【インタビュー】ポール・リード・スミス

インタビュー by 編集部 2009年12月14日

先の楽器フェアのために来日した、総帥ポール・リード・スミスを直撃! ギター界のカリスマは、いかなる考えを持ち、創立25周年である2010年を迎えるつもりなのだろうか?

●今回のフェアで展示されていたPaul’s Dirty 100(注:ポールの横に写っている機種)について教えて下さい。

○PRSプライベート・ストック(以下PS)用のトップ材の中には、稀にですが帯状の色ムラが入っているものがあります。これらはどんなに良い材であっても、見た目の問題でPSとして使用することはできません。ですが、材自体は良いのでどうにかしてギターにしたいという思いがありました。Dirtyというのは、その色ムラが入っているという意味ですね。そこで、バイオリンのフィニッシュに近く、色ムラをカバーする塗装方法を開発して、その材を生かすことにしたのです。さらに59/09という新しいタイプのピックアップを搭載し、指板も木琴などの鍵盤に使う赤みのあるローズウッドを実験的に採用しています。そして限定100本でPSの約半分の価格で市場に投入できたのです。

●日本国内でも手に入れることはできますか?

○フェアにあるものは買うことができますよ。アメリカで市場にオファーしたら、すぐになくなってしまったんです。あまりに早くオーダーが来てしまい、webやカタログに載せることもできませんでしたけどね。

●カラー・バリエーションは作らなかったんですか?

○ステイン(生地着色)自体は1種類ですが、見え方はどれも微妙に違っているはずですよ。すべてのエレキ・ギターは最終的にダーティ・イエロー。すべてのバイオリンはダーティ・オレンジだと思っています。

●続いて、Dragon 2010のコンセプトは?

○今回のドラゴン・インレイはパッと見てもわかりづらい。けれども間近で注意深く見れば見るほど、画が見えてくるというものになっています。これまでと比べて、非常に複雑な構造を持っているんです。

●ベースとなったモデルは?

○ハワード・リース(ハート)に作ったモデルか、それより前の時期のダブル・カッタウェイのモデルですね。当時の屋根裏部屋時代って言うか、サンタナ・モデルに辿り着く前のモデルがベースになっています。

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▲Dragon2010

 

●では、25周年モデルのいくつかに搭載されたNFピックアップについて聞かせて下さい。

○通常のハムバッカーはポールピースの間がふたつのボビン分ありますよね。ですが、このNFは57/08のピックアップでボビン同士を近づけていった。それでハムバッキングの音色でありながら、弦の振動を拾うポイントの間隔が限りなくストラトに近づいてくる。これによって、今までにない深みと特色が出て、すごくいいサウンドになったんです。通常のポールピースの間隔をワイドと考え、対してナロー・フィールド(NF)という呼び方をしているんですが、これは今までにない試みです。P-90、ベビー・ハムバッカー、ミニ・ハムバッカーといったものから等距離に存在している感じですね。PAFのボビンを近づけた音のような感じに近いかもしれません。

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▲NFを3基搭載した25th Anniversary Modern Eagle III NF

 

●25周年記念モデルの中では、305というモデルが新たに目を惹きます。513モデルに基本コンセプトが近いのですか?

○513のバリエーションという考えで間違いはありません。513のミドル・ピックアップが3つ並んでいると考えてもらえば間違いないです。すごくいいコンディションのビンテージ・ストラトの音が欲しいという人に向けては、これがPRSの答えです。

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▲25th Anniversary305

 

●09年秋のPRS EXPERIENCEで発表されたサンタナ・リミテッドSE ONEは、従来のSE ONEとどこが違うのですか?

○仕様的には同じです。ライブで普通のサンタナ・モデルからリミテッドのSE ONEに持ち替えたんですが、出てくる音はまさに彼の音でしたよ!

●数年前に工場を拡張したことで、PRSはどこが一番進化したと思いますか?  また、新工場で月産本数はどのくらい上がったのですか?

○サイズは大きくなりましたが、エレクトリック・ギターの生産量は増やしていません。よりアグレッシブに新製品を開発するスペースを増やしたのです。また、手狭だったPSのエリアを広げて、効率よく作業ができるようにしてあります。設備を大きくしたのは、屋台骨になるような企画・開発の拡充が主たる目的でしたからね。そして一番大きく変わったのは、私自身がPSを見ることになったということ。あとはアンプとアコースティック・ギターという新たなラインを工場の中に用意しているという部分。これまでに良いギターを作るためのノウハウを蓄積できたので、これを絶やさず続けていくことが、日々の自分に課している部分です。

●アコースティック・ギター、Angelus Cutway及びTonare Grandのリリースに先駆け、08年1月のNAMMショーでは”Chesapeake”ブランドにてアコースティック・ギターを発表しています。今回のPRSアコースティックは、Chesapeakeのノウハウをもとに作ったモデルということでしょうか?

