【ライブ・レポート】Springfelds〜細野晴臣,大貫妙子,星野源,キセル,原田知世(2010年5月3日@日比谷野外音楽堂)

ライブ/イベントレポート by 編集部 2010年6月14日

我らが鈴木茂も弾きまくり!
ハリー細野とその仲間たちによるグッド・ミュージック祭

Springfieldsは,細野晴臣とゆかりのあるグッド・ミュージシャンたちが少数精鋭で集う野外イベントだ。09年から始まり,去年は東京と大阪,今年は2大都市に加えて福岡・海の中道海浜公園デイキャンプ場でも行なわれた。各会場でラインナップは異なるが,5月3日の日比谷野外音楽堂に集まったのは,大貫妙子,キセル,原田知世,星野源,細野晴臣といった面々。このやや偏ったミュージシャンたちの音楽の特徴を考えてみると,”ギター”よりも,エレクトロだったりバンド・アンサンブル,ルーツ・ミュージックといったキーワードのほうが思い浮かぶ。しかし,今回は鈴木茂(!)が,ひさしぶりに細野晴臣の横でギターを弾くことがアナウンスされていたこともあり,往年のファンはどうしてもこのライブを観たいという思いがあったに違いない。

トップ・バッターは原田知世。抜群のルックスでステージ中央にスラっと立ち,マイクの前で可憐に歌う。小ぶりのアコースティック・ギターを手にするシーンも見られ,キセルが楽曲提供をした「口なしの丘」を披露したり,細野晴臣がベーシストとしてゲスト参加して「ファム・ファタール」をデュエットしたりと,見所にことかかない素晴らしいステージを見せてくれた。ちなみにギタリストは伊藤ゴローでホワイト・ファルコンなどを手に,バシっといぶし銀のプレイで楽曲に彩りを与えていた。

続いてはキセル。キーボードのエマーソン北村とドラムの北山ゆう子という鉄壁の編成で,キセルの素朴でメランコリックでミニマムな世界観をしっかりと体現していた。あからさまに音数は少ない中で,この絶妙なグルーヴはなかなか味わえるものではない。6月2日に発売された新作『凪』からも数曲披露されていたが,どの曲も相変わらずのキセル節が炸裂しており,観客たちも新作はチェックしておこうという気になったはずだ。お兄ちゃんこと,辻村豪文のギター・プレイと言えば,楽曲同様シンプルで音数も選び抜かれ,音色のバリエーションも多くないのだが,楽曲のノリを生むリズム・プレイとフレージングは絶妙。思い返してみても似たようなギタリストは見当たらないし,いわゆる唯一無二という言葉が当てはまる。ライブでそのプレイを見れば見るほど,斉藤和義がギタリストとしてサポート・メンバーに抜擢したことも納得してしまう。ちなみに,この日は以前からずっと使用しているというアコースティック・ギターと,レコーディング後に入手したというグレッチ6120(ダブル・カッタウェイ)を使い分けていた。

3番目に登場したのは,SAKEROCKのリーダー&ギターの星野源。ソロとしてはこの日のライブが2回目。しかも1回目は大阪で行なわれたSpringfieldsとのことで,まだまだ緊張した面持ちだったのだが,実際にステージで奏でられる音楽は素晴らしく,この日のハイライトに上げる人も少なくなかった。アコースティック・ギターと歌,ドラム,キーボード,ウッドベースというシンプルな4人編成で,2曲で高田漣がペダル・スティールが参加。演奏のうまい下手,ロックだロックじゃないといったの稚拙な論評は何も意味を持たず,ただそこにグッド・ミュージックが流れていた。飾らずに等身大の歌声と演奏を届ける彼らの姿は愛おしさすら感じた。ちなみに,6月23日に星野源のソロ・アルバムがリリースされるが,そこにも収録され,この日のライブでも披露された細野晴臣作曲の「ただいま」はぜひ多くの音楽ファンに聴いてほしい。細野らしいメロディとそよ風のようなスティール・ギターの音色が頭にこびりついてしまった。

