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サポート・ゲストの安藤則男(g、vo)

さて、生で観ていて改めて心掴まれることがもうひとつ。敦賀のアコギさばきである。ソロ・アーティストとして、日倉士同様長いこと転々とツアー生活を送ってきただけの、豊かな表現力を持つ右手が光っている。”ラヴソング歌います”ぶっきらぼうに言葉を投げて弾き始めた「雨」の3フィンガーは、それだけでリズムが立体的に迫ってくるほどの迫力があった。こういう基本的な動きにこそ実力と人間が出る。そしてバンドが入ると、街灯に灯りがともるような安心感と温もりが生まれる。日倉士のマンドリン・ワークがまたいい。これは名曲だ。

ロードソング「歩き始めたよ」や、日倉士と敦賀が人生の痛みを分け合うように交互に歌った「乾杯」を経て、日倉士のステージではお馴染みのカバー、ダン・ペンによる佳曲、そして愛するライ・クーダーに敬意を表した骨格の「The Dark End Of The Street」。これはタメにタメたイントロから絞り出すような歌声、間奏、エンディング・ソロまで、日倉士歳朗という人間そのものがにじみ出た、アルバム中でも大きな見せ場、聴かせどころ、スライドマン日倉士の真骨頂だろう。かつて日倉士と連名作『海風』(2005年)を作った佐藤克彦は、日倉士のすごさはスライドさせた時の低音弦の太さにあると語ってくれたが、ライブでのこの肉付きの良さと骨の太さと言ったらない。その場にいる全員が息をのんだ。まさしく一音入魂。最後の音がかすれ消えると、敦賀がつい”……素晴らしい”と漏らす。すべてを語っていた。

30余年を経て懐古的に集まるのではなく、新しい一歩を踏み出した5人。思いがけない2ndアルバムも、生のライブも、どちらも音のコクが違う。得難い音とはこういう音を指すのだろう。ボブズ・フィッシュ・マーケットは、この2月に今一度祝祭を行なう予定だ。ぜひ多くの方にこのコクを味わっていただきたい。

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ライブ情報

ボブズ・フィッシュ・マーケット 『THREE DECADES』発売記念LIVE!!

2月11日(金)
高円寺JIROKICHI
OPEN18:30 / START19:30
問JIROKICHI HP(http://www.jirokichi.net/

ThreeDecades-280.jpg『THREE DECADES』

ボブズ・フィッシュ・マーケット

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