ライブレポート/デレク・トラックス・バンド日本ツアー(2日目)

ライブ/イベントレポート by 編集部 2007年12月10日

元ギター・マガジン編集部員による濃い口なライブレポート、今回は2日目(2007年11月26日)の模様です。

元ギター・マガジン編集部員による濃い口なライブレポート、今回は2日目(2007年11月26日)の模様です。

PHOTO:Masayuki Noda


日本ツアー2日目(2007年11月26日)恵比寿リキッドルーム

JR恵比寿駅の発車ベルはヱビスビールのCMにちなんだ「第三の男」。気持ち焦り気味なテンポで奏でられるこのとぼけたメロディを、電車が発車するたびに聞く駅員さんはどういう気分なのだろう。ちなみにこういう発車を伝える音楽放送を”発車メロディ”というようで、その道の人たちには”発メロ”と呼ばれているそうです。電車内であれ会社であれどこであれ、他人の携帯電話の着信音が某かのメロディ、つまり”着メロ”だった時って、いやに耳につきませんか。これが通常の呼出音であれば、さして気になることもないのですが。なにも発車ベルにまで個性を持たせなくとも……。

まあどうせメロディにするのなら、私に決定権があれば、その土地の縁は無視してオールマンズ「ウィッピング・ポスト」の後半、あの燃え盛るような決め。あそこ。ならば電車の往来のたび、マグマが吹き出すような興奮を味わえる。”ゆけええぇえ,電車よぉお! 今日も安全運転だああぁぁあ!”という気分。でも待てよ、あのメロを聴いてしまったホーム階下の人たちは、”ううおぉおお! 俺は行けるぅう!”と駆け込み乗車も増えそうだ。そうだ、危ない、やめようやめよう。

そんなことをぼんやり考えていると,リキッドルームに到着する。リキッドルームは駅からそれくらいの距離感にあることを伝えておきたい。

さて本日は2日目ですが、本来であれば初日。それにスタンディング・ライブ形式の”今日こそ本番!”の日。昨日を振り返ると、彩り豊かなセットが観たかったという思いは残りますが、どうもステージとの距離感に消化不良を起こしていたのかもしれません。スタンディングならこれは解消できる、と開場の30分も前に到着。チケットは買い逃していたのですが、友人の知人を通して入手することができました。持つべきものは友達です、ありがとうございました。整理番号は500番台と遅めの入場となりましたが、会場前列には若干の隙があり、まんまと侵入成功(割り込んではおりません、一応)。

ところで、DTBを始め”ジャム・バンド”と呼ばれる多くのバンドは、ライブの録音を許可しておりまして、ファンはその音源をトレード、もしくはweb上で配信するという(一部のバンドでは電子的配信をNGとしている)、70年代から続くテーパー文化は時代とともに形を変えながら現在に至っています。(ごく一部に)音源を商売にする輩が出たためさまざまな制限が設けられましたが、基本は音源が人から人へ渡ることでバンドの魅力も広く流布。個人的には、とても健全な伝播方法であり、一文化だと思っています。ちなみに、高音質なレコーダーを持たない私は録っても個人的に楽しむ専門です。

さて、前方を陣取ってから開演までは40分間。いやいやいやいや,もう始まってしまうのかと、できることならこのワクワク感をもっと持続させていたい、いやぁもう全然、まだまだ登場しなくともOKっす。そんな若干変質的愛情を持ってバンドを待っていました。まぁなにせステージは目と鼻の先ですよ。スーパー・リバーブのサランネットはキレイだからリイシューかな?とか、ステージ袖のギターテク・ブースにレス・ポールらしき陰があるぞとか、ベーアンの横にはなぜかスプロの小型アンプが!とか、とにかく有意義な時間を過ごしました。う~ん、我ながら幸せ者。

19:10、開演。やはり上手からメンバーが登場してくると、凄まじい拍手と歓声が上がる。これこれ。スタンド・スタイルはあっという間にステージと一体化できる。気づけばうしろにはビッシリの笑顔。この大歓迎ぶりにはデレクも方眉を上げ、ちょっぴり驚いた様子。

クランチ・トーンでブルースのターンアラウンドが始まる。”You said you were hurtin’~♪”エルモア・ジェイムズが啼いた「It Hurts Me Too」だ。マイク・マティソンも絞り出すように、むせぶように喉を震わす。興奮するオーディエンスに、”まぁまぁこれからだから抑えて抑えて”というかのようなひかえめな音量。ソロもたっぷりしたフレージングで、古色蒼然とした世界観を作る。”歌うようなソロ”とは多くのギタリストが口にするひとつの理想形。デレクが奏でるスライド・ノートはまさにそれを体現していると思う。ブルースのソロでは、歌うというよりも情感たっぷりに”語って”くれた。

