神保彰デビュー35周年記念インタビュー(後編)〜力を入れると音が歪むので、綺麗な音が出ないんです

コラム by 聞き手:西野正和 2015年3月6日

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オリジナルアルバム『Groove Of Life』とカバーアルバム『JIMBO de CTI』を同時発売した神保彰さんに、その制作の模様を伺っていくインタビューもついに最終回。今回はDM的に、ドラムのことを中心に話していただきました!

2015年は、神保彰のドラマー生活35周年という記念すべき年。『リズム&ドラム・マガジン2015年2月号』でも、「最新ソロ・アルバムから探る神保の“現在”」「CD連動:ソロ35連発」や「テクニシャンと語り合う“神保と楽器”の密なる関係」などのアニバーサリーイヤーにふさわしい企画で、神保研究を推し進めている。このWEBインタビューでは、また違った角度から神保とドラムの関係をひもといていきたい。

お相手は、オーディオメーカーREQSTを主宰する西野正和氏。“筋金入りの神保ファン”ならではの、ドラムインタビューをお届けしよう。

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年齢とともに高くなってきたイス

西野 ちょっとドラムの話をさせていただけたらと思うのですが、最近の神保さんはインナーマッスルを鍛えられているのか、ドラムとたたくときの姿勢が美しいですよね。

神保 年をとって、姿勢が良くなってきていますよね。普通は逆なんですけど(笑)。

西野 ワンマンオーケストラを拝見していても、体幹が全然ブレていないんですよ。昔から姿勢が良い印象はあったんですけど、資料を確認してみたら、意外にも前かがみでたたいていらっしゃいました。

神保 ええ。昔はかなり前傾姿勢だったんですよね。それが、年齢とともに少しずつイスが高くなっていって。それに比例して、体も起きてきたという感じです(笑)。

西野 イスの高さが秘密のひとつだったんですね。ただそうなると、いわゆるドラム教則本によくあるような姿勢にはならないでしょう。

神保 かなり立っている状態に近い姿勢ですね。イスは高い方が、腰への負担が少ないような気がします。低く座っていると、どうしても無理がかかりますから。それで、足の重みを利用して、ストンと落とせばペダルが踏めるという感じですね。

西野  そういった変化の転機みたいなものはあったのでしょうか?

神保 あったような無かったような……。だんだんとイスが高い方がたたきやすいなと思うようになって、それとともに自然に体が起きてきたというか。ただ、体幹がすごく大事だということは、近年になって再認識しています

西野 では、ドラミング以外に体幹トレーニングのようなことも?

神保 そうですね。家内がヨガの先生なので、その影響もあってかなりしっかりトレーニングはしていますよ。

手を伸ばさないでタムタムに届くセッティング

西野 姿勢とも関係してくるとは思いますが、神保さんのフロアタムのたたき方もすごいですよね。

神保 僕は結構、すべてのパーツを自分の近くにセットしているんです。レディポジションで二の腕が体に沿うような形が、人間の生理的には普通ですよね。ヒジが体側にあるのが、無理の無い感じというか。でもそうすると、スネアが遠くなってしまうんです。しかもタムタムはそのさらに先にあるので、かなり手を伸ばさないとたたけない。そうすると、すごく不安定な姿勢になります。だから僕はレディポジションでタムタムがたたけるようにセットしていて、スネアをたたく場合は逆に、“小さく前へならえ”みたいな形になる(笑)。でも今の人に、“小さく前へならえ”って分かるのかな?

西野 ヒジを後ろに引くということですよね。

神保 そうです(笑)。だから足の間に挟まるような感じで、スネアをセットしているんです。タムタムには、手を伸ばさないでも届きますし。

西野 フロアタムなんて、手首を返すだけのような感じですよね? フロアタムは鳴りにくい楽器だと思いますが、神保さんだと手首を返すだけでズドンと鳴ってしまう。

神保 確かにフロアタムは難しいんですよ。僕はフロアタムが好きではなくて、全部タムタムで組んでいます。下からの脚も1本しかなくて、基本はキックから支えているんですね。チューニングは張っているのではなく、どちらかと言えば緩めです。あとは、表と裏のバランスを取ること。これで、ポンとたたけばドーン! と鳴るポイントさえ見つければ、どんなドラムであっても、渾身の力を込めないでも、ちゃんと鳴るはずです。

西野 ヒット自体は強いのでしょうか?

神保 基本的には、どのタイコ、どのシンバルにも力は入れないです。なぜかというと、力を入れると音が歪むので、綺麗な音が出ないんです。確かにスピードは出ていると思うのですが、当たる前にリリースしているというか……。当たる瞬間は、スティックがそのスピードのまま落ちていって、跳ね返ってくる。その跳ね返ってくるのを受け止める感じです。

熟成を重ねるドラムセット“武蔵”

西野 前作の取材でも話に出た、LAに置いてある“武蔵”というドラムセットを今回のレコーディングでも使用されたのですか?

神保 今回も武蔵ですね。また1年寝ていたんですけど、「Smoke On The Quarter」の最後のソロで、タムの音が太いと思われませんでした?

西野 確かに太かったです!

