【インタビュー 】加茂フミヨシ

インタビュー by 編集部 2010年1月12日

ギター・マガジンの2009年12月号と2010年1月号で紹介した「Thrill Ride」。この曲は、先ごろ発売された加茂フミヨシの教則本『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』の総合練習曲だ。この本には加茂フミヨシの怒涛のギター・ワークにより、ワールド・クラスの超絶プレイが収録されている。ここでは、この本の執筆の背景や、彼がギターを教える時のこだわり、時代が求める近未来のギタリスト像についてインタビューを行なった。


▲加茂氏が持っているギターは「Charvel So-CAl Style 12H Candy Green」。

 

『速弾きがうまくなる理由 ヘタな理由』の速弾きは抑えて弾いていました。その理由は……

 

●加茂さんは、このRittor Music Portの“加茂フミヨシ式 一歩先を行くギター・トレーニング”で、読者からのさまざまな質問に答えていますよね。そこで質問です。近い未来、どんなギタリストが評価されると思いますか?

○僕の意見は”ライブを重視したギタリスト”だと思います。というのは、今はテクノロジーが進んで、高校生でもDAWやMTRを使ってオーバーダビングしちゃう時代でしょ。だから、極論を言うと”デモ音源だけじゃ、音楽性が判断しにくい”時代になってきてるとも言えます。

メジャー・レコード会社のオーディションは一次審査こそデモ音源だけど、それを通過するとライブ審査がありますよね。ディレクターは、このライブ審査を重要視していると思いますよ。ライブじゃオーバーダブはできないですから。だから、機材だと”ICレコーダー”と”デジタル・ビデオ”にはとても期待しているんです。最近のICレコーダーって物凄く良い音で録れますし。

●どちらも、一発録りしかできないですが、そこが良さでもあると。

○そうですね。バンド・コンテストの審査員などをさせてもらうと、オーバーダビングしまくって作っているサウンドよりも、ICレコーダーで一発録音しているバンド・サウンドのほうが印象が良いように感じてしまうことがあります。もちろん、オーバーダビングが悪いわけじゃないですけど。要は”ライブを想定した「生感」のある曲や演奏”ができているかということだと思います。

●では、デジタル・ビデオの利点というと?

○デジタル・ビデオはライブの記録をYoutubeやMyspaceで発信していくのに重要なツールですね。YoutubeやMyspace上でのオーディションとかも出てきていますし、今注目のオリアンティ・パナガリスもYoutubeで自分の演奏を配信したことが、マイケルジャクソンの「THIS IS IT」に参加するきっかけのようですよ。これらの機材を使いこなすことも、これからは重要と思います。

》オリアンティ・パナガリスの参考情報

●ところで加茂さんのプレイ・スタイルは、この数年でどのように変化していきましたか?

○もともと僕はアレンジャー、トラック・メーカーとして音楽の仕事を始めたので、ここまでギター寄りの音楽活動をするって考えていなかったんです。が、世の中想定どおりにいかないこともたくさんありますからね(笑)。ここ数年、かなりのギターのレコーディング……それもテクニカルなものをやってきた反動もあって、メカニカルに速く弾くっていうことよりも、よりメロディアスに弾きたいっていう欲求が以前よりずっと強くなっています。リットーさんの仕事だと、98曲入りのCDで全部速弾きというレコーディングなどもしていますからね。緊張感ありますよ(笑)

そういえば、去年の12月に教則本『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』を出させていただいたんですけど、これも速いプレイがあるわけで。とは言っても、この本の50%は”速弾きでないけど、超絶感のあるフレーズ”を弾いているんですよ。”速弾きばかりではない本を作ろう”という気持ちになったのもリットーさんの仕事のおかげかもしれないですね(笑)。

●とは言っても『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』には、テンポ245で16分音符フル・ピッキング(速さの臨界点に挑戦! 人体の仕組みをも考慮した超速弾き)がありますよね(編注:下の「▼音源試聴」で聞けます)。まさに”速弾き”を超えて、”光速弾き”といった感じです。