今度はグッと絞ったトーンで「Gonna Move」のイントロが刻まれる。こちらもDTBのキャリアに欠かせないカバー。作者のポール・ぺナは70年代初頭にグレイトフル・デッドの前座を務めたりしていたソウルフルにブルースを歌う異才(2005年に死去)。最近知りましたが、レス・デューデックもこの曲を78年作でカバーしているんですね。音楽の系譜を知り尽くしたデレクのセンス、たまりませんねぇ。インプロ部以外はオリジナルの雰囲気を壊さないのがDTB流のカバー・マナー。強く優しいこの曲のソウルは、やはりオリジネイターへの愛情に満ちていた。

向後3曲、ステージは最新作『ソングラインズ』からの楽曲が続く。ライブとは異なる観点で、バンド・サウンドの創造に成功したアルバム。そこからライブへフィードバックされたものはなんだろう。アレンジの方法論? 行間ならぬリズムや音階の間にある仕掛け? それともバンドに向かう精神的姿勢? どうだろう、きっといずれもあるのだろうけれど、本人にそんなことを問えば、スピリチュアル方面にいなされてしまいそうだ。デレクのギター・スタイルについて見れば、歌を主軸に据えた”伴奏”が、スライドの向こうを張る柱になったのではないかと、個人的に思うのだ。

パーカッション・ソロを経て演奏された「I’ll Find My Way」は、”本質とは何か? 何を信ずれば良いか?”と苦悶しながら己の道を探す男の歌で、マイナー・キーのジャジィなコード・プログレッションが語り手をサポートする。ライブゆえ後半にインプロ・ソロも多分に挟まれたけれど、トータルなバンド・アンサンブルで聴かせてくれた。

暗闇を浮遊するようなスライド・トーンがインディアン・スケールをなぞり始める。そう、これも聴きたかった。イスラム系の宗教歌をインストにした「Sahib Teri Bandi – Maki Madni」。このなんとも大陸的なメロディと、確信を持って歩を進めるようなリズム。4/4拍子にも聴こえるけど、そこにはハーフ・タイムという遊びがあるんだそう。細かく震えるフルートのしらべは神への祈りを表わしているのだろうか。ギターのノートと交錯しながら新たな地平を切り開いていく。

う~ん、いい。ダイナミクスの振り幅の広さが体を揺さぶる。この距離感で観ているからこそ、それが直に伝わる。かつてデレクは、僕らの音楽は集中して聴く類のもの、と発言しているけど、ライブは目の前で何が起きているかをしっかり見やって、その空間に身を任せるのが醍醐味だと思う。こういうある種の”ゴスペル”はなおさらそうだろう。

そんな異質の浮遊感は、次の「Sailing On」で温かみが与えられた。レゲエ・グループがオリジナルのようで,この陽気さは確かにそこに根ざしている。む~ん、ただやっぱり、耳はスライドにいってしまう(体は正直なんです)。アンサンブルの中にあっても、高音弦がズバッ!と抜ける感じ。ここがデレク・スライドのすごいところであり、気持ちいい~ところ。ちなみに1&2弦は太めのゲージを張っているようで、それが起因しているのかな。いやいや、彼の両の手がそうさせているんでしょう。

メンバー紹介とともにひと呼吸。お気づきでしょうか、ここまでは昨日からガラリ、メニューが変わっているんです。毎日観たくなるというある種の中毒性は、ここに負うところも大きい。

▲メンバー紹介するデレク

▲写真左からマイク・マティソン(vo)、トッド・スモーリー(b)、コフィ・バーブリッジ(k,flute)

▲写真左からヨンリコ・スコット(d)、カウント・ムブトゥ(perc)

さて、続くは昨日驚かされたシッティング・ブルース・セットへ。演奏曲目を使用楽器と併せて記しますと、
「Preachin’ Blues」~「Soul Of A Man」(リゾネイター・ギター)
「Meet Me At The Bottom」(グヤトーン+ツイード・デラックス)
「Get What You Desire」(グヤトーン+ツイード・デラックス)
「Done Got Over」(グヤトーン+ツイード・デラックス)
という流れでした。

昨日の「44 Blues」が「Get What You Desire」に変わったということですね。「Get What~」は,「Rollin’ & Tumblin’」や「Meet Me At The Bottom」系のテンポの速い2ビートなブルース(key=E)。他は基本線展開も含め、先日と同様という印象でした。

その後SGが戻った以降も、昨日のセットリストと同、というメニューなのですが……。

「I Know」、ゴスペル・ライクなアッパー・チューンという意味では、「Up Above My Head」や「Soul Stew」にも近く、作品未収録ながらすでにDTB流儀に仕上げられている。このタイプでスパイスとなっているのは、間違いなくハモンド・オルガンだと思う。アンサンブルに広がりと深みを同時に持たせ、ギター・サウンドとも相性が抜群。当の奏者は、音楽理論に通じ、さまざまなアイディアを具現化する役目で、インプロ中にデレクの変化をいち早く見極め、バンドに示唆することもあるという。DTBの陰なる頭脳、コフィ・バーブリッジその人である。