○いえ、すべてが異なります。Chesapeakeはかつて我が社に在籍していたジョー・ナッグスが携わっていたモデルで、彼の退社と同時にその著作権の一切を彼に譲っています。ですので、製品発想や構造理論、ブレイシングからサウンドまでまったく異なるものになります。しかしクオリティは両方とも素晴らしいものだと思っています。

●Angelus Cutway/Tonare Grandの両者の製作コンセプトをお教え下さい。どのようなアコースティック・ギターを狙ったのでしょうか?

○私が考えるに、一般的なアコースティック・ギターには問題点がいくつかあります。最初はブーミー過ぎる低音。ふたつ目は思ったよりも正面に音が飛ばない点。3つ目の問題点は、ブレイシング方法にもよりますが、トップの剛性を高め過ぎ、ナチュラル・コンプレッサーがかかってしまうこと。力一杯弾く人には良いかもしれませんが、微妙なニュアンスが出しにくいという弊害があります。この3つの問題をクリアしたのが、このふたつのモデルです。

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▲PRS初のアコギ、Angelus Cutway/Tonare Grand

 

●一気に5台のヘッドに3台のキャビ、1台のコンボとズラリとラインナップされました。(Blue Sierra/Dallas/Original Sewell/RPS30/Sweet16(Combo))これらのアンプの開発の経緯を教えて下さい、いつ頃から設計されてきたのでしょうか?

○3年前にこのプロジェクトをスタートさせました。ひと言で言えば、”すごく良いアンプ”を作りたかったんです。”良いアンプ”とはどういうものか? 多くのアンプが良い音をさせるセッティング・ポイントがほんのわずかに限られています。そうではなく、ノブがどこを向いていても良い音が鳴るもの。そして、低域、中域、高域、そのすべてが絶妙にバランスしているもの。さらに、高域が甘いこと。これは大切で、耳に痛い高域はNGです。これらを満たした上で、アンサンブルの中で映えるサウンド、そんなアンプを目指しました。

●PRSアンプの早くからのユーザーでありデレク・トラックスは、開発段階から携わっているのでしょうか?

○いや、開発には携わっていません。Dallasを気に入ってもらえて、リクエストがありました。それは10インチ×4のオープン・バック・キャビネットですね。これは特注ということになります。今ではオールマン・ブラザーズのウォーレン・ヘインズも使っていますよ。

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▲参考出品としてSweet16(左2台)などを展示。

 

●現在、ポールさんの中で、ギター作りのアイディアで沸々と湧き上がっているものは?

○僕の頭の中というのは、才能と呼ばれることもありますが、同時に呪いでもあるのですよ(笑)。新商品については、いろんなアイディアがあって、さまざまなカテゴリーのアイディアもあります。例えば今までやっていなかったスピーカーですとか……それらは絶えず頭の中を駆け巡っている状態ですが、今はこういうものを狙って、これを作りますと渡せる情報はありません。けれども、アイディアは止まることなくどんどん湧き出しています。同時に、楽器ファンの人数が減っていないかが気になるし、ギター・マーケットの中でPRSは今、どの位置にいるのかも気になる。我々は業界の中でリーダーシップを発揮していくことができるのだろうか、従業員は大丈夫だろうか、商品の展開が早すぎたり、遅すぎたりしていないだろうか……とね。それと実は、この楽器フェアの会場内で”自分に何かを教えようとしているのではないか?”というギターに巡り会ってしまいました。今はそれにぞっこんです(笑)。

●それはどんなギターですか?

○58年のゴールドトップのレス・ポールです。我々が日本に届けたあるギターとレス・ポールを同じアンプで音を出し比べました。クオリティとしてはひけを取っていないことを確認できて、実はホッとしていますが、PRSギターのほうがわりと派手に鳴る。レス・ポールは大人しいけど、甘く鳴るんです。甘いソウルを持っています。僕はいつでも芸術の生徒。だから、そういう師となる楽器と出会うと、その秘密を探りたくなるんです。その甘さがどこからくるのか、楽器を手に入れて教えてもらいたいとね。

 

ポール・リード・スミス・ホームページ(KID)

『ポール・リード・スミス』リットーミュージック・ムック

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