○いやいや、恐縮です(笑)。それはさておき、”テンポ200の16分音符より速いプレイ”っていうのはいつもの速弾きの感覚では弾きにくいかもしれないですね。僕の意見っていうか、歴史的事実としてもそうかもしれないけど、ロック・ギターの速弾きの登竜門って、ディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」のソロだと思うんですよ。もちろん、MR.BIGの「ダディ、ブラザー、ラヴァー、リトル・ボーイ」やアルカトラスの「ジェット・トゥ・ジェット」も速いんですが、体感速度として、最初の速弾きってやっぱり「ハイウェイ・スター」かなと。何が言いたいかっていうと、「ハイウェイ・スター」が楽に弾けるように練習していけば、「ダディ、ブラザー、ラヴァー、リトル・ボーイ」や「ジェット・トゥ・ジェット」の攻略も見えてくると思うんですね。

ですが、ロックにおいてテンポ200以上というのは、一部のパンクやメタルを除いて演奏される機会があまりないわけです。そのような特殊なテンポでフル・ピッキングの16分音符を弾くのは少々感覚が違いましたね。リットーさん、ちょっと難しい仕事を僕に振りすぎですよ(笑)。

●とはいっても、スタッフが加茂さんがその位のテンポで弾いてたのを目撃したようですよ(笑)。それはさておき、加茂さんの中でも、速弾きと光速弾きの弾き心地の明確な基準があったわけですね。

○やっぱり右手のピッキングが全然違いますよね。だけど教則として、とても良かったと思います。どうしてかと言うと、多くの人はゆっくりなテンポだと手首のスナップを使って弾けるんですよ。リットーさんの教則本がたくさん市場に出てる成果だと思います。だけど、僕は良く”ゆっくりだと手首を使えるのに、速く弾くといきなり手首が硬くなってしまう…”っていう質問を受けるんですね。

今は、速弾きだけ、とかカッティングだけ、アコギだけ、とか限定して弾く人ってあんまりいないと思うんですよ。世の中で流れている音楽がそうですから。バッキングはアコギでやっているのに、ソロになるといきなりエレキの速弾きが登場する……みたいな音楽は普通にありますからね。そういう意味で、『ひたすら弾くだけ! アコギ・トレーニング』のあとに、『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』を出版させていただいたことは大きな意味があったと思います。この本で”ゆっくりだと手首を使えるのに、速く弾くといきなり手首が硬くなってしまう…”と悩んでいる読者への回答も出せたと思います。

ちなみに、『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』の25%は光速弾きって言うんですか(笑)……まぁ、いろいろな今風の速弾きアプローチをやっていますよ。しかし、残りは速さに依存しない超絶プレイを中心に構築されているんですね。実際の曲の”超絶”プレイは、速弾きだけじゃないと僕は考えているんです。僕の中で超絶感っていうのは、”ギタリスト以外のリスナーが聴いた時にどう感じるか?”っていうのものなんです。意外と、ボーカリストなどにギターの速弾きを聴かせても、まったく”???”っていうこともめずらしくないですからね。それから、バイオリンとかピアノとかギター以上に速弾きを得意とする楽器はあるわけですし。単純に音の速さだけに捕らわれたくないといつも思っています。ですから、このような演奏のバランスにもこだわったんです。

●すべてが計算されているんですね。まさしくギター科学者! ところで、この本ではギター科学者という設定で執筆されていますが、前作『ひたすら弾くだけ! アコギ・トレーニング』ギター忍者でしたよね。

ギター忍者は伊賀の里に帰ったようです(笑)。今回、”科学者”っていうキーワードがスタッフ間で出てきて、”それは面白い”と思ったんです。というのも、新世代の超絶ギタリストは単に速弾きだけっていうのではなくて、さまざまなジャンルを研究していると思うんですね。ガスリー・ゴーヴァンにしても、アンドレアス・エーベルグにしても、ひとつのジャンルしか弾けないわけじゃなくて、いろんな音楽のスタイルを研究し、それを自分のスタイルを表現していると思うんですね。彼らは”さまざまなジャンルを追求する研究者、ギター科学者”と言えるんじゃないかと。そういう人たちをリスペクトした本を作りたかったんです。

●確かに、現在の音楽はいろんなジャンルの要素を取り入れていますよね。

○音楽がこれだけ飽和状態になってくると、単純にサビが印象的なポップスというだけではリスナー側も飽きるんじゃないかな。それがCDの売上枚数にも現れてきていると思います。先ほども言いましたが、『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』の50%は”速弾きでないのに超絶感を感じるフレーズ”が収録されているんですね。

速弾きフレーズだけだと、まずは技術練習が必要になります。けれど、それ以外にも超絶を感じさせる音楽的なアイディアっていうのはたくさんあって、それほど技術を必要としないアプローチもあるわけです。ですから、そういったアイディアも読者のオリジナル曲やアドリブ・ソロに反映させてほしいですね。読者の方がYoutube等の動画サイトにコピーしたのをアップするのもどんどん自由にやって頂いて構いませんので、楽しんでいただけたらと思います。連絡くれたら動画見ますから!