また、後半の盛り上がりとともにスライド・バーも滑りに滑る。先のインディアン・スケールやマイナー系ももちろんのこと素晴らしいけれど、メジャー・スケール中心に展開されるスライド・ソロは、フィジカルに訴える。ズンズンくる。この底抜けに盛り上がっていく感じはなかなか味わえるものではない。

本編の最後は「My Favorite Things」~「Volunteered Slavery」への長尺メドレー。そう、昨日も演奏されたとはいえ、インプロヴィゼーションが主体となるこの手の曲は、味わいがまったく違うんです(もちろんできることなら違う曲を聴きたいわけですがね)。

スラー・テクニック、ボリューム奏法,タイミング……なんともレガートに「My Favorite Things」のメロディへ入っていく。イントロからして昨日と全然違う表情。本日はより優しくなめらかだ。エフェクターの類を使わずして,何色もの音を紡ぐ。ここにもデレクのすごさがある。流麗だったフレーズが一気に歪んで突き抜けていくさまは、「Mountain Jam」のあの美しい起伏にも似ている。途中途中の事故や転がり方は、ややもして昨日のほうがスムーズだったかもしれない。しかしながら、メンバー5人(インストなのでマティソンはお休み中)の、いかにも本気!なぶつかり合いがズシリと伝わってくる。

この長いインタープレイの間、私はメンバーの目の動きに注目した。デレクは、我が道を行くようにまぶたを閉じるか、指板をうつろに見ていることが多い。時折りコフィを見て、ニヤリとする。対するコフィも自らの楽器に集中する時間が長く,耳だけがステージをしっかりモニターしているよう。

ベースのトッド・スモーリーは、人の良さそうなニコニコ顔を振りまきつつ、これはどうもデレクとコフィの動きをしっかり見ている(ちなみにこの人、自分の手元はほとんど見ない)。仕掛けを見逃すまいとしているだけでなく、リズム・チェンジや場面転換の間合いを計って、自ら仕掛けを作っているようにも見えた。それはヨンリコ・スコット(d)も同じで、体をふりふり、フロント陣を注視・注聴しながら、絶妙な力加減でダイナミクスを司る。音量が抑えられた時にはカウント・ムブトゥ(perc)がその存在を主張する。ただし、指揮者はあくまでデレク。SGのネックは場面ごとに、タクトのようにタテへ振れていた。

いくつもの山と谷を越え、魂の響きを持つ「Volunteered Slavery」へつながる。イントロダクションではフルートが存分に歌い、”ここぞ”のタイミングでスライド・ノートとユニゾンする。自然と生まれた手拍子にうしろを振り向くと、やはり笑顔の大群がある。くり返される2ndテーマ・リフ。テンポはゆっくりゆっくり加速し、並行してレベルも上がる。それに伴って、こちらの体も宙に浮くようだ。全身がゾクゾクッとくる。デレクの右手人差指が16分でトリルし始める。頻繁にいじってきたボリューム・ツマミはきっとマックスだろう。デレクの、冷静一徹の表層とは裏腹に、体内を埋める情熱が吹き出してきた。

デレク大噴火。右手のすべてを使って、フラメンコのラスゲアードのように弦を掻きむしる。その高い鼻がしらからは次から次へと汗が飛んでいる。最後の最後で狂奏を呈し、本編の音が止んだ。

アンコールで披露したのは「Get Out Of My Life」。演奏内容は昨日のレポートに譲ってもいいものだったが、1957スタイルのレス・ポール・ゴールドトップを持って登場したもんだからまいった。しかもダーク・バック(つまりディッキー仕様)。どういうことっスか。その美しさからGIBSON VOSシリーズと睨みましたが、いかがでしょう?実は明日(27日)、本番直前に機材取材を敢行予定。今回は機材のカラフルさに驚かされることしきりなので、見どころたくさん。しっかりチェックしてまいります。

時計を見ると20時50分。やはり110分程度のステージだった2日目。どうだろう? サウンドを全身で受け止められた点、セットリストの入れ替えや内容の変化を満喫できた点など、演奏時間よりも中身の濃さに満足がいった。

ちなみに昨日は、小田和正のバックなどでお馴染みのセッションマン、稲葉政裕さんがいらしていたようですが、この日は、2007年2月号でデレクと対談いただいた鬼怒無月さんの姿を発見。プロ・ギタリストたちの心も鷲づかみにするDTB。こうなると3日目に過剰な期待をかけてしまいますねぇ。ぐへへ。なぜなら、個人的にどうしても観たい・聴きたいアレがまだ演奏されていないわけですから……。

またも乱文・長文となり、大変失礼しました!

(渡辺真一/アコースティック・ギター・マガジン編集部)

[ソニー・ミュージック-デレク・トラックス・バンド]
[アコギ・マガジン・ブロク]

『ギター・マガジン』2008年2月号には、デレク・トラックスの来日公演機材紹介および「デレク・トラックスと小沼ようすけ対談」が掲載されています。

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