神保 ものすごい極太サウンドでしたよね(笑)。でも、実際にああいう音で鳴り始めているんです。毎年熟成されて、鳴りが良くなっている印象がありますね。

西野 今回もヘッドは替えずに?

神保 もう5年くらい替えていないんです(笑)。

西野 ギターやベースではよく言われるオールドの魅力ですが、ドラムでも経年変化による鳴りの良さというのはありますか?

神保 絶対にあると思います。ただドラムの場合は、60年代や70年代のセットが高値で取引されていますが、僕はあんまりそういうのには興味が無いんです。ハードウェア類がすごくもろいと言うか、やっぱり今のものの方が全然良いんですよ。だから80年代以降に作られたドラムじゃないと、現役で使うのはなかなか難しいんじゃないかなと思います。

西野 ネイザン・イーストと韓国で演奏された映像を拝見しましたが、あれは新品の真っ白のYAMAHAでした。

神保 新しいものには新しいものの良さがあって、新品だから鳴らないということは無いんです。新品の状態でも、ちゃんと鳴ります。ただトーンの深さとか、たたいた時のレスポンスの速さは、経年変化で良くなっていく場合が多いです。もちろん、悪くなっていく場合もありますけど。

西野 たたき込むことで、良い方向に行く場合が多いわけですね。

神保 そうなんです。ただ武蔵の場合は、1年に1回たたいたら、そのまましまってしまうんです(笑)。だから、寝かせている時間の方がはるかに長いから、熟成ですよね。ウィスキーの何年ものとか、そういう感じだと思います。

西野 ちなみに武蔵は、何年ものですか?

神保 確か90年代半ば、95〜96年だと思います。

西野 では、現役でお使いのドラムセットで一番古いものは? 確か、サンダーライブの時のセットをまだお持ちだったと思いますが……。

神保 あれが現役では一番古くて、79年ごろに作られたものですね。国立音大で教える時に使っているのですが、すごく良い音ですよ。

西野 そうなんですね。これは、国立音大の生徒さんが羨ましい限りです(笑)。

35周年を記念したさまざまな企画

西野 2015年もワンマンオーケストラのツアーがありますが、内容がどんどん複雑になっていますよね。

神保 簡単なものよりも、より難しいものにトライするというのは、自分の性癖としてあるみたいですね。ワンマンオーケストラという名前が付いていますが、何十人というオーケストラのサウンドを1人で出す、そういうシンフォニックな方向にちょっとハマっている部分があります。

西野 どういう仕組みで出来上がっているのか、理解できないレベルです。

神保 演奏していて「次は何だっけ?」となると、もうそこで止まってしまうんです。だから、考えないで進んでいくというイメージですね。ただ、プログラミングにはすごく時間をかけるんです。“このメロデイだったらこうたたくな”というのがあるので、自分がたたきやすいようにプログラミングしていく。だから、何も考えないで演奏していると、自然に手が正しい場所に行くんです

西野 プログラミングが完成した段階で、もう演奏できるということでしょうか?

神保 そうですね。だけど、プログラミングの時はすごく試行錯誤をするんですよ。最初はこっちにあったメロディだけど、それだと無理が出るからあっちに移そうとか。それでも無理だったら、2つのパートに分けてみるとか。そういう試行錯誤をしながら作っていくので、出来上がったら演奏できるようにはなっています。

西野 1人カシオペアみたいなことも、やられていますよね。

神保 あれは、35周年なので自分のルーツを振り返ってみようということで、コーナーを作っているんです。昔のカシオペアの初期の曲を引っ張りだしてきて、ちょっとブラッシュアップして演奏する予定です。

西野 35周年ということで言うと、『リズム&ドラム・マガジン2015年2月号』では、ソロフレーズを35発披露されています。

神保 あれは結構無茶ぶりだったんですよ(笑)。最初は35分のドラムソロを演奏してくれって言われたんですけど、35分のドラムソロなんて、だれも聴かないんじゃないかなって思って。僕だったら、やっぱりイヤですよね。リスナーの立場で考えたら、「35分もドラムソロを聴くの〜?」って(笑)。だったら、短いソロを35個にした方が良いんじゃないかなって提案して、最終的にはそうなったんですけど。(編集部より:神保さま 来たる40周年記念の折には、ぜひぜひ40分のドラムソロをお願いします。懲りずにしつこく狙っておりますので!)

西野 35個のバリエーションを考えるのも、大変だと思いますが。

神保 考えだすとドツボにはまるなと思って、何も考えずにスタジオには行きました。ただ、テンポはいろいろあった方が良いだろうと思って、BPM=90から始まって10刻みで4パターンずつ、BPM=170までという感じにしました。そうすればひと通りのテンポを網羅できますから。“35 Stories”というタイトルも付いているんですよ。

西野 もはや作品ですね。僕も聴かせていただきましたが、付録CDとしてだけの発表ではもったいないくらいの完成度の高さでした。メロディの無いドラムだけで、ここまで楽しめる音楽は、なかなかお目にかかれません。配信販売して、未来の神保ファンの人がいつでも手に入るようにした方が良いのではないですか?(笑)。

(この項終了)

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