●超絶プレイの元祖と言えば、アル・ディ・メオラとアラン・ホールズワースを忘れるわけにはいきません。前作『ひたすら弾くだけ! アコギ・トレーニング』にはアル・ディ・メオラを彷彿させるプレイ(スパニッシュ風フレーズでメラメ〜ラッ! 烈火のごとくピッキングすべし!!)が収録されてましたが、『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』にはホールズワースを彷彿とさせるプレイ(解剖学的な限界に挑戦! ストレッチでキーボード風コード・サウンドを創造)が収録されていますね。(編注:下の「▼音源試聴」で聞けます)

○この本を執筆するお話をいただいた頃、僕がお世話になっているフェンダー社がシャーベルのギターを扱うようになったんですね。僕の中ではシャーベルと言えばアラン・ホールズワースなので、ちょうどホールズワースを研究していた頃だったんですよ。この本のテーマはホールズワースがピッタリで、タイミングが良かったと言えます。

彼のスタイルは、まず強力なストレッチコードでキーボード風のサウンドを作り出すところです。これは本当に難しいですね。かなり練習しましたよ。あと、スケールの弾き方は1本の弦に対し、4つの押弦ポジションがある”4ノート・パー・ストリングス”で弾くんですね。超絶レガート・プレイの元祖と言われているのに、彼のスタイルが最終系とも言えます。そのスタイルは、新世代の超絶ギタリストのRUSTY COOLEYなどにも受け継がれていますし。

●ほかに出てくるギタリストのスタイルは?

○超絶ギタリストとして認知され、先ほどのオリアンティなどの新世代ギタリストにも影響を与えているのに、ギター・マガジン以外の雑誌でそのスタイルが意外と取り上げられないスティーヴ・ヴァイ、フェンダーの超絶ギタリストエリック・ジョンソン。それから、ロック・ギタリストでもあるけど、ジャズ/フュージョン系のセッションでも活躍でき、ポップスというフィールドでも偉大な功績を残したスティーヴ・ルカサーのスタイルも紹介しています。

あと、速弾きでないけど、刺激的なプレイをしているギタリストの象徴として、ジョン・スコフィールドやスコット・ヘンダーソンがあげられます。彼らのプレイは単なるジャズではなくて、ブルージィなギターらしさがあるんですよ。この本では、今あげたギタリストたちのようなプレイに迫るための僕なりの研究結果をまとめています。

●メタル系が少ないですね。テクニカルなプレイを扱う教則本にはメタル・オンリーというのが多いようですが。

○ギタリストにとって”超絶”というとメタル系というイメージが強いのは確かでしょう。しかし、一般的なリスナーにそのイメージがあるかと言うと疑問です。さらに、現在の音楽はいろんなジャンルで”超絶”プレイが聴けるわけなので、必然的にあらゆるジャンルを扱う必要が出てきたわけです。勿論、この本でもメタルは演ってますけどね。フェンダー社で扱っているブランド、ジャクソン・スターズのギターを使って、ギンギンに弾いているトラックもありますよ(笑)。

●加茂さんの著書『速弾きがうまくなる理由 ヘタな理由』では、6連符だとテンポ140のフル・ピッキング・フレーズが出てきますよね。だけど、『ひたすら弾くだけ!超絶ギター・トレーニング』の総合練習曲「Thrill Ride」には6連符だとテンポ170のフル・ピッキング・フレーズがあります。『速弾きがうまくなる理由 ヘタな理由』では、速さを温存していたのですか?

