[こと] サイレントフィルムと音楽

青真鶴日記 by 青野賢一 2012年4月16日

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ジョルジュ・メリエスが、世界で初めてのストーリーのある、複数シーン構成の映画『月世界旅行』を制作したのが1902年。現在、我々が「映画」といって思い浮かべるものの出発点は、ここにあった。そしてその後、しばらくの間はサイレントフィルムの時代が続く。イギリスの人気レーベル「Ninja Tune」の看板アーティストであるザ・シネマティック・オーケストラがスタートした新プロジェクト「In Motion」は、そうしたサイレントフィルムに想を得たものだ。

ザ・シネマティック・オーケストラは、その名前が示すように、映像との結びつきが深い。『Man with a Movie Camera』(2003年)では、ジガ・ヴェルトフの同名映画(邦題『カメラを持った男』1929年)に音楽をつけるという試みを行い、2007年のアルバム『Ma Fleur』は、オリジナルの映像を想定して音源制作をしたそうである。「In Motion」は、こうした流れの中で始まったプロジェクトであり、実験的、先鋭的な映像作品に生演奏で音楽をつけてゆくライヴパフォーマンス。このプロジェクトをパッケージ化したものが『The Cinematic Orchestra presents In Motion #1』(以下『In Motion #1』)だ。この『In Motion #1』に収録されているザ・シネマティック・オーケストラの楽曲は「Manhatta」「Entr’acte」の2曲。

これらの楽曲のイメージソースとなっている同名映画の上映会を、私が携わるBEAMS RECORDSのイベントとして開催した。もちろん、ザ・シネマティック・オーケストラの音楽をつけて。

映画『Manhatta』は1921年作品。第一次世界大戦を経て経済的繁栄を迎え、「狂騒の20年代」に突入したアメリカを、マンハッタンの風景、人を通じ描いたものだ。チャールズ・シーラーとポール・ストランドというふたりの写真家の手になるこの映画は、1カット1カットがまさに写真のような構図で切り取られ、そのフレームの中を人、機械、蒸気、自動車、船が動いていく。時代背景を考慮するならば、国力を誇示するプロパガンダ映画ともいえる本作に、ザ・シネマティック・オーケストラは抑制の効いたオーケストラサウンドをつけており、そのため、ドキュメンタリー作品という側面や、構図の美しさに目がいくような仕上がりである。

一方の『Entr’acte』は、1924年にフランス古典映画を代表する監督レネ・クレールが撮影した作品。ダダイスムの影響を多分に受けた実験的な作風で、フォトモンタージュ、デペイズマンといった、後のシュルレアリスムに通じる技法がふんだんに用いられている。もともと、フランシス・ピカビアの新作バレエ『Ralâche(休演)』の幕間のための作品で(なのでタイトルは『幕間』)、マン・レイ、マルセル・デュシャン、ピカビア、そしてオリジナル版にスコアを書いたエリック・サティが出演している。まるで夢の断片のようなストーリーに着かず離れずという距離感を保つザ・シネマティック・オーケストラの音楽は絶妙であり、それが、映画の持つ「悪ふざけ」の部分と、えも言われぬハーモニーを醸し出していて面白い。

上映会はあいにくの荒天だったが、ありがたいことに大盛況だった。上映後、大谷能生氏(音楽家)と私で、作品にまつわるトークを行い、熱心に耳を傾ける方も多かったのは嬉しかった。お越しいただいた方、ご協力いただいたBEATINKの皆さん、Klipschのスピーカーを快く貸し出しいただいたイーフロンティア様には、この場を借りてお礼申し上げたい。ちなみにトーク部分はYouTubeにアップされているので、ご興味のある方は参照いただければと思う。サイレントフィルムと音楽という組合せは、まだまだ様々な可能性を秘めている。私たち真っ青でも、取り組んでみたい分野のひとつである。


The Cinematic Orchestra presents In Motion #1
NINJA TUNE / BEAT RECORDS

真っ青

クラブのみならず、ファッションショーやホテル、ショップ、カフェなど、およそ音楽と触れ合うことが出来る空間すべてに良質な選曲を提供してきた山崎真央(gm projects / AKICHI RECORDS)、鶴谷聡平(NEWPORT)、青野賢一(BEAMS RECORDS)の3人が結成したユニット「真っ青」。20年以上のDJキャリアに裏付けされたスキル、レコード・CDショップのバイヤー経験がもたらす豊潤な音楽的バックグラウンド、そしてアート、文学、映画などにも精通する卓越したセンスから生まれるそのサウンドは、過去、現在、未来に連なる様々な心情を呼び起こし、聴くものの目前に景色を描き出すものである。


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