重心と軸のコントロールで変わる! フット・ワーク改革トレーニング/MI Japan ドラム・クリニック

MI JAPANドラム・クリニック by 山部三喜男 2012年11月20日

LAハリウッドに本校を構える世界最大級のミュージック・スクール、Musicians Institute(MI)と直結した独自のカリキュラムで充実した授業を行い、数多くのミュージシャンを排出しているMI JAPAN。経験と実力を兼ね備えた講師陣のレッスンが魅力の本校レギュラー講師が、その授業の一部を誌上クリニックとして公開するこのコーナー。今月はMI JAPAN福岡校講師の山部三喜男氏が、斬新なフット・ワーク・トレーニング法をレクチャーする。日頃、MI JAPANでどのような授業が行われているかを体験しつつ、とりかかってみよう。

はじめに

みなさん、こんにちは。MI JAPAN福岡校PIT講師の山部三喜男です。今回は本誌2010年8月号に取り上げたテーマである、”関節コントロール・テクニック”の続編とも言える、脚の使い方を中心に重心と軸のコントロールについて解説をしていきたいと思います。”すでにテーマ自体が難しそう、ちょっとこれはパス……”と思ったそこのあなた! 読み終わった後に、演奏の感覚がガラっと変わるかもしれませんよ。フット・ワークだけでなく、リズムやグルーヴ、テクニックの質、はては音楽性にまですべてに渡って関係があるテーマです。また、機会があれば、2010年8月号の記事も併せて読まれるとより面白いと思います。そもそも人間が地球上で普通に活動するとき、誰一人例外なく重力の影響を受けていることはみなさんご存知ですよね? しかし、産まれる前からその影響の中で暮らしているせいか、あまりにも当たり前過ぎて普段それを意識することはめったにありません。ドラムの演奏も重力と深い関係があります。ドラム演奏の質を変えるには、重力との関係を見直してみる必要があるようです。ここでは、無限に考えられる重力の利用の仕方から、いくつか重要な項目を紹介していきましょう。

[MI×ドラマガ]OPEN HOUSE / 山部三喜男1/3 2012.11月号

[MI×ドラマガ]OPEN HOUSE / 山部三喜男2/3 2012.11月号

[MI×ドラマガ]OPEN HOUSE / 山部三喜男3/3 2012.11月号

1〜振り子の感覚で動く〜

みなさんは”振り子”というものはご存知ですか?例えば天井から糸かひもで分銅などのオモリをぶら下げ、そのオモリに横からの力を加えて揺らせば、これが典型的な振り子運動です(図1)。もう1つ、振り子の上下を逆さにした物もありますね。その代表はメトロノームです。これを逆振り子と呼びます(図2)。この2種類の振り子に共通するのは、どちらも典型的な”リズム運動”だということです。そしてある意味、無駄やブレのない綺麗な動きです。一方で、私達の身体の構造とその動きはどうでしょうか? 振り子とはまったく関係ないでしょうか? いえいえ、本当は全身が振り子のような構造ですし、立派に振り子運動が行えるようにできているんです。それが見た目も含めて特に実感しやすいのは、腕と脚でしょう。人が歩くとき、通常は手足を交互に振って歩きますが、これは本来、身体のあちこちで振り子の動きが巧みにいくつも重なり、ズレあいながら成立しています(このいくつもの骨格の振り子が全体として鞭か鎖のような連動をしていますが、その説明は話が複雑になるため省略します)。

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図1:振り子。止まっているときは地球の中心に引かれて完全に鉛直になり、中心軸の感覚と深い関係にある。

図2:メトロノーム。支点より上の部分が逆振子(実は下にもオモリがある)。オモリの高さによって動きの速さが変わる。

図3:肩関節A、鎖骨B、胸鎖関節Cを前から見たところ(図上)と、後ろから肩甲骨Dを見たところ(図下)。

図4:重要度が最も高いインナー・マッスル、腸腰筋Eは胸椎や骨盤Fから股関節Gにつながっている。

今回はフット・ワークということで脚の説明をしましょう。歩いているとき、足裏が地面から離れ、前に脚が振り出され始めた瞬間、その側の脚は股関節を中心とした”純振り子”になります。そして、地面に足裏が着くと脚の骨格を支えにした足首を中心とした”逆振り子”になります。つまり、脚というのは身体からぶら下がっている部位だと同時に身体を支えるものでもあるからです。しかし!ここが問題ですが、日本人はそんなふうな理想的振り子状態で歩けている人は、実際あまりいません。それどころか、身体が振り子的に動くのを邪魔するような無駄な力みがあちこちに入って、振り子とはほど遠い状態で歩いている人がほとんどです。よく外国人が日本人の歩き方は汚いと言いますが、これは姿勢が悪く、身体が振り子化していない感じを直感的に感じて言っているのでしょう。これではリズムがせかせかしているのも仕方がありません。誌面の制約のため、深くは説明できませんので、歩くとき、どうあるべきかをシンプルに3つにまとめました。