○そりゃ、教則本だから、僕が速いということを証明するために出すわけじゃないですからね(笑)。そういう意味では『速弾きがうまくなる理由 ヘタな理由』はセーブして弾いていました。しかし、それは手抜きではないんです。あの本は、”どうやればわかりやすくゼロから速弾きが上達できるか?”っていうことに心血を注いだ本なんですよ。僕が速いとかそういうことは重要ではなかったわけです。だから、好評を得られたのだと思っています。本当にありがたいことです。あくまでも、視点は僕じゃなくて読者にあります。そこがすべてなんですよ。

●そういう理由だったんですね。

○ほかにも到達目標テンポであったり、細かなところまでこだわりました。僕が今までたくさんの生徒を教えてきて”大体このくらい練習すれば、このくらいのテンポで弾ける。逆に、これ以上のテンポで練習すると悪い癖がつく”とか、そういう経験を全部入れています。”理想論”ではなく、”実際”を教えたいんですよ。こういったマインドをいつも本やDVDに込めています。

●では、『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』でこだわった点は?

○この本は、まず基本概念のひとつに”速弾きが超絶とは限らない”というテーマを打ち出したかったんです。読者はご自身の曲に”ここに、スリル感のあるソロを入れたい”って思うわけですよね。だけど、スリル感=速弾きとは限らないし、そのオリジナル曲がメタル系とも限らないわけです。だから、まず速弾きでないっていうところから入りたかったんです。そこが『速弾きがうまくなる理由 ヘタな理由』との大きな違いです。

●速弾き以外の超絶プレイを踏まえた上で、速弾きに突入すると。

○はい。超絶っていうとやっぱり速いのを弾きたい読者もきっといると思ったんですよね。ここでも決め手になったのはやっぱり読者の声です。それが僕の支えになっています。『速弾きがうまくなる理由 ヘタな理由』を読んでくださった読者から、”本当に速くなった!”っていう嬉しいお便りをたくさんいただいたんですよ。でも、”もっと速く弾きたい”っていうお便りもあったんです。ありがたいことですよね。

だから、期待に応えたくて、『ひたすら弾くだけ! 超絶ギター・トレーニング』には、『速弾きがうまくなる理由 ヘタな理由』より速いフレーズが入っているんですよ。愛読者の声に応えたいんです!

●加茂さんは、プロデューサーやアレンジャー、ギタリストの活動に加え、ギター講師としてもマルチな才能を発揮されてますよね。”教えるという仕事”にこだわっている理由は?

○前述の超絶ギタリスト、ガスリーやアンドレアスにしても、彼らは”教える”という活動も自分の音楽活動の中に置いていると思うんですね。一昔前は、音楽を教える仕事に肯定的でないイメージを持っている人もいたようですが、今の時代、このRittor Music Portの”著者たちの語らい”でも登場したトモ藤田さんのように、教えることに心血を注いでいるギタリストが国内でも評価されていますよね。

それはどうしてかというと、教えるという行為は”表現の伝承”であるので、メロディや詞で”伝える”ということと近い要素があると僕は思うんですよ。クラシックや日本舞踊など、伝統芸術では”表現の伝承”は当たり前のように行われていますが、ロックやポップスにもそういう時代が来たのだと思います。それを”著者たちの語らい”をやっていて、肌で感じましたよ。自分が教えることで誰かの役に立てたら良いな、と思っています。それから僕は、研究したり考えたり実験することが大好きなんです。なので、”加茂フミヨシ エレキ・ギター研究所“というのを始めたんです。ここには僕のギターに対する夢や遊び心がたくさん詰まっています。ぜひ、サイトにアクセスしてみて下さい!

▼音源試聴

編集部よりお知らせ

2010年1月1日からスタートした、加茂氏のギター・ラボ”加茂フミヨシ エレキ・ギター研究所“。一番の肝は加茂氏によるe-ラーニング・ギターレッスンシステムの研究だ。地方や海外から加茂氏への個人レッスンの希望メールが 多いことに応えたいというのが目的とのこと。加茂氏に直接教わりたいとご希望のギタリストは、研究所のe-ラーニングシステムの完成を楽しみにしながら、こちらのサンプル動画をご覧いただきたい。

 

加茂フミヨシ

加茂フミヨシ

超絶技巧ギタリスト/クリエイターとして活躍する。傍ら、最先端エレキ・ギター奏法の求道者としても、多くのヒット作教則本を発表。2011年に、スティーヴ・ヴァイがバークリー音楽大学で記録した“世界最大規模のオンライン・ギター・レッスン”のギネス世界記録に挑戦。ヴァイの“ギター・レッスン受講者4,455人”の記録を“8,776人”に更新し、イギリスのギネス・ワールド・レコーズより日本人ギタリストとして正式承認される。世界に名を刻んだエレキ・ギター界の伝道師である。



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