一転,日が暮れてきた頃に登場した大貫妙子は,酸いも甘いも知り尽くした貫禄十分のステージを観るせてくれた。さっきまでの荒削りな音楽(もちろん,いい意味で)とは反して,瞬時に70年代ニューミュージックの世界へといざなってくれる。演奏陣も最強で,ギター耳を傾けると,ここしかないという場所にこれしかないという音色を置いてくる。何から何まで完璧なのである。最初はステージが暗くて見えなかったのだが,一体誰がギターを弾いているのだろうか?とよく観察してみると,そこには百戦錬磨のスタジオ・ギタリスト,小倉博和の姿があった。うますぎるがゆえに”フュージョンよりなギター”と感じた人もいたようだが,ギタリストならば誰もがあのように自由に弾きたいと思うだろう。ほかのメンバーは,沼澤尚(d),鈴木正人(b),森俊之(k)。夕暮れとともに気分が乗ってきたメンバーたちのグルーヴは最高潮に達し,メンバーそれぞれのソロ部分に大歓声が巻き起こる瞬間もあった。ちなみに,”ヒット曲もないので昔の曲を……”という自虐的なMCのあとに,シュガーベイブの「いつも通り」も披露された。レコードやCDとまったく変わらない歌声には大いに感激。個人的には先日に見たキャロル・キング&ジェイムス・テイラーのステージに匹敵するほどの至福の時間を与えてもらった。

以上のような素晴らしいミュージシャンたちの大トリを務めたのはもちろん細野晴臣。SAKEROCKの伊藤大地(d),コシミハル(k),伊賀航(b),高田漣(ペダル・スティール&マンドリン&バンジョー)という面子をバックに,黒いアコースティック・ギターを抱えてカントリーを歌う細野を見ていると,なんだか非現実的で,タイムスリップしたかのような不思議な感覚を覚える。決して演奏はカッチリしていない。ゆえに生まれるあの独特のゆるいグルーヴはマネしようと思ってもできるものではないだろう。 1曲を終えたあとに,いよいよ我らが鈴木茂がステージに登場。この日はトレード・マークのフィエスタ・レッドのストラトキャスターではなく,多くの改造がほどこされたサンバーストのストラトキャスターを抱えていたが,そのギター,彼の指先から生まれる音色は,聴き慣れたあの音そのものだった。歪んでいるのにまろやかで艶やかなのだ。楽曲はおもにトラディショナルなブルースやブギー,カントリーが多く,各曲で鈴木茂をフィーチャーするギター・ソロが用意されていた。本人はひさしぶりのステージで緊張していたのか,すべてのギター・プレイがスムーズにいったわけではなさそうだったが,時折りハッとさせられるフレーズが炸裂し,例えばローウェル・ジョージ直系のスライド・ギターを弾けば,そのサステインの効いた旋律は一瞬ペダル・スティールの音色なのか?と思うほどに滑らかなものだったし,ワウ・ギターも荒井由美の「卒業写真」を彷彿させる独特の色っぽさがあり,健在ぶりを見せつけるには十分のプレイを見せつけてくれた。本篇のラストでは,Harry Hosono & The World Shynessのアルバムにも収録されていた「Body Snatchers」が演奏されたが,このアレンジがまたカッコよかった。オリジナルでは徳武弘文のカントリー・リックが炸裂していたが,今回は鈴木茂のファンキーな要素をフィーチャー。テレキャスターに持ち替えた鈴木は,「砂の女」を思い出させるようなグルーヴィーなカッティングを炸裂させ,細野バンドに自分の風を吹きこんでいた。ちなみに,細野晴臣はめずらしくエレクトリック・ギター(グレッチ6120ダブル・カッタウェイ)を手にしていたことも記しておこう。

アンコールで再び登場した細野は,ぼそっと”忘れるわけにはいけない”とつぶやき,細野晴臣,坂本冬美,忌野清志郎の3人からなるユニット=HISで演奏されていた「幸せハッピー」を披露。そう,ちょうど1年と1日前,2009年5月2日は清志郎の命日だったのである。続々とこの日の出演メンバーもステージに現われ,”幸せハッピー♪”のコーラスを歌う。観客も素晴らしい音楽家たちと偉大なるロック・アイコンの足跡を噛みしめながら大合唱でこたえ,このイベントの幕を閉じたのであった。

 

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