  1. 腕は肩関節からではなく、鎖骨のつけ根の胸鎖関節から出ていることを意識し、肩甲骨も連動して動く(図3)。
  2. 脚は股関節からではなく、みぞおちの奥の背骨からぶら下がっていることを意識し、骨盤が連動して動く(図4)。
  3. 頭頂部から上に吊られているような感覚で身体の中心軸を感じて動く。

う〜ん、難しい話ですね(笑)、普段身体の中の感覚などは余り考えない人がほとんどでしょう。ですが歩きはすべての身体運動の質とリズムに潜在的な影響を与えている基本の運動です。ドラムの演奏も例外ではありません。普段とても質の悪い歩きしかできない人が、ドラムの演奏になった途端、別人のように無駄のない動きや、素晴らしいリズムを体現できるわけがありません。同じ人間がやることは根底では共通しているからです。そこで、脚の振り子化を深めるための練習を1つだけ紹介します。もとはロルフィングというボディ・ワークのエクササイズの1つです。

脚の振り子トレーニング

壁から30センチほどのところに横向きに立ち、壁に軽く手をついて身体を支えながら高さ15〜20センチほどの台に片足で乗ります(左写真)。台に乗せてない側の足を力を抜いてぶら下げて振り子のように前後に揺らします。このときに§1で説明した②と③の感覚を意識しましょう。脚を前に振り出す感覚よりも、太腿の裏側のハムストリングスの上部を使って、脚を後ろに送り出す感覚が大切です(右写真)。とてもシンプルですが、意外と難しいエクササイズです。やればやるほど太腿の前側を使ってしまうとか、元気良くきびきびと振るのはNGです。できるだけ全身のしなりを使ってゆったりと行いましょう。徐々に身体の深いところから揺らせるようになると思います。しばらくやった後、反対側を向いて脚を換えて行い、台から降りてエクササイズの前と後で歩きの感覚が変化したかどうか感じてみましょう。脚が長くなったような感じとか、地に脚が着いたような感じがするなら効果が出てきています。

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▲もともとは腸腰筋の動きを引き出すボディ・ワーク。後ろや(左写真)前に(右写真)脚をゆったりと振る。

2〜重心の位置を変える!?〜

みなさんは重心って何だか知っていますか? 簡単に言えば重さの中心のことですが、詳しく言えば物体のあちこちに働いている重力を1つにまとめたとき、その力が働く点のことです。その点で支えるとバランスがとれるということでもあります。では、私達人間の身体の重心というのはどこにあるでしょう? だいたい下腹の奥あたりにあると言われていますが(臍下丹田と呼ばれます)、これは平均的な体格体型でしかも直立して止まっているときの話です。誰でもわかると思いますが、身体というのは均一な質量の1つの個体ではありません。骨もあれば筋肉や内蔵もあります。ひとたび動けば実は重心の位置はコロコロ変わっています。というより動きの目的に合わせて変わった方がより合理的なのです。例えば、歩きと走りの違いです。歩くときはより安定感が必要なので、重心は低い方が都合が良いですが、できるだけ速く走る場合は、身体を前に倒して行くために重心は高い方が都合が良いのです。これが反対だと歩くときにふらふら倒れやすいし、走るときは下半身がドタドタと重くて速く動けません。同じように、ドラミングも重心の位置を意識と姿勢でコントロールし演奏内容に合わせれば、よりやりやすくなります。例えばドッシリとシンプルで遅めのリズムを演奏するときは低重心で、スピード感溢れる速いリズムのときは高重心で、といった感じです。ドラマーで言えば、低重心中心のスタイルの代表はスティーヴ・ガッドです。反対に高重心中心のスタイル代表はバディ・リッチでしょう。椅子の高さやセッティング、ジャンルや性格の違いなども関係します。重心の位置を変化させるエクササイズを1つ紹介します。

呼吸と重心の連動トレーニング

  1. 足を肩幅より少し広めに開いて立ち、肩の力を抜いて息を吐ききります。次に下腹を膨らませながら息を吸い、下腹が身体の中心のような感覚と地球に引っ張られているイメージを持ちます(右写真上)。
  2. 息を吐き、半分以上吐いたらいったん息を止め、その空気を胸に引き上げてお腹を少しへこませます。
  3. その姿勢のまま残りの息を吐き、次に息を吸いながらカカト同士がつくように足を閉じて、胸が中心になったような感覚と高い所から吊られているようなイメージを持ちます(右写真下)。
  4. ①に戻って③までを3回ほど繰り返したら自然な呼吸に戻し、リラックスします。

