【インタビュー】鳥山雄司

インタビュー by 編集部 2009年7月13日

ギターと体だけで表現したAOR名曲群

アコースティック・ギター1本で、AORの名曲をカバーした、2年半ぶりとなる新作ソロ・アルバム『Guitarist』をリリースした鳥山雄司。ギター・マガジン8月号では、アルバム制作の背景に関するインタビューをお伝えしたが、ここでは本作にて使用されたギターにまつわる話をお届けしよう。

ライブでの再現性をすごく大事にしたかった。

●今回の作品は、”ギター1本でのAOR名曲カバー・アルバム”ですが、ギター1本ということはエレキではなく、必然的にアコースティック・ギターであると?

○エレキってアンプを通さなきゃいけなかったりとか、ツールがまだ多いような気がして。今回はピックも使ってませんから。ギターと体だけで表現するとなると、おのずとアコースティックになりますよね。

●使用したギターはタカミネNPT315、オベーションClassic LX、タコマECR38C、ホセ・ラミレス・センテナリオ、ミゲル・マロの5本ということですが、それぞれの使い分けは?

○やっぱりライブのことを考えてしまって、再現性をすごく大事にしたかった。ライブで、”あ、やっぱりCDと同じだ”っていうのがお客さんはうれしいじゃないですか、僕もそれをやりたいし。

で、その時に、バーデン・パウエルの影響とかブラジリアンやスパニッシュも好きだったりで、今回はやっぱり基本はナイロン弦だろうなっていうのはあったんです。そのナイロン弦をメインにしても、ライブでの再現性を考えると、エレキのように、自分のラックがあってエフェクターがあって、全部自分でコントロールして、”はい、これでお願いします”って、そのままPAの人に渡せるっていうのがいいなと思ったんですよ。

で、その逆算でタカミネとオベーションをメインで使いました。タカミネはずっと昔から使っているんですけど、オベーションはこれまで縁がなくて、実は、今回のレコーディングのために買ったんです。

で、オベーションを買いに行ったら、ホセ・ラミレス・センテナリオが置いてあって、”これは何?”って弾いてしまったら、もう、思うツボで、両方買ってしまいました(笑)。ラミレスと、ミゲル・マロは基本的にはクラシック・ギターで、ミゲル・マロはわりと暗いダークなサウンド。センテナリオはパキッとした音ですね。

基本はオベーションで、レコーディング前に練習をしていく段階で、”あ、これはマイクだけのほうがいいな”とかで、使い分けました。

●タコマだけが鉄弦ですね。

○タコマを使ったのは、「ウィル・ユー・ダンス?」、「セイブ・ザ・ベスト・フォー・ラスト」、「オール・バイ・マイセルフ」。「ウィル・ユー・ダンス?」は、あれをナイロンでやっちゃうと、クラシック寄りになりすぎちゃう気がして。ちょっとライ・クーダーみたいなアメリカ・サウンドにしたかった。それには鉄弦がいいなって。

「セイブ・ザ・ベスト・フォー・ラスト」は、昔に歌の人とデュオでやったことがあって、その時にほとんどひとりでも成り立つようなプレイをやっていたんです。今回はそれを発展させたんですが、その時に鉄弦を使っていたのもあって、鉄弦のイメージがありました。この曲に関しては、たまたま前の仕事でオープンDを使っていて、そのままオープンDでやってみたら、結果、知らない世界ができましたね。ギター1本でオープンDチューニングでレコーディングするのは実は初めてでした。

「オール・バイ・マイセルフ」は、ラフマニノフのピアノ・コンチェルトの部分を鉄弦で弾きたかったんですよ。あれをナイロンで弾いちゃうと、その道の人みたいになっちゃうから、なんちゃってのほうがいいかなと(笑)。

 

楽器を鳴らした時のサラウンドの感じ。それをどうやって再生するのかに一番気を使った。

●アコギとクラシック・ギターではボイシングも違いますか?

○変わりますね。でも、そこも、その筋の人にはものすごい反感を買うと思うんですけど、親指をネックの上から出して6弦を親指で押さえるっていうやり方と、本当のクラシック・ギター的なフォームとを曲の中で使い分けているんです。だから、ボイシングを鳴りに関してのみで判断できる。演奏ができないからボイシングを変えるっていうのはなくて、倍音の出方でボイシングを変えるっていうのがメインですね。

で、ミゲル・マロとラミレスを使ったのは「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ〜暗黒への挑戦」と「アローン・アゲイン」の1曲ずつしかないですけど、こういう曲はわりとボイシングは素直に弾いてます。

●エレキは特にビンテージへのこだわりはないそうですが、アコースティックに関しては?