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(左)息を下腹部に入れたところ。呼吸と腸腰筋と姿勢は密接な関係があり、重心のコントロールには欠かせない。(右)息を吸って胸の真ん中を少しせり出したところ。両足は中心に寄せる(振子をぶら下げたような状態)。

3〜”膝抜き”の極意〜

私はドラムのために身体の使い方を研究しようと思い、13〜4年ほど前から身体や意識のことについて書かれた書籍をたくさん読んで研究していますが、古武術の秘伝の1つに”膝抜き”という身体の使い方があります。地面を蹴ってから動くのではなく、すっと膝の力を抜きながら地面に対して決してふんばらずに動くというものです。イメージとしては、まるでダルマ落としのごとく、立っているときの脚の支えをいきなり抜いて落下するように動くのです。これは甲野善紀という方が”足裏の垂直離陸”と呼んでいる身体の使い方とも関係がありますが、何年か前から一般雑誌などに取り上げられて解説が載っていました。あまりにも簡単に書きましたが、最初から自然に行なえる人は稀です。効果としては特に、

  1. 身体の各部がつられずによく動くようになり、柔軟性が増す。
  2. 身体を動かす”早さ”が飛躍的にあがる(無駄な予備動作がなく動き出せるため)。
  3. 身体が1つにまとまり、身体の重さをロスなく利用できるようになる。
  4. 動きの正確さが向上する。

が、挙げられますが、なぜこういう効果があるのかは、身体をエレベーターに例えると解りやすいかもしれません。エレベーターを釣り下げているワイヤーが切れて突然落下したとすると、中に乗っている人間は落下中は一瞬無重力状態のようになり身軽に動けます。そして地面に激突したらすごいエネルギーで叩きつけられますね。身体の中にこれに似た状態を作り、位置エネルギーを引き出すわけです。これも1つだけやり方を紹介しますので、さっそく試してみてください。

脚の入れ替え

  1. 立った状態から左脚を少し左斜め前に出し、顔もその方に向け、休めに似た姿勢をとる(写真上)。
  2. 両足の膝抜きを一瞬だけ行い、その瞬間に両足の位置を入れ替えて全部を反対向きにする(写真下)。
  3. 同じく膝抜きで両足を入れ替え①に戻る。

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(左)動く前の状態。ここからメダカなどの小魚が身体の向きを変えるようなイメージで一瞬で体勢を入れ替える。(右)脚を入れ替え終わったところ。動いた直後に身体がぐらついたりする場合はきちんとできていない。

※注意:飛び上がって脚を入れ替えるのはNG。膝抜きの瞬間に頭の高さが一瞬わずかに低くなればOK。逆に高くなるのは飛んでいることになる。

たったこれだけですが、空手の型にも同じようなものがありますし、極意と言っても過言ではありません。ドラム演奏の中でいうと、バス・ドラムのペダル・ワークに応用できます。より一瞬にロスなく身体の重みがペダルに伝わり、力まずに大きい音量が出ます(ふんばらない足使いにより、連打のスピードも上がります)。また、身体のバランスが崩れない脚の使い方が身につきます。ぜひ実際に動いてみて感覚をつかんでください。

山部三喜男 プロフィール

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1971年生まれ。地元福岡を拠点にドラムス&パーカッション奏者として活動する傍ら、インストラクターとしても長年後進の育成にたずさわっている。

ジャズ・トランぺッターだった父親の影響で音楽に興味を持ち、13才からドラムをはじめる。98年より音楽学校『ESP/MIジャパン福岡校』のPIT講師を務める他、福岡市内のいくつかの主要な音楽学校で講師を兼任。身体の使い方や意識を長年研究して、ドラムの演奏やレッスンにその理論を応用している。また、カホンやシェイカーなどのパーカッションを製作することでも知られている。

これまで共演してきたアーティスト
中西圭三、鈴木茂、奥本亮、J’Nae、増崎孝司、ジェームス藤木、藤タカシ、浅野孝巴、木村光輝、ワガン・ンジャイローズ、田口悌治、木村暢子、丹羽肇、ケイタク、相川理沙、松本茜、MIO‥‥etc.

本記事について

本記事は『リズム&ドラム・マガジン2012年11月号』掲載のページを転載したものです。

MI JAPAN OPEN HOUSE:3誌連動・動画クリニック

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MI Japanは、ハリウッドにある世界最大級の音楽学校MI(MUSICIANS INSTITUTE)の日本校として、全国6ヵ所に拠点を置くミュージシャン養成機関。

MI JAPAN各校の詳細はmusicschool-navi.jpで!

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MI Japanのプログラムを1日に凝縮した体験レッスンのこと。レギュラー講師によるクリニックなどにも,レベルを問わず誰でも参加可能。参加には予約が必要。スケジュールなどは、http://www.mi-japan.com/event/open-house.htmlでチェック!

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