○あんまりないですね。それよりも、鳴ってくれて、ちゃんと自分の伝えたいものがレスポンス速く出せる楽器がいいなっていうのがあって。例えば、今回もマーティンの000などが使えたらそれはそれでいいのかなと思ったんですけど、あまり曲に合わなかった。生音で判断しちゃうと違うんですけど、CDにしたり配信するっていうのは、結局、録ってナンボの世界じゃないですか。マイクを通して、ミックスをして、できあがったもので楽しんで下さいってことを前提にすると、やっぱり新しい楽器って、倍音がとっちらかっているのは間違いないんです。で、どんどん枯れていけばいくほど、倍音が収まって実の部分がしっかりあってグッと出てくる。

でも今は、録音機材のすべてがハイスペックになってるので、そこをうまく注意してやってあげると、だいぶ緩和はされます。ビンテージの匂いをあえて作っているわけじゃないですけど、倍音を抑えたりするのは今回すごく考えてやりましたね。

で、確かにビンテージだったら、マイクを1本ポンと立ててOKだったのかもしれないですけど、そこに関してはやっぱり、クラシックやジャズの考え方が強くて、楽器って実は鳴らした時、モノラルでもステレオでもなくて、サラウンドじゃないですか。そのサラウンドの感じをどうやって再生するかっていうのに一番気を使いました。モノラルじゃつまらないし、ステレオって言ってもただ広げただけでもつまらない。だからマイク4本にライン1本っていうのが最低限必ずあって、ほかに必要があれば増やしてとりあえず全部録っておいて、いらないものはあとでカットするという感じでした。

●音色それ自体と言うよりも、音像の作り方ということですね。

○そうですね。ヘッドとボディ側に40〜50cm離してコンデンサ・マイクを立てて、真ん中にステレオ・マイクを1mくらい離して置いて、あとAMTっていうボディ内部に仕込んでいるマイクがあるんですけど、これが今回はすごく活躍してくれました。すごく芯が太く録れるので、中の鳴っているものを録ってくれるんです。これが低域を作ってくれて、そこにピエゾを混ぜると、ラインでもけっこういい感じに芯が出る。そこにアンビエンスとステレオ・マイクをうまく並べると、横だけじゃなく高さも出るんです。

あと、そういう録り方をしたことで、弾き方も大変でした。ピッキングする指が弦に当たるカチカチっていう音がすごく録れてしまうんです。それに最初は閉口しちゃって。カチカチ鳴らないようにピッキングする練習に、10日間くらいかかりました。

●今までとは違う弾き方をマスターする必要があったと。

○そうですね。でも、それができるようになると、ちょっと低域が出るようになったりして、おもしろかったですよ。で、ナイロンはいいんですけど、鉄弦でそうやって4、5日やっていると、爪がダメになっちゃうんで、カルジェルをしましたね。

パット・メセニーも使っている、カルロス・ユアンってドイツの楽器屋が出しているネイル・キットがあるんですが、日本で扱ってるところが見つからなかったんで、そこのウェブで買おうと思って、”お買い物リスト”に入れつつ、”早く送って下さいね”って書いたんです。そしたら、カルロスから直接、”お前は何者だ?”ってメールが来て(笑)。”日本でギターを生業にしている者でございます”って返事しつつ、ドイツに音源を送ったんです。そしたら、その楽器屋ではピエゾも作っていて、クラプトンやジョン・マクラフリンも使ってるんですけど、それを”ネイル・キットのお金はもらうけど、これを付けてあげよう”って送ってくれました(笑)。

そのネイル・キットでだいぶ変わりましたよ。爪は音が一番変わりますね。エレキも弾くから、やっぱり気をつけていてもピックを持ってピッキングした時に人差指とかの爪が削れて薄くなっていっちゃうんです。

で、爪って、全部生え替わるまでに半年かかるらしくて。だから、削れて薄い爪っていうのはずっと薄いままだからすぐに折れちゃう。って、なんか、ギャルトークみたいですけど(笑)。だから、それを守るには塗るしかなくて。それでも、最終的に今月ダメになっちゃって、今はスカルプって付け爪をしてもらったんですけど。

●今後のソロ活動の展望は?

○この作品を出したので、この作品を再現するライブもやりますけど、今後は、ライブとディスクのストレスのない一致性は目指したいですね。次にやりたいのは、今、みんながカフェ・ミュージックって言っているような、ぱっと聴くとジャズやボサノヴァだったりするようなものを、鍵盤を主体とせずに、ドラムやベースなど、ギターと何らかのもうひとつの楽器の組み合わせでできないかなって。それもアコギなのか、エレキのフルアコなのかはわからないですけど、そういうものをギタリストとしてやってみたいですね。



▲OVATION CLASSIC LX

本作のレコーディングのために、昨年秋に購入したというオベーションClassic LX。アコースティック専用コンデンサ・マイク、AMTをサウンドホール内に取り付けている。

 


『Guitarist』 ユニバーサル・シグマ UMCK-1309


インタビュー:ギター・マガジン編集部  撮影:星野俊

[鳥山雄司オフィシャル・サイト]

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